仁義なきお揚げさん大戦争






この本丸には、月に一回、それも夕餉の刻にとても殺伐とした雰囲気となる者たちがいる。


日々の刀装作りのノルマや本丸の現状を記す書類の期日が迫り、最近バタバタと本丸は慌ただしい日が続いていた。
今日は、審神者の書類提出も終わりゆったりとした時間が流れる中で久しぶりにその日がやって来た。


ー絶対に、負けるわけにはいかない戦いが、そこにはある。


「前回は小狐丸殿に敗北致しましたが、このこんのすけ、前回の失敗を踏まえ成長してまいりました。今回ばかりはこんのすけめにお譲りくださいませ!」

「ふふふ…こんのすけ殿。これだけは譲れませんなぁ。さあ、次の一手をお差しください。」


刀剣男士、小狐丸と本来ならサポート役であるこんのすけ。その1人と一匹が劇画タッチで目線を合わせていた。


座布団に座り、一つのちゃぶ台を挟んで。そのちゃぶ台の上には、小さなオセロが一つ。ぱちり、とこんのすけは器用に自分の駒を置いた。その手ににやりとする小狐丸。
その只ならぬ姿に、他の本丸の仲間たちもごくり、と息を飲む。


「ごめんなさいねえ、もっと作れたらいいんですけど…何分手間と時間がかかってしまうものでして…あと少しですので少々お待ちを〜〜
あ、他の皆さんの分のご飯はもう出来ましたよ〜〜」


審神者はあいもかわらずのんびりと、厨から広間に向かって声を掛けた。
本来ならば率先して食事運びなんかを手伝っているはずの刀剣男士達も、今日という日はどちらに軍配が上がるのか興味があった。

「…ねえ、国行。そんなに美味しいの?主お手製あぶらあげって」

蛍丸は呆れたようにそう言った。
そう、今日は主が大豆を蒸すところから作るお揚げの日。
おからなんかもついでに作れるその作業は、手間暇がかかる為月に一回、それも2枚だけという激レアお揚げさんだ。
市販のものも勿論美味しい。が、主の手製のお揚げの美味しさといったらそれと比べ物にはならない程であった。
本来ならば、1人一枚ずつにすれば済む話。それを1人と一匹は良しとしなかった。

「…まあ、主さんの霊力込みのお揚げってなったらそりゃうまいんとちゃう?」

「そーゆーもんなのかな、俺、別にいつものご飯でいーや。」


ぱちり、ぱちり。
蛍丸と明石国行の会話なんて気にせず1人と一匹は白熱した白黒の盤を見つめる。
白がこんのすけ、黒が小狐丸だ。


「ふふふふふ、この様子では今回の揚げもこの小狐丸のものですな」

黒が優勢のように思えたその盤上。こんのすけはにやりと笑う。先程の小狐丸のように。

「…ふっ!!!甘いですぞ小狐丸殿!!
貴方はお忘れです!このおせろなるものに置いて大事なもの…

それは、四隅である、と!!!」

「…なっ!!い、いつの間に!?」


「さあ、何処でも置くと宜しいでしょう!どこに置いたとしても、この盤上は全てこのこんのすけめのもの!!
ふふっ…ふふふふふふふっ!!これで勝ちは確定ですーーーーっ!!!
さあ!これ以上は無駄というもの!!早く負けを認め、今回の揚げを諦めくださいませ!!」


おーーー、ぱちぱちぱち。
盤上を見つめていたギャラリーの刀剣男士達から拍手が上がる。
こんのすけはビシィッ!とその小さな手で小狐丸を指差した。
小狐丸は少しばかりの涙を浮かべる。

「くっっ!!!…ま、まけ、ました…っ!!!」

完敗であった。
その合図に合わせ、審神者は満を持して大広間の襖を開けた。


「今回はどちらでした?揚げたてホヤホヤ、審神者特製お揚げさんです〜!こんのすけさんが食べるならば、お醤油は控えめでもいいかもしれません」

「はいっ!はいっ!!あるじさま!今回の勝利は私でございますっ!!!」
「あら、前回の雪辱を果たすことが出来たんですね??ではどうぞ!こちらが勝者のお揚げさんですよ〜」
「あ、有難きっ…有難きしあわせっ!!」


はぐーっ!!
こんのすけはきらきらと目を輝かせる。
審神者はくるりと向き直り、意気消沈の小狐丸の肩を叩く。
手には勿論ブラシだ。


「さ、敗者の方は審神者ブラッシングのお時間です。丁寧にブラッシングさせて頂きますので、ご安心くださいね?」

「あ、あるじさま…っ!!」


小狐丸は涙を拭い、審神者に擦り寄った。





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