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  また、目が覚めました









ーぱちり。
目が醒める。時刻はもう夕方だ。先ほどの桜はもう片付けられていて、その代わりに私の腕の中にはモフモフとした何かがいる。こんのすけさんだろうか?モフモフと手を動かし、撫でる…あ、これは


「ぬしさまっおはようございます。ご気分は如何でしょうかっ?」


こんのすけさんかのように思った彼は小狐丸さんだった。ニコニコとわたしの腕の中にいる彼はとても嬉しそうで、この際布団の中にいたことは何も咎めないでおこう。


「おはようございます、小狐丸さん。手入れのお手伝いありがとうございました」
「いえいえ!この小狐丸、ぬしさまがまた稲荷を作ってくださるのであれば火の中でも飛んで見せましょうぞ!
さて、お身体の具合はいかがでしょう?」
「お陰様で、少しお腹が空いたくらいです。わたしも存外、食いしん坊だったようですねえ。

…あ、そういえば、先程来派の方々や今剣さん、岩融さん、左文字の皆さんとは会ったんですが、粟田口の皆さんはお元気でいらっしゃいますか?」

小狐丸さんとこんな風に軽口を言い合えるのはなんだかほっこりするなぁ。先程のように手を借りながら体を上げる。
そうなのだ。眠りにつく前、粟田口や五虎退さんの姿は見えなかった。契約がしたいとか、そういうことではないんだけどやはりちゃんと手入れができているかの確認はしたい、
彼らが人間を許せず姿を隠しているのであれば、それはそれでいい。元気でさえいてくれれば、きっとそれが彼らの幸せなんだろうと思うから。

小狐丸さんに尋ねると、小狐丸さんはふふっ!と、ニヒルに笑う。悪巧みでもしてるのだろうか?


「ふふふ…ぬしさま、この小狐が支えます故、外をご覧ください」
「外、ですか?」

この部屋は審神者室、いわゆる二階になる。部屋には窓が付いていて、部屋からは縁側やもともと畑だった場所が見える筈だった。
でも、わたしが就任した数日前は何もない更地であり、それどころか、どこかドロドロとした黒いなにかがこびりついている気がして、早急にカーテンを買い、視界から遮断したのだ。…いや、流石にわたしも黒いドロドロした何かが外を揺らめていたら気になってしまって寝れないというか…

そんなカーテンは換気のためか開いていた。
すっかり気付いてなかったけど、外がなんだか明るい。そして、緑の匂いさえする。
小狐丸さんに支えられて、窓までよたよたと歩く。少し久し振りに歩くからか、やけに脚の裏がじんじんとした。


「……うわぁっ…!!」


窓の張りに手をついて、外を見る。
オレンジ色の夕焼けが兎に角美しい。更には大きな桜の樹や、壁にはグリーンカーテン、ちゃんと生垣もある。疎らに咲く花や本来なら取るべき雑草までが愛おしく見えるくらい輝いていて、
何より、畑があった、とこんのすけさんが寂しそうに言っていた場所に、小さな畝が出来上がっていた。…もう何かを育てているらしい。畝の横には、小さな人影が数人と、大きな人影がひとつ。

「あーるーじーさーまーっ!!おはようございまーーすっ!!」

遠いせいで少し聞き取りづらいが、聞き慣れた声がブンブンと手を振る。
あれは、多分五虎退さんだ。あんなに大きな声が出せたのか。少し驚きだ。
五虎退さん以外の人影も、大きく私に手を振る。そして、きっとあの大きな人影は。


「…こぎつね、まる、さん。」
「はい、ぬしさま」


その人影が誰であるのか、それは分かりきっていた。じわぁ、と何かが溢れて鼻の奥がツンとする。小狐丸さんの名前も途切れ途切れになる。静かな嗚咽が止まらなかったからだ。


「…どうしましょう、どうしましょう!!わたしは、いま、とっても嬉しいです…っ!

…この本丸の皆さんが、あんな風になってくれたら…っいいなぁ、!」


五虎退さんにバレないように袖口で顔を隠しながら、大きくわたしも手を振る。視界がぼやけ、ボロボロと涙が出る。

あんなに辛い思いをしたお兄ちゃんと弟が、漸くあんな風に、一緒に畑いじりができるようになったのだ。
それは、奇跡のようなことであると、わたしは思う。来派の方々も、左文字の方々も、そして岩融さんや今剣さんも。みんなみんな、あんなに痛がっていた傷がなくなるだけで笑顔を見せてくれたのだ。

心の傷はまだばっくりと、開いているのかもしれない。でも、膿はきっと少しだけ取り出せた。これからゆっくり、ゆっくりと治していけたら良いと、心から思う。


「ぬしさま、ぬしさまが来て、たくさんたくさん変わりました。それは傷が癒え、穢れが落とされたから。それは、ぬしさまにしかできぬことだったのですよ。どうか、誇りに。」

小狐丸さんはきゅっと私の肩を抱いた。ぐずぐずと鼻を啜りながら、小狐丸さんの優しさに甘えて、その暖かさに寄りかかる。


「…小狐丸さん。」
「はい、ぬしさま」
「今日は、お揚げさん増量キャンペーンです。好きなだけお召し上がりください。」


おや、それはそれは!と嬉しそうに小狐丸さんは笑った。







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