カランコロンと快い扉の鐘の音が店内に鳴り響く。
「おはよう、おじさま」
「あれまあ、エレナ様じゃないですか」
入ってきた人物を見るや否や品出しをする手を止め、菓子屋の店主は深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございます。お元気でしたか?」
目元に皺が寄り、にこにこと効果音が似合うような明るい笑顔。エレナは昔から彼の笑顔が大好きだった。見ているだけで元気が貰える気がして。
「ええ元気よ。おじさんは?」
彼女も負けじと笑顔を見せる。
「お陰様で。ここ最近はお目にかかることが無かったもんで心配しとったんですよ。それにしても本当に今日は良い天気ですねえ」
そう言って、窓の外に広がる春らしい淡色の空を見上げる彼。エレナもつられるように外へ顔を向ける。
「そうね。だけど......」
そうエレナが不満げに視線を向けた先には、陳列されてる焼き菓子を興味深そうに眺める側近の姿が。
店主は一瞬にして、ことを悟った。
「オスマン様に捕まってしまいましたか」そう苦笑いする
「途中までは上手くいったと思ったのになぁ、なんでバレたんだろう」
「公女様が考えとることが、自然とわかるんじゃないでしょうか」
「え?」
「なんせ、こーんな小さい頃から公女様と二人で遊んでおられましたからねえ」
腰下あたりの高さに手を持っていき、「こんくらい…いや、もっと小さかったか?」などと、上下に動かしながら高さを示す。
エレナとオスマンの付き合いはかれこれ十年以上と、人生の大半を共に過ごしてきたと言っても過言ではない。しかも歳も近いということもあり側近というよりも友人や家族といった類に入る、と彼女は見なしていた。
「きっと公女様の行動は御見通しなんでしょう。子が考えていることは親はお見通し、みたいな風で」
「う......」
自分が子供に比喩された悔しさと彼に捕まったという二つの悔しさ。
倍増された悔しさにうなり声に近い声を上げるエレナ。その柑橘類の果物を食べたような表情を浮かべる彼女に、苦く笑い店主は同情の眼差しを送るほかなかった。