のっぽちゃんとお絵描き



学校が終わって、スーパーに寄り買い物をしてから幼稚園に通う1番下の妹を迎えに行く。
もはや習慣となりつつある生活サイクルだが、いままでバイトで迎えに行けなかった日ものっぽちゃんが行けるようになっただけで、妹も嬉しそうで、なんだかのっぽちゃんも嬉しい。
それから露伴先生のお家に預かった鍵でお邪魔して晩御飯を作る。
先生は必要なら妹を連れてきても良いといったけれど、まだ小さくて珍しい者を見れば触ったりはしゃいだりしなければ気のすまない歳なだけに五月蠅くしないか心配していた。


「おねえちゃんおねえちゃん、きょうはお絵かきのせんせいいるの?」
「うん〜いると思うよ〜」
「せんせいまたお絵かきしてくれるかな?」
「……まぁ、機嫌がよければ…多分」


小さい妹とは手を繋ごうとしても上手くいかず、いつも妹が抱いているウサギのぬいぐるみ越しに手をつなぐ
最初に心配していたのっぽちゃんの予想とは違って幼い妹を見た露伴先生はウム。と小さく頷くと意外にも妹と遊び始めた。
有名漫画家と幼稚園児のお絵かきというカオスな絵面はなかなかのっぽちゃんを掃除に集中させてはくれなかったが、しきりに妹のふわふわした髪を撫でる先生は子供好きなんだろうか。
露伴先生の家に着くと、預かっていた鍵を開けて中に入る。
中間試験があったせいでご無沙汰していたが、自分がこなくたって先生の家が荒れていたためしはない。
今日は随分楽しく幼稚園で遊んだらしい妹はすでに眠そうで、それでもクレヨンを握って離さない。露伴先生が来るまで寝ないと言い張る妹をソファーに横にさせると、タオルケットをかけてやる。
数分もすれば穏やかな寝息が聞こえてくる。
それにしても今日は静かだ。
キッチンで野菜を切りながら、ふといつもならそろそろ何かしらからかいに来るころなのに……


(……そうか、今日は締め切り明けだから寝てるのかな…)


最近少女漫画誌でも連載を一本増やしたらしい露伴先生は、いつもの超絶スピードで少年誌連載を書き上げると少女漫画誌に取り掛かっていた。
意外にも初めての少女漫画誌連載は彼にとっては大変だったらしく、規則的な生活サイクルは乱れていて自分がお邪魔しても遠い目をして気だるげにしていることが多かった。
野菜を煮込んでいる間、ついでに床を拭いておいたり、先生が出したままその辺に放り出している女子高生向けのファッション雑誌を、ドックイヤーや付箋が付いていないのを確認してまとめあげていく。


(露伴先生がこんなに資料を集めるなんて…少女漫画って色々大変なんだ…)


実際彼の少女漫画は連載を初めてまだ数話目だがかなり評判が良いらしく、先日彼の家に来た担当編集だという男の人は、もうすぐ出る岸辺露伴の某少女漫画誌もヒーローが凄くいいと絶賛していた。
リビング中がピカピカになってきたころには、根菜にもしっかり火が通ってきて、火を止めてルゥを割り入れた。
もう数分もすれば出来上がるだろう。
流石にそろそろ起こしたほうが良いのかもしれない。
寝室に続く階段を上って、数回ノックする。
扉にぴったり耳をつけても眠りの浅い人の筈なのに先生の動く気配がまったくない。


「えっと……失礼します…」


躊躇いがちにノブに手をつけてゆっくり捻った。
なるべく音を立てないようにそろそろと部屋の中に足を踏み入れた。
ベットには確かに露伴先生らしきふくらみがシーツを被って転がっていて、ベットのすぐ側の足元には、裏返しになったスケッチブックの紙がぶちまけたように散乱していた。
ベットシーツからはみ出して、ぶら下がっている先生の手には未だ鉛筆が握られている。

(……すごい。こんなにいっぱい…どんな絵を……)

恐る恐る手を伸ばして、かさりと紙を手に取り裏返した瞬間に、目の前のベットの膨らみから弾かれたように人間が飛び出してきた。













その前日の夜。
岸辺露伴はひとり悶々と悩んでいた。
どうやらのっぽちゃんは自分のピンクダークの少年よりも某少女漫画雑誌で連載中の有名少女漫画家の方がお好みらしく、読んではいるもののタラタラとしか進まない彼女の熟読量にひとり焦らされている。
そうこうしてるうちに閃いたアイディアは単純明快。彼女がコンビ二で立ち読み購読する漫画雑誌で自分も連載するというものだ。
これはいいアイディアだと取り掛かり見事定期連載の席を掴み取った。というか奪い取ったというかもぎ取ったわけだけれど……


(くそう……のっぽちゃんめあいつどういうつもりだ。試験勉強なんてここでやればいいだろうがッ!!)


ここ数日。彼女は高校の中間試験があるので姉妹(妹の中に随分賢い子がいるらしい。のっぽちゃんには余り似ていないらしいので見にいく必要は無さそうだ)と一緒に勉強するらしい。
背伸びをすると思いっきり伸ばした猫みたいになる後ろ姿とか、スカートの制服とかペタンとカーペットの上に座った時にお姉さん座りするかわいい座り姿とかをもう何日も拝んでいない。
最近時々連れてくるようになった末っ子と3人で御飯を食べるのもここ暫くご無沙汰で、彼女が家にいないと正直何を食べればいいのかわからなくなる。
ベットに横になって、夜遅くまでガリガリと少女漫画の構想を練りながら、次々とデフォルメしたのっぽちゃんを完成形に近づけていく。
少女漫画の絵なんてリアリティーがなくて逆に難しいくらいだ。
でものっぽちゃんを大量に量産してくると筆が乗ってくるし寂しさが紛れる。
こっちはただでさえあいつが帰った後もなんとも言えない寂しさを味わってるって言うのに……


(あいつ………僕の家に住めばいいのに)


なんて考えてはとても人には見せられない顔でニヤリと笑う。
そうしているうちにちょっとずつ眠くなってきて、そういえばあいついつ試験終わるって言ってたっけ。と暫く来れないと言われたことで聞き逃していた1番重要な問題に気がついたが、なんだか久しぶりにゆっくり眠れそうな気がして意外にもアッサリと意識を手放した。


のを後悔しているのがまさに今である。
目の前には、床に散乱している紙を拾い上げようとするのっぽちゃんの姿があった。
一瞬のうちに昨夜書きなぐった大量の彼女を思い出して目がさめる。
反射的に飛び出してしまった自分の身体がのっぽちゃんを押し倒すようにしながら覆いかぶさる。それでも一瞬早く手を上に伸ばしたのっぽちゃんの手には届かなくて、一瞬の間のあとのっぽちゃんの間抜けな声が響いた。


「うわぁ〜かわいい!これ、私ですか!」
「ぁ…あぁ!!よく書けているだろう。プロに描いてもらえるなんて光栄に思えよ!」


ペタンと床に座ってのっぽちゃんがバカみたいにイラストを見てうわー、とかええーとか言ってるのを聞きながら慌てて散らばったその他の紙を纏めてベットの下に放り込む。
全て押し込み終わってのっぽちゃんの方を見ると、今まで見たことないくらいキラキラした目で紙を見てる彼女に息を飲んだ。


「うわぁ!少女漫画のヒロインみたい…!こんな女の子になりたいです、これ、ラインの待ち受けにして良いですか?」
「お……おう。いいぞ。そんなの試し書きだ、そんなに喜ぶなよ」


実物のお前の方がずっとかわいいぞ。とか、数時間練習してまだその程度なんだから、君ってやつはミロのビーナスより難しい題材だぜ。なんて気の利いた事が言えるはずもなく、自分の溢した言葉にのっぽちゃんはこっちをまっすぐ見て言った。


「そんな事ないです!!家に帰ったらファイルにしまって一生大事にします!」


心臓がキューっと悲鳴をあげる。
ああ本当。君といると心臓がもたない。








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