遭遇

久しぶりにリサリサ先生に会いにエアサプレーナ島に来た時、初めて彼女を見つけた。
このご時勢にあまり見ない顔つきは先生に支えているメイドの中ではことさら浮いて目を引いた。
白人と違って細い絹糸のような毛質の黒髪はツヤツヤと輝いていて、エキゾチックな黒い瞳を縁取る長い睫毛、スッと切れ長な目元はいつか蚤の市で見た古い日本画を思わせた。

「あのねシーザー、彼女は日本からきてる女の子だけど、私達とは違うの、自分の国から逃げるようにここに来たお嬢様なのよ」

スージーQは彼女の事をまるで昔話のお姫様の話をするように語った。

「まぁでも、これもリサリサ様から教えてもらった事よ。彼女英語もほんの少ししか喋れないし、イタリア語なんて殆ど赤ちゃんみたいに少ししか喋れないもの」

ふーん。と興味なさげに相槌を打ってみせる。だから彼女はいつも一人なのか。
もう彼女の話から興味をなくしたのか、スージーQは部屋の掃除に戻る。窓際に腰掛けると、階下に見えるベランダにあの彼女を見つけた。干し終わった洗濯物のはためく中で、ぼぅっと海を見つめている。
やっぱり彼女はこの国から浮いているな。このシーザーAツェペリは寂しそうな女の子を放っておけないたちだ。
そっと窓から飛び降りる。
風が強いのか、洗濯物のはためく音でシーザーの着地音は彼女に聞こえていないようだ。
こちらに気付かない彼女の後ろに回り込む。

「調子はいかがですか…が、コメ…スタァ?。まぁまぁです……がコズィコズィ…これはわりと覚えやすそう。あぁ…難しいわ、女学校で習った英語の方がずっと簡単だわ…」

何やら拙い、かろうじて聞き取れるイタリア語と、聞きなれない国の言葉が入り混じっている。
間近にきて改めて小柄な女性だな。と思った。
これがアジア人か…と思っていると、何やらイタリア語の教本のようなものを持った彼女が不意に振り向いた。
自分の真後ろに男がいた事が信じられないというように大きく見開かれた瞳に見とれる。
なんと言えばいいのか、シーザーは確かに、自分の胸が感じた事のないほど高鳴っているのを感じた。
驚いてよろける彼女を思わず支える。
このシーザーの手が彼女の手を握っただけで震えている。

「君の名前は?あぁ……クソッわからないか、ええと…コメシキアーマ?」

さっきの彼女の発音に似せて尋ねると、ハッとした彼女は何か答えようとする。
彼女の可愛い声を聞き逃さないように集中するも、彼女は真っ赤になったと思ったら手を激しく振りほどいて慌てて逃げて行ってしまった。

「なんで……」
「あーあ、やっちゃったわね」

振り返るとスージーQがしたり顔で立っていた。

「もっと勉強しなきゃねシーザー。日本のヤマトナデシコにあんな破廉恥な事しちゃダメなのよ」

彼女が立ち去った後に、不思議な柄の髪留めが落ちていた。彼女のものだろうか。

「彼女はいつまでここにいるのかな」
「さぁね、ねぇシーザー、あなたまさか…」

シーザーは髪留めを握ったまま彼女の後ろ姿を思い浮かべた。必ず彼女ともう一度話そう。もっと近づきたいと自分の心が叫んでいた。
つまりは始まりは完全に一目惚れだったのである。


[ 5/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -