客人

その日は何時もとなんだか違っていた。
朝から女中たちがザワザワと色めき立っていて、みんなどこか薄っすらとお化粧をしてウキウキと仕事をしていた。違和感はずっと感じていたが、こちらの祝日のようなものにはまだとことんうとい自覚があるので、もしかしたら何か女の子関連のお祭りだか行事でもあるのかもしれない。
今日は何の日ですかと城を取り仕切っている家令の男性に聞いてみるも不思議そうな顔で普通に日付を返されてしまって、さては上手く伝わっていないなと内心舌打ちをした。
スージーは何時も通りに見えるし、多分関係のある人と無い人がある行事なのか。全く不思議な心地のままスージーとキッチンで昼食をとる。シェフと三人で日本料理の話をありったけの語彙力で説明しながら、辞典を捲る。そうこうしているうちに洗濯物が干せそうな気持ちいい天気になった事に気付いて、教本片手にせっせと洗濯干しの没頭する。
このイタリアに来て、海の色が本当に美しい青色だという事に関心した。特にこの島から見える空と海の対比はとても幻想的で、時間の変化とともに表情を変えるこの景色は見飽きる事がない。
バサバサと風に煽られる洗濯物の間で、教本を読んでいると、ふと何かが後ろに落ちたような音がした。
洗濯物が落ちてしまったのかと振り返り、目の前に大きな男性の胸板があって、時雨は思わず飛び退いた。真後ろに人がいた事に驚く。見た事がないほど大柄なこの男性は、日の光をキラキラと反射する美しい金髪に昔父と一緒に浅草で見た、亜米利加の活動写真の俳優の様に整った顔をしていた。

音は時雨の顔をポカンとした顔で見つめている。しっかりと目が合っているのに、今まで誰にもそんな奇妙な反応をされた事がない。なんだか居心地が悪くて後ずさりをすると、置いていた洗濯物入れのカゴに気づかずバランスを崩した。
フワッと揺らいだ視界をつなぎ止めたのは、男の逞しい腕だった。
時雨の二の腕をつかんだその男性の腕はなんだか震えている気がして、ハッとして彼をみる。
何か喋ろうとしている男性は、何かがイタリア語で早口にまくし立てたと思ったら、時雨がわかりやすいようにゆっくりとイタリア語を反復して見せた。
名前を聞かれているのだと気付いて、何か言おうとしたが、果たして彼は本当にこの城の人間なのか。と考えると急に恐ろしくなった。突然女子にこんな事をするのは、もしかして世間知らずそうなアジア人の女を騙そうとこの城に入ってきた不審者ではないのか?
気づけば彼を突き飛ばす様にして走っていた。
とりあえずスージーを探して聞いてみよう
男が追いかけてくる気配は不思議とない。
時雨が髪留めを落とした事に気づいたのは、自分の部屋に駆け込んできた時だった。


[ 4/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -