父親

いわゆるシングルマザーで夜のお仕事をしている名前の母親は去年太い客を見つけたようで、ここのところ名前の帰宅は大きな洋館への帰宅を指していた。
未だなれない、見た事ない現代アートのような置物がどすんと中央に置かれた玄関ホールを抜けて、二階の名前にあてがわれた部屋に行き着くと、中にはすでに先客がいた。

「ジョルノ君、もう帰ってたの?」
「中学生は今日中間試験だったんですよ」
「そっか…、でも私の部屋なんて何もないのに楽しくないでしょ?」

名前のベッドに腰をかけているジョルノの隣に座ると、ふわりとベッドから洗い立てのシーツの匂いがした。相変わらずこの家のメイド達はつかっていない家中のシーツも毎日洗濯しているらしい。
最近の付き合いの悪さを責められて、今日の夜は仗助達とカラオケでオールする約束をしている。それまでジョルノとお茶でもしながらお喋りでもしよう。キッチンのメイドさん達に頼みに行こうと腰を上げる。つん、と名前のブレザーの背中をジョルノは摘んだ。

「?ジョルノ君…」
「あのね名前、僕は警告してるんですよ。今日は外へ出るなら止めておいた方がいいです」
「どうしたの?」
「忘れたんですか?今日は父が帰ってくると前々から言ってたじゃないですか」
「………あ」

すっかり失念していた。という名前の顔にジョルノは盛大に呆れている。
名前の母親の所謂パトロンは大きな会社を何軒もやっている社長らしく、この家を見るだけで十分その金回りの良さはわかる。ジョルノとジョルノの父親を初めて見たときはあまりの美しい親子に倒れそうになったが、ジョルノの父親は現在母親と事実婚のような形で一緒にいるらしく、二人は殆ど家にいない。どこかのホテルで暮らしているのか、金持ちの考える事は本当によくわからなかった。
お互い自分の唯一の肉親が不在で他人と住んでいるようなものなのにジョルノと良好な関係が築けているのは名前にとって幸運だ。

「そっかー…じゃあ仗助に電話しなきゃ」
「しかも男と出かけるつもりだったんですか!?」

仗助とはそんな怪しい遊びしないよ。と言う
名前に相変わらず疑いの眼差しを向けながら、釘を刺すように言った。

「大体名前、もうそろそろ毎日のように外泊するのはやめた方がいい、父さん達も誤魔化せなくなってきているし、下手をすると父さんは気付いてるかも知れませんよ」

基本的に毎日夜になるとかかってくる両親からの電話はここ数ヶ月ジョルノに任せきりだった。やっぱりそろそろ無理は出る頃だと思っていた。

「じゃあジョルノも一緒にご機嫌とろう。ほら立って、多分ディナーの下ごしらえはメイドさんがやっちゃったから、クッキーでも作っておこう」
「名前が僕とクッキーを!」
「ほら。早く早く、下手すると焼いてる途中に帰って来ちゃうよ!」

余程クッキーが好きなのか薄っすら頬を染めたジョルノの手を引いてこれまた大理石の豪華の階段を駆け下りる。時刻は5時。余り時間は無さそうだ。











「名前がジョルノ君と毎日楽しくやってるみたいで安心したわ。ごめんね名前、昔みたいにママ毎日一緒にいられなくて」
「いいのよママ、お父さんの会食だとか、いろいろお手伝いしてるんでしょ?子供じゃないから寂しくないわ」

大きな暖炉のあるリビングで、親子四人でソファーに座り食後のデザートに紅茶を飲みながらクッキーをつまむ。
名前の母親はジョルノの父親と一緒になってますます美しくなった気がする。
まるでやすい昼ドラのような状況なのに、名前の母親の変わらない愛情はこの四人を幸せな家族たらしめていた。
シャワーを浴びてくると母親が抜けると、今まで口数の少なかった父親が口を開いた。

「名前、君のママを独占してしまってすまないな。最近の君の話を聞かせてくれないか?」

優しい声音だが、名前のカップを持つ手は一瞬固まった。
父はジョルノに自分の部屋に置いた土産を探してくるように言うと、いよいよ広いリビングには父と名前の二人きりになった。

「さてと」

カチャリ、とガラスのテーブルにコーヒーカップが置かれる音がして、父親は足を組み直した。名前もカップを置くと大人しく向き合う。
目の前の男は相変わらず目眩がするほど恐ろしい美貌と雰囲気を兼ね備えている。優しそうな表情に反して、その赤い瞳はいつもギラギラと光っている。

「最近随分外泊が多いみたいじゃあないか」

不良娘の様で私は君が心配だよ。そう言った彼の瞳は相変わらず、だ。
名前は唾を飲み込むと、恐る恐る立ち上がる。自然に開いた男のがっしりとした足の上に、男の方を向いて腰を下ろす。男は満足そうに喉を鳴らして名前の髪を撫ぜた。

「どこで何をしているのか教えてはくれないのかい?」
「それは秘密なの、ごめんなさいディオ」
「この様子なら男と夜通し遊んでいるわけではない様だしな。しかしあまり頻繁な外泊は感心しないな」

名前はテーブルの上の皿に手を伸ばしクッキーを一枚手に取る。そっとディオの口元に運ぶと、そういえばまだ君の新しい制服姿を見ていないな。とディオがクッキを噛み砕いて答える。今度は着てジョルノとお出迎えします。と言うと、ディオはふっと笑った。
ジョルノが階段を降りてくる足音がして、名前はさっとディオの膝から立ち上がる。

「何度も言う様だけど名前、ジョルノは思春期の男の子なのだから、余りプライベートな空間に出入りしてはいけないよ」
「はい。お父さん」

ジョルノが大きな包み紙を持って現れ、お風呂から上がった名前の母親と四人で中身を見てはしゃぐ間も、名前はぼーっと新しく膝丈のスカートを買わなければ、と考えていた。

[ 4/34 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -