思春期の迷い

気まぐれで通い始めた歯医者はまだ2日目ながらも意外と快適だった。
何を考えてるのかよくわからない女医だが、余計な声をかけてこない分気が楽でいい。
衛生士は相変わらずチラチラと周りをうろつくが、女医が気を使っているのか直接何かされる事はない。坦々と治療をこなすが、承太郎が興味深そうに道具やレントゲン、チェアー周りの物を見つめていると、何やら他ごとをしていた女医がそっと教えてくれる。
少なくとも地味だがここに引っ張られた時の大胆な行動を思い出すと、なんだか益々この女の事はわからない。
恐ろしく地味な女だと素直に思うが故に、承太郎は一昨日見せた彼女の強引さが本当に不思議だった。


夜。私服に着替えて近くのコンビニで煙草に火を点けると、例の女が後ろからフラフラと近づいてくるのがわかった。
ひとに悪戯を仕掛けようという元気があるようには見えないが、時々学校の女にやられるうざったいコミュニケーションを思わせるそれに、なんだこの女医も結局はやかましいアマでったのかと思う。

スタープラチナで時をとめ軽々と避けると、女は目を白黒させる。
何がしたいのかと揶揄するように尋ね、おきまりの説教。大人の女は大体説教を始めたと思えば、ありがちな説教を会話の糸口にして煙草の代わりにとでも自ら擦り寄ってくる。

紫煙を吹き付けると、女は黙った後、こちらがたじろぐ程の強い目で睨み返してきた。
伸びてくる手に、何故か叩かれるのかと思うのに動けない。
女の手は予想外に少し腫れが残る頬をいたわるように撫でた。相変わらず女はいつも病院でするような説明をする。
真剣な眼差しに目を反らせないでいる。
(どうやらコイツはあくまで俺の主治医らしい……が)
病院との温度差になんだか不思議な心地がしてくる。この女はきっと普段も病院でのようにフラフラと上手く立ち回っているに違いない。
力説し終えた涙目のままの女がポケットを漁っている間、承太郎の胸に湧いてきたのは不思議な優越感だった。

正直話はさっぱり聞いてなかったが、新しいのをお買いと年寄りのような口調で煙草の代わりにプラスチックの筒を渡される。
あの如何にも真面目で無関心な彼女が自分の私物を渡す程に、俺は特別な人間らしい。
彼女がまたフラフラと歩きながら遠ざかっていく気配を感じながらも、承太郎はプラスチックの筒を見つめていた。




ーーーーーあの女医なんて名前だったか


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