さらばロイヤルミルクティー

お目当てのコンビニで並んでいる菓子パンを前に考える。結局雪ちゃんにああは言われたものの私が今更サラダを主食にした所で雪ちゃんのような目の覚める美人になれるわけではない。せっかく今日を頑張ったご褒美にお腹にたまる甘いものを食べたって良いじゃないか。ふわふわさで定評のある蒸しパンと、ちょっぴりの罪悪感を誤魔化すための野菜ジュース。それから、医局でロイヤルミルクティーとしけ込もうと紙パックの小さな牛乳を購入する。茶葉は雪ちゃんが美容なんたらのデトックスうんたらティーとか言っていた適当な紅茶を拝借しよう。バレたら多少嫌味は言われるだろうが、医学的根拠のないものは信じない主義の時雨には勿体無さなんて関係ない。
(大体雪ちゃんはあんなもの飲まなくても抜群に美しいよ)
ホットスナックを齧る高校生を尻目にコンビニを後にすると、ようやく空が赤くなり始めていた。なんだかんだでコンビニで時間を潰してしまった。連絡がないという事は問題はないんだろう。それでも一応早めに帰るかと、再び近道で路地裏を通る。さすがに高校生も大半は帰ったのか細い路地に人はいない。喉が渇いたと野菜ジュースを飲みながら歩くが、やっぱり何か甘い水が飲みたいと思う自分はトコトン意識の高い美容と健康な食生活には向いていない。
路地裏を抜け、より一層薄暗い高架下へと差し掛かった時。人が倒れる音と、何かを殴りつける激しい音に思わず体が固まった。
(…!?)
とっさに物陰に隠れる。恐る恐る覗き込むと、大柄な男が床に落とした学生鞄を拾い上げている。周囲には激しく曲がった金属のゴミ箱が転がっており、先ほどまで激しいケンカがあった事を物語っていた。
他に人がいないのか、思わず身を乗り出した時。日頃の運動不足を恨む。しゃがむという姿勢すら長時間こなせなかった体が前のめりに転がった
「……誰だ」
恐る恐る顔を上げて立ち上がる
風貌から行って、高校生…のようだ。ハリウッドスターのような整った顔の口元には血がにじんでいる。彼の整った風貌と改造された学生服から、時折衛生士達がはしゃいでいる何かと目立つ高校生だと合点がいった。
(…このまま何もなかったように通り過ぎよう)
確か硬派でなんちゃらなイケメン高校生とか言っていたな。一般人にいきなり殴りかかる人物だとは聞いた事がない。大人の対応でそっと素通りしよう。
へしゃげた菓子パンにも気づかないフリをしながら距離をとりながら脇を通り過ぎる。彼もこちらに興味をなくしたのか、口元の血を袖で拭っていて、見向きもしない。
通り過ぎた直後。何かを吐き出すような音

ーーーーカツンッ……

チッという高校生の舌打ちとコンクリートに何か硬いものがぶつかる音に思わず振り返ってしまう。
ハッとしたのもつかの間。時雨の目は転がっているものに釘付けになった。

乳白色の塊で、咬頭が5つ平らな根っこが2つ。毎日嫌という程見ているそれは下の奥歯。さらにいうと第一大臼歯だった。

「なっ……!?ちょっと!!」

そのまま立ち去ろうとする高校生に思わず声が出る。怪訝そうにこちらを振り返る彼はまるで本当に今起きた事に関心がないように見えた

「…なんだ?」
「なんだじゃなくて…これ君のですよね?」
「正確に言うともう俺のじゃねぇぜ」
「いやいや…そういうの良いから。今抜けちゃったんでしょ?間違いなくそうでしょ」
やれやれと声が聞こえてきそうな程鬱陶しそうな高校生を尻目にコンビニ袋を漁り牛乳パックを取り出す。
「お願いですからここにいてくださいよ!」
さようなら私のロイヤルミルクティー。さようなら私の豪華なティータイム。
お手拭き越しに転がった歯をつまむと、封を開けた牛乳パックの中にぽちゃりとそれを落とした。高校生が目を剥いたのがわかる
そりゃいきなり知らない女にこんな事されたらビビる。でももう私のティータイムを犠牲にしてしまったのだ。ついて来てもらわなきゃ困る

「悪いんですけどちょっとついて来てもらいます。保険証はお持ちですか?」

高校生の腕を引っ張る。興味深そうにこっちを見る彼は意外とすんなりとついて来た

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