フラッシュ

起きてまず驚いたことは人様の家で爆睡してしまった事と、時刻がとっくにお昼を超えていた事だ。
しまったと思い急いで着替えてスマホを手に取ると、義姉さんから深夜にラインが来ていた。兄と赤ちゃんと三人で映った画像と、時雨ちゃんもゆっくり休んでね。というメッセージ。
さらにメールボックスを開けると、やはり未だラインは使い慣れないのか父から一通。
どうやらホリィさんが心配して実家の父に娘さんがひどく弱っているので、うちで様子を見させてもらっていいか。と連絡が言ったらしい。ホリィさんよの付き合いは父の方が長く、やはりホリィさんも時雨がまだ義務教育中から見知っているせいか、27になる女に対して未だ友人の子供。という感覚のようだ。父からのメールは、とにかく時雨の母も長く高熱を出してなくなった事もあり、微熱だと見縊らず下がるまでは仕事を兄に任せてホリィさんに甘えさせてもらいなさい。という内容で占められていた。
そうはいっても長くお世話になるには…と思案しながらリビングに向かうと、どうやらホリィさんは用事で不在らしく、休日は病院に行くように、晩御飯は昔時雨ちゃんのお母さんから聞いたレシピを再現してみる。と嬉しいメモが机の上に残されている。

「起きたのか?」
「あぁ…!おはよう…って今まだ昼間じゃあ…?」
「今日は試験だったからな」

それだけ言うと、今日は時雨を病院に連れて行ってから荷物を取りに行くのに付いて行くよう言われた。と言うともう出られるのか?と聞く。
見張りが付いているなら仕方がない。
既に時雨のバックを手にしている承太郎について、空条邸を後にした。







医者に症状を伝え、いろいろ検査を受けた結果、風邪ですかね。抗生剤とビタミン剤を出しておきます。とだけ言われて病院をでる

「こういう時医者にっていいなって思う」

所用時間30分余りにあのぞんざいな診断でこんなにもらえるのか。私なんてあんなに作業してもこれの半分くらいだぞ、と時雨が溢す愚痴を聞き流しながら、承太郎は時雨が渡してきた着替えのはいった荷物を受け取る。
こうもあっさりと自分を家に招かれてしまうとなんとも複雑な気分である。
可愛らしい装飾が皆無の部屋だが、壁や棚の上などにたくさんの写真が飾られている。大学時代のものから、最近の学会へ行った時まで。その中で一際目立つ古い写真を思わず手にとった。
金髪の白人女性が、黒髪の小さな女の子を抱いて笑っている。
承太郎の視線に気づいた時雨は、だからクォーターって言ったでしょ。とこともなげにいった。

「確かに似てねぇな」
「あった事はないけどお父さん似だったんだと思う。」

時雨の祖母は若い娘の時に戦火を逃れるためにイタリアの知人のところに逃げた。貿易商をしていて大層裕福だった祖母の実家は、イタリアの小さな島国の方が日本よりも安全だと踏んだのだろう。帰ってきて娘の縁談を楽しみにしていた両親は、戻ってきた祖母が身重になっていた事を受け入れられなかった。時雨の母はまるで日本人の血が入っているとは思えない外見をしていたし、そのせいで祖母も母親も好奇の目にさらされていた。母親はやがて家を飛び出して、今の時雨の父親と結婚した。
時雨は結局祖母に会えなかった。時雨が生まれる前に亡くなったそうだ。母親はよく、そんな祖母にそっくりの時雨をおばあちゃんに見せてあげたかった。と零していた。

時雨が化粧品をかき集めている間、たくさんの写真を眺めていると、病院を背景に幼いが見覚えのある友人とまだ子供っぽさが残る白衣を着た時雨が2人で映っている。

「花京院…」
「あれ?知り合いだったの?」

自分が初めて受け持った患者なのだと言うと、周りを見渡してから特別仲良くなった人達とはこうして一緒に写真を撮るのが趣味なのだ。といった。
なんとなく面白くない。
自分が座りかけていた椅子に実は先に他人が座っていた。というのが不愉快だ

「おい時雨」
「ちょっと待って、すぐ済むから……って!」

急に引っ張られてバランスが崩れる。化粧品のボトルが幾つか床に転がる。肩を抱き寄せられるような姿勢のまま上を見ろと言われ顔を上げると、安っぽいシャッター音が響いた。
実に鮮やかな一瞬の出来事だった。
スマホの画面を眺める承太郎に急に何をするのかと避難の目を向けると、スマホでもちゃんと現像してやるから安心しろと言う承太郎に思わず力が抜ける。
なるべく小さくまとめた荷物を持った承太郎と空条邸に向かう途中、ちらりと承太郎を見上げると満足気な表情の承太郎と視線がかち合う。
途端にさっきまでの密着を思い出して距離を取ると、こんなところであんなことしねぇよ。一瞥された。

(……こんなところでって言った…今)

じゃあここじゃないところではまたするつもりなのか?叫び出したい衝動を時雨は飲み込んだ。



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