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In the fog mountain


あれから更に一ヶ月と少し。
本格的に夏に入ってから、しばらく経った頃。
再び会う事になり、今度は音隠れの里の近くに在る、或る山へと行くことになった。
前は木ノ葉の近くまで行ったのだから、音の近くにも行きたい、と真白が言ったのだ。
もちろんサスケは反対したが、真白がどうしても行ってみたいと聞かなかった。
なので仕方なく近くの山まで行く事にしたのだ。

今回は夕方過ぎに会う事になっている。これはサスケが指定した。
しかし、折角の再会の日だというのに、生憎の天気で、本来見えている筈の橙色の太陽は雲に隠れている。


「……これじゃ見えねえな」


薄暗い森の中を歩きながら、ポツリと呟く。
空は広く雲に覆われ、徐々に霧も出始めた。
普段以上に湿った空気が少し気持ち悪い。

いつもの小屋に着くと、もう既に真白が居た。
見ない間に少し髪が伸びている。
やはり額当はしていない。


「あ、久しぶり。えっ…と、サスケ君」
「…呼び捨てで良い」
「じゃあ、私のことも呼び捨てで、ね」
「…ああ」


初めて会った日から二ヶ月余りが経ったというのに、今呼び方の話をするなんて。
元々出会い方が奇妙だっただけに、色々と順番がおかしくなったのだろう。


「今日、無理言ってごめんね」
「…誰にも見つかるなよ」
「うん、分かってる。気を付けるよ」


そうして二人は目的の山へと歩き出した。





日もとっぷりと暮れて、辺りは真っ暗。
隣に居る筈の互いの顔すらよく見えないが、誰かに見つかるのも避けたいので、灯りも無いまま進む。
霧の所為で足元が見えないが、足場が徐々にゴツゴツとしてきたのが分かる。


「…足元、気を付けろよ」
「険しいね、結構」
「…ああ」


木や草も多いが、出張った岩も多い。
見えない足元に集中して歩いていく。
少し進むと、岩も少なくなり、草が更に多くなってきた。
歩くたびにガサガサと音が鳴るので、見つかりはしないかと心配になる。


「! 止まれ…誰か居る」


自分たち以外の、草を掻き分ける音がする。
サスケは写輪眼を使い、辺りを見回した。


「…お前は隠れてろ」
「…うん、分かった」


暗闇の先に居たのは、カブト。
懐中電灯を手に持って、足元を漁っている。
真白は気配を消して、近くの岩陰に隠れた。
サスケはカブトにゆっくりと近付く。


「! …何だ、サスケ君じゃないか」
「………」


カブトはサスケの顔に光を当て、確認した。
サスケは眩しさに目を細め、不快に眉を顰めた。


「こんな所で何をしてるんだい?」
「…テメエには関係ねえ」
「…フフ…、まあ良いけど」
「テメエこそ何してやがる」
「僕かい? 僕は医療品の材料になる薬草や動物を探してるんだよ」
「………」
「こんな草や動物を見なかったかい?」


カブトは既に手に入れていた薬草と動物の死骸をサスケに見せた。


「……あっちに在ったぜ」
「…………、本当かい? ありがとう」


サスケは真白が居るのとは違う方向を指差して言った。
カブトは少し間をおくと、信用できない笑みを浮かべてその方向へと歩き出した。

本当に、いけ好かない野郎だ。
何を考えているのか全く分からない。

カブトが離れていくのを確かめてから、サスケは真白の方へと戻り始めた。
もちろん写輪眼も使って。


「! …っ」


少し遠目に真白を見つけ、直ぐに駆け寄ろうとした。
が、真白を後ろから狙う何者かを見つけ、無言で手裏剣を投げた。


「っ!?」


サスケがいきなり凶器を投げつけた事に、真白が驚く。
後ろの男に気付いていないようだ。


「ぐあっ!?」
「!」


後ろから声がしたことに驚いて振り向く。
その真白の横を通って、サスケは更に男に攻撃する。


「! っゔあ゙あっ!!」
「…大人しく死んどけ…」
「…、が…ぅ、あ…」


クナイで致命傷を負わされた男は、音忍だった。
足の力を失くし、倒れ込む。
サスケは顔に付いた返り血を軽く拭くと、真白の元へ向かった。


「…サスケ…?」


暗くてよく見えないので、真白は問うた。
サスケはそれに短く答え、近くまで寄る。


「……無事か?」
「あ、…うん」
「…一応隠れるぞ」


そう言うと真白の手を取って更に山の奥へと進み出した。

その手がすっかり血で濡れていることに気付かずに。






「…ここなら良いか」


小さな洞窟。
大人四人が入れば一杯になってしまうくらいの広さしかない。
入り口は少し狭く、霧が上手く隠してくれた。


「あっ、…悪ィ…」
「…ううん、いいよ…」


サスケは掴んでいた真白の手を慌てて放した。
急いで隠れなければ、とその事ばかり考えていて、自分の手が血で染まっている事に気付かなかった。
ズボンでごしごしと拭いて、血を取る。


「……あっさり…殺しちゃうんだね…」
「…?」


真白の様子が、少しおかしい。


「…躊躇いもせず、人を…殺せるんだね…」
「………」
「私の事も……簡単に殺せちゃうのかなあ…」
「!!」
「あ……ごめん…。なんか変な事言っちゃって…。助けてくれたのにね」
「………」
「……私も、人殺しの癖に…ね…」


座り込んで、何かに怯える様に小さくなる。

真白だって、こう見えて暗部なのだ。
何度も人を殺した事もある。
けれどそれは、任務中の事。
面も着けていたし、仲間も居た。
だから感情を押し殺す事も出来ていたし、前もって覚悟も出来た。
だが、今はそのどちらもない。


怖い。
手に付いた血すら、怖い。


口封じの為だった事も分かっている。
殺して封じなければ、こちらの身が危なかったのだから。
見つかってしまった自分が悪いのだから、サスケを責めるのはお門違いなのも分かっているつもりだ。


「………」
「なんかホント、ごめんね…」
「…謝り過ぎだ」
「え…?」
「…さっきから。…俺は気にしてねえ」


ちっとも気にしていないと言えば、流石に嘘になるが。
躊躇わずに殺せるのは事実だ。
相手の事を何も知らなければ、虫を殺すも同然に。
しかし


「俺は、お前の事は殺せない」
「………」
「お前が俺に殺して欲しいなら、別かもしれないがな…」
「…!」


驚く真白。
真白が「それ」を望む時が来るのかどうかは分からないが、その時が来れば、きっと。
だけど、今は違う。


「……そんなに簡単に…殺せる訳ねえだろ…。……俺は…自分でもどうかしてると思うくらい……お前の、事………」


言葉に詰まる。
言ってしまっても良いものかどうか、判断しかねた。

互いに、好きだと思っていることは知っている。
だからといって、付き合えるような関係ではない。
仮にそういう関係になったとして、より大変な目に遭うのは、おそらく真白だ。
周りにばれれば、拷問される可能性だって否定できない。
それは嫌だ。


「…続き、聞きたいよ」
「!」


途中で止めてしまったサスケを促す真白。
もうほとんど、聞かなくたって続きが分かるような所まで言ってしまったのに。


「覚悟なんて、とっくにしてるよ」
「………」


真白も、どうなってしまうかくらい、分かっている。
それでも敢えて、続きを聞きたいと。


「…私も、どうかしてるんだよ…きっと」
「………」
「ね」



もう、『敵同士』なんていう壁は、今にも崩れる。



「…真白…」
「なあに…?」


名前を呼んで、真白の頬にそっと手を触れた。



「…好きだ」



分かりきっている返事を聞く前に、口を塞いだ。


この衝動は、もう絶対に止まらない。


霧はどんどん濃くなって、二人を隠すように広がり続ける。
空の雲はいつの間にか薄くなり、満月が地上を照らしていた。



(20060204)
きりのなかで


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