×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
Encounter


前に会った日から一ヶ月。
なかなか二人の予定が合わず、連絡の取り合いにも苦労した。
なるべく目立たないようにするため、伝鳥をなかなか飛ばす事ができなかったのだ。
ちなみにこの伝鳥は真白が個人的に飼っているもので、普通のものと種類が違う。
そういう訳でようやく会える事になり、例の小屋へ行く事になった。


「久しぶり」
「…ああ」
「結構時間空いちゃったね」
「………」


あまりにも久しぶりな為か、彼は大きな反応は示さない。
元々よく喋る人ではなかったが、一層そうなったような。
会わない間に何かあったのだろうか。


「…何か、前とちょっと雰囲気違うけど…」
「…そうか?」
「何かあったの?」
「……別に」
「…そう?」


真白は、これ以上聞かなかった。
聞いてはいけないような、そんな気がしたから。


「今日は、木ノ葉の近くまで行くんだよね?」
「…ああ」


これは、彼の希望。
何故危険を冒してまで木ノ葉まで行きたいのかは真白には分からないが、彼が強く希望したのだ。
理由なんて聞ける雰囲気ではない。
額当は外してきたようだ。


「…じゃ、行こうか」
「………」


走りはせずに、歩いて里へと向かう。






だんだんと里に近付いてきた。
真白は、彼のことを信用していない訳ではないが、彼が木ノ葉に行きたがる理由を、ずっと考えていた。
観光などをしたがっているようには見えないし、したがる人ではないだろう。
他に理由を挙げるとすれば、どうしても悪い事になってしまう。

木ノ葉の動きを探るための偵察をしに行こうとしている。
木ノ葉の力を少しでも削ろうとしている。

こんな考えが頭を過ぎると、真白は必死でその考えを無かった事にしようとした。
しかし、何度も何度も似かよった考えが浮かぶ。

なんて酷い事を考えてるんだろう。
この人は、そんな事をしない筈だ。
そんな人じゃない。

そう思っていても、疑念は消えなかった。

その時、誰かが近付いてくる気配がした。


「! 早く隠れて!」


大分里に近いので、木ノ葉の忍だろう。
見つかると不味いのではないかと思い、真白はこう言った。
サスケもその言葉に従い、木の上へ跳び上がって気配を消した。


「あ、ここに居たのね、真白」
「友子先輩!」
「『先輩』は要らないって言ってるでしょ」


どうやら気配は友子という人のものだったようだ。
真白は親しいらしく、打ち解けた様子。
相手は真白を捜していたようだ。


「どうかしたんですか、友子せ…友子さん」
「そうそう。真白って国境辺りで修業してるでしょ?」
「はい」
「最近音の動向が怪しいみたいだから、あまり近付かないように言っておこうと思ったの」
「…そうなんですか…?」
「ええ。音忍に殺された人もいるのよ」
「!」
「大丈夫だと思うけど、念の為に言っておこうと思って」
「あ、ありがとうございます…」
「今日は別の場所でしなさいよ。じゃ、それだけだから」


そう言って、その場から居なくなった。
近くに気配が無くなったことを確認し、サスケが姿を現した。


「………」


無表情だが、空気が少し険しい。
真白の頭に、再び嫌な考えが過ぎった。
先程の話の所為で、どうしてもその考えを消せない。


「…名前…」
「え?」


今までほとんど話さなかったのに、急に言葉を発した。
真白は反応しきれず、間の抜けた声を出した。


「…真白って、いうのか」
「あ…うん。そういえば、まだ名前知らなかったね。柳原真白っていうの」


歩き出して、話す。
木の葉の入り口である門が見えた。
一ヶ月も経ったのに、名前も知らなかった事に気付かなかった。
自分はやはり少し抜けているのだ、と改めて思い知った。


「……貴方の…名前は?」


門の前で、立ち止まる。


「……サスケ」
「…“サスケ”…?」


どこかで聞いたようなその名前に、少し首を捻った。
サスケは、重々しく言葉を紡ぐ。



「…うちは…サスケだ」

「! 『うちは』って…!!」


苗字を聴いて、思い当たった。
『うちは』といえば、十数年前に幼い少年一人を残して滅亡した、『木ノ葉の』、有名な一族ではないか。
しかし彼は、音の忍の筈。
という事は、まさか、彼は抜け忍。

『里抜け』という、許されざる罪を犯した、忍。

少し軽く考えていた。
私達の出会いは、とんでもない危険をはらんでいたのだ。


「……軽蔑、するだろ?」


自嘲するような笑いを薄く浮かべて、サスケは門を見詰めている。
正しくは門の向こうを見ているのだろうが、今は門が閉じている。
今にも泣き出しそうな雰囲気で、じっと、木ノ葉の里を見ている。
しかし決して、涙が浮かんでいる訳ではない。


「あ……今日って…もしかして…」
「……そうだ」



うちはが、滅亡した日。

その事に勘付いて、真白は胸が締め付けられる思いがした。
だから、空気が険しかったのか。

まだサスケの事はよく知らないが、きっと、強い決意をもって里を抜けたのだろう。
うちはが滅亡した理由は、一人の男が――たった一人の人間が、一族全員を殺害したからだという。
生き残った少年は、当然復讐をしようと思っただろう。
しかし、敵討ちの相手は、木ノ葉で最も優秀だと謳われていた一族を、たった一人で全滅させたのだ。
常套的なやり方では、どんな天才でも敵わないだろう。
故に、別の方法を求めて…抜けた。



「…まだ、アイツには届かない…。まだ…帰れない…」


それでも、命日には、こうして近くまでやって来る。
未練が有る、と言えば、そうなのかもしれない。
今更帰ったところで、待っているのは重い罰則。
けれどサスケは、寂しそうな目で、門の向こうを見詰めている。


ポタリと

透明な雫が、地面に染みを作った。



「……何でお前が…泣くんだよ」
「…ぅっ…ごめん…でも…」


涙は頬を伝って次々と滴り落ちる。

今、こうして門前に立っているサスケを想って。
そして、こんなにも優しい彼を疑ってしまった自分を悔やんで、涙が止まらない。


「…ごめん…ヒッ…ごめんね、ごめん…ック…」


真白は、謝りながら、溢れ出る涙を必死で拭い続ける。


「…謝るんなら、泣くな…」

俯いている真白の頭に優しく手を乗せて、そう言った。
そのサスケの優しさに申し訳がなくて、真白は余計に泣いた。


「…うっ、く…ヒッウ…」
「………、…」


少しの間、真白が泣き止むのを待っていたが、そうなる気配はない。
サスケは耐え切れず、真白を両腕の中へと収めた。


「!?」
「…泣くなよ。…困る」
「…ごめん…うっ…」
「だから…謝んな」
「…うん…うっく…」


優しい。
どうして彼が、あんな目に遭ってしまったのだろう。
どうして、彼なんだろう。

真白はサスケに身を委ねて、そう考えていた。

その時、再び誰かの気配が近付いてきた。


「!」
「!」


慌てて離れ、サスケは木の陰に隠れた。


「真白ーっ!」
「友子先輩…」


真白は急いで涙を拭いて、必死に平静を装った。
泣いていた事がばれれば、絶対に理由を聞かれる。
あの人に嘘を吐ける自信はない。
そうなる事だけは避けなければならなかった。


「真白、急で悪いんだけど、任務よ」
「! え、そんな…」
「私も一緒だから。先に火影様の所へ行くわね。真白も直ぐに来なさいよ!」
「あ、はい、分かりました」


友子が行くと、真白はサスケの居る木の方を見た。
サスケが顎を杓って「行け」と示すのを見て、真白はその場から消えた。




「………」


真白が消えるのを見届けた後、サスケは木に凭れて、長い溜息を吐いた。
冷たい手を額にあてがって、少し熱を冷ます。


「……限界…近いな…」


呟いて、再び溜息を吐いた。
我慢と、理性の限界。
目の前で、あんなにも無防備に涙を流されては。


一応一線は引いているつもりだ。
これ以上、真白を好きになってはいけないと。
しかし

真白から溢れる涙は、これまで見たどんな液体よりも美しかった。
ほろほろと零れ落ちる宝石を、全て自分の物にしてしまいたいと思った。
否、思ってしまった。

真白の顔に、手を伸ばしそうになってしまった。
抱きしめた後…キスを、しそうになってしまった。


本当は、そんな『一線』なんて、とっくに過ぎている。
もう後戻りなんて、出来ないくらいに。

けれど、それは―――



「…真白…か……」


またも深い溜息を吐いて、今一度木ノ葉を一瞥してから、音の里へと歩き出した。




(20060127)
くものきれまに


 []      []
戻る

[感想はこちら]