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2-2


山を降り始めてしばらくすると、急に空が暗くなり始めた。


「…雨、降りそうだな」
「うん。まあ、降っても夕立でしょ」
「…今、光ったぞ」
「え!? うそ!」


途端に雨が降り始め、雷も落ちた。
一気に山を駆け下りて、根元にあった洞窟に入った。



「わー…まさか二日連続でビショ濡れになるとは…」
「…全くだ」


入り口から入ってくる雨に当たらないように、少し奥の方に座る。
真っ暗でよく見えないので、仕方なく写輪眼を発動させた。
この方が少し夜目が利く。


「…っ…!」
「? どうかした?」
「い、いや…何でもない」
「…そう?」


雨に濡れた女は、妙に色っぽかった。
直ぐに目を逸らし、眼を元に戻す。
手で顔を覆い、深く息を吸って、吐き出した。
顔が熱い。
何となく、罪悪感。
一人で何やってんだ、俺。


「……寒…」
「…大丈夫か?」


寒いと呟いた女にはっとして、直ぐに言葉を返す。
言った内容が気になって、今度は気を落ち着けて女を見た。
微かに震えていて、腕を摩っている。
昨日も濡れた事もあって、多少身体が弱っているのだろう。
自分の服に手を掛け、がばりと脱いだ。


「な、何…ぅわっぷ」
「…それ羽織ってろ。少しはマシになるだろ」
「え、でもそれじゃ貴方が…」
「いいから」


正直なところ、寒い。
上半身が裸では、さすがに。
しかし、放っておくことも出来なかった。

俺にはもう、こんな事をする心など、無いと思っていた。
そうか、まだ残っていたのか。


「…あ、ありがとう」
「……気にするな」


外を見れば、雨の勢いはほとんど治まっていた。
明るくなってきている。


「…止んできたな」
「ホントだ…」
「…行くか」


そう言って立ち上がる。
女も直ぐに、慌てた様子で立ち上がった。


「あ、ちょっ、服は?」
「まだ寒いだろ」
「そうじゃなくて…」


女が言い辛そうにしている。
何だ、何か問題でもあるのか。


「…何だ、早く言え」
「………恥ずかしいから、服着てよ」


言って、女は俺の服を差し出した。


「……お前も女だったんだな」
「な、どういう意味よ!」
「あまりにも警戒心が無ぇから、こういうの全く気にしてないと思ってたんだが」


服を受け取って、濡れて着難かったがごそごそと着る。
そのまま出口へと歩き出した。


「…そりゃあ確かに警戒はしてないけど…それとこれとは違うっていうか、何ていうか…」


女が口籠りながら後ろから付いて来る。


「ええっと、一応意識はしてるんだけどなあ…。警戒は…しようと思えないような…そんな感じだと…」
「…………」


意識した上で、警戒しない。
良いように取るなら、それはつまり。


「…俺の事好きだと、思って良いのか?」
「…やっぱ…そうなるのかな…。一目惚れ?」


外に出た。
急に明るい所に出た所為で、少し目が眩んだ。
振り返って、女と向き合う。


「…俺も、同じだ」
「…! …ふふ…私達、やっぱり気が合うね」
「…ああ」


女が楽しそうにクスクスと笑う。
西の方角を見ると、太陽は沈みかけていて、橙色に輝いていた。


「…そろそろ、帰らなくちゃ」
「………」
「じゃあ、ね」
「……待てよ」


帰りかけた女を呼び止めた。
振り返りざまに、女の髪が揺れる。


「……大事なこと、忘れてるぜ」
「え、何…?」


少し俯いて、小さく、でも聞こえるように言った。


「今度、いつ会うんだ?」


敵国の人間同士が何度も会うのが危険なのは分かっている。

でも、


二つの影が重なって、どこまでも長く伸びていた。




(20060107)
あるはれたひに


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