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One fine day


昨日、あの小屋で、どうして会う約束なんてしたのだろうか。
俺はこんな風に人と関わるのは好きじゃなかった筈だ。
なのに、どうして

アイツは他の誰とも違う。
自然にこちらの領域に足を踏み入れた。
俺はそれを、何故か拒否しなかった。
まだ、顔も知らない、声だけの知り合い。
そんな相手なのに、何故。

アイツの言うとおり、気が合うのだろうか。
どことなく、似ているからだろうか。
理由はそれだけではない様な気がする。


「………」


いつの間にか、約束の時間に近付いている。
そろそろ出発しなければならない。


「おや、サスケ君。どこかへ行くのかい?」
「……」
「まあ、良いけどね。夜には戻って来るんだよ。君に少し、言っておきたい事があるから…ね」
「……ああ」


いつまで経ってもいけ好かない野郎だ。
昨日の女とは比べる気にもならない。


何だかんだで外に出るまでに時間が掛かってしまった。
例のボロ小屋まで少し急ぐ。

着いてみると、そこにそれらしい人影はなかった。
しかし、よく注意して探ると気配はあった。木の陰に隠れているようだ。
その木に向かって声を掛ける。


「…『あらしのよるに』」
「『あらしのよるに』」


思ったとおり返事が来た。
そこから女が顔を出す。


「あ、貴方音隠れの人だったのね」
「お前…木ノ葉か…?」


額当を見て、そう言った。
まさか音隠れの奴だとは思わなかったが、よりにもよって、木ノ葉。
この辺りは三つの隠れ里を持つ国が隣接する国境付近だ。
しかし、木ノ葉の里は火の国の中心に在る。
こんな所まで修業の為にやって来るなんて思いもしなかった。


「まいったなあ、敵国の人だとは」
「………」


木ノ葉でも音でもないもう一つの国は、木ノ葉とも音とも同盟を結んでいる。
しかし、木ノ葉と音は数年前の『木ノ葉崩し』の件以来同盟を解消してしまっていた。
今では睨み合いを続ける敵国なのだ。


「ま、これは至って個人的なものだから、大丈夫だと思うけど」
「……そうだな」


余程の事がなければ問題は起こらないだろう。

それにしても。


「………」
「貴方、綺麗な顔してるのね」


そっちの方が、ずっと綺麗だ。
と、声には出せず、言葉を呑み込んだ。

体の中心が、少し熱い。
何とも表現し難い感情が、体中を駆け巡る。

今すぐ押し倒したい

行動に表すなら、こうなる。
鼓動は速くなるばかり。
ズボンのポケットに突っ込んだ手を強く握り締めて、理性を保とうと必死になる。
まさか知り合っていきなり、しかも敵国の女とそんな事をする訳にもいかない。
だからここはグッと堪える。


「ここでずっと立ち話をするのも何だから、移動しない?」
「あ、ああ…そうだな」


少しばかり自分の思考に集中していたから、急に現実に戻されたような気分になった。


「私、この近くに景色のいい場所知ってるの。そこに行く?」
「…どこでも良いぜ」
「ならそこで。少し歩くけど、大丈夫だよね」
「ああ」


正直な所、話を変えてくれて助かった。
あのままだったらその内取り返しのつかない事をするところだったろうから。
彼女が先導する通りに森の中を歩き進んだ。





10分程歩くと、少しずつだが足元が険しくなってきた。
岩肌が剥き出しになっている山、というか円柱状の巨大な突起が目の前に現れた。
根元には洞窟もある。


「この上なんだけど…」
「…一気に登るか」
「そうだね。その方が楽そうだし」


まるで太い塔のようなそれを見上げながら話す。
側面に道のようなものもあるが、そこを登るとすれば結構な時間が必要になるだろう。
だが壁を垂直に登るなら、話は別だ。


「じゃ、頂上まで競争!」
「! あ、おい!」


呼び掛けても振り返るだけで、走るのは止めない。
仕方なく俺も走って追いかけた。
縦の長さは100メートルあるかどうか位なので、直ぐに頂上に辿り着く。


「…狡いぞ」
「固い事言わなーい。それよりほら、見てよ」


あまり自慢げに言うから、周りを見る。
高い場所から見たこの辺りの景色は、思っていたよりも美しかった。


「……良い…眺めだな」
「でしょ?」


頂上には植物が繁り、木も一本生えている。
まるで小さな草原だ。
小さなと言っても意外に広く、少しくらいなら走り回れるだろう。


「ここでする昼寝は最高だよ」


そう言うとこの女は、ゴロリと草の上に寝転がった。
警戒心なんて物はもう持ち合わせていないらしい。
俺もその横に腰を下ろして、そのまま寝そべり、目を閉じた。
僅かに下心を持って。


「あー、気持ちいい。…ん? もう寝ちゃったのか…」


内心、眠れる訳がないだろう、と思ったが、起きている素振りはしない。


「じゃあ、私も寝ようかな…」


そう言ったと思うと、途端に静かになった。
五分もすれば、寝息まで聞こえるようになった。


「…コイツ…」
「……スー…」


警戒心が無さ過ぎやしないか。
確かに、殺気を感じれば飛び起きられるのかもしれない。
だからと言って、仮にも――いや、実際に俺は男で、そっちは女なんだ。
少しくらいは警戒しろ。

ここまで無防備でいられると、襲う気も失せて、寧ろ落ち込む。
これはきっと、『そういう対象』として見られていないということ。
これに落ち込むということは、俺は『そういう対象』として見ているということ。
そんなことは先から分かっている。

気配を消して、上体を起こした。
緩やかに吹く風が、少し気持ちいい。
横で眠る女の、長めの髪がそよぐ。


「…、……」


触れたい
とか、そういうレベルの感情は、もう既に暴走寸前で。

腕の中に閉じ込めたい  とか、
そのまま自分のものにしたい とか、
そんな衝動も、結構な所まで来ていて。

少しくらいなら 良いだろうか
少し、 触るくらいなら…

片手を、そっと女の顔へ近付けて行く。
心臓の音がやけに大きい。
大して離れていないから、距離は直ぐになくなる。
触れる半歩手前で、生唾を飲んだ。


指が、頬に触れた。
想像以上に柔らかい肌の上を、ゆっくり滑るように動かす。
手を広げ、顔を包むようにして、髪の下に指をいれた。


「…ん、ふふ…くすぐったいよ」


女が反応した事に、ドキリと心臓が跳ねた。
慌てて手を引っ込める。


「私、結構くすぐったがりなの。特に耳はダメで……ふあー…あ…」


言いながら、女は伸びをした。
どうやら触れていた事はあまり気にしていないようだ。
少なくとも嫌がっていないことが分かって、安堵した。


「んー、すっかり目が覚めちゃった…。そろそろ行こっか」
「…ああ」


来た時は垂直に走って登ってきたが、今度はちゃんと道を降りていく。
凹凸が激しい山道を、身軽な動きで進んでいく。




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