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The day of days


木ノ葉の里の中心から遠く離れた森の中。
おそらく国境も近い、そんな人気のない所に、一人黙々と修業を続ける人影があった。
その人影は、女性にしては背が高く、男性にしてはやや小さい。
細身で華奢な腕から放たれる武具は、全て的を射ている。
額当が左腕に巻かれてあり、面がポーチからはみ出ている。
服装は見るからに動きやすそうだが、火影直属の部隊のそれとは異なる私的なもののようだ。
名を柳原真白。

もう夕刻だというのに、帰る素振りは無い。
あまりに熱心に修業に励んでいるためか、天候が悪い方へと向かっていることに気が付かないようだ。
やっと空を見上げた頃には、木々の間からの光もなく、暗黒の雲が垂れ籠めていた。


「……降りそう…」


言った後、数分も経たずに降り始め、勢いはまるで留まることを知らないよう。
ついには雷まで鳴り出した。


「うわ、土砂降り…」


取り敢えず雨宿りできるところを探さなければ。
そういえば、この近くに何か小屋のような物が在った気がする。
かなりのボロだったが、雨くらいは凌げるだろう。
早急に忍具を片付け、雨に打たれながらその場所へと走る。


「うはー…ビショビショ…。風邪ひいちゃうかも」


小屋の中は真っ暗で、視界がほとんど利かない。
一応、面で雨を避けながら来たが、その行動は完全に無意味だった。
全身が雨で濡れてしまい、壊れた壁から入る隙間風が寒い。
少しでも体に降り懸った水を払おうと、腕を擦り、頭を振った。
ボサボサになった長めの髪を掻き揚げる。
近くに落ちたのか、雷の轟音が耳に甚く響いた。

その時、自分以外の気配が小屋の外から近づいてくるのに気が付いた。
数年来の癖で、無意識に気配を殺す。
念のため面も装着して。


「…チッ…最悪だな…」


低い声。
きっと彼も自分と同じような経緯でここに辿り着いたのだろう。不機嫌そうな声音で呟いた。
服を絞っているのか、水の塊が落ちる重い音がする。
相当濡れてしまっているようだ。

なんだか、少し自分と似ているかもしれない。
まだ顔も見ていない彼に対して、失礼かもしれないけど、そう思ってしまった。


「…誰か居るのか」


少し気が緩んでしまっていたのか、気取られてしまった。忍なのだろう。
どうせ隠れる意味も無いし、このまま気配を消していたって、この狭い小屋のこと、その内直ぐに見つかるだろう。
とは言っても、相手の正体は分からないのだ。
警戒しながら、面越しにくぐもった声を発する。


「ごめん。隠れるつもりは無かったんだけど、癖でついね」
「…女、か。それも忍だな」
「変な真似したら、容赦なく攻撃するよ」
「…フン。そっちこそ、妙な動きしやがったら容赦しねえぜ」


彼はそう言いながら少し離れた所に腰を下ろした。
お互い、相手がどの程度の腕なのか分からないから、警戒は解かない。
『強い』ということが、雰囲気でなんとなく窺えるくらい。
無理に向かって行って、返り討ちにされる可能性も低くない。
だから、ここはどちらも手を出さずに様子を見る。

雷が、爆音を鳴らしながら落ちた。



「そういえば、どうして貴方はこんな森の奥に?」
「……答える義務は無いな」


少し経ってから、思い付くままに質問をしてみた。
しかし思ったとおり、気の良い返事ではなかった。
やはり、姿も見えないような得体の知れない相手に、そんなどうでも良いことを話す筈はないか。
しかし、真白は諦めなかった。


「そんなこと言わないでさ。私が言ったら、教えてくれる?」
「………」
「決まりね」


少々強引に真白は話を進める。


「私、この近くで修業してたの。この辺り、あんまり人が来ないから集中できるし。毎日来るにはちょっと遠いんだけど、この辺りが一番好きなんだー。それなのに突然雨が降って来ちゃって…。慌てて此処に来たの」
「……俺も…同じだ」
「そうなの? 私達、気が合うのかもね」


こう話しながらも、隙は見せない。
彼は、あまり人と話すのが得意ではなさそうだ。
さっきから真白ばかりが長く話している。


「こんな怪しい出会い方しなかったら、仲良くなれてたと思うよ」
「……かもな」
「そうだよ。どことなく、似てる気がする」
「……」


隙は見せないが、徐々に警戒心は無くなりつつある。
それどころか、警戒する必要はあったのかという疑問すら浮かんだ。
初めて会った人なのに、――顔も見ていないのにそう言えるかは疑問だが、とにかく――なんとなく、心を許せてしまうような。


「今度、天気の良い日に改めて会わない?」
「……別に俺は構わない」
「じゃあ、いつにしようか…」


ふと上を見上げると、天井の壊れて開いた穴から空が見えた。
いつの間にか雨は止んでいたし、雷も落ちてこない。
雲の間から星が見えた。


「…嵐の次の日はよく晴れるよね。明日、任務は夜しかないから、昼間は大丈夫だと思うの。貴方は? 明日、会えそう?」
「…ああ。大丈夫だ」
「なら、明日の昼二時くらいにこの小屋の前で会うことにしようか」
「分かった」


明日に会う約束もしたので、今日はもう帰ろう、と立ち上がる。
空は雲が晴れて行き、満天の星空になってゆく。


「あ、そうだ。明日会った時に判らないといけないから、何か合言葉でも決めとこうよ」
「…そうだな」
「じゃあ…『あらしのよるに』なんて、どう?」
「…そのままだな」


男にそう言われて、真白は少し膨れる。


「その方が分かり易くて良いでしょ?」
「……まあな」
「それじゃあ、また明日」
「ああ」


最後まで相手の顔は見えないままで別れた。
真白は面を着け続けていたから、余計に。

明日、互いにちゃんと会えることに期待して、それぞれ帰路に着いた。




(20060106)
あらしのよるに


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