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ただいま


「うわ…流石にボロボロ…」
「…六年も放っておいたからな」
「そんな前置きどうでもええから、はよ中入ろうや」
「……」


火影が見張りの為に寄越したのはこの、何故か方言の強い、狼だった。



 ただいま




サスケはあれから3週間して、無事に退院した。
まだ骨折などの怪我は完治はしていないが、或る程度は動ける。
足だけは完全に治してもらい、松葉杖も必要無いくらいだ。
暗部への入隊も、書類上は済んだ。
顔合わせもまだしていないし、装束はまた後日渡されるらしい。

そんな事より先に、まず住む場所だ。
以前住んでいた家は、『うちは』の敷地内なので、名前を隠して生活しなければならない今、そこに住む事は出来ない。
いつかは戻りたいと思うが、取り敢えずほとぼりが冷めるまでは無理だ。
今日は、何か必要な物がないかどうかだけを確認しに来たのだ。
火影が他に住む部屋を用意してくれているらしい。


「おわー、ごっつい埃やな。こりゃ堪らんで」
「双威の毛、真っ白になるかもね」
「そりゃちょっと勘弁や」
「…」


真白の暗部仲間の一人が狼を口寄せするらしいが、コイツはその内の一頭と言う事だ。
大きさは普通の犬並みだが、尾は二本有るし、人語を操るし、しかも方言だ。
俗な言い方をすれば、「キャラが濃い」狼だ、と思う。
埃だらけの家の中に真っ先に入って探索している姿には、どこか憎めない剽軽さが有る。


「…荒らすなよ」
「そんくらい分かっとるわ」
「……」


一応忠告したが、双威はさっさと二階に行ってしまった。
少し心配ではあったが、放っておく事にする。
真白は玄関で佇んで周りを見回しながら、呟いた。


「……サスケ、ここで生活してたんだね」
「…ああ。今はこんなだけどな」


埃塗れの床に裸足で上がるのは躊躇われたので、土足のまま中に入る。
その様子を見て真白も、そのまま段差を上がった。
埃の被っている食卓を見て、昔を思い出す。

あの頃は父が居て、母が居て、そして兄が居た。
今となっては思い出す事すら難しくなっている団欒の時。
取り戻す事は出来ない家族。
復讐も済まないまま帰ってきてしまったこの場所。


「……」
「…どうしたの?」
「…いや」


でも、もう良い。
もう『大蛇丸の力』は使わないと決めて、あの時と同じ封印もしっかりと施された。
俺は、生きる為、コイツを守る為の力しか使わない。
自分自身の力しか、使わない。
二人で逃げ続けている時に決めた事だ。


「…サスケ、一人暮らしだった…よね?」
「ああ。…お前は?」
「私も。一人っ子だったし、父さんは木ノ葉崩しの時、母さんはもっと前に病気で…」
「……そうだったのか」
「大丈夫。吹っ切れてるから」


そう言って真白は少し笑った。
つい最近まで引き摺っていた俺とは違って、強いんだなと、思った。
その癖人が傷付く事には酷く臆病で、弱い。
そう思うと不意に、キスをしたくなった。


「…真白」
「ん?」


一瞬疑問符が出たようだが、直ぐに察してくれた。
腰と頭に手を添えて引き寄せ、そっと唇を重ねる。
腕と肋骨の辺りが少し痛んだが、微塵も表に出さずに数回の口付けを送る。

言葉に出来ない感情と、言葉にすると薄くなってしまいそうな感情は伝わっただろうか。
唇を離し、抱き締める。


「……『家族』に、なってくれるか?」


俺は抜け忍で、ここには居ない事になっているから、本当に結婚する事は出来ない。
それでも真白とは、ずっと一緒に居たいと思う。


「…うん。勿論だよ」


抱き締め返して、真白が答えを言う。
見えはしないが、真白が笑っているようで嬉しかった。
そっと離れて見てみると、やはり笑んでいた。嬉しい。


「…もう、良いかな」
「…ああ」
「双威」


部屋の入り口の方を向いて呼ぶと、双威が出てきた。
耳を垂らして、尾も下がっている。
口に咥えていた物を一旦置いて、喋る。


「なんやあ、兄(あん)さんも姉さんも気付いとったんかいな…。酷いて」


いじけた様に上目遣いで、文句を言う。
真白はクスクスと笑いながら双威の元へ行き、慰めるように頭を撫でた。


「そう言えばこれ、何?」
「あ、せやった。これに写っとんの、兄さんやろ?」


裏向きに置いてあった木の板を拾い上げて、真白の手の上に乗せた。
真白はそれを持って、屈んでいた体を起こした。


「写真…。これ、サスケだ」


受け取ったのは古い写真立て。
ガラスには少しひびが入っていて、でもおもて面には少しも埃が付いていない。
裏を上にして置いていた事は直ぐに分かる。


「……」


俺は思わず目を逸らした。
その内、実物に遇う日も来るのだろうが。


「九尾の…」
「それに、五代目の弟子に写輪眼のカカシや」
「こんな凄い人たちと同じ班だったんだ」


感心して声を出す真白。
優しそうに微笑む師と、真ん中で嬉しそうに笑う紅一点と、反対側を睨む少年と、不本意そうな少年。
絵の中の彼らはまだ幼さの色を濃く残している。
今はそれぞれ大きく成長し、その噂は広く渡っている。


「サスケ。大事にしないとね、これ」
「……分かってる」


渡された写真立てを受け取って、中からそれを取り出す。
数秒それを見詰める。ほんのり指に力が入る。
それからそれを、ズボンのポケットに入れた。乱暴だったかもしれない。


「言ってるそばから」
「…んな事より、さっさと終わらせるぞ」


声が低い。
少し気が落ち込んでしまっている事が分かり易い。
真白はサスケと写真の三人との詳しい関係を知らないから、あまり深く突っ込めなかった。
別の部屋に行ってしまったサスケの方を見て、双威を見て、首を傾げるしかない。


「…何か有ったんやろか…」
「……さあ…。でもきっと、有ったんだろうね…何か」
「…ほんなら行こか。ワイも一応見張りやしな」


一番最初に見えない所へ行ってしまった癖に、とツッコミを入れるべきだろうか。
双威の後ろを歩いていくと、少ししてから“ツッコんでえや”と怒られてしまった。





全ての部屋の確認を終えて、サスケの実家を後にした。
金目の物は、いつだかに空き巣に入られたらしく、殆ど無かった。
しっかりと隠してあった通帳だけは残っており、それと一枚の写真だけを持って帰る事になった。
残高はまだかなり有るので、何とかして真白の名義に変えてもらうつもりだ。


「兄さん、随分金持ちやってんなあ。ゼロが仰山並んどるで」
「…親の金だ」


双威が真白に見せてもらいながら言った。
その金は殆ど学費と生活費にしか使わなかった上に、国からの援助金も出た。
途中からは任務で稼げるようになったので、余計に使わなくなった。
元々父はかなり稼いでいたようだし、母もあまり無駄な事には使わず貯金していたようだ。
御蔭でサスケは、特に不自由も無く生活する事が出来た。


「ええ両親やってんな。ええこっちゃ」
「…ああ」
「このお金、大切にしなくちゃ」


ね、と同意を求めるように真白は言う。
それに短く返事をすると、サスケは手元の紙切れを見て道を曲がった。
今、二人と一匹はサスケの新しい住居へと向かっている。
火影に渡された地図を片手に、丸い印を付けられた場所へ。
真白の家は、住人が一人から二人に急に増える事に耐えられるほど大きくはない。


「あとどんぐらいなん?」
「…少しだ」
「私の家からはちょっと遠いなあ」


後の道程を覚えて、サスケはポケットに紙を突っ込んだ。
火影の配慮か、人の多い木ノ葉の中心からは外れた場所だ。
あと一つ角を曲がれば目的地に着くという所で、サスケは急に立ち止まった。


「? どしたの、サスケ」
「道間違うたんか?」
「……」


いきなり止まってしまったサスケに真白と双威は聞くが、返答は無し。
眉間に皺が出来ていて、少し考えているようだった。


「……五代目火影は口が軽いな」
「え?」
「…何のこっちゃ」


また歩き出して、やっと角を曲がった。

そこには少しぼろくなったアパートが在り、その後ろには小さな林も在る。
そしてアパートの階段の前に、三人の影が立っていた。


「あ、アレて…」
「写真の人たち…!」
「……」


まだ会いたくはなかった。
散々迷惑を掛けたというのに、どの面下げて帰ってきているのだ、と。
自分でも呆れるくらい、手の平を返すように綺麗に復讐をやめてしまって。
あれだけ求めていた『力』にも案外あっさりと封をしてしまって。
非常に顔を合わせ辛いというのに。
ナルトとサクラとカカシが、気付いてこちらを向いた。


「…サスケ…っ!」
「…サスケ君…!」
「……本当に帰ってきてたのか」


三人各々がそれぞれ呟く。
信じられない物を見るように目を大きくして。
その視線が辛くて、とても目なんか合わせられない。逸らす。

するといきなり気配が近付いて、微かな殺気。
飛んできた拳と続いて出た蹴りを寸前で止める。


「……随分手荒いな」
「へっ、まだ来るぜ」
「!」


真白と双威が下がったのを確認するや否や、カカシが下から襲ってきた。
これもまたギリギリでかわし、ナルトを投げて手足を自由にする。骨の痛みに怯んでいる暇は無い。
次はサクラが後方から拳にチャクラを込めて殴りかかった。
なんとか避けたが、風圧で頬に切り傷が出来た。
三人ともダメージに直接術や武器を使うつもりは無いようで、素手ばかり。
それなら、とこちらも写輪眼は使わず、攻撃もしない。

サクラの蹴りをかわしてカカシの拳を止めた。
しかし写輪眼無しでは三人の動き全てを読む事は出来ず、ナルトのパンチが腹部に入った。


「! ぐっ、ごほ、げほっ…」


長い間ベッドに横になっていた所為で、体がかなり鈍っていた。
本気でないとは言え、思ったように速く動かない体が腹立たしい。
結構モロに食らったため、ダメージが重く、片膝をついた。


「…けほ、…」
「…こんぐれーやらねえと、俺たちも気が済まねえかんな」
「ま、悪く思うな」
「……」


肋が軋むように痛い。折角治りかけていたのに。
病み上りの身での格闘は、結構キツい。
サクラが今の一連の戦闘で負った怪我を治していく。


「このくらいの仕返しはしとかないと、後でぎくしゃくすると思って」
「……」


確かにそうだ。
さっきまでサスケは、まともに三人を見る事も出来ていなかった。
しかし闘っている間、動きを見る為に集中して睨み続けた御蔭か、今は大丈夫だ。
「その代償に痛み」とでも言う所か。


「ま、とにかく…おかえり、サスケ」

「おかえり、サスケ君」

「よく帰ってきたな…サスケェ!」


温かい笑顔で、かつての仲間が、帰ってきた事を喜んでくれた。
ナルトが立ち上がるのを助ける為に手を差し出す。
しかしそれを取って立つのは何だか悔しいので、払った。


「…フン」
「ムッカ…! コイツ、優しくしてりゃあ…!!」
「まあ、ま、落ち着け」


サスケはしっかりと自分だけの力で立ち上がって、少し離れた所を見た。
真白と双威が、互いの顔を見ながら何やら話している。


「…終わったのかな」
「…ワイら、あん中行ってもええんやろか」
「…だよねー…」


こちらに来辛そうに会話する一人と一匹。
今にもいじけ始めそうだ。


「…真白」
「えっ、呼んだ?」


仲間外れのような状態になっていた真白を呼ぶ。
すると嬉しそうに表情を変え、ぱっとこちらを見た。
流石にあのままでは可哀想だったから。


「ああ」
「ワイは!?」
「…来れば良いだろうが」
「わあーい」


呆れるほど喜んで、駆け足で近寄ってくる。
双威はともかく、真白にも嬉しそうに振る尾が見えた気がする。


「…サスケ、この人誰だ?」
「もしかして、…例の女の人?」


ナルトとサクラが、近くに来た真白を見て言った。


「あ、初めまして。柳原真白と言います」
「どうも。はたけカカシデス」
「うずまきナルトだってばよ」
「春野サクラです。宜しくね」


礼儀正しくお辞儀しながら自己紹介した真白に、続いて三人が名乗った。
ニコと笑うと男二人の真白を見る目が変わった気がして、サスケは瞬間的に警戒態勢になった。


「……」
「…サスケ、苦しい」


真白の首に腕を絡めて、自分のものだと主張する。
ついでに殺気を存分に込めて、サスケは二人を睨んだ。
真白は口では少し反抗したが無理に離れようとはしないので、そのままでいる。
カカシとナルトは引き攣ったように笑うしかない。


「…じゃあやっぱり、貴女が一緒に逃げた…?」


サクラがそう言うと、真白の顔が少し曇った。
ナルトも言いたい事が有るらしく、真面目な顔になって口を開いた。


「…里を、出て行こうとしたんだな」
「まあ…そう、です」


申し訳なさそうに少し項垂れ、肯定する。
里を出て行ったのは確かに悪い事だから。
しかしサスケは、ナルトの言い方に眉根を寄せた。
まるで、真白が悪者のように聞こえたのだ。


「…言っておくが、コイツは何も悪くない」
「そんなこっ」


もがもがと何かを言おうとする真白の口を、手で塞ぐ。
どうにかしてその手を外そうと健闘するも、上手くいかない。


「けど、どんな理由が有ろうと、この里を捨てようとしたのは事実だってばよ」
「違う。コイツにそんな意思は無かった」


誰よりもこの里を大切に思っているナルトが物言いをする。
それに対抗するように、サスケが反論した。


「火影の命令にも背いたんだろ?」


火影の命令は絶対で、全て正しい物だと信じているらしい。
怒りも含まれた口調だ。


「んー、んんー!」
「だったらお前は、好きな奴が住んでる国の弱点を調べて、戦争の引き金になりたいと思うのか?」
「! ……それは…」


サスケの言葉に、ナルトが怯む。
ナルトは、あの命令の内容までは知らされていなかった。


「…でも、忍なら任務を優先すべき…」
「お前の言う科白か」
「ん゙ーっ!」
「そ、それに、逃げたりまでするこたあなかったんじゃあ…」
「逃げるしかなかったんだ、あの時は。俺の所為で…っ痛!」


噛まれた。
ずっと手と格闘していた真白が、その手を、思い切り。
御蔭で会話は途中で途切れた。


「何す…」
「苦しい!」


息が少し速くて、やや涙目。
噛まれた理由に面食らい、反応が遅れた。


「…悪い」
「そんな事より、今、サスケ一人の所為にしようとしたでしょ」


首に回された腕に手を添えて、ジトとサスケを見る。
真白が厳しく言った言葉に、サスケは少し言い返す。


「お前は悪くない」
「そんなこと無いよ、バレた原因は私にも有るんだから…。それに、サスケだって悪い事してない!」


怒られた。
怒った真白を見るのは初めてだ。
噛まれた手が、ジンジンと痛む。


「庇ってくれるのは嬉しいけど…違うよ、ちょっと…」
「……」


言い返せないので、サスケは黙ってしまった。
珍しい…と同時に、弱いのか、とカカシは思う。
さっきまでナルトに対してあった勢いは、どうやら噛まれた瞬間になくなったらしい。


「そやで兄さん。姉さんの事信頼してないように見えるで」
「…、そうなのか…?」


そんなつもりでないのは分かっているが、双威は頷き、真白を見ても否定しない。
サスケは少し考えて、しょぼくれた真白をきゅっと抱き締めた。


「…悪かった」
「…うん」


なんだかすっかり二人の世界のようで。
カカシに言わせれば、「若いって良いな」である。
二人の痴話喧嘩の原因になる発言をしてしまったナルトは、少し反省中だ。


「……熱々やなあ…」
「…そーね」
「サスケ君、変わった…」
「良い方向に、ね」


サクラの言葉に、カカシがにっこりと笑って答えた。
それに、サクラとナルトも嬉しそうに笑む。


「…悔しーけど、あの娘の御蔭かな…」
「俺たちで連れ戻したかったけど…帰って来たなら、もう何でも良いってばよ」
「そうよね」


カカシはイチャパラの最新刊を開いて片手をポケットに入れて。
ナルトは頭の後ろで両腕を組んで。
サクラは体の後ろで両手を結んで。


「…けど、見張るワイは砂吐きまくる事になりそうやけどな…」


それだけ言うと双威は、二人にちょっかいを出しに行った。
これに三人は吹き出して、サスケに睨まれる双威を笑った。



(20070321)
何このバカップル…!←


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