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7-2


……ピッ……ピッ……ピッ……


その電子音は、サスケの心臓の音。
心電図の波が規則正しく流れていく。
真っ白で清潔感のある部屋は、決して騒いで良い様な雰囲気は作り出さない。
薄暗い部屋のベッドに横たわるサスケの顔には、酸素マスク。
体には、数え切れないほどのコードやチューブが繋がっており、それは更に複数の機械に繋がっている。

その姿は、一枚の大きなガラス越し。
随分と現実味の無い世界だ。


……ピッ……ピッ……


それでもこれは現実だと告げる音が頻りに鳴り続けている
ガラスを越えて、小さくなっていても聞こえるその音。


「………サスケ…」


四人の医療忍者の力を総動員して、何とか一命は取り留めた。
木ノ葉に辿り着いた時一度は停止した心臓も、今はどうにか、弱々しいが動いている。
よくは見えないが、酸素マスクを着けられたその顔色は決して良くはない。
布団に隠れた体は、殆どが包帯に包まれている。
痛々しいが、真白は目を離そうとしなかった。


「…」


真白に兵糧丸を与え、上着まで置いて、真白を殺すという選択肢は捨てた。
その代わりに音忍と戦い、真白を守ろうとして、こうなった。

サスケが目を覚ました時、申し訳なくて顔も合わせられないかも知れない。
だけど早く、目を覚ましてほしい。
そして早く、サスケの声を聞きたい。
どうしてこんなに成るまで戦ったのかと怒り、足手纏いになって悪かったと謝りたい。
自分勝手だと思うけど、早く、サスケと話をしたり、触れ合ったり、したかった。


不意にドアが開く音がして、火影が真白の傍に来た。


「…真白、そんなに心配しなくても直に回復するよ」
「……それでも、出来るだけ近くに居たいんです」
「…そうか。でも、明日からは面会謝絶にするからな」
「……分かっています」


明日からは、情報漏れを防ぐためと絶対安静を兼ねて面会謝絶にする事が決まっている。
何せ、サスケは昔木ノ葉を捨てた重罪人。
ここに居る事が誰かに知られれば、懸けられた賞金目当てに襲われるだろう。
その上音忍だったのだ。混乱を招きかねない。


「それはともかく、真白。話がある」
「………はい」


やはり。
火影の命を無視してあの場から逃げ出したのだ。
それなりの罰則を受けなければならないだろう。
きっと、その話だ。


「…ここでは話し辛い。屋敷まで一緒に来てくれ」
「…分かりました」


真白は火影の後に付いて歩いた。
ドアを閉める時にもう一度ガラスの向こうのサスケを見て、胸が軋んだ。






火影は仕事机の椅子に座り、肘を付いて手を組んだ。
傍らにはシズネが控えている。


「話というのは他でもない。お前とあの男…『うちはサスケ』の処置についてだ」
「……」


一体どんな重い罰が下るというのか。
真白は目を伏せて、火影の次の言葉を待つ。
どんな衝撃的な事を言われてもショック症状を起こさないように、鼓動は前以て速くなった。


「まずは真白、お前からだ」
「…はい」
「お前は敵国の者と密会し、里の情報を危険に晒した上、命令に背いて逃亡した」
「…」
「それらを考慮し、お前には」


ぎゅっと、目を瞑った。



「減俸と更にAランク任務五つとSランク任務一つを無償でやってもらう」

「…………へ?」


真白は自分の耳を疑って、思わず間抜な声を出した。
シズネも火影も、笑みをたたえた表情だ。


「ど、どうしてですか、火影様!?」
「まあ待て。まだ続きがあるんだ」


少し咳払いをして、また火影が口を開く。


「代わりにお前が『音忍』を殺した事にしてほしいんだ」
「なっ…! ちょ、…」
「もちろん本当に殺しはしない。音忍が居ると公表すれば、厄介な事になりかねないからだよ」
「で、でも何でまたそんな…」


納得できなくて、疑問を露にする。


「こうすれば、お前が皆に責められる事もないだろう」
「真白さんが、密会していた相手の音忍を殺した事にすれば、皆もきっと…ですよ」


火影の、自分を思った配慮。
そんな事まで、考えてくれていたなんて。


「…ありがとう、ございます」


頭を下げて、感謝の念を込めて礼を言う。


「…良いんだよ。お前は実際のところ、何にも悪いことなんてしちゃいないからね」


少し照れ臭そうに言って、すぐに優しい顔つきになる。


「まあ、しっかり只働きしてもらうがな」
「はい」
「ああ、それから奴の方だが…」


一呼吸置いて、火影は続ける。


「あいつには、回復し次第暗部として働いてもらう」
「えっ…」


火影の提案に、真白は驚きを隠せない。
何か処罰を科せられても良い筈なのに。
火影やシズネの表情を見ても、そんな事を言い出すような顔はしていない。


「当然最初の方は只で働いてもらうがな。それと、本名も伏せておく」
「彼は有名ですから、名前を出せばまた大変な事になりますからね」


シズネがにこやかに言うと、彼女の腕の中に居るトントンも元気に鳴いた。


「…本当に、良いんですか…? 刑罰も何もなくて…」


真白は二人を疑っている訳ではないが、つい信じられなくてこう尋ねた。
本当なら、十年、いや二十年間牢に入れられる事になっても、文句は言えないくらいなのに。


「…あいつがどんなに強いかは、皆が知っている通りだ。写輪眼の正統血統が里に戻ってくるなら、こちらとしては大歓迎なんだよ」
「…」
「それに、…奴はもう充分罰を受けている。音へは戻れんだろう? お前を守ってああなったんなら、もう木ノ葉を裏切る様な真似はせんだろうしな」


優しく微笑んで、組んでいた手を解いた。
真白は火影の対応に、ただ感謝するしかなかった。
頭を下げて、只管に感謝を伝え、熱くなった目頭から涙が落ちないように努めた。


「頭を上げな、真白。早速、任務をしてもらうよ」
「はい…!」


返事をした真白の顔には、里に帰って初めての笑顔があった。
ようやく見ることが出来たその表情に、火影とシズネは柔らかく笑んだ。




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