×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
The tomorrow of the blizzard


ドウドウと轟音を立てながら流れる川を、雲の切れ間から覗く星が白く照らしている。
その川原に、一つの影が這い上がった。


「…っく…」


体力の限界で、立ち上がることができない。
川の水に押された勢いを使って、何とか陸に乗ったのだ。
濡れた服が重くて、寒くて、堪らない。
どうにか体を起こすと、力の限り叫んだ。


「真白! 真白ーっ!!」


喉が痛くて、声が掠れた。
これに応える者は誰も居ない。


「……ちくしょう…」


まさか、流れに呑まれて…

サスケは、片手で顔を覆った。
真白と川に飛び込んでから、どれくらいの時間が経ったのか分からない。
サスケは何とか助かったが、真白は体力が持ったかどうか。

最悪の結末が頭を過ぎる。


「……こんな事なら、最初から出会わなけりゃ良かったんだ…」


僅かに首を横に振りながら呟いた。
自分がしたことを酷く悔やみ、項垂れる。
その時、後ろから声がした。


「…私は、出会って良かったよ」


サスケは驚いて振り向く。


「真白…! 無事…なのか?」
「何とか、ね。気絶してたみたい」
「…良かった…本当に…」
「…うん。もう会えないかと思った…」


そっと抱き締め合って、二人は安堵した。

動けないサスケは、真白が集めて来た薪に火を点けた。
その火で濡れた体を温め、動けるようになると川原の近くの森の木の下へ行った。
獣避けの火を点けたまま、二人で抱き合って眠った。





夜が明けて、天気の良い朝。
かなり下流に流されたらしく、現在位置がよく分からない。
誰かに見つかった時に攻撃される可能性を少しでも下げるために、二人とも額当を外している。
サスケは高い木の上から辺りを見回し、真白はこの辺りの事を知っている人が居ないかと探す。


「…何か分かったか?」
「ううん。全然駄目」


しかし、これといった情報は手に入らない。
とにかくこのままここに居ても埒が明かないので、取り敢えず川沿いに下流へ歩き出した。
川魚や森の小動物を焼いて保存できるようにした食料と、竹で作った水筒に入れた水を持った。
クナイや手裏剣、起爆札やワイヤー、そして兵糧丸などの道具は多少流されてしまったらしく、数が少ない。
大勢の敵が来れば少し苦しそうだ。



「…ね、サスケ」
「…?」
「手ぇ繋ご」
「…」
「やった」


じゃりじゃりと足音を立てながら川原を歩く。
サスケは真白の要望に応えて、片手を取った。
真白は嬉しそうに笑顔を向ける。

二人は今、とても幸せだった。
もう帰る場所が無いとしても、幸せだった。
邪魔するものは何もなく、隣には一緒に居たい人が居る。

穏やかな時間が、二人の間に流れていた。





遡る事数時間前、木ノ葉の里に暗部が慌てて戻ってきた。


「真白が、真白が消えました!」
「何だと!?」


火影の屋敷で叫び声が響く。
書類が山積みになった机を叩いて立ち上がった。


「昨日ずっと見張っていたのですが、酷い大雨で視界が悪い間に二人とも…」
「…何てこったい…」
「…どうします、綱手様」
「……うーむ…」


真白の奴、そんなに思いつめてたのか…
私としたことが、何てことだい…


「とにかく、捜さないとね。真白が所属している暗部小隊の者達を、ここに呼べ」
「はっ!」


報告に来ていた忍が、姿を消した。
火影は座り直して、考え込むように手を組んだ。


「綱手様。もし真白さんを見つけたとして、その後どうするんです?」
「…そうだねえ…。真白は例の男と離れたくはないだろうし…。すんなり戻ってくるかねえ…」
「……難しいですね…」
「大蛇丸が絡んでいるとすれば、あの男は間違いなく殺られちまうだろうし…」
「! そんな…それじゃあ真白さんが…」
「…ああ」


シズネは火影の言葉に顔を青くする。
抱き上げているトントンも、心配そうに鳴いた。


「だから、なるべく早く二人を保護しなきゃならないんだよ」
「…保護したとして、その男の人はどうするんですか? まさか牢に入れるなんて事は…」
「それなんだよねえ…」


大蛇丸はあの男と真白を利用して情報を手に入れようとしていたに違いない。
見張っている近くに音忍が居たという報告も受けている。
しかしあの場から逃げたと言う事は、『男』はもう音を裏切ったも同然の状態。
音へ戻る事はできないだろう。


「うん? そういえば何年か前、木ノ葉を抜けて音へ行った奴が居たね」
「あ、はい」


思い出した様に火影が言い、シズネが答える。


「名前…なんて奴だったか……ナルトが煩かったと思うんだけどねぇ…」
「えっ…と、…確か…」


シズネがトントンを降ろして分厚い本を開き、何やら探し始めた。
一枚一枚ページを捲り、指でなぞりながら文字を追う。


「あ、ありました。『うちはサスケ』です」
「おお、そうだった、『うちはサスケ』だったな」


少年の写真とその情報が載っている貢を見て、ポンと手を叩く。


「…例の男がこいつなら、まだ何とかなるかも知れないんだが…」
「え? どういうことですか?」
「…いや、言わないでおくよ。無理な事は言っても仕方がない」
「…はあ…」


火影は再び、考える様に手を組んだ。

この後、現れた暗部達に、念のためにサスケの写真を渡し、真白と男を捜すように命じた。
火影は真白を心配しながらも、職務を再開した。






一方大蛇丸の所では。


「…そう。逃げられてしまったの…」
「も、申し訳ありません、大蛇丸様!!」


椅子に座った大蛇丸は、傍らに控えているカブトに手で指示をした。


「…やれやれ、また僕が殺るんですか…」
「そ、そんな…! 大蛇丸様!?」
「…役立たずは…要らないのよ


大蛇丸は下っ端の音忍を睨みつけ、そいつを怯ませた。
一瞬できたその隙に、カブトが息の根を止める。


「…で、どうするんです、大蛇丸様」


カブトは血を拭い、眼鏡を押し上げながら聞いた。
それに大蛇丸は不気味に笑いを浮かべる。


「…もちろん…殺すのよ」
「…」


喉で笑いながら、カブトに命じる。


「…尤も、貴方じゃサスケ君を殺すのがやっとでしょうから、余計な事はせずに瞬殺なさい」
「…分かりました」
「……後悔の暇もなく…ね」


カブトは大蛇丸の妖しい高笑いを背に受けながら、部屋から出た。
少し考える素振りをした後、数人の音忍を連れて、サスケを捜しに出て行った。






「ねえサスケ。どうせ行くなら、今まで行ったことのない所にしようよ」
「…そうだな。その方が、俺達の事を知ってる奴と遇う可能性も低い」


川に沿って歩き始めて二時間ほど経っただろうか。
途中に在った小さな集落の人たちの話によれば、この辺りは木ノ葉でも音でもないようだ。
もう一つの、二人ともがよく知らない国の端。
隣り合う二つの国と同盟を結んでいるとはいえ、小さなマイナー国のために重要視していなかった。
隠れ里も在るらしいが、額当のマークすら知らない。


「折角生き残ったんだから、何としても逃げ切らなきゃ」
「ああ。二人で共に、な」
「うん」


そう約束し、軽い口付けを交わす。

今居るここが既に行ったことのない所だが、もっと遠い場所へ行かなければきっと追って来る者達に直ぐに見つかってしまうだろう。
このまま下流へ歩いて行けば海に出る。
海の向こうの国は言語が違うし、第一に海を渡る手段がない。
万一船を使えたとしても、そこから足が付いてしまうかも知れない。それでは元も子もなくなってしまう。


「…う〜ん…。ならもういっその事、あの山の向こうに行こうよ」
「…あれのか?」
「そう。命懸けになっちゃうけど…」


夏から秋になり、まだ十月に足を掛けたばかりだというのに雪が積もっている山並。
一番低い所を通って越えても、雪の中を進む事になるだろう。
雪山の中では食料を見つけるのが難しい。
それに、それなりの覚悟が必要だ。


「…どうする?」
「…他に目指すもんはねぇようだしな…」


今まで歩いてきた方向と今まで歩き続けていた方向は、行っても仕方がなくなった。
闇雲に別の方角へ歩いても、迷っている内に発見されてしまうのが落ちだ。
ふ、とサスケが笑みを零す。
真白はそれに気付き不思議そうにする。


「真白…。俺に付いて来た時点でもう命懸けだっただろ。違うか?」
「あ、そう言われてみればそうか」


言われて真白も笑う。
今更『命懸け』なんて、怖くはないことだと思い出したのだ。


「しかも私達、あんな勢いの強い川に飛び込んで無事なくらい、運が良いからね」
「ああ」
「雪山なんて、怖くない。よね」
「ああ」


繋いだ手を少し持ち上げて、繋がっている事を確認する。
雪の積もった山の方へ体の向きを変えてまた歩く。


「…きっと在るよね……私達が一緒に、平和に暮らせる場所」
「…ああ……在るさ…きっとな…」


離れてしまわないように、温もりを感じていられるように、強く手を握る。

絡めた指の間に、風も通らない。




 []      []
戻る

[感想はこちら]