5-3 二日後、小屋の前に二人の姿があった。 周りの木の陰や上には、気配を消して隠れている音忍たちと木ノ葉の暗部たちが居る。 二人は互いに気付いていたが、敢えて口には出さなかった。 「……少し、痩せたか…?」 「…うん。ちょっと、色々あってね…」 「……そうか」 サスケは、真白の頬に触れながら言った。 変わらず優しいサスケの態度に、真白は安心し、同時に重い罪悪感が圧し掛かった。 嗚呼、やっぱり彼は優しいじゃないか。 この優しさが演技だとは、到底思えない。 もう絶対に、彼の事は疑わない。 そう心に決めた。 「…今日は、どこに行こうか?」 「…谷底の方でも行くか…」 そう言って歩き出す。 二人とも、やらなくてはならないやりたくない事が有る為に、少しぎこちない。 どちらもが変に緊張し、相手の態度が微妙に違う事に気が付かない。 「谷底の方は、行った事ないよ」 「…俺はたまに行く」 「…危なくない?」 「…別に」 怪しい天気の下、ずるずると足場の悪い道を下りていく。 二人の動きに合わせて、木の上や草むらの中を、他の忍たちも移動する。 「…こっちの方が安全そうだぜ」 「…そうだね」 サスケが指をさして、真白が頷く。 遠くからその様子を見て、音忍や暗部たちが、 「木ノ葉の奴等の逃げ場所を確認してるぞ」や「音の隠れ家の方向を指してるんじゃないか」などと話す。 少しの間無言で河原を歩く。 大小の石ばかりで、歩き難い。 「………」 「………」 「……あ…」 「…どうした」 「…雨…」 言われて上を見上げると、雲が大粒の涙を落とし始めていた。 乾いていた石についた黒い点はみるみる広がり、一気にどしゃ降りに変わる。 二人を見ていた者たちは雨宿りに追われた。 二人も、慌てて滝のような雨を防げる場所を探す。 「あ、あの岩の下に」 「ああ」 川の向こう岸に在る大岩の下へ行こうとする。 川の水かさはどんどん増し、勢いは強くなって、水面歩行なんて出来そうにない。 川幅も広いので、跳んで渡るのも無理そうだ。 水面に出ている飛び石の上を、歩いて渡る。 「…滑り易いな」 「気を付けないと…。落ちたら一気に流されちゃう」 と、その時。 暗黒色の雲の中から、雷が落ちた。 「! ぅわっ!」 その拍子に、真白が足を滑らせた。 「! 真白!!」 サスケが咄嗟に真白の手を掴んだ。 しかし、サスケの足場も悪い上、雨で手が滑る。 川の流れの勢いが強く、真白は水に押されて酷く重く感じる。 「…っく…!」 チャクラで吸着しても、まだ滑る。 サスケは必死に、真白を放さないように踏ん張った。 「…っ! ……う、ォオオオ!!」 やっとの思いで、真白を引き上げた。 反動で後ろに落ちそうになったが、何とか持ち直す。 真白は、足場の上に乗ることが出来たのだ。 「…はぁ…良かった…」 「はぁ、…はぁ…ありがとう」 助かった喜びに、二人は抱き合った。 濡れて冷たくなった体に、互いの温もりを感じた。 それは、とてもホッとする、温かさだった。 「…ごめんね、サスケ……実は私、貴方に…」 真白が自然に口を開いた。 自分がしようとしていた事を言おうとして。 「…いや、実は…俺も…」 サスケも言いかける。 不意に、同時に少し吹き出した。 「…フフ、本当に、よく似てるよ…私達」 「…フン、そうだな」 ぐっと、抱きしめる腕に力を入れる。 「…これから、どうする」 「…もう、秘密じゃなくなったしね…」 少し、周りを見回す。 崖の上や木の陰に、影を見つけた。 「行くか帰るか、どっちにしようか」 「…俺はもう、戻れねえんだ」 「え!?」 「情報無しに戻ると…殺される」 「……じゃあもう、行くところまで行ってみようか」 「…良いのか?」 「もちろん」 じっと、雨でぼんやりとしか見えない向こう岸を見る。 足元の勢いはどんどん増して、大きな音を立てている。 「…じゃ、行こうか」 「…絶対に生きて、また…」 「うん」 真白の、“せえの…”の掛け声で、二人は同時に岩を蹴った。 水飛沫が小さく上がる。 激しい雨のカーテンが、見張っていた者たちの目から二人の姿を静かに消し去った。 (20060218) どしゃぶりのひに [←] [→] 戻る [感想はこちら] |