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人生二度目の


「今日の演習は、生き残り戦のサバイバルだ!」

 そう言う先生の方は見ずに、木の枝に止まった雀たちばかり眺めている人間が、約一名居た。ほけーっとした顔で、存在感も薄いので、先生には最後まで注意されなかった。


 人生二度目の



「じゃあ鈴を配るから、一人一つずつ取りに来い」

 厳しいが優しくどこかとぼけたところもある担任の教師が、紐の付いた鈴をどっさりと取り出した。要するに鈴の奪い合いをするらしい。そのための鈴だったのか、と説明を聞いていなかったので今更納得した。今回は一人一人の腕試しというところなのか、全員ばらばらで行動しろとのこと。なんて面倒臭い。組んでやる方が嫌だけど。

「……はァーあぁ」

 声の混じった長い溜息を吐いて、受け取った鈴をポーチのベルトに緩くくくり付ける。居場所が分からなくなるように、今一人ずつ演習場の林の中に入って行っているところだ。もう少しで私が行く番が回ってくる。サスケ君は早い内に行ってしまったので、とっくに姿は無い。
 こういう演習は、大抵サスケ君が最優秀になる。でもサスケ君にさえ当たらなければ、割と簡単だったりする。

「……サボタージュしたいな……」
「こら、聞こえてるぞっ!」
「あ、……すみません」

 うっかり先生に独り言を聞かれてしまった。盗み聞きなんて趣味が悪い。忍にその言葉を向けるのは愚かなので、声には出さないけれど。
 先生は呆れたように溜息を吐いて、しっかりやれよ、と念を押した。そんなことを言われると、余計にやる気が無くなるのはどうしてだろう。
 折角の良い天気なのに、演習なんて面倒臭い。こういう日は森の中を散歩するのが一番楽しいのに。今日は暑いから、河で水遊びとかしたい。

「次、桜庭。行ってこい」
「……はい」

 脱線した思考を無理矢理戻させる一言に脱力する。林に向かって歩き出し、溜息を吐いた。




 演習が始まってから大体二十分。時々どこかから悔しそうな声や嬉しそうな声が聞こえてきていた。しかしそれもかなり少なくなり、残りの人数が大分減ったことが窺われた。かく言う私はずっと木の陰や草陰に隠れてやり過ごしていたから、鈴を取られていないが、取ってもいない。要はほとんどサボっている状態だ。今は木の上の葉が生い茂っている所に身を隠して、呑気にバードウォッチングの最中だったりする。

「鳥ってなんであんなに可愛いんだろ……」

 目線の先には鳩の巣。ひな鳥が居て、親鳥の帰りを待っているようだった。今、紙とペンが有れば、スケッチをするのに。もったいない。

 ふと気配を感じた。
 視線を巣から下に向けると、黒い髪に青い服。それから複数の鈴の音。ポーチの中から10以上の音が重なって聞こえる。相手が幾つ持っていようと一つしか取ってはいけないルールなので、クラスメイトは全部で27だから、その数字はとても大きい。あんなに堂々と、囮かもしくは挑発だろうか。流石だな。でもちょっとやり過ぎなような気も。

「……誰か居るのか」
「……」

 流石だあ。気配は消してないけど、一応隠れてるのに。今までそれで見つからなかったから大丈夫だと思ってたけど、やっぱりサスケ君は凄い。でもタイマンで闘うのはごめんなので、試しに息を潜めてみた。

「…………気のせいか……?」
「……」

 あ、どうしよう、吹き出しそう。不思議な感覚だ、笑いを堪えるのって。テレビを見てる時にも無かったのになあ。ほくそ笑むって、こういうのを言うのかな。

「……やっぱり居やがる……。どこだ!」
「……えっと、ここですよ」
「……お前か」

 木の上から小さく手を振ってみると、サスケ君は呆れたように溜息を吐いた。担任と同じことをされてしまったなあと呑気にぼんやり考えていると、サスケ君が手裏剣を投げてきた。

「っわ、本気……」
「当たり前だ」

 おサボりモードだったため、少し危なかった。このままではメタメタにされてしまうなあとやはり呑気に考えて、座ったまま、たるんだ体をぐっと伸ばす。首をコキコキと動かして、ふっと息を吐く。そろそろ切り替えなきゃ、睨みが怖い。

「……闘わなきゃダメかな?」
「何バカ言ってんだ。何のための演習だよ」
「……そうですね」

 諦めの溜息を吐いて、木の上で立ち上がる。トンッと踏み切って跳び降り、地面に着地した。しかし高かったので、足がじんじんする。

「…………痛い」
「……ドジか」

 今日はよく溜息の音を聞く。しかも全て呆れてのものだ。そんなに間抜けなつもりはないのだけど、抜けてるのだろうか、私。

「たぶん、お前で最後だ」
「あ、そうなんだ……」
「ずっと隠れてたのか? 鈴が増えてないが」
「……あはは」
「……」

 苦い作り笑いを漏らせば、サスケ君は顔を顰めた。ああそうだ、嫌いなんだっけ。苦い笑いを引っ込めると、少し考えてからクナイを取り出した。

「んー……お手柔らかにお願いします」
「……フン」

 私がふざけたことを言ったら、サスケ君は鼻で笑った。つまり手加減はしてくれない。困った。本気でやらなきゃボロボロになる。演習は面倒臭いなと思う反面、サスケ君と手合わせできるなんて、と喜ぶ自分が居た。

「行くぞ」
「っ、」

 言うが早いか、サスケ君が懐に飛び込んできて、いきなり蹴りを繰り出した。それを咄嗟に腕で防ぎ、後ろへ跳び退く。焦った、速い。着地したかと思った時に、視界に黒い影が映る。手裏剣だ。クナイで弾き飛ばすが、その間にサスケ君が消えていて、瞬間背後に気配を感じる。しまった、と思う前に回し蹴りをし、サスケ君を退がらせる。チリン、と自分の腰で鈴が鳴り、まだ取られていないことが分かった。

「……危なかった……」
「チッ。取れなかったか……」
「うーん……やっぱり凄い」
「なかなかやるじゃねえか。もっと真面目にやってりゃ、良い線行けたぜ、お前」
「そんなことないよ。だって今のもいっぱいいっぱいだったし……」

 サスケ君に褒められるなんて、ととても照れる。恥ずかしい。でも嬉しい。あの憧れのサスケ君が褒めてくれたんだもん。

「……来い」
「え、あ、こっちから、ですか……。じゃあ遠慮なく……」

 チャクラを足に少量溜め、跳び出す。速さに驚くサスケ君の腹部に向かって左手の拳を繰り出すも、上に避けられる。そこへ持っていたクナイを投げ付け、空中で体勢を崩させると、サスケ君の腰の鈴が紐ごと無防備になった。しめたとばかりに手裏剣を投げ、紐を切ろうとする。しかしその意図に気付いたサスケ君は、空中で更に体を捻ってそれを避けた。
 やはりそんなに簡単にはいかないか。数メートル先に着地したサスケ君は、愉しそうに口角を上げていた。

「さっきの、何だ? 妙に速かったが」
「あ、それは……チャクラを足に使ったんだよ」
「……なるほどな。どこで覚えた。授業ではやってないだろ」
「ん、えー……本で、基本的なチャクラコントロールについて書いてあったの。丁寧に図説付きで……」
「……その本、今度貸してくれ」
「あ、うん。良いよ」

 やはりサスケ君はとても勉強熱心だ。強いのに努力家で、そういう所が憧れる。慢心しないんだ。

 もう一度手合わせをしよう、というところで、先生の笛の音が響いた。演習終了の合図。残念だと思いながら、少し晴れ晴れとした気分だ。
 そうだ、と思い付いて、腰に付けた鈴を外す。集合場所に向かって歩き出したサスケ君の元へ行き、それを差し出した。

「……何だ?」
「あげる。……その、楽しかったから」
「……そういうもんじゃねえだろが。俺は取れなかったんだから、お前のもんだ」
「良いの。それに、サスケ君と闘ったのに取られてなかったら、変に目立っちゃうから」
「……」

 「目立つとまた悪口が増えるから」。その気持ちを酌んでくれたのか、サスケ君は鈴を受け取ってくれた。よく分かってくれてるなあ、なんて考えて、サスケ君が優しいのか、自惚れるべきか、どっちなのか迷った。


 そういえば結局、サスケ君に告白されたけど、あれ以来サスケ君は何も言ってこない。もう一度告白されてもいないし、返事も聞かれていない。どう反応して良いのやら分からないし、放っておいて流してしまうべきなのかも分からない。実は困っていた。

「……なあ」
「……はい?」

 先生の居る場所へと歩く途中、サスケ君が話し掛けてきた。林の中は意外に広く、この調子で歩いていては、あと二、三分掛かるだろう。本当は走った方が良いんだろうけど。

「……あん時のことなんだが」
「え、ああ……アレかぁ」

 話題に出た。何というタイミング。まさか心を読まれてるんだろうか。
 どうでも良い事を考えてしまうのは焦っているからだ。

「俺が言った言葉の意味、取り違えてないよな」
「……まあ、多分……一応は……」
「……」

 頬が熱くなるのを感じながら、少し俯いた。恥ずかしい。そうだよ、告白されたんだよね。なんで普通に喋ったりできてたんだろう。今になって滅茶苦茶に恥ずかしくなってきた。歩く自分の足を見詰めてしまう。

「……もし、……お前さえ良ければ、だな」
「……うん」
「……その……」
「……」

 珍しくとても言い難そうにするサスケ君。無かったことにするのか、それとも逆か。
 ドキドキと心臓が暴走する中、次の言葉の後どう反応するべきかを必死に考える。しかし何も浮かばない。

「……俺と、……付き合ってくれないか?」
「ぁ、うえ……っと……」

 どちらかと言えば『無かったことにする』パターンを予想していたので、驚いて言葉に詰まる。横からサスケ君の視線を感じ、更に恥ずかしさと緊張が高まる。顔が熱い、熱過ぎる。

「そ、それはそのっ……いわゆる恋人に、なる……ってこと……だよね?」
「……ああ」
「え、ホ、本気で……?」
「……ふざけてるように見えるか?」
「う、ううんっ! そうじゃなくて、あたしなんかと付き合ったって、良い事なんて何も無いよっ」
「別に良い、んなもん期待してない」
「え、ぁ……じゃあ、何で……」

 サスケ君の顔を見れないで早口に言い続けると、サスケ君はまた小さく溜息を吐いた。うぅ、また呆れられてる。その内嫌われてしまうかも、とか思う。怖い。
 そんなことを悶々と考える私を他所に、サスケ君は口を開いたり閉じたりしている。一瞬だけチラリと見てみると、サスケ君の顔も少しだけ赤かった。

「……いちいち言わせんな……そんなもん、好きだからに決まってんだろ……」
「……!」

 その言葉を聞いて、一気に恥ずかしさが頂点に達した。顔から火が出そうだ。むしろ火とか吐けそうだ。逃げ出したい、が、今逃げると勘違いされそうだし失礼かと思い、何とか足を抑える。その代わり歩くのも止まってしまい、サスケ君の足音も釣られて止まった。

「え、ぇえっと……」
「……」
「サ、スケ君のことは、……た、た多分、好きだよ……!」
「……“多分”」
「でもっ、その、周りが許さないって言うか、許すはずがないって言うか……。と、とにかく、私にそんな資格、無い、し」
「資格……?」
「それにバレたら、……みんなに殺されちゃう……!!」
「……」

 サスケ君が微妙そうな顔をしているのにも気付かず、恥ずかしさから一気に捲くし立てる。集合場所の辺りから、もう一度笛の音がした。早く行かないと怒られてしまう、目立ってしまう。一瞬意識がそっちに向いている間に、サスケ君が言った。

「……その、資格がどうとか言うの、前にも止めろって言わなかったか?」
「えっ、あ、え……?」
「あと、周りはどうでも良いとも、気にしないとも言っただろ。流石に女子にバレてお前が迷惑なら、隠すようにするが……」
「……えっと……」

 また、だ。
 サスケ君は、私を平等に扱ってくれる。
 サスケ君は、どうしてこんな私を好きになってくれたんだろう。自分ですら、こんな自分は好きじゃないのに。分からない。
 教室の隅で窓の外ばかり見てぼーっとして誰とも関わりを持っていない、気味の悪いだろう人間を。
 見付け出して、関わって、優しくしてくれて、遂には好きだとまで。全然分からない。
 どうしたら、良いんだろう。 私は。

「……お前は、お前自身は、……“一応”俺のこと、好きなんだろ?」
「……ぅ、うん」

 “多分”、と言ったことを根に持っているんだろうか、“一応”の部分を強調して言った。意外に可愛いところもある。いや、そうでなく、サスケ君は何を言いたいのだろうか。

「だったら、他に支障は無いだろ」
「……な、にに……?」
「だから、付き合うことに、だ。“お前さえ良ければ”っつったろ」
「あ、う……そうですね……」

 しまった、言い返せない……。
 どうしよう、良いのか悪いのか。釣り合わない、資格も無い、嫌われ者。なのに、あのサスケ君となんて、サスケ君が許したって周りが許さないのに。良いのかなあ。

 ……でも、私は汚いから。
 抜け駆けできるのなら、してしまって良いのなら、してしまうよ。
 私は、汚いから。


「分かったなら、付き合え。良いな」
「……うわぁ、……。……うん……分かった」
「……何か文句あんのかよ」
「な、無いよ、大丈夫」
「……」

 サスケ君のやや無理矢理な言い方に苦笑すれば、流石に気恥ずかしくなったのか、サスケ君は僅かに頬を染めて仏頂面になった。いつの間にか自分の顔の熱はだいぶ引いていて、そのサスケ君の様子が、素直に可愛いと思えた。

「……今は笑うな、今は」
「え、あ、笑ってた……? ごめんね。あと、ありがとう」
「……ああ、いや、……別に」

 笑えるようにしてくれたのは、笑う機会を与えてくれたのは、サスケ君だよ。
 だから、ありがとう。


 3度目の笛の音を聞いて、やっと慌てた。先にサスケ君に行ってもらって、少ししてから私も駆け出した。

 これから、秘密の関係が始まる。



(20071020)


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