×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
10年バズーカがあったら


「ガハハハ、ランボさんは悪をやっつけるのだー!」
「やめろよランボ! ただでさえどういう世界かよく分かってないんだから大人しくしてろー!」

 何やら世界感の合わない服装をした少年と男の子が、大きな声を出しながら走り回っている。

「……ん? ねえサスケ、REBORNのツナとランボっぽい……ような気がするんだけど」
「……って、ああーッ!! な、NARUTOのうちはサスケと御一行じゃん! え、てことは……漫画の世界に来ちゃったってことー!?(あれ、でも漫画に居なかった人も居るけど……えーと、オレが読んで知ってる世界とは違うパラレルワールド、ってやつなのかな……?)」
「……」

 水月君と少年がほとんど同時に、サスケくんを見て言う。しかしサスケくんは漫画など読まないのでいまいちピンとこない様子で、俺が知るか、という顔をしている。かく言う私も分からない。

「あ、悪い奴発見! ランボさんがとっちめてやるぞー!」
「!」
「わ゙ー! やめろってランボ! 殺されるぞ!」
「うるさいぞツナー、ランボさんは最強だから大丈夫なんだもんね!」

 何やら大きな筒を、もじゃもじゃの髪の中から取り出して構えている。私たちは一斉に構え、謎の武器に対処すべく臨戦体勢だ。

「……金属……機械かな……?」
「……形状からして、あの筒から何かを発射するもののようだが」
「テメー! ウチらに喧嘩売っといて、ただで済むと思うなよ!」
「ヒィー! ごめんなさい!」

 少年が叫ぶと同時に、男の子が撃った。大きな筒から大きな弾が、シュルシュルと白い煙を出しながら飛んでくる。速い、それに動きが不規則で……!

「碧!」

 サスケくんの叫ぶ声が聞こえたけれど、腕でガードするしかなく、ほとんど直撃してしまった。ああ、視界が白い煙に包まれて、前が見えない。なんだか落下しているような浮遊感がするけれど、もしかして死んでしまったんだろうか。





「碧!」

 碧が敵(と認めた)の攻撃に当たってしまった。すぐに原因の武器を持った牛柄の服の子供に切り掛かる。しかし先程までうろたえていた少年が刀の刃を両手で挟み、こちらの攻撃を止めた。目付きや様子が変わっていて、額に炎が灯っている。

「させない」
「……」
「! っく、……ぐあっ!」

 千鳥を流し、痺れた所へ蹴りをお見舞いし、邪魔をやめさせる。そうして改めて、恐がってガチガチと震えている子供に向かって、刀を振り上げた。

「待ってサスケくん!」
「!」

 後ろから声が聞こえた。あんなものが直撃したのだから、しばらくは動けないと思ったのだが。しかし振り向くと驚いて固まってしまった。

「やっぱりサスケくんだ……!」
「……碧、お前……」
「縮んで……るね」
「何があったんだ?」
「あのガキ、一体何しやがったんだ?」

 自分を囲む水月、香燐、重吾を見上げてキョロキョロしている。その様子は、アカデミーの頃の碧に似ていて、……いや、まさにそのものだった。

「……どうして小さくなったんだ? 10年バズーカの故障か……?」
「10年バズーカ……? 詳しく説明しろ」
「ヒッ! ……つ、ツナァ……」
「やめろ! 説明するから危害は加えないでくれ、こいつに悪気は無いんだ……」
「さ、サスケくん、小さい子を虐めちゃダメだよ」
「……」

 渋々刀を引き、鞘に納める。ほっと胸を撫で下ろす碧と謎の少年。少年の額に灯っていた橙色の炎が消え、また気弱な表情に戻る。水月が思い出すように口を開く。

「10年バズーカって言うとあれだよ、当たった人を10年後に飛ばして、替わりに10年後の自分が来るっていう」
「……碧は5年前の姿になっているが」
「あ、あの、オレたち、元のオレたちの世界から飛ばされて来たんです。リボーンっていう変な奴の所為で色々あって……」

 パラレルワールドを移動する研究だとか次元移動の研究だとか難しいことで……、としどろもどろに説明する。別世界であるこの世界に来たから、もしかすると10年バズーカの機能がうまく働かず、10年後ではなく5年前と入れ代わってしまったのかもしれない、という話だ。

「要するに、……碧が元に戻るにはどうすれば良い」
「普通は5分経てば戻るんですけど……おかしくなっちゃってるから、はっきりとは分からないです……」
「…………」
「わー! わー! ごめんなさいごめんなさい!!」
「さ、サスケくんダメだってば!」

 スラリと刀を抜いてやれば、また大慌てで謝った。碧が近くへ来て腕を掴んで止めたから、再び仕舞う。
 すると、少年と子供の姿が薄らぎ始める。目を見開き驚いて見ていると、少年も気付いたよう。

「え? あ、わああ! 体透けてる! も、もしかして戻れるのか……?」
「おい待て、碧をどうにかしてからにしろ!」
「そ、そんなこと言われたって、自分じゃどうにも……!」

 そうこうする内に、急にぼんっと煙が広がり、二人は姿を消した。しばらく無言で二人が居た場所を見詰めた後、碧に向き直る。

「……なんとも無いか」
「え、う、うん。ここって5年後なの……?」
「ああ」
「入れ代わった、ってことは……」
「……ああ、今も一緒に居る」
「!」

 みるみる嬉しそうな顔になる。それを複雑な目で見る。本当は連れて来るつもりはなかったからな。

「……水月、香燐。オレたちはしばらく別の場所に行こう」
「はァ? なんでだよ」
「もう諦めなよ香燐もさぁ、脈なんか無いんだし」
「なっ、べ、べつにウチは!」
「はいはい、じゃー行こうか」

 重吾が気を使って、三人が別の場所に移動する。余計なことを……。それを見て俺も、今よりも少し身長の縮んだ碧を連れて移動する。

「あ、……」
「……」
「……サスケく、……さん? えっと……」
「いつも通りで構わない」
「あ、う、うん……。あの、さっきの人たちは……」
「……連れだ」
「……」

 おそらく、ここはどこだとか、何故こんな所に居るのだとか、聞きたいことはあるだろう。しかしそれは聞かれないまま、道を歩く。こんなに空気を読める奴だっただろうか。

「……碧」
「は、い」
「…………幸せか?」
「! え、あ、……うん、幸せだよ」
「……そうか」

 何を聞いているんだろうか俺は。いや理由は分かっている今碧を幸せとは真逆の感情に巻き込んでいるからせめて昔はどうだったのか聞きたかった、のだ。幸せそうに照れ笑いをする碧は、今の俺ではなく昔の、5年前の俺の姿を思い浮かべているのだろう。なんとも言えない気持ちになる。あの頃は、そうか、幸せだったのか。

「……サスケくんは、……あんまり幸せそうじゃないね」
「……(……やっぱり空気読めてないな)」
「あたし、……サスケくんの力に、なれてるのかな」
「……それは問題ない」
「そ、なの? それなら、良いんだけど……」

 また照れたように俯いて、嬉しそうにはにかむ。今度は今の俺を手助けする未来の自分を想像したのだろう。俺が引く左手を見て、照れ笑い。

「えへへ、でもちょっと、勿体なかったかも」
「?」
「未来のサスケくんがこんなにかっこよくなっちゃうの、早くに知っちゃって」
「……」
「でも、良かった。未来でも一緒に居るんだね」

 本当に嬉しそうに、言う。今の碧もこんな風に純粋に嬉しく思っているのだろうか。悲しくは、ないだろうか。
 気が付いたら俯いていた。碧が心配そうに見上げていたから、心配ない、と頭を撫でようと手を持ち上げる。するとその瞬間、ボフンと白い煙が現れて、右手の中の左手が消えた。

「!」
「けほっ、けほっ……今度はなんなんだろう……」

 煙の中から現れたのは、今の碧。元に、戻ったのか。ほっとして、しかし急すぎる終了に少し残念に思う。

「碧……無事か?」
「あ、サスケくん! 大きい……ってことは、戻って来れたのかな」
「そのようだな」

 言い方からして、昔の俺に会ったらしい。まさかアカデミーの授業中ではなかっただろうな。

「あれ、水月君たちは……?」
「……さあな」
「……良いの?」
「ああ」

 数回まばたきをして、それから嬉しそうに微笑む。こうして見ると、昔より大人びた笑顔になった。

「……なんだ」
「ううん、二人きり、久しぶりだなって」
「……」

 ……全く、相変わらずこいつの幸せは安い。心配などしなくても、こんな些細な事で嬉しそうに笑うのだから、心配のし甲斐が無い。
 小さい溜息を吐いて、奪うように左手を取る。驚いてこちらを見上げる碧を見ずに、道を進む。

「うわ、あ、……久しぶりだね、手、繋ぐの」
「…………」
「……えへ、……少しは心配してくれたの、かな」
「……(一々口に出さなくて良い)」
「嬉しい、な。ふふ」

 本当に嬉しそうに、言う。こいつは本当に昔から変わらない。そういう所に、俺はどれだけ安心させられてきただろう。知らない間に。そしてどれくらい、不安にさせているのだろうか俺は。知らない間に。

「……もう少し機敏に避けろ、あれくらい」
「あんな動き、写輪眼じゃなきゃ見切れないよ」
「バカみたいな効果の物だったから良かったものを、ただの武器だったら死んでたかもしれないぞ」
「それは、分かってるよ……だから次は取り敢えず跳び退くから」
「……取り敢えずはな」
「うん」

 にこにこにこにこと、バカみたいに笑ったままでいるから、調子が狂う。心配されて嬉しいのだろうということは分かるが、能天気すぎやしないか。

「……ウスラトンカチ」
「えへへ、それも久しぶりに聞いたなぁ」

 いい加減その締まりの無い顔をどうにかしろ。



(日記再録 投稿日 20100128)


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]