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それぞれの動揺


 それぞれの動揺



「……サ、サスケ君、」
「……ん?」
「狭い、なら、違うとこで寝るよ、あたし……」
「……別に狭くない」
「ぅ、うぅ……」

 同じベッドで二人で寝るなんて初めてだ。なんでサスケ君は平気な顔をしていられるんだろう。

「……それとも嫌か?」
「そっ、そういうわけじゃ……」
「……なら良いじゃねえか」
「…………恥ずかしいよ……」

 サスケ君は少し意地悪な質問をした後、私の背中に回した手にまた少し力を加えた。髪にサスケ君の吐息が掛かり、ちょっとくすぐったい。サスケ君の髪はまだ少し乾き切っていなくて、シャンプーの香りがする。私は身体にまだ痣が少し残っているのがばれないよう、着替えが無いのを理由にお風呂に入っていない。だから汚いので、綺麗なサスケ君に抱き締められていると多少罪悪感のようなものを感じる。

「……碧」
「な、に?」
「……どうしたら、お前はよく眠れる?」
「…………分かんない、かな……」
「……そうか」

 心臓の音が喧しくて、サスケ君が呼んでくれたのを危うく聞き逃すところだった。なにより、サスケ君の心臓の音が聞こえる距離、位置であることが、そうさせている。頭がぐるぐるしてきた。

「……とり、あえず、……緊張して、ね、ねれない、かも……」
「、……そうか、それじゃダメだな」

 サスケ君はそう言い、私に絡めていた腕をほどいた。そのままもそもそと動いて、反対を向いて背中が私に見えるようになる。そうして温もりが離れると、途端に寂しくなる。
 あれ、サスケ君は居るのに。

「…………」
「…………」
「……なんだ、どうかしたか?」
「えっ、……ぁっ、ごめん、なんでもない……」

 無意識にサスケ君の服の端をつまんでいた。慌てて放し、恥ずかしかったので反対を向いた。

 なんであんなことしたんだ、あれじゃ覚られてしまうだろ。

 薄い掛け布団の端をちょっと抱き締めて、自己嫌悪。
 真っ暗より少し明るい方が良いと答えたから点いている豆電球。様子から見てサスケ君は点けない派だったようなのに、私のために点いている。なんだか申し訳なくなって、布団をぎゅっと締めた。

「……碧」
「……なんでしょうか……」
「……手」

 サスケ君は眠そうな声で単語のみを使って話す。よく分からないまま差し出した手を、サスケ君は掴んだ。

「……これなら……良いだろ……」
「ぁ、……」

 掴んだ手を布団の中に連れ込んで、きゅっと。
 反対を向いていた体は自然とそれをやめている。二人とも仰向けに寝て、サスケ君は寝息かとも取れる呼吸。

 堪らなく嬉しい。嬉しくて堪らない。
 でも今ありがとうなんて言ったら、眠るサスケ君の邪魔になってしまう。
 それでも小さく小さく音にならないくらいに呟いて、この気持ちが伝われば良いなと思いながら、少しだけ握り返した。





 最初は小さく、徐々に大きく、最終的には大音量で鳴り響く時計。俺はそれに無理矢理起こされるように、体を持ち上げて時計に手を伸ばす。

「ぅ、……ぅ゙ー、…………ぁ?」

 ふと気付くと、隣に居たはずの碧が居ない。一瞬始めから居ないんだったか、と思うが、そんなはずはない。
 ちゃんと体を起こしてベッドに座り、寝ぼけた目を擦りながら部屋を見回す。すると碧が居た辺りの枕元に、裏返しになった小さな紙切れを見付けた。

「……? ……帰ったのかよ」

 よくよく家の中の気配を探ってみても、自分の以外は無さそうだ。どうせ帰るなら、起こして一言くらい言って欲しかった。

『昨日はありがとう。お陰でよく眠れました。
 サスケ君の邪魔になってしまってたならごめんなさい。
 あと、声も掛けないでごめんなさい。起こすのは悪いと思って起こしませんでした。
 今日も学校に行かなきゃならないので、いろいろ準備するために早めに帰ります。
 それから、タオルは洗ってから返します。
 いろいろごめんなさい。』

「…………そんな謝んなよ……」

 ところで、今は朝の五時なのだが、本当によく眠れたのだろうか。しかしいつもは二時や三時に目が覚めると言っていたから、それに比べればマシだったのだろうか。どちらにしても本人が本当にそう思っているなら、良かった。

「……つーか眠い……」

 目覚ましに再び手を伸ばし、鳴る時間を一時間程ずらす。毎日している朝の修業を、今日はしないでおこう。そうして布団を引っ張り上げながら横になる。

「……ん……?」

 微かに残る、愛しいにおい。
 昨日一晩碧が抱き締めていたからだろうか、掛け布団からわずかに、昨晩嗅いだばかりの碧のにおいがした。
 それがなんだか嬉しくて、くすぐったい心地がする。
 頬の筋肉が緩むのを自覚しながら、そのまま二度寝した。





 学校に来て、席に着く。
 なんだかまだ眠たくて、窓なんか見向きもしないで体を伏せた。こんなに眠いと感じたのはいつ振りだろうか。少なくとも一年はなかったように思う。でもそうしてあまり経たない内に、筆箱くらいは出しておこうかと思い立って、鞄に手を伸ばす。そして両手で押し開けて気付いた、サスケ君に借りたタオルを鞄に入れたままだ。
 何も考えずにそれを手に取り、膝にのせて眺める。夢の名残。

「……サスケ君……」

 無意識に呟いて、自分の声に焦る。慌てて周りを見回す。まだ誰も居ない。それに少しほっとして、タオルを手に持ったまま再び机に伏せる。

「……」

 タオルからは当然、雨のにおいしかしない。でもなんとなく、サスケ君の物なんだなと思うだけで、特別な感覚がした。錯覚なんだろう、分かっている。それでもこのタオルを抱えていると、安心できる。サスケ君が近くに居るような気がする。
 有り得ない、気のせいだと罵られるかもしれないなあと、ぼんやり考えた。
 意識が、落ちていく。





 教室のドアを押し開けて、足を踏み入れた。窓際の一番後ろの席で、碧が寝ている。やはりよく眠れていなかったのだろうかと危惧しながら、自分の席へ行く。鞄から一本の巻物を取り出しながら、もう一度碧をちらりとだけ見た。
 すると組んだ腕の間から白いタオルがはみ出ているのを見付けた。
 俺が貸した、タオルだ。

「っ……、」

 なんだか急に恥ずかしくなって、一人で赤面した。言葉にならない照れが、小さな唸りになって口から零れる。意識していると堪らなくなってきた。なので巻物を開く。それから椅子に座って、碧の方を見ないよう努めた。
 抱き締めて、寝るなよ。





 爆睡し続けて、ふと目を覚ますと教室に誰も居ない。ぼやーっとして、そうだ時間は、と思って時計を見た。すると丁度四時間目の真っ最中。演習の授業だ。

 ああ、やってしまった。
 でもさして罪悪感もない。むしろ清々しい気分だ。本当によく寝た。こんな固い机でよくこんなに寝たよ、私。授業中に一度だって目を覚まさなかったのだから、すごい。サスケ君のお陰だろうな、絶対。

「あ、……タオル……」

 抱き締めて寝てた。ちょっとだけヨダレが付いてしまっている。あわわと一人で慌てて、恥ずかしく思いながらごしごしと拭いてそれを消した。
 それから気を取り直して、今から授業に行くべきか考える。いや、目立つだけだ、やめとこう。さっさと行かない決断をして、癖のように窓の外に目をやる。

「ぁ……サスケ君だ……」

 どうしてこんなに直ぐに見付けられるんだろう。答えは簡単、見付けようとしてるからだ。
 毎日毎日、飽きずに見詰めているから、きっとサスケ君の居そうな場所を無意識に覚えてるんだ。

「……すごいなあ……強いなあ……」

 二人一組で組み手をしているみたいだけど、サスケ君の相手をしている誰かさんはまるで歯が立っていない。時々「あっ」と思うこともあるけど、それさえサスケ君は簡単にかわしてしまう。気が付けば夢中でその様子を見てしまっていて、視線が釘付けになっていた。

 するとサスケ君が、一瞬だけこちらに目を向けたような気がした。本当に一瞬だけだったから、気のせいかと思った。でもまた、今度は確実にこちらを見た。顔も視線もこっちに向いたから、ドキリとした。この距離から分かってしまうほどにじっと見てしまっていたんだ、なんて恥ずかしい。

 顔を窓から逸らして、熱くなった頬に手を添える。持っていたタオルをまた手で弄り、そうだ絵を描こうと思い立ってスケッチブックと鉛筆を鞄から取り出した。そういえば結局今の今まで筆箱も出していなかったんだなあ。
 昨日から色鉛筆も持って来ていたから、今回はフルカラーで描いてみよう。
 サスケ君の勇姿を思い出しながら、紙に向かった。





 四時間目の授業が終わって、教室に戻ってきた。一番に帰ってきたのだが、碧はもう既に居なかった。ああそうか、別々に食べるのだから、急がなくても良かったんだ。
 妙に落胆して、昼食を引っ掴むと他の生徒が戻ってくる前に教室を出た。今日は昨日とは違う場所にしなければ、また誰かに見付かってしまうだろう。でももし碧が屋上に居るなら、それが見える位置が良い。
 ……探してみるか、そんな場所。
 今度こそ急いで、廊下を移動し始めた。





 昨日と同じように、埃っぽいのが嫌だったから屋上に出た。この屋上のドア、注意書きがあるだけで、いつも鍵が開いている。階段から一転、澄んだ空気を全身に浴びる。今日は食欲があるから、この小さめの弁当箱の中身くらいなら食べ切れそうだ。

「いただきま……す?」

 視線を感じる。どこからだろうと少しキョロキョロすると、他の校舎の屋上に誰か居た。あの姿形は、サスケ君だ。間違いない。
 高さは大体同じだが、あちらの校舎の方が少し高い。やや見下ろされるような形で、サスケ君の視界に入っている。
 こちらが気付くと、サスケ君が手摺に凭れたまま片手を上げた。それに小さく手を振り返すと、サスケ君は少し微笑んだ。照れて俯き、お弁当を食べ始める。今日のはなかなかの出来だ。
 ちらりと見上げてみるとサスケ君もおにぎりを頬張っていて、一緒に食事をしているような気がして嬉しかった。一人笑んで、順調に昼食を食べた。





 放課後になって、俺はいつものように修業に行こうとしていた。廊下を歩くと女子が声を掛けてくるのだが、今日はそれがいつもより少なかったような気がする。それはそれで静かで良いか、と思っていたのだが、後になってそれを後悔することになる。





「桜庭さん、ちょっと来てくれない?」
「ほら、起きてよっ」
「ぅ、んえ……? ……誰……?」

 揺り起こされて寝ぼけ眼で見上げれば、三人の女子たち。怖い顔で見下ろされていて、ビクッと一瞬驚く。なにやら怒っているようで、手をぐいっと無理矢理引っ張られて連れて行かれる。

 なんだろう、ヤバいかな。

 人数不利には違いない。取り敢えず逆撫でしないよう大人しく付いていくことにした。



(20080304)


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