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癖、だったもの


 碧は昔、布団を顔に押し付けて寝る癖があったように思う。始めは、自らの意思で残している薄明かりが眩しくて、それから逃れるためにしているのかと思ったこともあった。しかしあれは、恐らくもっと他のものから逃げ隠れするための癖だったのだろう。

「……」
「……んふふ」

 俺の脇の下に顔を押し付け、微かに笑い声をもらす。「私は今とても幸せです」と俺に知らせるようなその声に、俺も「やれやれ」という気持ちで、笑いに似た息をフッと鼻から吐いた。きちんと清潔にした後だとはいえ、人の脇に顔を擦り付けて笑うのはどうなのだ。

 碧の寝る際の癖といえば、明かりを少し残すのもそうだ。昔は外出する時にも、「帰ったときに真っ暗だと寂しいし怖いから」と言って、自室の明かりを消さずにいた。安心を得るための明かりだと。就寝時の保安球も、近い意味を持って点けられていたのだろうことは容易に想像できた。だから俺は碧と同じ部屋で寝る際には、必ず少し明かりを残すよう心掛けていた。俺自身はどちらでも構わなかったから、彼女の事情を汲むことを選んだ。

 しかし俺は知っていた。碧はもう、一人寝の際はきちんと明かりを消すし、布団に顔を隠すこともしない。彼女はとっくに、恐ろしい記憶を克服していたのだ。

 今、彼女が俺に顔を押し付けるのは、怖いものから身を隠すための行為ではなく、ただ愛しい人へ顔を擦り付ける、ただそれだけの行為。俺が残す薄明かりを消すこともせず、「消してしまって大丈夫」と伝えることさえしないのは、俺の『昔からの愛情』を感じていたいからなのだろうと。そう知っている。
 だから俺も敢えて彼女を脇から突き放すようなことはしないし、薄明かりを残す心掛けもやめはしない。これしきのことでこんなにも嬉しそうに笑うのだから、相も変わらず安上がりな幸せだ。




 私は昔、布団に顔を押し付けて眠る癖があった。あれはたぶん、恐ろしいものから身を隠そうという、本能的なものだったのだろうと思う。
 あとは、寝るときには小さな明かりを点けるようにしていた。真っ暗ではどうにも恐ろしくて……常に部屋の景色が見える程度にはしておきたかった。

 だけど里を出て大蛇丸のアジトを転々とする内、恐怖の対象自体から離れたことと、満足に明かりの無い部屋で眠る日々により、暗闇に徐々に慣れ、恐怖心も薄れていった。それに合わせるようにして、顔を隠す癖も次第になくなっていった。ほんの少しだけ、落ち着かずにそわそわした気持ちにはなったけれど。
 だけどそれがどちらも完全にどうも感じなくなったのは、サスケくんと初めてセックスをした後だった。

「……んふふ」

 すぐ側で仰向けに寝転んでいるサスケくんの体に、顔を擦り付ける。今夜はどうやら何もしないらしい。抱かれるのはもちろん泣くほど嬉しいけど、こうやって『大事』にされるのも好きだ。サスケくんの行動はいつだって私を思ってのものだから、何をしてもしなくても、私は嬉しい。点けられたままの薄明かりも、私の心をほわほわとあたためてくれている。そしてこんなに簡単に幸せを感じている私を笑うように、サスケくんはフッと鼻を鳴らした。

 だって私が顔を隠さなくて済むことも、本当は明かりを消しても構わないことも、全部サスケくんがこうして愛してくれているからなんだよ。サスケくんの愛が私を優しく包んでくれているから、少しの恐怖も感じないの。
 きっとサスケくんは「この程度のことで」と思っているのだろうけど、私にとっては大きな大きな愛情だ。それこそ二十年近い年月を熟成してきた極上の愛なのだから、そんな高級品で包まれていれば幸せで笑いももれるというものだよ。


(180529)


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