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娘の話と


「明日から、ボルトの修業を見ることになった」

 サスケくんが里に戻ってから、半月ほど経った夜。食後の空き時間にそう切り出された。
 ボルト君といえば、七代目のご子息だ。なんて、固い言い方をする必要はないんだろうけど。

 サスケくんが、弟子を取る、かぁ。想像もしていなかった出来事に、感嘆が漏れる。そっかぁ、そうだよね、もう自分の子が下忍になるくらいなんだから、自分たちが弟子を持ったっておかしくないんだなぁ。

「サスケくん、厳しそう」
「もちろんそうするつもりだ」
「ふふ」

 サスケくんが何か慮るように瞑目する。気にかかることでもあるのだろうか。
 空になった湯呑みを見て、おかわりを尋ねる。首を横に降ったのを確認して、自分の湯呑みにだけ急須を傾ける。

「そういえば、サラダの修業は見てあげないの?」
「…………」

 聞かれたくないことを聞かれた、とでも言うような間。それから、「本人が望まんだろう」とこぼす。そんなことはないだろうけど、サラダは素直でないところのある子だから、自分からは言い出さないかもしれない。

「んー、まあ娘がお父さんに見てもらうのって、なんだか恥ずかしいのかもね」
「……それだけならいいが」
「大丈夫、嫌われてないよ。思春期なだけだから」
「……」

 サラダが普段よりそわそわしているのも知っているし、サスケくん自身を悪く言うことも無い。(私の前では言わないだけかもしれないけど) 何より、本当に嫌いなら、会話もせずに隣に座り続けることもないだろう。サスケくんがあまり世間話をする人じゃないから、娘との会話が長続きしないのも仕方ないことだ。

「私もあんまり見てあげられてないけど、ちゃんとやってるみたい。時々疲れた顔で帰ってくるし」
「……そうか」
「物覚えが良い子だから、私が教えたこともどんどん吸収しちゃって。図書館の本もほとんど読んで覚えてるみたい」

 私はあそこまで賢くもなかったし、物覚えも良くなかったので、その才能に嫉妬してしまうくらいだ。サスケくんの遺伝子、すごいなぁ。

「最近はサクラさんに色々教わってるみたいだから、強くなりそう」
「そうなのか」
「成長目覚ましくって、子供ってすごいなぁーって思うよ」
「フッ」

 私がたくさん喋るからか、サスケくんは小さく笑った。だって、いつどうなるか分からないんでしょう。

 サスケくんが里に戻って、1日2日で旅に出ずにしばらく居るということは、例の案件のことに何か動きがあったからだろう。
 帰ったばかりの夜、サスケくんの体には戦闘痕があった。マントや服ですっかり隠されていたけど、痛々しい痣がいくつも。サスケくんは『肉を切らせて骨を断つ』立ち回りをしがちな人ではあるけれど、それはつまり相応の実力者を相手にしたということ。その怪我が癒えない内に里に戻り、直接『火影』に報告しに行くということは。

 最高機密であるサスケくんの任務の話は、こんなところでは話せない。少し俯いていた顔を上げて、憂えた視線を送る。サスケくんはそれに、真剣な眼差しを返すだけ。あくまで何も言わないけれど、私の懸念を否定する言葉も無い。やはり、そうなのだ。
 確信して、眉を八の字にする。口角が、困ったようにきゅっと上がり、形だけ笑む。

「……今のうちに、うんとたくさん薬を作っておかなくちゃ」
「……」
「サラダにも、薬の知識、たくさん教えてあるから。あの子のことも頼りにしてね」
「ああ……」

 テーブルに置かれたサスケくんの手に、自分の左手を重ねる。不安が全く無い訳ではない。だけど目の前の彼を信じている。サスケくんと、ナルト君の二人ならきっと、なんとかしてくれるって。私にとっても世界にとっても、これ以上頼りになる男の人は居ない。
 重ねた手に視線を落とす。サスケくんも同じように見ている。大人と子供くらい大きさに差があって、相変わらず釣り合わない。

「……まだ話してたの?」
「サラダ」

 ドアを開けて、サラダが入ってくる。お風呂から上がったばかりの様子で、水分を求めて来たらしい。
 重ねたままの私達の手を見つけて、眉をひそめる。それにやや首を傾げて、何を言われるのか待つ。

「……娘が来たら普通やめるもんじゃないの? そういうのって」
「どうして? 恥ずかしいことしてる訳じゃないのに」
「十分恥ずかしいことでしょ……いい歳した大人が、年甲斐もなく」

 冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出しつつ、背を向けたまま文句をたれる。その言葉の正否を確かめるようにサスケくんへ視線を移せば、別段感想も無いらしく。

「じゃあ、抱きつくのはもっとダメ?」
「当たり前」

 言われながら、椅子から立ち、向かい側のサスケくんの傍へ行く。サスケくんは一応目だけで私の動きを追いながらも、特に逃げる様子は見せない。やれやれ、とでも言うように小さくため息だけ吐いた。

「残念、サラダの前でも抱きつきます」
「ちょっ、お母さん!」
「サラダが照れくさいだけなんでしょ?」

 後ろから首へ腕を回して抱きつく。甘んじてそれを受け入れ、眉を上げるサスケくん。娘の手前、サスケくんのほうから私に触れることはしないらしい。

「ふふ、羨ましかったらサラダもおいで」
「なっ、なんでそうなるの! 別に、そういうんじゃないから!」
「……」
「あ、ほらお父さん寂しそうだよ」

 ぼそりと、(寂しそうになんか)別にしてない、と反論される。サラダの素直でないところは、サスケくん譲りだね。私にはあんまり似てなくて、とてもかわいい。

「サラダは、父さんに修業見てもらわなくていいの?」
「えっ?」

 突然の話題切り替えに、サラダは口元に寄せていたコップを一旦離した。私の、話題が飛びやすい質には慣れているから、すぐに合わせてくれる。

「私はいい」
「そう。なんで?」
「なんでも!」

 ぷいっとそっぽを向いて、今度こそお茶を飲む。

「ふふ、さみしいね」
「……」

 くすくすと笑いながらサスケくんの表情を窺う。長い前髪に隠されて半分は見えないけれど、強がるように目を閉じて、何でもない風を装っている。ほんの少し眉間に力がこもっているのがポイント。

 (きた)るXデーまで、この不安を誰にも悟られないように。そして自分に出来ることを出来るだけ、坦々とやり続ける。それがサスケくんの、助けになるはずだから。


 


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