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喪失3/4


 大筒木カグヤを封印し、無限月読を解除し、戦争は終わった。長い、戦いだった。
 平穏が訪れたと同時に、五影会談強襲、人柱力誘拐、火影殺しや里抜けなど、国際指名手配されていた俺は、木ノ葉へと戻り、その処遇を待つことになった。しばらくは自由に出歩くことも出来ず、碧の居る病院へ行けたのは一週間も経ってからだった。


 とにかく固く固く封印した碧の記憶は、山中一族の術でも解除できなかったらしく、特殊な個室へ隔離され、拘束具のついたベッドへ寝かされていた。そうしなければ泣きわめいて暴れ、自分で自分の体を傷つけてしまうからだと言う。
 ここまでの案内をした医師に退室を願い、扉が閉まる音を聞きながら碧の側へ行く。

「…………くん、…………くん、……」

 何もない天井へ目を向けたまま、ぶつぶつと何か言っている。名前を呼ぼうとして、だけど思い出せなくて、探すように口を動かしては、見つけられずに閉じる。
 指先まで覆う白い布に身を包まれ、ベッドに縛り付けるようにベルトで押さえられ、拘束されている碧。その状態に抵抗する様子は無く、意識はここに無いようだった。まともに食事をしていないという話も頷けるほど、心ここに有らずで、元々細身のくせに、余計にやつれて見ていられないほどだ。
 すると、今まで大人しくしていたのに、突然「ああーー!!」と叫び声を挙げた。

「ああーっ、あーっ、あ゛ーー……!」

 それは泣き声だった。小さな子どもがあーんあーんと泣く、まさにそれ。
 自分の力ではどうにもできないことを、誰かにどうにかしてほしくて、助けを呼ぶような、悲痛な泣き声。時々ヒステリックに甲高く声をあげ、首を振り、手足をガチャガチャと動かす。またはくはくと口を動かして、何も言えずに、うーうーと苦しそうに呻いた。

「碧、」

 呼び掛けても、返事は無い。視界に入るように立っても、無反応で泣き続けるばかり。
 まさかこんな状態になってしまうとは、少しも思わなかった。ただ俺のことを忘れて、どこかで、好きに生きていけばいいと、そう、逃げて。俺のことを碧の中から消したのに。それで、こんな風になってしまうなんて。俺は、なんてことを。

「碧……」


 お前にとって俺は、お前がそんなに壊れてしまうほどに、大きなものだったんだな。


「俺の眼を、見ろ!」

 泣き叫ぶ碧の顔を、無理矢理にこちらへ向けて目を合わせる。右眼の万華鏡写輪眼を碧の目に写し、碧に掛けていた強力な記憶封じの暗示を解く。すると碧は暴れるのを止め、徐々に落ち着きを取り戻しはじめた。

「……あ…………」
「…………」

 どう、懺悔をすれば良いのか分からない。俺の勝手な都合で捨てておいて。どう、贖いをすれば、いいのか。
 そうやって、碧に掛ける言葉を探す間に、碧が先に話し始める。

「……ごめん、ね……」

 泣いて叫んで少し枯れた、俺に赦しを請う震え声。

「どうしてお前が謝る。悪いのは、全部俺だ」

 お前の気持ちを裏切り、お前を斬り捨てる選択をし、結局その道を成就せず、のこのこと舞い戻った。どう考えたって、全部、愚かな選択をした俺が悪い。なのに。

「……あたしが、……足手まといで……役立たずの邪魔者に、なったから……」
「っ、違う! ……それは、違う」

 碧の言葉に、思わず強く否定した。それから罪悪感とともに俯き、弱々しく否定を重ねる。

「……でも、あのとき……」

『お前はここで斬り捨てる。俺の道に、お前は邪魔だ』

「……」
「……だから、もうあたしは要らないんだ、……って、思って……」

 確かに、そう言った。だけど、違うんだ。足手まといとか、役立たずだからじゃない。
 碧の拘束具を、クナイで斬って外しながら、言葉を選ぶ。これ以上碧を傷つけてしまわない、悲しませない言葉を探す。

「……俺にとって、お前が……何物にも代えがたい、唯一無二の、大切なものだったから、だ」

 絆と呼べるものは、全て斬り捨てようとしていた。ナルトを斬るのならば、碧も斬らねばならない。あの時はそう思っていた。
 歴代の火影たちの話を聞き、俺が見い出した新たな道。六道仙人やナルトにも話した、全てに一人で片を付ける道。この時もやはり、強く思った。
 ナルトとの戦いに決着がついたら、碧を殺しに行かなければ。
 俺の最も大切な人を、ちゃんと、斬らねば、と。

「その“道”に、お前が居ると……甘えが出る。だから、……。…………すまなかった」

 これ以上は、ただの言い訳にしかならない。だからただ素直に、頭を下げた。

 今はもう、そんな道を進む必要などないのだと、ナルトに強く説得されて、俺が折れてしまった。俺がお前にした非道なことも、全部無意味になった。全てただの愚行と化した。お前を苦しめただけ無駄に、成った。
 だが結果として、あの時、お前を殺さなくて良かったと、躊躇って甘えた逃避をして良かったと、心底に思う。

 ぼんやりと、俺の下げた頭を見詰める碧。思い出したようにごそごそと拘束具から手を出して、ベッドに半身を起こした。

「……いいよ。ゆるしてあげる」

 そんな物言いをするのが珍しくて、少し驚いて顔を上げた。

「……だから、」

 両腕を広げて、俺を待つ。やつれた顔を涙で汚した碧が、嬉しそうに、俺を見ている。
 ぐぅっ、と、胸が苦しくて、いとおしくて堪らなくて、罪悪感に胸を抉られながら、なるべく優しく、隻腕でそっと抱き締めた。



(160624)
次はおまけの予定だった部分です


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