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初詣


「……明けましておめでとう」
「お、おめでとうございます……」

 本当は年越しも一緒にどうかと誘われていたのだけど、流石に最近連続でサスケくんの家にお邪魔させてもらいすぎているので、遠慮してしまった。ちょっと勿体無かったかなとも思ったけれど、年が明けて三十分ほど後にサスケくんがやって来たのであんまり変わらなかった。

 サスケくんはこの前一緒に買いに行った真新しい濃紺のコートを着ていて、口元までジッパーを上げている。両手もそのポケットに深く入れられていて、簡単には出されそうもない。確かにかなり寒いなぁと思いながら、サスケくんを迎え入れるために開けていた玄関を閉めた。
 一緒に初詣に行くという話はしていたけれど、こんな夜中に来るとは思っていなかった。去年も一昨年も朝になってから行ったし、初詣は日が昇ってから行くものと思っていたのだけど、そうではなかったのか。

「三が日なら好きなタイミングでいいんじゃないか」
「でも、こんな年明け直後に行ってもいいのかな? 神社さんが迷惑しない?」
「もう恒例だし慣れてるだろ」

 私が外へ出る準備をする間、玄関で待っていてもらう。小銭入れと鍵と、この前買った上着、くらいで良いだろうか。あ、そうだ手袋。サスケくんにプレゼントで貰った黒い手袋を、折角だから着けて行こう。
 用意を済ませて玄関へ戻ると、サスケくんが大きな欠伸をしているところだった。特別な日とはいえ深夜だ。睡魔はいつも通りやってくる。私も釣られるように小さく欠伸をしてしまう。

「ん、それ持ってきたのか」
「うん。なんか勿体なくて、普段の買い物とかには使ってないんだけどね」
「……使えばいいだろうが」

 サスケくんが呆れたように笑う。だって汚したくなかったから。
 靴を履こうとサスケくんの隣に降りる。狭い土間に二人立つと、やっぱり狭い。手袋を手に持ったまま、靴の踵を引っ張り出すために片足で、壁に手を突く。サスケくんに背を向けていたのだけど、履き終わると同時に、後ろから両腕が絡まってきたから驚いた。

「! わ、な、」
「……新年、初碧」

 抱き寄せられて、腕の中。家の外に出たらできないから、今の内、ということだろうか。やっぱり少し眠いらしく、普段はあまりしない、甘えるような頬擦りを私の頭にしている。

「えへへ……新年、初サスケくんだ」
「ん」

 嬉しくて、ゆるんだ笑いがこぼれる。お腹に回されたサスケくんの手に、自分の手を添える。すると素手の感触では無かったから、何かと思って見下ろした。

「……あれ? この手袋……」

 私が今、手に握っている手袋と、よく似ている。似ていると言うか、色が違うだけ?

「ああ……あの時一緒に買ったんだよ。俺もこれ、気に入ったからな」

 両手を広げて握って、動かしやすさを確認するようにする。暗い灰色、ねずみ色。私の黒色よりは、少し暖かそうに見える色だ。

「おそろい、だ」
「……そうなるな」
「いいね、おそろい」

 サスケくんの手に重ねるように、自分の手袋を宛がう。色が違うだけの、おんなじ手袋。大きさはサスケくんのもののほうが少し大きいみたいだから、黒とねずみ色の兄弟。
 にまにまとそれを見下ろしていると、サスケくんの手が持ち上がった。顔の両側から襲われたので避けようもなく、手袋の感触が両頬を包む。

「んむー」
「嬉しそうにしやがって」
「らっへうえしいよ」

 ほっぺを潰されているからうまく喋れない。ぐにぐにと押したり回したりして遊ばれるのを、楽しいのでされるがまま。
 サスケくんのほうへ向き直り、見上げる。すると少しだけ頬に朱が差していたから、照れているのだなぁと思う。サスケくんが自ら『お揃い』という状態を作り出したことを思えば、私は一層嬉しいし、サスケくんが照れるのも無理はない。お揃いなんてむしろ、格好悪いとか決まりが悪いとか照れくさいとか、なんとなく避けてきていたからなおのこと。

「えへへ……でもちょっと、恐れ多いというか身に余るというか、私にはもったいないなぁ」
「……まだそんなこと言いやがるのか、この口は」
「んむぐ」

 またほっぺを潰されて、今度はつねられる。怒られた。

「いふぁい……」
「お前が悪い」
「ふぁっへ、!」

 私が言い訳を続けようとしたら、むっとした様子のサスケくんの顔が近付く。コンマ数秒で察して目を閉じれば、唇に柔らかいものが触れる。触れるだけで、すぐに離れる。

「いいから、さっきみたいに素直に喜んでおけ」
「……うん」
「だいたいお前は、余計なことを言いがちなんだ。思っても、言わなくていいことは言うな」
「んんん……」
「……あのな。さっきのは完全に『余計なこと』だからな。分かってるか」
「ふぁい、ごめんらはい」

 納得しかねる顔をしてしまっていたのか、またほっぺをつねられた。じんじんするほっぺたに、じんわり涙がにじむ。だって私なんかとサスケくんがお揃いの手袋なんて、恐れ多いのは事実だもの。あうう、いたいよぅ。


 玄関を出て、しっかり戸締まり。痛む頬を撫でながら、門の先で待つサスケくんの元へ行く。外はもちろん真っ暗だけど、深夜の割には人の気配がする。どの家もまだ明かりが点いていて眠っていないからだ。私たちと同じく初詣に行く人なのか、外を歩く人も居る。

「お待たせ」
「ああ」

 サスケくんの欠伸が真っ白。だけど上着をきっちり閉めて手袋も着ければ、あんまり寒くない。やっぱり、ちょっと奮発して良い上着を買って良かった。
 歩き始めたサスケくんの隣へ並ぶ。ちらっと見下ろせば、サスケくんは私側の片手だけをポケットから出して、ぶらぶらと揺らしている。これはたぶん、繋ぐなら繋いでもいいってこと。……たぶん。サスケくんの横顔を見上げれば、眠そうにしばしばと瞬きして、無防備。

「……じ、神社、混んでるかな?」
「そりゃあ普段よりは混んでるだろうな」

 当たり障りの無い話題を出しつつ、揺れる右手を再び窺う。手袋を嵌めていつもより一回り大きい右手。じっと見ていると、招くようにぱくぱくと指が動く。それでやっと、やや自信の無かった『お誘い』に確信が持てて、左手を伸ばした。

「おせーよ」
「ごめんね」

 重なるそっくりな手袋。当然体温などは感じない。でも握られると、やっぱり嬉しいものだ。サスケくんと体の一部を繋いでいるっていう行為自体、私には勿体ないくらいなのだけど、そんな気持ちを押し退けて喜びが勝つ。もう何年も同じ事を繰り返しているっていうのに、同じ事で何度でも嬉しくなれるってすごいや。


 最寄りの神社。そんなに規模の大きい所ではないけれど、近所の人たちが同じ行事に集まれば、流石に賑やかだ。
 手水でのお清めを済ませて、参拝をしようと賽銭箱の前に並ぶ列へ行く。二列ずつ並んでいるから、それに従って。そこかしこで新年の挨拶が交わされるのが聞こえる。ざわざわとしているから、サスケくんと話すには少し声を大きくしないといけない。

「何をお祈りしようか?」
「とりあえず、受験合格だろ」
「あ、そうだった」

 神様にお祈りせずとも合格する気満々だったので、候補から外してしまっていた。どうせならついでだからお願いしておこう。あとは健康祈願と安全祈願と、……というかそもそもこの神社の神様は何が得意なんだっけ? 縁結びは出雲大社、学問は菅原道真公の天満宮と、それぞれ得意不得意があるはずだ。この神社の成り立ちを知らないので、憶測のしようもない。
 順番待ちの間に、賽銭箱横の案内板を読む。お参りの作法である二礼二拍手一礼の説明。ご自由にどうぞと置かれたお神酒。神社そのものの説明は無さそうだ。

「サスケくん、この神社ってなんの神様が居るんだっけ」
「あ? あー……たしか、病気治癒だか、そんなじゃなかったか」
「そうなんだ。受験のことお願いしても大丈夫かな?」
「"頑張りますので見ててください"って宣言みたいなもんだ、なんでも良いんだよ」
「へぇー、なるほど」

 宣言。抱負みたいなものか。今年の抱負は、そういえば何にしようか。今までも特に決めたことは無かったけど、『節約、節制、節度』くらいにしておこう。いつも通りと言えばそう。

 私たちの順番が巡ってきた。小銭入れから五円、はもう大丈夫だから、十円玉を一枚取り出し、賽銭箱へ軽く投げ入れる。中央に垂れ下がった鈴の縄を二人で揺らし、ガランガランと鳴らす。この音で神様を呼んでいるのだとどこかで聞いた。二礼、二拍手、そのままお願いごとを頭のなかで唱えて、唱えて、唱える。
 サスケくんと同じ高校にちゃんと合格できますように。私とサスケくんと、サスケくんのご家族みんなが元気に過ごせますように。お兄さんの病気が少しでも良くなりますように。一礼。
 混んでいるからあまり長居しないよう、すぐに賽銭箱の前を離れる。人の少ない空間に移動して、一息つく。

「ふぅ……とりあえず初詣はできたね」
「ああ」

 去年とほとんど変わりないお祈り内容だったけど、毎年祈り続けることに意味があるのかもしれない。

 あとすることと言えば、お札や破魔矢はともかく、お守りなどを買うのと、おみくじを引くくらいだろうか。サスケくんがまた欠伸をして白い息を目一杯出しているので、手短に済ませてしまおう。
 社務所にある売店(と言うものではないのだろうけど)へ行き、並ぶお守りや根付けなどを見る。合格祈願、安全祈願、そして特に効果の記されていないお守り。干支の根付けがかわいいけど、これも効果は分からない。だけど効果の表記が無いほうが、様々な厄を吸ってくれるという意味では一番万能かもしれない。

「なにか買う?」
「そうだな……母さんに根付けと、兄貴に健康守りでも買っとくか。お前はどうする?」
「うーん……おみくじだけでいいかな」
「ああ、おみくじか」

 おみくじ一回百円。今年の運勢を占う、一応大事な行事のひとつ。あんまり占い結果を重く受け止めることはないのだけど、運試しみたいなものだ。
 サスケくんがまとめて会計(と言うのではないと思うけど)をしてくれるらしいから、百円玉を半ば押し付けるように受け取らせる。苦笑されたけど、ほんとにサスケくんは私に甘すぎるんだから、私がちゃんと自分で甘えすぎないようにしなくてはいけないのだ。
 ジャラジャラと音のする、六角柱の木箱。中に入っている番号の書かれた棒を引き、その番号の棚から売り子(と言うのではないと思うけど)の巫女さんがおみくじの紙をくれるのだ。

「はい、六十七番と、二十三番ですね」

 引いた棒はまた木箱の中へ戻され、おみくじ結果を渡される。折り畳まれずに真っ直ぐな、一枚の紙。吉だ。

「吉って良いほうなんだっけ」
「……」
「?」

 大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶。たしかこの順だ。(違うところもあるらしいけど) 私の結果はまずまずだ。特に『学問』の「努力すればよろし」は、言われなくてもするのでオッケーだ。
 サスケくんはおみくじを黙って睨み付けている。あまり良くないことが書かれていたのかと、手元を覗き込む。そしたら見やすいように少し下げてくれた。

「……凶」
「なにをしてもダメだと」

 要約して言うとそうらしい。願望、失物、商売、学問、争事、恋愛、病気、縁談。だいたい良くないことが書いてある。(恋愛の「思い通りにならぬ」は普通なのではとも思いはすれ)
 新年初日から面白くない、と顔をしかめるサスケくん。まあ、気分良くはならないよねぇ、と思いながらも、まあまあと宥める。

「あそこ、おみくじ結ぶところあるよ」
「……結ぶか」
「うん」

 私は結ばなくてもいい結果だったので、おみくじを小さく折り畳んで小銭入れへ仕舞った。先に行ったサスケくんを追い、結ぶのを見守る。おみくじの特別な結び方もなにやらあったと思うけど、この際そこまで気にしなくてもいいか。他のおみくじも特に結び方を気にした様子はない。悪い結果を置いていくことができればそれでいいのだ。

「……んじゃ、もう用事無いな」
「うん」
「帰るか」

 ポケットに仕舞っていた手袋を着け直しながら、境内の鳥居をくぐる。必要なことだけさっとしてさっさと出てしまったけど、もう眠たい時間だし、混んでいたから良いだろう。変に知り合いに会ったりして時間を取られるのも面倒だもの。
 住宅街を並んで歩きながら、街灯に照らされるサスケくんを見上げる。冷えて鼻が少し赤くなっているから、早く帰ろう。

「ああ、そうだ」
「?」
「俺とお前、どっちの家に帰る?」
「え」

 その選択肢はおかしい。サスケくんの家に『帰る』って表現が、私に許されて良いものか。あと、年越しを遠慮したのに年明けすぐの深夜に訪れるのは迷惑ではないか。

「ご、ご挨拶はちゃんと、朝になってから行くよ」
「そうか」

 サスケくんの彼女として、あんまり厚かましいことをしたくはない。去年もお節をご馳走になってしまった。きっと今年もお誘いされるから、少なくともこんな夜中の内にご迷惑をかけるのは避けたい。

「お年玉も用意してるらしいからな」
「おっ、おと、!?」

 お年玉。両親や親戚の大人が、身内の子どもに授けるお金のこと。赤の他人の私が、サスケくんのお母さんに貰っても良いものじゃない。

「そ、そんな、」
「お前にやるの、楽しみにしてるみたいだったからな。断るなよ」
「でも……」

 ポチ袋選びから楽しそうにしていたと、サスケくんは言う。生まれてこのかた貰ったことの無いお年玉を、家族以外に初めて貰う。いいのだろうか。

「俺の家、男家族だろ。娘が増えて嬉しいんだと」
「ま、まだ増えてない。まだ増えてないよ」
「"まだ"な。そのうち増えるだろ」
「ん、んんん……」

 それはまあ、遠回しに『将来結婚することがほぼ決まっている』と言っているようなもので、嬉しいやら恥ずかしいやら恐れ多いやらで、私は唸るしかできない。
 サスケくんのお母さんにも、認められているというか、受け入れられているというか、許されているようで、とても嬉しい。確かに晩ご飯にお呼ばれしたりなど、とても可愛がってもらっているとは思う。だけどお年玉なんて、本当に頂いてもいいんだろうか。

「あんまり難しく考えるなよ。子どもに小遣いをやりたい年寄りみたいなもんだ」
「そ、そんな言い方ダメだよ」
「なら、娘にお年玉やる、以外に無いだろ」
「ん、んん」
「気にすんなよ。ああ見えて母さん、高給取りだからな」

 稼いでいる金額の問題ではないのだけど、たぶん、『遠慮したほうが悲しませてしまうパターンのやつ』なので、きっと受け取らざるを得ない。
 ああ、いいのかなぁ。私なんかが、サスケくんのご家族に、そんなに良くしてもらっていいのかなぁ。嬉しくって、身に余る幸せに、胸が苦しくなる。

「……泣くなら貰ってから、母さんの前で泣いてやれ」
「う、うん……」

 熱くなった目頭を押さえ、滲んだ涙を拭う。そう、まだ早い。感謝の気持ちは、直接伝えなきゃ。
 冷えた鼻をすすって、手袋を着けた手で温める。うちに帰ったら、おばさんにどうお礼をしようか考えなきゃ。私にできることがあればいいんだけど。



 私の家に着いた。送ってもらったお礼を言おうと、門を開けつつ振り返る。するとなんだかサスケくんがとっても近いので、押されるように門の中へ入る。

「サ、サスケくん?」
「早く入れよ寒いだろ」
「う、うん」

 言われるままに玄関の鍵を開け、家に入る。ただいま、と形骸化した挨拶を呟きつつ、狭い玄関を狭いままにしないために、急いで靴を脱いで上がる。そしたらサスケくんも続けて靴を脱ぐから、驚いて足を止める。

「上がって行くの?」
「ああ」
「サスケくん、眠たいんじゃあ……」
「眠い」

 言葉通り、眠たそうに欠伸をする。なら寄り道せずに早く帰ったほうがいいのでは、と思ってから、別の手段が過る。

「……ええと、泊まってく……?」
「そうする」

 やっぱり。恐る恐るした提案は、やや食いぎみに肯定されたから、サスケくんは初めからそのつもりだったんだろう。私の家とサスケくんの家、どちらに帰っても一緒に寝るつもりで。
 ひゃー、と悲鳴に近い感嘆が脳内でこぼれる。サスケくんってば本当に、近頃どうしたのってくらい、積極的だ。出掛けて一緒に歩いている時は手を繋いでいない時間のほうが短いくらいだし、人目さえなければよく抱き締める。現に今、洗面所へ手を洗いに行っても、私が洗い終わるまではそうされていた。嬉しさとか照れとか幸せとか、色んなメーターが振り切れてしまいそうだ。

 サスケくんが手を洗っている間に、玄関の鍵を掛けて、一足先に寝室へ向かう。散らかしていなかったろうか。階段を上がって自室へ入る。
 部屋は特に汚くはなかった。さっき上着を取り出すのに、ハンガーが置きっぱなしになっていたくらい。机の上が勉強道具で占領されているのは、また明日使うので良いとして。そのハンガーに、脱いだ上着を掛けて、所定の位置に戻す。衣装ダンスなんていう大袈裟なものは持っていないので、安い収納ボックスを積み重ねた服入れのてっぺんから下げるだけだ。手袋は……プレゼントで貰った時の袋に戻して、机の端に置く。うん、これで勉強が捗る。

「碧、入っていいか」
「あ、うん。どうぞ」

 開け放したままだったドアから、中を見ないように声を掛けてくれた。それにすぐ返事をすれば、サスケくんが入ってくる。
 カラのハンガーを手に持って待てば、濃紺の上着を脱ぎ始める。それを預り、私のと同じように引っ掛ける。こうして重ねると、サスケくんのコートは大きいなぁ。ポケットからはみ出した手袋を見てまたちょっぴり嬉しい気持ちになったのもあって、口端が上がる。

「……もう、すぐ寝るか?」
「んー……と、そうだね」

 しておくべきことは無かったか、と少し考える。戸締まりはすでにしてある、他の部屋の電気は点けていない、冷やご飯があるからお米は炊かなくてもいい。うん、大丈夫。サスケくんに頷いて返事をして、布団をめくる。あ、布団冷たいなぁ、湯たんぽか何か用意すべきだったかな。

「相変わらず寒いな、この部屋」
「暖房器具が無いからね」
「……凍えて死ぬなよ」
「そうならないようには気を付けてるよ」

 もこもこルームソックス、膝掛け、湯たんぽ、毛布。そういうものを駆使して、この部屋で勉強している。ストーブがあるといつまでもその部屋で点けっぱなしにしてしまうし、湯たんぽの湯の入れ替えタイミングで小休憩できるからいいのだ。そうでないといつまでも眠らずにいてしまうこともある。その方が危険だ。
 明かりを最小にして、冷たい布団に入り、サスケくんのスペース分いつもより奥へ行く。そこへサスケくんが来て、布団を被りつつ、私へ身を寄せる。寒いから肩を縮こまらせて、欠伸も小さい。

「……一人で寝るよりは、早く暖まるはずだ」
「うん」

 サスケくんの腕の中。枕はサスケくんにあげて、代わりに腕に頭を乗させてもらう。胸元へ頬を擦り寄せれば、優しく撫でられる。サスケくんのかおり。大好きなにおい。サスケくんの手。大好きな温度。そう言えば直接素手で触れるのは、今日は初めてだ。なにせずっと手袋をしていたから。

「ふふ……」
「……なんだ」
「んーん。なんでもない」

 嬉しくなっちゃって、笑いがもれただけだ。新年早々サスケくんに会えて、たくさんスキンシップできて、一緒に眠れる。嬉しくないわけがない。

「すごくいい初夢が見れそう……」
「……そうだな」

 サスケくんに抱き付く腕をもっと奥へやって、さらにくっつく。冷たいと思った布団も、サスケくんの温度をよりはっきり感ぜられるのなら悪くない。

「サスケくん……」
「……ん」
「今年も、よろしくおねがいします」
「……ああ」

 こちらこそ、と眠そうに返してくれる。身に余る光栄だよ。

 初夢の、内容まではよく覚えてないけど、とにかく幸せな気持ちだったことだけは確かだ。



(160111)


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