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拗ねる


「おい」
「はいなんでしょう」
「…………」

 日曜日に珍しく電話で呼び出されて、暑い中を自転車でえっちらおっちらと、サスケ君の家にやって来たのだけど、用件も分からぬまま部屋に通され、ただ困惑しているだけの私の様子に、サスケ君はイラついているよう。何故でしょうか。
 おい、と呼び掛けたからには何か話し掛けようとしたはずだと思うのだけど、サスケ君はしかめ面でじとりと睨み付けるのみで、私はますます混乱と不安を募らせる。なんだろう、私が知らない間に私が何かをやらかしたのか? 一体どうやって? 幽体離脱? 察しようにも材料が少なすぎるのだけど、サスケ君はヒントをくれない。

「…………」
「……えーと……」
「はぁ。チッ」

 ええ、ため息と舌打ちが同時に来ましたよ。そんなに怒らせるもしくは呆れさせるようなことをした覚えは、無いのだけれど。せめて理由が知りたい。

「お前に期待した俺がバカだったよ」
「えっ、えっ、」

 き、期待!? 期待されてた!? 何を!? そしてスカしてしまったの!? 知らぬ間に受けていた期待を!?!?
 ちょっと、ちょっと待って。サスケ君が私に寄せる期待といえば、……あのーそのー……ごにょごにょ……である可能性が高い、というか私にはそれしか思い当たらないのだけど、ちょっと待って……。どういう経緯で期待されたのか。何故、『今日』、期待されたのか。何かの日? 今日は……7月、23日……? え、なんだろう……ほんとに分からない。夏休みになったねやっほう! じゃ、ないよね。いや夏休み、夏休みといえば、海? プール? つまり水着……? 水着を期待されていた……? いやいやいや、サスケ君の家に呼び出されて水着、は、無いよね……。ええ? じゃあ何かの記念日? でもまさかサスケ君が『付き合って10ヶ月と何日記念日』とか言うわけないし、じゃあ他っていうと誕生日とか……………………

「…………も、……もしかして、」
「……」
「……本日、お誕生日で……いらっしゃる……?」
「………………。ああ」

 うわあああーーーーーーー!!!!
 やらかしたあああああーーーーーーー!!!!!!

 何もしていないことが一番のやらかしだったようです。
 でも待ってよーー! 事前に聞かされてないよう!!

「うう……知らなかった……」
「……なんだ。てっきり忘れてるだけかと思ってたが」
「だって! サスケ君、いつが誕生日とか教えてくれてない……!」
「聞いてこなかっただろ。だから知ってると思ってたんだ」

 え、あれ……そうだっけ……。聞いてなかったっけ……。電話番号もメールアドレスも誕生日も血液型も、付き合い始めの頃に一通り質問したと思ってたけど、してなかったっけ……? そして全部断られた気がするんだけど、あれぇ……?(電話番号は今日のように呼び出すために、つい最近ほぼ無理矢理登録されました)

「ご、ごめんね……?」
「ったく、使えねー女だな」
「ぅ、酷い……。でも、期待はしてくれてたんだよね」
「、……」

 どっちが悪いってわけでもないと思うんだけど、祝ってほしかったのなら事前に申し付けるようにお願いします。ご存知の通り、そんなに記憶力も良くないし気は利かないし機転も利かないぽんこつですから。でも期待されていたのなら、応えたかったなぁ。

「こんなことなら、新作映画のDVDとか買うんじゃなかったな……」
「……なんだ、金もねぇのかよ」
「面目無いです……」
「チッ、仕方ねえな……」

 サスケ君はしかめた顔を傾けて、ガリガリと頭を掻いた。それからついでにため息も吐いて、いかにも『意に沿わないが仕方なく』という態度をとって立ち上がった。

「俺は居間を片付けておく。その間にお前はその、新作DVDとやらを取って来い」
「えっ、……あげないよ……?」
「いらねえよ! ……それと、飛びきりの『俺を誘うための服』に着替えて来い」

 折角買ったお気に入りの新作映画をあげなければいけないのかと思って身構えたら、どうやら違うらしい。じゃあ一緒に観てくれるのかな。だったら他にも面白いのを持ってこよう。サスケ君と自宅映画鑑賞……はっ! これは……!

 家デートだ!!!!

 デートなら! オシャレな服を着てこいという要求も! 納得できる! わーい!!
 暑い暑い外を汗だくになりながら自転車で往復するのも、デートのためなら辛くない! でもここへ戻ったら一旦シャワーを浴びさせてほしい。くさいとは思われたくないもの。

「サスケ君の期待に沿えるように頑張るね」
「……うるせえな。もう期待してねーよ」
「ぇええ」

 決まりが悪そうに眉をひそめ、唇をへの字に曲げる。ご機嫌が斜めになってしまったようで、どうやら余計なことを言ってしまったらしい。サスケ君の地雷、本当に分かりにくいよ……原因もよく分からないよ……。
 なにやら拗ねた様子のサスケ君を尻目に、私はうきうきと部屋を出る。サスケ君、私が買った映画は気に入ってくれるかな。趣味が合うと良いな。そしたら私のDVDコレクションをたくさん一緒に観たいな。

 結局映画鑑賞どころではなくなるんだろう、とは予感しつつも、それでも楽しみで胸が弾んだ。



(170723)
『確かに恋だった』様より
恋する動詞「拗ねる」


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