勘違いするなよ 慣れてはいるんだけど、やっぱり嫌なものは嫌だなぁ……。 電車を待ってホームで立っていると、男の人の視線がやたらにこっちを向いてくる。おっぱいとお尻がでっかいだけのお腹もぽよぽよなお太り様女ですみません。あんまり見ないでください。 到着した朝の満員電車へと乗り込めば、ぎゅうぎゅうと奥へ押し込まれていく。いつもはもう一本早い電車に乗って、もう少し空間に余裕のある状態で通学しているのだけど、今日はちょっとだけ家を出るのが遅れてしまったのだ。 (……暑い……狭い……息苦しい……) この場に居る全員が思っているだろうことを思いながら、邪魔にならないよう鞄は抱き抱えて、電車に揺られていく。もう絶対に遅れないぞ……と、何度思ったことか。(ちゃんと反省しよう) 一駅着くごとに少しずつ、人が無理矢理乗り込んでくる。そして少しずつ奥へ流されていき、とうとう反対側の扉の側までやってきた。降りる駅ではこちらが開くのでそれは良いのだけど、近くの人に背中をぶつけてしまい、鞄を抱えたまま「すみません」と謝る。 「……紫静」 「! サ、サスケ君」 なんとその人はサスケ君であった。朝に同じ電車で鉢合わせたことは一度も無いので、もっと早い時間に登校しているのだと思っていた。 毎日この時間の電車に乗っているのだとしたら、それは相当な勇者なのだけど、吊革にも掴まれないで満員すぎる電車に揉まれている私は、そんな雑談を切り出すこともままならない。一方サスケ君は扉の側のバーに掴まって、悠々とすらしているように見える。 「う、わわ、」 「…………」 「ぁ、すみません、すみません」 「…………お前、ちょっとこっち来い」 「!」 サスケ君に首根っこを引っ張られて、無理矢理ドアの前まで連れてこられる。よたよたと後ろ歩きで押し退けることになってしまった近辺の人にまた謝り倒してから、サスケ君を見上げる。 「だ、ダメだよこんな無理矢理」 「あのままのほうが周りに迷惑掛けまくってたろうが」 「ぅ、」 サスケ君の一言に、周辺に苦笑いの空気が満ちる。うう、すみません……でもあの状況で真っ直ぐ立ってられる人なんて居ないよ。 もう少し腕を引っ張られて、扉とサスケ君の間に避難させられる。するとそこは聖域のように快適で、他の人にぶつかることもなければよろけてしまうこともない。扉に背中を預けている限りは誰にも迷惑を掛けないだろう。 「あ、ありがとう」 「フン。ほっとけるかよあんなの」 うわーサスケ君が! 私のために! と思ったのも束の間、「デケェ尻で周り弾き飛ばしやがって」だの「足を踏まれた奴が気の毒」だのと、なかなか酷い言われようである。そっちかぁ。 鞄を抱き締めながら心の涙を拭っていると、また一つ駅に着いた。降りる人も多いけど、乗り込む人もそれだけ多い駅。一瞬涼しくなったかと思ったらまたすぐに人の熱で車内が満たされてくる。空いた隙間をグイグイ詰めて来られて、波のように衝撃が押し寄せてくるのが見えた。 「っ、お前もう少し細くなれ」 「はっ、はい」 背を伸ばして占有空間を減らし、鞄を強く抱いてなるべく縮める。その分だけサスケ君も詰め寄って、向こうの扉はなんとか閉まったようだ。 バーも掴めなくなって扉に手を突くしかなくなったサスケ君と、それによっていわゆる『壁ドン』状態になっている私。近いなあ、近いよお、どうしよう。ドキドキして目が泳ぐ。 何よりもサスケ君が壁になって、私を押し潰してしまわないようにしっかり庇ってくれている現状。あのサスケ君が。あのサスケ君が私を守ってくれている。守って、くれて、いる! 「おい」 「はい」 「勘違いするなよ。これは不可抗力だ」 「はい」 「分かってるな? “俺がお前を守ってる”だなんて思うなよ。断じて違うからな」 「はい」 はいはいそうですね〜! ふふ、ふふふ。 鞄を少し持ち上げて、にやける口元を見られないように隠す。だけどとっくに見破られていたようで、重い頭突きが降ってきた。イッッッッたァ……ッ! 「違うっつってんだろが」 「イタタタすみません、すみませんでしたっ」 「チッ」 追い打ちのように足を踏まれて小声で叫ぶ。爪先ちょこっとをかかとでグリグリされたら痛いよホントに。ダメです。 そうこうしている内に降りる駅に着き、後ろ向きに慌てて降りる。後から続けて降りてくる人たちの邪魔にならないよう、またサスケ君に置いていかれないように早足で改札に向かう。待ってよサスケ君、なんて言っても止まってくれないことは百も承知で、それでも声を掛けながら追いかけた。踏まれた爪先が地味に痛くて、今日も元気にいじめられてるなぁ、なんて呑気に思った。 ちなみに後で聞いたところによると、サスケ君もこんな満員電車に乗ることは滅多に無いそうです。 (170709) 『確かに恋だった』様より ツンデレな彼のセリフ「勘違いするなよ」 [←] [→] [感想を届ける!] |