気安く触るな 手を繋いで歩く、というのは小さな夢なんだけど、サスケ君相手にはかなり巨大な夢であるように思う。 「気安く触るな」 割とガチ凹みすることを言われ、偶然を装った接触は失敗に終わった。 今日は金曜日なので、いつも通りにサスケ君の家に連行されている。その道すがら、試しにそろっと手を伸ばしてみたのだけど、案の定というか、無慈悲なまでの言われようである。 「そこまで言わなくても……」 「このくそ暑いのにベタベタしたがるほうがおかしい」 「(…………まあ、クーラーをつけてくれるのかな)」 この後することは、と思ったけれどそれは置いといて。 暑くない季節なら触れてもいいのかといえば、たぶんNOである。結局サスケ君の気分によるだろう。私がすべきは、いかにサスケ君の機嫌をとるか、なんだけど、サスケ君の機嫌が最高潮に良くなるのは、私の心模様があまりよろしくない時(簡単に言うと泣いてる時)なので、難しいなぁ……。 ここまで考えて、何故私はサスケ君を好きなんだろう……? と宇宙を思わせるほど壮大な、だけど素朴な疑問が沸き上がる。なんせ泣かされたり痛い目にあったりと散々だ。それでも好きでいる、というか嫌いになっていないというのは、よっぽど理由がなければおかしい。 「顔……? 性格……? 学力…………?」 「何をぶつぶつ言ってんだ」 「はっ! な、なんでも……!」 「?」 独り言が出ていることに気付かず、声を掛けられて驚いた。こんなことを考えてるなんて知られたら、余計に機嫌を悪くさせてしまう。 誤魔化せてはいないものの、あまり興味はなかったのか追撃はしてこない。ほっとしながらサスケ君を見上げる。 顔は間違いなく好きだなぁ。目元もキリッとしているし、鼻もスッと通っていて、唇もキレイな形だ。輪郭もシャープで、完璧なパーツを完璧なバランスで完璧な枠に収めている。すごい。 性格は……ううんと……褒められたものではないよね。自己中だし、我が儘だし、自分勝手だ。お陰で振り回されっぱなしで目が回る。だけど優柔不断で押しに弱いところのある私は、少しだけその性格に憧れていたりする。少しだけね。参考程度にね。 そして学力。学年一位。とんでもない。せいぜい中の下である私からすると、もう雲の上の人だ。すごい。だけど普段の態度をみていると、確かにちゃんと勉強していて、単にその成果なのである。地頭が良い上に努力も欠かさないので、勝ちようがない。すごいなぁ。ちなみに運動神経も良い。すごい。 「……非の付け所が性格しかない……」 「うるせえよ」 「! う゛っっ…………いっ、……たいっ」 おでこにチョップが飛んできた。丁度骨が当たったらしくて、じんじんと痛む。そういうところだよー! 「暴力反対! サスケ君、乱暴すぎるよ」 「なに言ってんだ、俺に“乱暴”されるのが好きなくせによ」 「なんっ、ちが、そんなことない、!」 「ククッ、動揺しすぎだ」 「〜〜っ」 顔が熱くなるのは、乱暴にされた時のことを思い出してしまったからだ。うう、違うもん……好きってわけじゃ…………。火照った顔を手で覆い隠しながら、動揺を押し込めようと尽力する。 するとサスケ君がずいっと顔を近付けたから、びっくりして足を止める。そのままずいずい道の端に追い詰められて、逃げ場を無くされてしまった。キスでもされそうなほどの距離に、心臓が暴れだす。 「な、に、」 「フッ、嬉しそうな顔してんじゃねえよ」 「!」 し、してない! 断じて! 決して! そう言うサスケ君も嬉しそうに、ニヤリと笑って私を見下ろす。 「帰ったら嫌ってほど乱暴に抱いてやる」 「ぅ、や、やだ……」 「顔が嫌がってねえんだよ」 今度はデコピン。チョップが当たった場所に重ねられたので、痛みが復活してしまった。 「だから家まで待てよ。外で襲われたくないなら、手を繋ぎたいなんて思うんじゃねえぜ」 「っ、……はい……気を付けます……」 いつから気付かれてたんだろう。いや、最初からだろうか。そうでなければ『ベタベタする』って言い方は出てこないはずだもんね。 サスケ君が離れてくれて、ほっと一息。いつまで経ってもあの距離には慣れない。ドキドキと高鳴っている胸に手を添えて、小さく深呼吸。 「ああ、襲ってほしいのならいつでも触ってこいよ」 「し、しません!」 と言いつつ、ほとぼりが冷めた頃にまた挑戦してやろうと思っています。 サスケ君と手を繋いで外を歩くのは、やっぱり小さいようで巨大な夢だ。 (20170707) 『確かに恋だった』様より ツンデレな彼のセリフ「気安く触るな」 [←] [→] [感想を届ける!] |