怪しい美女に気を付けろ
「それにしてもなにモンや、あのコ…!!なんや、ごっつ魔力もっとったで?」

「あんな魔力の持ち主がこのカルデアにはゴロゴロいるんだからな…おそれいるよ、まったく」

「ここは魔法使いの本拠地で、幼い頃から強力なARMと隣り合わせで暮らすのが当然の国ですしね。率いていたのがビショップクラス以下の雑兵レベルの下位兵とは言えわざわざファントム自らが先陣切って襲撃したのは、この国は嘗めて掛かってはいけないと言う評価を下してでの事でしょうし、戦力が厚いと言うのも当然だと思います」

寧ろあのレベルのがまったくいない国だったらそれこそ拍子抜けですよ。

以前の世界のパワーバランスはクロスガード、ルべリアの崩壊と中枢国であるレスターヴァを掌握した事によりチェスの兵隊一強状態。
第1次メルヘヴン大戦で戦力面での致命傷を負ったのはキャプテンであるダンナさんを亡くし、2のおっさんを戦力外にされたクロスガード側。早い話ファントム一人が戦闘不能になった所でクイーンとキングと数名の上級ナイトが生き残ってる以上、ウォーゲームのルールを無視して世界征服を終わらせる事は、以前の戦争で可能だった筈なんです。それをしなかった、出来なかったのは、カルデアと言う土地が最後の関門として残っている事を知っていて、残存戦力だけで全面戦争を行うのは危険だと判断したから。

例えウォーゲームに勝利をしていたとしても、戦力が回復するまでは手を出そうとはしなかったでしょうね。

長ったらしくなりましたが、そうで無かったら長老とドロシーさんのワンマンチームでよくもまあ今まで孤高の存在を保てたなと。言う感想になってしまいます。

私達がウィートの、カルデアの人間について語っている隣ではおっさん達が生きたARM問題について語っていました。

そしてこの一連の流れを、イフィーさんは庵の入口で何も言わずにずっと見ていました。まるで全ての情報を既に知っているかのように、冷静に。

「………とりあえず、中に入って!今ある情報を伝えるわ」

ドロシーさんの提案で、私達は再び庵へと戻った。


59


物知り姉さん事イフィーさんの話によると、あの楔型の巨大なARMは『アースジャグラー』と言う、発動して大地に刺す事により、大地の持つエネルギーを魔力に変えて集める事ができるARMらしい。言うなれば、あれは『魔力集めのアンテナ』と言うところだとか。
魔力を集め、個人では扱えない強力なARMを発動するのが目的なのでは無いかと、彼女は考察を披露する。…但し、これは1本だけの話の場合。
実際は、たくさんのジャグラーを発動させ、想像もつかないくらい『巨大な何か』を発動させることが目的なのでは無いかと、まるで計画の一部でも知ってるかのような素振りで彼女は語る。
街にあるたった1本のジャグラーを発動させるために、カルデア全土を巻き込むと言うのも妙な話ではあるので複数本ジャグラーがある事を前提に考えるのは当然ではあるのですが…

「うわ、そ、その巨大なって…何!?何なのよぅ!!」

そう、引っかかるのはベルちゃんも焦りながら言っている『巨大な何か』
イフィーさんは、複数本の場合はARMでは無く『巨大な何か』の発動と言い直しているのです。ARMのままでも話は通ると言うのに、おかしいですよね?


「あのウィートとかいうチビ一人でそんな大それたことを…」

「しようとしている訳じゃあないだろうな…」

「いくら何でもあの年頃の子供が一人で行動を起こすにはリスクとスケールが大きすぎます。裏で手を引く仲間がいる事を考えるのが自然でしょう」

思えば、そのウィートを知っているかのような素振りも、目の前の女性は取っていました。彼女の別の客人かもしれないのに、何故か彼女は外にいる二人が事情を知っていると言い切っていたのです。今となっては慌てていたので言質を取ったと強気に出れないので突っ込む事も出来ませんが、不思議ですよね?

「身内を疑うのは嫌だけれど…カルデアにいるんでしょ?黒幕がね」

まるでイズネが関わっているのを疑うように、ドロシーさんは足元にいる赤い毛玉に話しかける。当の毛玉は一度だけウモ?と鳴き声を上げると、蚊帳の外の存在とでも言いたげに呑気に毛繕いを続けた。
険しい表情を崩さないままイズネからイフィーさんに視線を戻したドロシーさんは、間合いを詰めて、話を続ける。

「く・ろ・ま・く・…が」

きっと、ドロシーさんは大方犯人の見当は付いているのでしょう。
自分が疑われている事を感づきながら、一切の身動ぎも見せずイフィーさんはドロシーさんと顔を合わせたまま涼しい顔で立っている。

「……そういうことになるかしら。
今、カルデアの魔法使い総出で探しているわ。アースジャグラーの発動している場所を…ね。カルデア宮殿からアースジャグラーの調査隊の令が出て…何隊か、もう調査に出ているようよ」

ドロシーさんが1番欲しかったであろう答えを出さずに、自然にはぐらかした彼女は調査隊の情報を私達に渡してくれる。
ディメンションARMが使えない今、足を使って地道に調べているとか。

「今、ここからずっと東に進んだ所で調査隊がキャンプをはっているそうよ。何か見つけたみたいね」

「よし…それなら、その調査隊に話をききにいこう!!」

「そやね…まずは、状況を整理する事が大切やな!」

「…では急ぐとするか、ギンタ!あのゴッチとかいうモノ…今度会ったら…許さん!!」

キャプテンによる今後の動向の決定に、まずは片っ端から情報を探る事になった私達。急がばなんとかって奴ですね。カルデアの人を赤の他人である私が疑ってもキリが無いと言うか、余計に話が纏まらなくなるのは確かなので、取りあえずそれはドロシーさんに任せて動きましょう。

「ウモ!!」

「あなたも、一緒に行きなさい!」

「え、…いいんですか??」

先程まで呑気にくつろいでいた毛玉が、飼い主の許可を経て何故かパーティー入りを果たそうと尻尾を振っている。

「このコは、埋まっているARMを掘り出すの得意なのよ、きっと役に立つわ」

危険が伴うかもしれないこの状況下で、特に誰も反対の意を唱えずに今までもそうであったかのように、礼を述べたスノウ姫の後ろをイズネは自然と着いて歩く。鈴の音を響かせながら、入り口を潜り外に出る。

「ふふふ。じゃ、みんな、気を付けてね」

何故か着いてくる事になった怪しい毛玉、旧友すらも疑いの目を向けている彫金師。6thバトルの行方。
煮え切らない考えを胸に、私は皆の後に続いて身内同士の話を少しはしたいであろうドロシーさんを残して、再び外に向かう。

「………お邪魔しました?」

「ええ、気を付けてね。ミツキちゃん」

イフィーさんが、手を振って見送ってくれる。
戸締りのされない扉を潜り抜ける。
彫金場特有の沁みついた金属加工の香りが、消える。





メンバーが庵から出ていくのを見届けると、ドロシーは一人、先程ミツキと眺めていた彫金場所に近づき、話を切り出した。

「彫金…やめたんじゃなかったっけ?」

「趣味レベルでは時々作るわね、それと言ってなかったかしら?弟子が出来たって話」

「そんな事今始めて聞いた」と、いつもなら返すであろう返事もせずに神妙な表情でドロシーは彫金場から離れると先程同様イフィーと距離を詰める。

「…イズネ、確か病気で死んだんじゃなかったっけ?」

「幸い、まだ元気よ?見ての通りね」

死んだと聞かされたイズネが潜り抜けた入り口に視線を走らせると、聞きなれた特徴的な鳴き声と鈴の音が外から鳴り響いていた。スノウと遊んでいるのだろう、ドロシーは一息置いた。

「……ま、いいわ。言いたくないなら、それでも。」

何も言わないイフィーを背後に、ドロシーはギンタ達と合流をしようと足を進める。

「できれば…戦ったりはしたくないんだけど?」

「わかっているわ…でもね。わかっていても、わかる訳にはいかないコトって…あるのよ」

何も言わずに、庵を後にする。





カルデアに来ると、ドロシーさんは私の知らない彼女になると意識しだしたのはいつ頃だっただろう。
普段の彼女は、まだ未成年だと言うのにその辺の大人より大人びていて、けれどギンタ君といる時は恋する年頃の女性で、スノウ姫と恋愛絡みで取り合う子供のような一面も所持している普通の女の子です。そんな彼女は自分の故郷だと言うのにカルデアに来るといつも何処か辛そうでした。

それでも、身内の話は身内で済ます事が出来るならそれが最善なのだろうと言うのが、私の意見。

ドロシーさんは身の上話を、世界の命運を左右する大切な話は身内だけの問題じゃあ無いからと正式な場を設けて私達に語ってくれました。

けれど、今回の件は私達に迷惑をかけたくないからと書き置きだけを残して姿を消しました。

カルデアにはカルデアの掟があると言う事は重々承知しています。
以前、生まれた環境が原因で私は性格が歪んでいるとギンタ君に話しました。
そんな考えで生きている私は、生まれた環境に縛られる一種の呪いのような生活を送るドロシーさんを問い詰める気は、一切ありません。
私はドロシーさんが話を切り出すまで、彼女の地雷原である領域に踏み入る事はしたくないのです。

私が入り口から出て間もなく、ドロシーさんは外に姿を現しました。
ギンタ君が早く向かおうと、何時もと変わらない調子で急かしています。

「ごめんね!!さ、行こうか!!」

出来る事は彼女の重荷を少しでも減らせるよう、心身的な負担を別の方法で和らげたい。ただそれだけ。





「ここが調査隊のキャンプだな!」

湧きだす鬱陶しい魔物共を片っ端からぶっ潰し、東へ東へと歩みを進めやってきました怪しいキャンプ地。ここに到着する大分前から感じ取っていた嫌な魔力の波動を全身で感じます。おっさんも同意見のようです。
さっそくキャンプ隊の人の話を聞いて回りながら、ジャグラーの刺さっているであろう場所に移動。調査開始。

「うっひょー!あったあったで!」

「アース…ジャグラー!!」

「2本目…!!」

「うーん、見事に刺さってますね…」

イフィーさんの予想通り、複数本刺さっている事がさっそく確認された『アースジャグラー』
こんな物がまだまだカルデア中に刺さっている事を考えると、頭が痛くなってきます。
てっとり早く関係者を見つけ出して洗いざらい吐き出して貰うのが楽なのですが、そう簡単に現れる訳が無いですよね。さて一体全体どうした物やら。

「まったくこんなもの刺してくれちゃって…商売あがったりだわ…」

先客である私達の背後から、ぶつくさと文句を垂れる声が聞こえます。
当然だと思いますが、他にも、『アースジャグラー』の影響で困っている人がいるようで、同じようにこのうんざりする程巨大な楔を眺めて、嫌な声を上げています。

「…あら??」

え?

「きゃ〜〜〜ドロシーじゃな〜〜〜〜い!!」

ドロシーさんの知り合いであろう、新たな魔女が現れました。
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