後の黒歴史
「え?あ!!久しぶり〜〜〜〜!!」

ドロシーさんの知り合いらしき魔女は、両腕を広げて勢いにまかせて飛び掛かる。
友人との再会に、そのまま熱い抱擁を交わすかと思いきや。

「って、あんただれ?」

お手本にしたい位の突っ込みを入れ、その場で回避。

「いけね、そういや、この顔で会うのはじめてだっけ…」

少しだけ離れた所まで走り、転びかけながら体制を崩した自称ドロシーさんと顔なじみの不振な魔女は、何かぶつくさと呟き、埃を振り払いながら姿勢を整えるとこちらに振り向いた。
その魔女は、癖の付いた翡翠色の長い髪の毛に、広い唾の帽子を被った色気のある美しい姿をしていて

ナナシさんの女好きレーダーに引っかかって面倒な事になるんだろうなと言う事が簡単に想像出来た。


60


「シ、シッツレイいたしました〜
ドロシー様、ワタクシ『ガーニッシュ』と申しまして…『マティア鉱山』の管理をしているものでっす!!」

「お、なんや、色っぽい姉ちゃんやなぁ」

案の定ガーニッシュ(さん)の振り撒く色香に反応している表情筋の緩んでいるナナシさんは無視するとして、また新たに地名が飛び出してきました。ドロシーさんマフィア鉱山…じゃなくて、マティア鉱山って何ですかマティア鉱山って。解説をお願いします。

「マティア鉱山ってのはね…マティア鉱物という、魔力を込めると魔力をストックして光を放つ宝石があるの。ARMを彫金する時に使われたりお守りにしたりするんだよ」

「へぇ〜」

関心したような声でギンタ君が声を上げる。どうもここから西の方にその鉱物が沢山取れる鉱山があるとの事。ドロシーさんが引っ張り出した記憶では歳を取ったお爺さんが管理者を務めているらしいですが、最近、管理者の権利を譲り受けたと、ガーニッシュ(さん)がクドい程身体をくねらせながら説明していました。偏見ですが、若い女性が鉱山の管理をするのって中々に珍しいですね。
そんなガーニッシュ(さん)をドロシーさんが何か言いたげなそれはもう気持ち悪そうな顔で見ていました。

「うわぁ〜、なんや、自分のことも管理してほしいわぁ〜」

「そう言う下ネタを含めたナンパは私達のいない所で思う存分やって下さい。」

案の定口を割り込ませてきたナナシさんに、特に何も考えずに突っ込みをいれてしまう。
スノウ姫が「下ネタなんだ、あれ…」と呆れながら私に話を振ってきました。エドとおっさんが凄い剣幕で私を見ているような気がします。

「ドロシー様、それでですねぇ…マティア鉱山の、一番奥のお部屋…そこが開かなくなっちゃったんですぅ」

「うーん、でもアースジャグ「あああああ!やります!!

!!その扉、ボクが開けます、ボ・ク・が!!」

ハイな状態になってしまっているナナシさんに物凄い勢いで突き飛ばされたドロシーさんは、数歩歩くと手を着いた先でうなだれてしまった。思わず駆け寄り、安否を確かめる。いけない、戦闘ではあんなに頼りになるドロシーさんがギャグ補正で目を回しながら、頭上に鳥を回転させてピヨピヨしちゃっています。それにしても、女性にうつつを抜かす事はあっても同時に他の女性を雑に扱う素振りは今まで一切見せなかったのに一体全体どうしちゃったのでしょう。
あの女、媚薬でも撒いているのでしょうか…?

「おい、コイツ今『ボク』とかぬかしやがったぞ!」

「い、いつもは『自分』って言うくせに…」

「女性が本性を隠すことはよくありますが、アレはちょっと何というか…普段の彼を知っているだけに男のぶりっ子はキツいですね。」

「ナナシさん…なさけないっ!」

上からおっさん、ジャック君、私、スノウ姫。
凄い、私含めて皆暴言しか吐いてません。

「そこ!なんぞ言うたか!!」

聞こえないような位置で陰口叩いていたのに、どうしてばっちり聞こえているんですか。地獄m(ry
ジャック君が慌てふためいて「いや、何でも…」と怯えていました。

「ナナシさんとおっしゃる?手伝ってくださるのぉ〜〜?」

「もっっっっっちろん!でしょ〜〜〜〜〜!!!もう手伝っちゃいますわ!ガーニッシュちゃんのために!!」

「きゃ〜〜〜〜〜!!!大好き〜〜〜〜〜」

私の位置からは、ガーニッシュさんのつばの広い帽子が邪魔していてよく見えませんが、恐らく二人はマウストゥマウスで暑苦しい接吻でも交わしているのでしょう。テンプレートな接吻の音がこの辺り一帯に鳴り響いています。それはもう鬱陶しい程に。

ここは酒場やベッドの中どころか問題の起こっているキャンプ地で今午前中なのですが。一体私達はピンク色の何を見せつけられているのでしょうか。
さっきから引くだけ引いて会話に参加する事をついに放棄したアルヴィス君何か言ってください。

「すまん、色恋沙汰は専門外だ。」

逃げるな。

「よっしゃーーーーー行くでーーーーー!!ほれ、ドロシーちゃん!寝てる場合やないで!!」

ナナシさんに名前を呼ばれ我に返ったドロシーさんは、はてなマークを浮かべながら頭を擦るとその場からよろよろと立ち上がった。頭上を飛び回っていた黄色い鳥は、はてなマークに押し出され、落下して数回地面を跳ねるとスッと消えた。
ここに来てから見かけるあの鳥一体何者なんでしょう。
そんな訳で毛玉の次にガーニッシュさんとか言う怪しげなお色気担当の美女が勢いのまま仲間入りし、マティア鉱山に向かう事になったのでした。
鉱山まで引き続き私の護衛でお送り致します。





西へ西へと進み、そう苦労せずに到着しましたマティア鉱山。ガーニッシュさんを褒め讃える鉱山の警備員と相変わらず情けないナナシさんの会話劇は割愛。
問題の事故ぶっけ…事故現場へと足を進めます。

「うわ〜壁が紫色に光ってるぞ!」

「ホント!綺麗だね〜…見ていると吸い込まれそう…」

青い壁に囲まれた鉱山は二人の感想通りいたる所から紫色に光る透き通った鉱石が飛び出ていて、うっかり突き飛ばされたらその先で突き刺さって死にそうな事を除けば中々に幻想的です。

「そんで?ここの、どこがどんな風にあかんわけ?」

「ぜーんぶ、よ、全部」

「ぜ、ぜーんぶ??」

ガーニッシュさんの話によると、例のアースジャグラーが刺さった時にカルデア諸島全体に地震が起こったそうで、各地に被害が出ているとか。夜遅くの出来事だった為幸い怪我人は出なかったもののマティア鉱山では落盤事故が起こってしまったとの事。

そしてどう言う原理かさっぱり理解出来ないのですが、最下層にある保管庫を開けてマティア宝石とARMを取り出さないと再び落盤してしまうらしいです。

さらにどう言う原理か、これはまだギリギリわかるのですがこの鉱山は雷属性と相性がいいのでナナシさんは今絶好調らしいです。ARM彫金に使用される鉱物との事なのでおそらく通電性が高いとかそう言う類の物でしょう。

魔法って理屈で説明し切れない事も不思議パワーで無理矢理納得できますから凄いですよね。脳みそ麻痺しそう。

落盤絡みでエドワードが生き埋めになったらどうするんだと騒いでスノウ姫に宥められていました。
真面目な話クッションゼリーで何とかなりますよ、きっと。

遠足観光気分ではしゃいでいる14歳組や常にジェットコースター気分のエドワード、ひたすらイチャついているナナシさんガーニッシュさんに苛立ちを隠さないドロシーさん(嫉妬では無い)と、カオスな人間関係が作られている中洞窟内にも湧いて出る魔物共をぷちぷち潰し、そうこうしている内に落盤のあった地下一階へと辿り着きました。

「うーん、こりゃ通れへんねぇ…」

「見事に封鎖されていますね。」

落盤地は1つの巨大な岩が大量の土埃と瓦礫と共にそこに鎮座していて、何ともまあ見事に通路が封鎖されていました。相変わらずガーニッシュさんが身体をくねらせながら、どこもかしこもこんな状態だと微妙にトーンの下がった声で説明を入れてくれます。

「ケ!なんだぁ、こんなもん!!オレ様の『エアハンマー』一発であとかたもなく消し飛ぶぜ!!」

さっさと事を終わらせたいおっさんが得意気にARMを構えてすぐにでも破壊しようと魔力を練り始めます。
やる気がある所非常に申し訳無いのですがディメンションARM使えないと言う話は一体何処に行ったのでしょうか。

「だめだよ!そんな衝撃を与えて他の場所が崩れたらどうするの!?」

「私達はクッションゼリーでも発動して貰えば安全でしょうが。」

スノウ姫の言うことには強く反論出来ないおっさんは舌打ちをすると、かったるいと言いながら他の道を探すことに渋々同意しました。
いや本当さっさと終わらせたいのは皆同意見なんですけどね。私達は世間的に言えば正義の味方ですから遠征先で民間人を巻き込むような真似できる訳無いんです。

目的地の地下へと辿り着く事は困難な状況だと把握した私達は、1階にもあると言う落盤した部屋へと向かう事になりました。そこが一番被害が大きいのだそうです。
ぞろぞろと大人数で来た道を戻り、先ほどスルーした脇の通路に入ると、地下1階同様見事に落盤していました。
地質学者でも何でも無いので正直どっちの方が被害状況が上なのかは私にはわかりません。

「…あれ?これ、地下と繋がってるんちゃうん?」

さすがと言いますか盗賊稼業をやってる方は地形把握が早いですね。
こんな状況じゃなければ格好いいのに。
ベルちゃんが岩の合間を縫って確認に向かいます。

「どれどれ…うん!繋がってる繋がってる!もうひと転がりで下に落っこちそうな感じ!」

「そら危ないな…下の階を降りる時は気をつけなアカンね」

落っこちそうですか…な、何て危険な事を…
わかりきってはいた物のあまりにも危険な発言に何だか頭がおかしくなります。何度目かの目眩って奴です。ふらふらします。

「ミツキ?」

足元がもつれ、その辺の鉱石の飛び出た硬い壁に頭を打って勝手に死にそうになると、
誰かの懐に寄りかかる形になり、そのまま支えられました。こんな外れクジを引かされた不運な人間は誰かと言うと、声を聞けばわかります。アルヴィス君です。彼相手にこんなラブコメ地味た展開になるなんて珍しい。

「お前大丈夫か?様子がおかしいぞ?」

「様子がおかしいのは何時もの事ですから…」

「冗談言ってる余裕があるなら大丈夫そうだな」

「はい…」

そう言えばアルヴィス君は高所恐怖症を発症して私が本格的に体調崩す所を見るのは初めてでしたっけ…
4thバトルはそれ以前の問題でしたし…

戻って来たベルちゃんが「顔に青い縦線入れてる人初めて見た…」とアルヴィス君同様心配しているんだか呆れているんだかわからない声色で同情してくれました。

「ふぅ〜〜…また採掘出来るまでどれくらいかかるのかしらぁ…ね、早く、し、て、ナナシさ〜〜ん。」

「おほ!まかしとき〜〜な!!」

それにしてもこっちは相変わらずですね。出会ってからそう時間が経っていないのにもうお腹いっぱいです。大人の世界って、とにかく展開が早い。
ドロシーさんのイライラも最高潮です。

「しかし、崩れでもしたらやっかいや…急がんとな。
…お!いいこと思いついたった!この目の前にあるごっつい岩…上から落としたら、どやろ!?」

「ど、どやろ、って言われても…」

「そりゃ確かに、もうひと転がりで落ちてきそうではあったけど…」

ナナシさん以下ベルちゃん、ジャック君。
ナナシさんの提案は目の前の岩を落として下のガレキ共々粉々にすると言う至ってシンプルな物。落ちた衝撃で落盤しそうな辺りおっさんに破壊して貰うのとそう変わら無さそうですが話は進んで行きます。

「岩をチョイと動かせる道具ってないもんかなぁ!?ガーニッシュちゃん知らへん?」

「そ〜ね…それだったら、ポップンボムなんてどうかしら」

「そんなところが定番かしらね」

凄い、さっきまでまるで会話をしていなかった魔女二人が地元民にしかわからない内容を喋ってる…

「ポップンボム??」

「リズムゲーの亜種か何かですか?」

「リズム…何???顔色悪い異界のお嬢ちゃん訳のわからない事言うわねぇ…。」

「え?すみません。」

何でしょう、訳がわからないのはこっちも大概なのに先に言われると何か負けた気分です。

「…まあいいわ。お祭りや、パーティーなんかで使うおもちゃみたいなものよ。
可愛らしく『ポン!』って弾けるけど岩を動かすくらいの力はある!」

「つまり魔法版の爆竹みたいな物ですか。」

「爆竹今の時代売ってねえだろ。」

「異界の人間二人にしかわからない事言われても反応に困るわよ〜ねえドロシー…様。」

「え?あ、うん。」

「え?すみません?」

「あれ?オレも謝った方がいい奴?」

取りあえず二人でよくわからないまま謝った。
魔女のお二方によると、ポップンボムは街に売っているとの話。
正直ガーゴイルかなんかで押した方が早そうですがもう余計な事は言わないでおきます。

「私買いに行きましょうか?外の空気を吸いたい気分なので。」

「場所わかる?着いていこうか?」

「大丈夫だとは思いますが慣れない土地なのでお言葉に甘えて、お願いします。」

「待って!ミツキとドロシーが行くなら私も行く!」

「姫様が行くのでしたらワタクシめも!」

「ウモ!」

女子会のノリですか?
あれよあれよと人数が増え、アルヴィス君とベルちゃんも一緒に出る事に。
ギンタ君とジャック君は洞窟内をまだまだ堪能したいので残るそうです。ガーニッシュさんとナナシさんは割愛。ついでにガーニッシュさんにこれまたデレデレしているバッボも割愛。
そんな訳で洞窟に残る組と買い物に出る組ですっかり二組に分かれました。
見送られて、さて外に出るかと言う所でおっさんから声がかかります。
いつものスノウ姫過保護のアレでしょうか?

「葉巻買ってこい、銘柄はそこの犬が知ってっから。」

未成年と犬に買いに行かせるな。
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