彫金師への通り道
イフィー庵に向かう途中、ドロシーさんの言う通りうじゃうじゃと鬱陶しい程の魔物と遭遇する。

「ARMを使うまでも無いんですけど、」

何度目かわかりませんが正面から襲いかかってきた人狼の顎に一発掌を叩き込む。脳震盪を起こしその場に崩れ落ちた。

「こう何度もエンカウントするのは、」

背後からの攻撃は体を軽く反らして、回避しつつその遠心力を利用して回し蹴りで蹴散らす。

「ちょっと鬱陶しいですね。」

戦意喪失し、目を回す人狼を足元に一息着いた所でぱっぱと掌に付着した体毛を払った。

「おいミツキ。」

「なんですかおっさん。」

おっさんからお声がかかりましたが立ち止まってる暇は無いので歩きながら話を進めようとすると再び魔物が飛び出して来ました。次の魔物討伐はスノウ姫の番なのでそのままおっさんの話に耳を傾けます。

「お前次から…『スナイパー』?あれ使って蹴散らせ。」

何を言い出すのでしょうこのおっさん。あんなクソ雑魚ナメクジ共相手にARMなんて贅沢すぎます。

「使うと疲れるのであんな雑魚相手にいちいち発動するのは嫌です、体力と魔力と精神力の無駄です。」

「だからだよ、お前、そのARMまだ使いこなしてねぇんだろ?動き回る的を最小限の力で倒せるようにしろ。修練の門が使えない今はこれが修行だ。いいな?」

修行…
帰ってから修練の門でどうにかするつもりでしたがおっさんの言っている事はまあ理にかなっていますし、そんな事言われたら断れないじゃないですか。

私がどうしようも無い程弱いのは否定出来ないので(一時期はロランと戦わされかけたくらいには実力があったような気がしますが)一言返事でしぶしぶ了承する。

「つー訳でここからはミツキが雑魚掃除担当だ。お前ら、手ぇ出すんじゃねえぞ。」

はめられた。
「あー楽ちんだなーっと。」ニタニタ笑うおっさんにいつか一発撃ち込んでやろうと思いました。


57


ずごんばこんどごん。

飛び出す魔物を一撃で倒す為容赦なく実弾の無い弾を急所目掛けて撃ち込んで行きます。追尾機能のお陰で障害物に邪魔さえされなければ外れる事は無いとは言え、キャンディス戦の時にも説明しましたが適当に撃って狙った的へ正確に追尾して狙撃出来るほどこのARMは強力ではありません。

撃ち込む度におっさんから打ち込むスピードが遅いだの今のは威力過多だの軸がずれてるから倒しそこねるんだのヤジを入れられます。
ARMなのである程度向こう(現実世界)の銃よりは扱いが簡略化されてるとは言え私はただの一般人。日本じゃ特別な手順を踏まないと扱うことが不可能な物をこっちに来て初めて構えたのです。(と言うかこんなファンタジックじゃ無い物が何故メルヘヴンにあるんですか)
本当は明後日の方向に飛んでいってもおかしくないのです、流れ弾がおっさんに当たってもおかしくないのです私はミツキ13では無いのです。

「ぶつぶつ言ってねぇでほら、また出てきたぞ。」

わかりましたわかりましたよ。
こんな修行さっさと終わらす為に私は再び銃を構えた。
ずどん。

そんなこんなでようやくイフィーさんとやらが住んでいる手前の森の入り口までたどり着く。
カルデアから北西だか北東の位置に存在しているこの森を抜けて少し歩いた所に目的のイフィー庵があるのだとドロシーさんが言ってました。

魔物討伐要因の私と案内役のドロシーさんを先頭に緑に囲まれた道を適当に雑談しながらぞろぞろと進んで行く。

白菜の出来損ないのような魔物が襲いかかってくる度返り討ちにして行くと、何処からか澄んだ鈴の音が鳴り響いた。

「……あら??」

「なんスか?この鈴みたいな音……」

「なんでしょう?」

「あ!あそこ!」

ギンタ君がいち早く正体に気付き、スノウ姫がかけよると、今まで出会った魔物とは違う雰囲気を持つ『それ』は距離を取ろうと後方に下がります。

「あ!待って!

…ほら、おいで?こわくないから…ね?」

スノウ姫が体勢を低くし、敵意の無いことを示すと警戒を解きながら『それ』は少しづつ距離を詰めました。
危ないですよ、罠だったらどうするんですか。

「おっさん、射殺した方がいいですか?あれも魔物の類いで罠かもしれません。大丈夫、スノウ姫には当らないよう調節は出来ます。」

銃を構えレーダーを使い『それ』にうまく照準を合わせ、いつでも撃てる準備を整える。

「正体がわからねぇ今、それも選択の1つなのは確かだが…」

もうっ、おっさんはスノウ姫に甘いですね。

「キャー!!ギンタみてみて!このコ、ふっかふかだよぅ!」

物騒な会話がされてるとも知らずにスノウ姫はそのウモウモと変な鳴き声をあげる赤い毛皮の小動物を抱き上げ、撫でまわす。
それを見て何かに気付いたのか、ドロシーさんが口を開きました。

「…あら?このコ……」

「ドロシー、こいつ知ってるの??」

「え、ええ…」

「害が無いのならARMを下ろしますが。」

「そうね、このコなら…大丈夫…」

困惑したように何か考え込むドロシーさんを目にARMを下ろす。知り合いの愛玩動物にでも似ていたのでしょうか。それも…

もうこの世にいない。

なーんて事を深読みしているとジャック君があの小動物に付いている首輪型のARMに気付き、見せてみろとスノウ姫に近づきます。
触れようと首輪に手をかけると、うなり声を上げて小動物はジャック君に噛みついた。
スノウ姫が「乱暴に触ろうとするからだ」、と抗議の声をあげる。

「わ、わるかったよ…イテテテ」

「そうそう、こうやって優しく優しく…ね?ん〜どれどれ?ちょっと見せてみ…

んあたー!!」

多分ジャック君よりは優しい、と言うより慣れた手付きで首輪に触れるとドロシーさんもうなり声を上げた毛玉から攻撃を受けた。

「もう!ドロシーの性格がわるいからだよっ!!」

「そうね…わたしの性格が腐りきってるから…ごめんなさい…
…っておい!!」

自覚あったんですね…
一応言い訳じみた事を言っておきますが私にとってあくまでスノウ姫ら超善人と比べて、と言う意味で、です。

「でも…ちょっと見せてもらえる?」

すっかり懐柔された赤い毛玉はスノウ姫の頼み事には素直に聞くようで、あの変な鳴き声をあげて了承すると抵抗せずにARMをされるがままに見せる。

「………見たこと無いARM。」

まあカルデアの得体の知れない毛玉が付けているARMですしね。
この中じゃドロシーさんくらいしか知ってる人はいないんじゃないでしょうか。

「…どれどれ?」

スノウ姫のお陰で全貌が露になったARMを、ドロシーさんが覗き込む形で確認する。

「ああ、これはね、ホーリー…」

そこまで言って、彼女の表情が強張った。

「…ホーリー…
…ホ…
…」

口ごもりつつ徐々に険しくなるドロシーさんの表情を不振に思ったのかおっさんが口を挟む。

「??どうかしたのか?」

「…別に…ほら!先をいそぐわよ!」

この毛玉と出会ってから何処か様子のおかしいドロシーさんは、何事もなかったように、毛玉から顔を背けると私達の側を通り越して歩いていく。
何か隠しているのでしょうか。
勘のいい方々は同じことを考えているのでしょう、ひそひそと、話し声が聞こえた。

まあ、どうでもいいです。今の私達の目的と、この小動物はかかわり合いが無いでしょうから。

さよなら『赤いの』
私のような人でなしに射殺されないよう精々気を付けてくださいね。

こんな余談はさっさと打ち切って本来の目的を達成する為に、ドロシーさんの後を追って先へ急いだ。

急いだのですが。

「…このコ…ついてくるよ!」

「気に入られたみたいっスね。」

こんな出来事、捨て犬を拾う時に親を説得する為の口実だけだと思ってたのですが…
嘘のような本当ってあるんですね。
関心していると、前方を歩いていたドロシーさんから声があがった。

「よし、じゃあ連れていこうか!
…ちょうどいいといえばちょうどいいしね。」

「ちょうどいい?」

ギンタ君が疑問をぶつけると、表情を崩さずに「いずれわかるよ」、とだけドロシーさんは言葉を返した。

いずれ、ですか…。
私達の行動理由を考えるとおそらく「イフィー」さん関連の何かなのでしょうが…

「…ギンタ、いいよね?」

「おう!もちろんいいぜ!」

スノウ姫がギンタ君に了承を得ると、案の定提案は受け入れられたのでこの毛玉は誰の反対も無くパーティー入りする事になりました。
一応ドロシーさんの知り合いらしいですから危害は無いでしょうし、皆さんスノウ姫に甘いですからまあ、こうなりますよね。

「かわいいなぁ!チーム『メル』のマスコットだな!」

いずれ別れる事になるのにマスコットも何もあるんでしょうか。多くてもカルデアの問題を解決するまでしかいられないでしょうに。

似たような事をアルヴィス君辺りが辛辣に言うと思ったのですが、予想に反して思いがけない所から声が上がりました。なんと、その正体はエドワード。

「ちょ、ちょっとお待ちいただけますかな?」

「うん?」

「メルには、とてもかわいらしいマスコット…わ、ワタクシめがすでにいるではないですか!!」

なんでスノウ姫直属の家臣であるあなたが大人げもなくそんなどうでも良いことに張り合おうとするんですか。「チームメル」のエムブレムにもなっているバッボならまだ理解出来ますよ?
と言うかマスコットのつもりだったんですかあなた。
知りませんでしたそんなの…

エドがマスコットがどうのと主張してドロシーさんに色々言われて騒いでいるのを方耳に入れながら、注目が反れている内に例の小動物に目をやる。

「………」

ドロシーさんのあの煮え切らない態度を見たせいか、のんきに毛繕いをしてウモウモ鳴いている一見害の無さそうなこの赤い毛玉が、どうも私にはここに来てから倒していった魔物以上に気味の悪い生き物に見えています。

これは今回のカルデア全体の問題では無く、あくまでドロシーさん個人の問題でしょうからあまり踏みいっても仕方がないのでなるべく考えないようにしなければいけないのですが…。

「どうした?ミツキ。あいつの事なんか気になるのか?」

「え?ああ、私、動物に好かれた試しが無いんです。」

エドのマスコット談義が終わったのか、ふいにギンタ君に話しかけられたので適当にそれらしい理由をでっちあげて返答する。

「うーん、でも、このコはきっとミツキと仲良くなれると思うよ!」

「ならいいんですけどね。」

毛玉を抱き上げながら言う何の根拠もないスノウ姫の言葉に返事をすると、「はい!」とそのまま手渡される。
あー、今ですか、今仲良くしろと、言いたいんですか。
余計なことを言ってしまいそうなのであまりこの毛玉とは関わりたく無いんですけど…

断るのもなんなので手渡された毛玉を懐に抱えると壊れ物でも扱うように撫でてみる。生き物特有の鼓動と体温を感じて、この毛玉は実は死んでいて、タトゥの力でゾンビにでもなっているんじゃないかと言う頭の隅にあった考えは杞憂に終わった。

そうですよね、あの首輪のARMがクイーンの与えたホーリーARMで、それがゾンビタトゥと同様の効力があるだなんて事ある筈無いですよね。

きっとドロシーさんがこの生き物に抱いている考えは、もっと別の物なのだろう。それに、

「死体を生き返らすARMなんて物があったら、バランスブレイカーどころの話じゃないですしね。」

真っ先にチェスに狙われてもおかしくないですし。

誰にも聞こえないように、独り言を呟く。「何か言ったか?」と聞かれたので「ただの独り言です」と顔を上げて答える。
するとそれまで大人しく撫でられていた「毛玉」が、身体を強張らせると勢いにまかせて牙をむいた。

「っっいったぁあああああああっ!!!何するんですかああああぁぁああっ!!!」

指に激痛が走り、思わず叫ぶとこの場にいる全員が驚いて私に視線を走らせる。
責任を感じたのか真っ先にスノウ姫が私に駆け寄り安否を確かめた。

「だ、大丈夫。こ、この子は私に怯えてるだけなのでっ!ね!?そうでs…ああああああ痛いっ!やっぱ無理無理無理、無理です!」

私にはどっかの風の谷のお姫さまのように噛みつかれてから離れるまで待てる寛大な心は無いんです!
いくら待っても離さない小動物に痺れを切らし腕を乱暴に振り回すとようやく指から牙が抜けて、そのまま小動物はスノウ姫の所にふっとんでいって彼女の腕に収まりました。
なんてことですか、癒しの天使を使うまでは行きませんが指から血が流れてます。

「ミツキ、ごめんね…」

「あまり気になさらないで下さい。きっと相性が悪かっただけですから。」

「少し噛まれたくれぇで大袈裟だな。おめぇダガーが手のひら貫通しても涼しい顔してたじゃねえか。」

「戦闘とそれ以外を一緒にしないでください」

べつにあの時(3rdバトル)だって涼しい顔するほど余裕なんてありませんでしたよ何を言ってるんですか。

「舐めればすぐ治るで。」

「あんな得体の知れない動物の唾液が付着した傷口を舐めるなんて冗談じゃありません。」

「嫌なら代わりにやったろか?」

「本当に行動を起こしやがりましたらそのまま口の中にARM発動のプレゼントをくれてやりますからね。拒否権はありません。」

手を取るナナシさんに半分キレながら脅しにかかると謝罪を入れながらひきつった顔で2、3歩後退する。
アルヴィス君が呆れた顔で私達を見ていた。

ああ、もう!
この苛立ちはまーた目の前に立ちはだかってきたあの魔物で発散するとしましょう。
おっさんに何か言われた気がしましたが今は耳が遠い事にしときます。

そして再び森に銃声が響き渡った。





「ドロシー!ここだな!?」

森を突き進み、抜けた先に出ると明るい緑色の屋根が目立つ、木造作りの一軒家がポツンと建っていた。
誰がみても、「ああ、あれが『イフィー』庵なんだな」とわかるその庵に近づきながら、ドロシーさんいわく、風変わりな「ヤツ」である「イフィー」さんについての雑談をしていると、あの小動物が私たちを置いて庵へと走っていってしまった。

「…あ!」

「こいつ、この家知ってるのかな?」

「いずれわかるわ。カギなんてかけてないと思うからおじゃまさせてもらっちゃいましょう。」

貴重品を囲ってそうな彫金師がそれってどうなんでしょう。

カギどころか半開きになっている扉を目に入れながら、入り口前にあるステップに足をかけそんなことを考えた。

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