弁当騒動
せめてドロシーさんと話だけでもと思い、ナナシさんのアンダータを使って再びカルデアの地に足を着けた私達チームメル。

カルデアの中枢であろう空中要塞の浮かぶドロシーさんの生まれ故郷は、規則的に積み重ねられた石の壁でぐるりと囲まれ中に入るには唯一の出入口の前に存在する二人の門番に滞在許可を取るのが条件だと、ファントムに抱えられてカルデアに不法浸入する羽目になった日の夜にレギンレイヴ城の女子部屋でスノウ姫とドロシーさんが言っていました。

ギンタ君が跳ねるバッボを片手に「ドロシーに用があるから通してくれ」と言い、真っ先に門番へと近付く。

一度ドロシーさんを介して正式な方法でこの門からカルデアに入った事のある私以外のメンバーは顔見知りである門番によって簡単に滞在許可を得ることが可能な筈でした。

門番は近づいてくるギンタ君との距離をギリギリの間で見極め、持っていた得物をくるりと回転させてギンタ君へと突き付けた。


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そもそも門前払いを受ける羽目になってしまった原因は以前カルデアに来たときに顔を合わせたと言う門番がどっかの誰かさんのせいで死んでしまったからで、当然ながら新しく配備されたのは顔見知りでもない全くの赤の他人。カルデアは世界状況に感心が無いのか私達はチームメルだのドロシーさんの知り合いだのレスターヴァの後継者だのの顔パスが通用せず、門の前で門番と言い合いをする羽目になった(ギンタ君が)

その言い合いの場から少し離れた場所でわざと聴こえるように、時たま門番をチラチラ横目で見ながら私たちは浸入法を試みる意見を出しあっていた。

「アンダータで直接入ることは不可能なんスかね?」

「可能だとは思うが間違いなくカルデアを敵にまわすだろうな。」

「そうだ、ナナシさんやってみてくださいよ。」

「ミツキちゃん、人の話聞いてた?」

「危険を犯してでも未知の世界に足を踏み入れて貴金属やARM、たまに薄幸の美少女の心を盗んで縄と手錠を持ったクロスガードに追い回されるのが盗賊の仕事ですよ。問題なんて何処にもありません。」

怪盗の受け売り文句だとは思いますが、怪か賊が先に来るか後に来るかの違いですしこの主張は大丈夫でしょう。

「ミツキ、犯罪教唆も立派な犯罪だ。いくらナナシが盗賊でお前が異世界の住人だろうとオレとアランさんの前でその発言は見逃せないな。」

変な所で冗談の通用しないアルヴィス君に「そういうの、今はいいんでちょっと黙っててください。」と言い放ち、ナナシさんに向き直る。
ベルちゃんの抗議の声が聞こえた。

「可愛い女の子が沢山いた気がしますし、貴重なARMもありますから入れれば天国ですよ。」

「ほー、カワイイ女の子…そうかカワイイ女の子…カワイイ女の子…カルデア…敵…カワイイ女の子…カルデア…」

こんな不穏な会話を目の前で繰り広げられ、実行に移されて困るのは門番二人だった。
現在の私達はメルヘヴンランク上位のARM使い。ドロシーさん以下の実力であろう門番二人が本気でかかっても意味が無いことは容易に想像出来ます。
非常に厳しいと噂のカルデアの掟。みすみすと外界の人間に侵入されたあかつきには職の解雇だけでは済まされ無いでしょう。

この甲斐あって門番は掌を180°忙しく回転させ私達をチームメルだと唐突に認識、かくして私達はドロシーさんの仲間(子分)だと認めて貰えたのでした。

そして交渉の結果、門を通す為の彼らの出した条件は、魔物に奪われた弁当の奪還。

目を離した隙に奪われたのかその手から直接奪われたのかはわかりませんが、厳重になった筈のカルデアの警備に問題が生じている現実に、少しこの国の未来が心配になった。





普段私達はチェスの兵隊相手に戦っているので忘れていますが、ここはメルヘヴン。人の住む集落から離れれば人外の魔物がうじゃうじゃひしめいています(と、おっさんが言ってました)。

人間に危害を与えない魔物もいるとおっさんは言っていましたがそれはお察しレベルの割合だけ。ギンタ君がジャック君と出会った時に一度戦った人狼もお察しレベルの割合外の一つだったとか。

雑草が左右に避けて作られたように見える土が剥き出しの道を歩きつつ、私達は「どうせみつからない」と高を括りながら弁当箱を持つ魔物を探す。

「あ」

程なくして見つからないと軽視していた弁当と、「ギンタ君達こんなのと最初に戦ったんだろうな」と想像出来るような人狼な魔物2体が視界に飛び込んだ。

ギンタ君が「返せ」と交渉もせずにバッボを投げ、バッボも「弁当を返せ」と声を上げる。バッボが人狼の足下に落下すると、その衝撃で弁当の中身がここからでも見えるように魔物はその場からよろけた。
そして魔物は頬を膨らませ口の中をもごもごと動かしながらギンタ君に顔を向ける。

「もう食ってるー!?」

「ギンタ!これ以上食われる前に取り返すぞ!!」

「助太刀するッス!」

殆ど中身の残っていないであろう弁当奪還の為、ジャック君が参入しギンタ君が魔物に立ち向かって砂埃を上げているその後ろで私達は弁当をどうしようかと話を進めるとおっさんが一つの案を出しました。

「マラライダケでも詰めとけば誤魔化せるだろ。」

警察的組織クロスガードの現在のトップが薬物的キノコを弁当に詰めて渡せとかなんてを事言うんですか。

「培地はおっさんがやって下さいね。」

当然ながら却下されました。

「どうだ!」

「おろか者め!人様の物をうばって食うなど今後いっさい、してはならんぞ!!」

少し目を離した隙に、決着は着いたようでした。
砂煙が上がると魔物は二人仲良く積み重なって、目を渦巻きながらうめき声を上げていた。





「ほれ!弁当取り返して来たぜ!」

ほぼ一方的にボコボコにして奪還した魔物の唾液が付着した殆ど空の弁当箱を片手に、来た道を重い足取りで戻ると何事も無かったかのようにギンタ君が布に包まれた弁当箱を差し入れでも持ってきたかのように門番に差し出しました。
無理難題を吹っ掛け、返ってくるとは微塵も思っていなかったであろう門番二人は少々動揺しながら「なに!」と叫び、差し出された弁当を受け取り顔を見合わせながらその中身を確認する。

「……………!
中身がカラだ!!食われているじゃないか!誰が食べたんだ!正直に言ってみろ!」

ギンタ君が「やっべ、バレちまった…」と言わんばかりのばつの悪そうな顔でこっちを見ます。それを合図に考えておいた机上の空論のようなものを捲し立てる為に口を開く。

「ギンタ君、隠さなくてもいいんですよ。本当の事を言いましょう。弁当なんて最初から無かったんです。」

一歩前に前進しつつそう言うと「何言ってるんだこいつ」と言わんばかりの視線が門番により突き刺さる。

「だってよく考えてみてくださいよ。交渉とは言え頼み事をしておいて盗んでいった魔物の特徴も弁当の特徴も伝えず、当ての無い捜索に向かわせるなんてちょっとおかしいと思いませんか?」

「いや、でもそこに弁当箱はあるじゃん。」

「それがそこの門番二人の物って証明出来ます?私達は何の罪の無いちょっと早お昼を食べていた魔物の弁当、それかまったく別の案件で盗まれた弁当を勘違いで持って来たのかもしれませんよ?」

「そう言うの屁理屈って言うんだぞ。」

「じゃあギンタ君、警備強化の為に投入された
『選ばれし』『カルデア』の『超エリート』が『ポーン兵以下の魔物』ごときに
昼食を盗まれるなんてありえると思います?
戦闘を介して盗まれても、気配を極限まで消して隙を着かれて盗まれても、はたまた口巧みに騙されたとしてもカルデアの警備に不備が生じているって時点でおかしいんですよ。あんな事があった後にこんなことが本当にあったら普通即クビになりますからね。」

反論の隙を与えずに、ギンタ君の言う通り屁理屈で一気に捲し立てる。
精神攻撃は基本。

「つまりですよ、盗まれた弁当なんて最初から無い。これが結論、目の前の二人は嘘をついてまでカルデアに私達を入れる気がない。」

それっぽく話を纏めると、まずはギンタ君が「うーん…なんかミツキの言ってる事が正しい気がして来たぞ…」と目を回し、小娘にいいように言われている門番は互いに目を合わせ、動揺を隠さずに慌てふためいています。
よし、あと少し。

「泣かないで下さい(泣いてませんけど)、私達はドロシーさんに会えればいいんです。少ーしお話をさせて貰えればこの程度の不祥事をドロシーさん含むお偉いさん方にチクるなんてちゃっちぃマネしませんから。答えはYESとはいとOKのどれかから選…」

「はいはいそこまでそこまで。ミツキちゃんちょっとこっちに来てー」

決着を着けようと話を畳み掛けると、ナナシさんとアルヴィス君にいつか何処かで見た本の中の宇宙人のように両脇に腕を抱えられ、後方に引きずられた。本気で泣き始めそうな門番が少し小さくなる。

「まだ話は終わって無いんですけど。」

「お前が口を開くと事態がややこしくなる。おとなしくしてろ。」

「いや、ギンタ君が助けてオーラ出してたからやったんですけど。」

そう不満げに言うと当のギンタ君が裏切りやがりました。

「ごめん、ミツキには後で色々言っておくからさ。」

「ちょっとギンタ君?」

まさかの裏切りに文句の一つでも言おうと口を開きかけると、これが効をなしたのかちょっと優しくされた門番は表情を微かに弛め、話を聞いてくれそうな雰囲気に。

「ドロシーに会いたいんだ。ドロシーがいないと、チェスの兵隊との『ウォーゲーム』に勝てないよ…」

「…うむ…先のチェスの兵隊からおそわれた時に助けて貰った恩もある。」

「い、入れてくれるのか?」

「入れてやりたいのはやまやまなのだが…
カルデアは今…非常事態にあるのだ」

「非常事態…どういうことです?」

非常事態、の4文字にアルヴィス君がいち早く反応する。

「すまんが、非常事態ゆえそれも言えん。」

非常事態起きすぎじゃないですかね、カルデア

「現在進行形で非常事態なカルデア含む全世界が非常事態なんですが。」

と一言挟むと、デフォルメ顔のおっさんに「おめーは黙ってろ」と怒られました。皆して酷くないですか?

「そこの女人の言う、チェスの兵隊のことも我々にとって当然頭のいたいところだが…
カルデアで今おきている非常事態を調べて解決するほうが先なのだ。
以前はもとより、今はなおのこと外の人間を入れるわけにはいかんのだ。」

どうやら事態は私が思っているよりも深刻な模様、流石に少し眉を潜めたくなります。
互いの言い様の無い緊張感の中、「あぁやっぱりな、言うと思った」そんな考えをある程度予想できた発言が目の前にいる物理的に痛そうな頭の少年から飛び出した。

「だったら、その、非常事態ってヤツをオレが解決してやるよ!」

ギンタ君のお人好し発言に答えるように、私達の知っている声が扉の向こう側から聞こえる。

「あら、あいかわらずたのもしいわね〜」

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