カルデアの魔女が消えた
その日はミツキ、ミツキと体を揺するスノウ姫の声で目が覚めた。

「どうかしましたか?」と半分寝惚けた声で寝具を軋ませながら応答すると切羽詰まった声でスノウ姫が白い紙切れを片手に声をあげる。

「どうしたもこうしたも無いよ!ドロシーが…ドロシーがカルデアに帰っちゃった!!」


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「カルデアに戻ります
…しばらくこっちには戻れないかも…
ごめんなさい。
ギンタ、みんな」

スノウ姫の枕元に置いてあった手紙は根本的な理由が書かれていないそれはもう至ってシンプルな物だった。
「どうしよう」とうろたえるスノウ姫に深呼吸を提案し、落ち着かせる。

時刻は早朝朝食前、料理人や一部の夜勤を除いて城中の人が目を覚まし活発になり始める時間帯。
メルの中でギンタ君とおっさん同様無敗を記録しゲームに出れば勝ったも同然な超絶安パイ、ドロシーさんが姿を消したなんて話が人の集まりやすい場所で話し合いをする事によって漏洩すれば瞬く間に噂が広まり、今日の6thバトルまでにチェス側に伝わるなんて事もありえない話では無いので、それはまずいと考えます。
と、なるとやるべき事は一つ。

「まずは一番広いギンタ君達の部屋で話し合いをしましょう。スノウ姫はおっさんガイラさんエドの寝ている部屋に行って事情を説明して連れてきて貰ってもよろしいでしょうか?」

「わかった、ギンタ達の部屋でいいんだよね?」

物分かりのいいスノウ姫に「よろしくお願いします」と言い、いつもの服に着替え最低限の身だしなみを整えると靴を履かずに卵とパンとハムの焼ける匂いを感じながら音を立てないよう裸足でギンタ君達の部屋に走った。

私達の部屋割りは左からおっさん達、私達、ギンタ君達の3部屋に別れていて、騒音対策だったり何かあった時の為の予備部屋としてレギンレイヴ姫が気を効かせて部屋と部屋の間に空き部屋を挟んでくれたので普通よりも少しだけ離れた位置にあった。

廊下に点々と飾ってある、見慣れたけれど高そうな花瓶の一つを通りすぎるとそこはもうギンタ君達の部屋の前。

乱暴に扉を叩き、「緊急の用事なので入りますからね、返答は聞きません。」と声を上げて着替えてようが洗面台に立っていようがプライベートなんて無視して返事が返って来る前に扉を開いた。

着替えかけの妙にワイルドなナナシさんが面白いポーズで「キャーミツキちゃんのエッチ!」と年頃の女の子のようにふざけた叫び声を上げていましたが、無視。

ずかずかと部屋の中心に入るとテーブルの上に放られていた一週間に一度だけ発行される新聞のような物、『メルヘヴンタイムズ』をくるくると丸め、筒の先を口から少し離れた位置にやってメガホンのように使った。

「おはようございます、緊急事態です。」

「何が大変なんスか…」

自主的な修行と作物作りで早起きが習慣化しているジャック君がげんなりした顔でタオルを片手に真っ先に口を開いた。

「どうせスノウが寝ぼけて暴れてるんだろ…」

布団から身体を起こし、目を擦りながらギンタ君が言う。スノウ姫寝ぼけて暴れた事なんて酔っぱらった時以外無いんですが…。
あ、修練の門にいた時に何かあったんですね。

「緊急事態とは言え返答も待たずに部屋に無断で入ってくるとは関心しないな。」

「そーだそーだ!」

真面目な事を言いながら部屋に入った時には姿が無かったアルヴィス君がベルちゃんを頭に乗せ歯ブラシの入ったコップを片手に洗面台のある部屋から出てくる。よくよく考えると年頃の男子4人が寝泊まりする部屋で過ごしてるベルちゃんってなんか凄いですね。
本題に入る前にアルヴィス君には「風紀委員のような事言うのはやめて下さい。」と言っておきました。

さて本題です。

「ドロシーさんが帰っちゃいました。」

「はい?」

眉を潜めたアルヴィス君以外から突拍子も無い声が上がる。
「ドロシーさんが帰っちゃいました。」
大事な事なのでもう一度言います。

「なん…じゃと…」

バッボが球体部位を宙に浮かせてありきたりな表現を使って身体を震わせた。





スノウ姫がおっさんズを引き連れ、全員が揃った所で今朝がた起こった過程を順に述べて手紙を回す。

手紙が全員に回り再びスノウ姫の手元に戻るとギンタ君が口を開き、話し合いが始まった。

「ドロシー…どうしてまたカルデアに戻ったんだろう…」

「チェスの兵隊との『ウォーゲーム』。ドロシーだってそれがどれだけ大事かわかっているはずだ。…となると、のんきに里帰り…というわけでもないだろうな。」

難しい顔をしてアルヴィス君が何か考える素振りを見せるとすっかり落ち着いたスノウ姫が口を開く。

「きっとなにか理由があるんだよ。なにか用があってカルデアへ戻ったのだとしたら…
わたしたちに出来ることなら、お手伝いして『ウォーゲーム』に早く戻ってもらわないと。」

「うん…そう…そうだよな!」

思い詰めたような顔をしていたギンタ君が顔を上げ、「カルデアに行って、ドロシーを助けよう」と拳を作って言いました。

「幸い今日の6thバトルは午後なのでそれまでに戻ってくればいい話ですからね。」

「せや、自分のアンダータ使えば一瞬でドロシーちゃんのとこ行けるしな。」

「よし、じゃあ決定だな。」

おっさんが話を締め、全員一致でカルデアに向かうと話が纏まる中、隅でエドとバッボが会話をしていた。

「わ、私めは、あのような乱暴な魔女などいなくても、ゼンゼンかまわないのですが…」

「お前のようなただの犬こそ、おらんでも一向に構わんわ!」

「だっ!!なぁぁぁ!!!」

「まったく、何をやっているんだか…」

何故か聞いていたアルヴィス君から突っ込みが入ります。

ほんと何やってるんでしょうね。





何かあって帰ることが出来なくなった場合はガイラさんが事情を説明すると言ってくれたので安心してカルデアに向う準備を整えました。

ARMを装備し、確認し、ナナシさんの周囲をチームメルとエドがぐるりと囲む。

「ほな準備はええか?」

それぞれが独自の表現でナナシさんに意思を伝え(エドは何かをブツブツと呟いていましたが)、確認を取ると魔力を込めて渦のような核が着いた指輪を掲げ、叫んだ。

「ほんじゃ、行きますか!!『アンダータ』ここにいる全員を…カルデアへ!!」


こうして私達は再びカルデアへ行くことになったのでした。
余談ですが何食わぬ顔で朝食を取っていると、ドロシーさんの行方をレギンレイヴ専属のコックの方に尋ねられたので(一食分手付かずでしたからね)
「家が恋しくなって実家に戻ったんじゃねーの」とおっさんが楊枝で歯を掃除しながら誤魔化していました。
誤魔化せてませんよおっさん…

あれ、ひょっとして慎重になった意味無い?

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