アンデッド予備軍
「!、あなた…ファントムの……せ、洗礼を受けているのですね?」
洗礼って…唐突に何を言っているのでしょうかこの人は。
チェスアレルギーと思う程チェスを嫌っているアルヴィス君がファントムとやらの洗礼()を受けている筈無いじゃないですか。
と、思いつつアルヴィス君の「なんだこいつ」的な反応を楽しみに顔を向けると、期待していた反応とは打って変わり、図星を当てられたかのような表情をしています…あれ?
「それが…どうした!?」
アルヴィス君がロランに刺のある反応すると、何故か嬉しそうに腕捲りをして模様の付いた腕を見せ付けます、無駄に勝ち誇ったかのようなドヤァとした顔で。こっちはイラァっとします。
「…なら……ボクと……同類ですね……」
29
同類
頬を染めながらそう口にするロランは女性ならともかく男性だと言うことを考慮すると、気持ち悪いと言うのが正直な感想になります、恋する乙女ですかあなたは。
ところでファントムって性別♂でしたよね?この人あっち側の人間でアルヴィス君もそのお仲間って事ですか?なんか今後色々と勘違いされそうですね、気の毒に。
それはともかくとして、ドヤ顔で見せびらかしてるロランの腕のあの模様、初めてアルヴィス君と会った時に同じものが付いていたのを見たような気がします。
「なっ……なぜだ!!?なぜファントムは味方のお前に……そのタトゥを入れた!!?」
私はアルヴィス君の事は割とマトモ寄りな人間だと思っているので、彼のその返答は事情を知っていれば普通に考え付く疑問なのでしょう。
ですが頭のネジが数本外れているらしいロランは「何言ってんだコイツ」と言いたげにアルヴィス君に視線を向けます、そのままあなたに同じ事を返しますよ。
「それはゾンビタトゥ!!タトゥが体中にまわりきった時……その人間は、死ぬ事のない生ける屍と化すと知っているのか!?」
呪いだったんですね、あれ。アルヴィス君なりのファッションセンスだと思っていました、洗礼()とか言ってすみませんでした。隣ではギンタ君達が呪いの内容とかけられた事実に驚いています。
おっさんによると、6年前のウォーゲームで当時10歳だったアルヴィス君はおっさんの目の前でファントムにゾンビタトゥを入れられたのだそうです、他人事ですがお気の毒に。
「なぜ……そんなに激昂するのですか?これは……選ばれし者の証明ではありませんか……」
頭がお花畑なロランは笑顔で宗教臭い事をぬかしつつストーンキューブを再び形成します。
「ボクは…自ら望んで洗礼を受けました……彼と同じ道を歩むために……」
「なぜだ!!?
自ら生ける屍を望むのは、なぜだ!!お前がそこまでファントムと共にある理由……それは何だ!!?」
キューブの的にされつつ避けるアルヴィス君は、13トーテムをロッドバージョンにして攻撃を受け流しつつ接近します。
ロランを目の前にし、ロッドで攻撃するもキューブで防がれ、爆発し再度吹っ飛びます。
「彼がボクの……居場所だから……」
ここでロランが回想に入りました、ナメプですか?アルヴィス君相手に随分と余裕ですね。ダイジェストでお送りします。
彼は子供の頃、早くに両親を亡くして一人で生きていたそうです。周りの人間は無関心で見て見ぬふり。
彼自信も他人を傷つけたり盗みをしてまで生きようとは思わなかったとか。
そんな時、ファントムが現れて着いていく事にしたんですって。彼も大変な人生を歩んでますね、頭がお花畑とか考えててすみませんでした。両親がいない事に関しては少し思うところもありますが私には関係ありません。
その後、ロランは戦い方、シックスセンス、生き方、世界をチェスの兵隊だけの物にすると言う何ともぶっ飛んだ思考…をファントムに叩き込まれ、今に至る
と、まあこんな感じで回想が終了しました。
アルヴィス君はロランの身の上話の間にもストーンキューブでほぼ一方的にボコボコにされていました、それを眺めつつロランは何時ものへらへら笑いで言葉を続けます。
「…ボクはそれにのりましたよ…?あなたのそれも彼に認められた証じゃないですか。こっちの人間になりませんか?ファントムもきっと喜びますよ?」
「誰が貴様らなどと…お前は利用されてるだけだ!!なぜそれに気づかない!!」
と、アルヴィス君が案の定チェスの兵隊を全否定すると、ロランは今まで以上にキツく表情を変化させた。怖っ
「…それでもいいんですよ…彼に必要とされているならばね……」
そうか、これが宗教ですか。
その後、アルヴィス君は苦戦しつつもストーンキューブの弱点を見つけ、見事対策。喜ぶのも束の間、ロランは同ARMを応用し火山フィールドを利用して火口からマグマスネークを発動、アルヴィス君はそれによって文字通りはねられ、地面に叩きつけられそのまま食べられました。
正直死んだかと思い、ロランを相手にする事を嫌がっていた事に対する若干の申し訳なさと、ほんの少しの後悔を胸に念仏を唱え始めましたが、アルヴィス君は食べられる直前に13トーテムを上手く使っていたようでマグマスネークを破壊。流石アルヴィス君、無事な姿を現しました。自分だったら死んでましたね。勝手に殺してすみませんでした、後で謝罪します。
しかし、無事に姿を現したのは良かったのですが彼ももう限界なようです。
「ARMの乱発で…集中力が途切れたか!精神力の限界だ!負けを認めろアルヴィス!!」
「ギブアップを宣告しますか?アルヴィス……」
おっさんに忠告を受けさらにポズンに気をつかわれましたが、聴こえていないのかマグマスネークで頭を打って正常な判断が出来なくなったのか、肩で息をしながら少ししてロランに近づきます、目が死んでいます。
「バカ野郎、アルヴィスてめーっ!!無茶してんじゃねェーっ!!死ぬぞタコーっ!!!」
「わからぬかギンタ!あの男のプライドと意地を……!!」
「!」
「アルヴィスは負けたくないのだ。チェスの兵隊にも…お前にもな。」
と、隣でギンタ君とバッボが話していました。目の前ではロランが通常モードに戻ってボク人殺し出来ませんアッピールをしています。人殺しを否定する割に攻撃が爆発メインなのは正直どうかと思いますが。
「ボ、ボクは……できれば人を殺める事はしたくないのです……ギブアップしてくださいアルヴィスさん……。」
さもなくば、と語尾に付けると、再びキューブが形成され、
「あなたは爆死します……」
の言葉で、アルヴィス君の周囲を再びキューブが漂い始めました。
それに対するアルヴィス君、最後の足掻きなのか魔力を練り、ARMを発動。
「…ハイスピード……13…トーテムポール……!!」
13トーテムは初めてロランを掠めました。満足の行く結果になったのかアルヴィス君はそのままギブアップを宣言します。
「今のオレはナイト級にそう遠くない。通用する事を理解した!足りないものは一つ!魔力の持久力!!
すぐに追い付いてやるぞ………」
ポズンにより勝敗宣言が成されると、何故かお互い満足したかのような顔をしていました。青春ですか?
長かった3rdバトルも終わり、これでようやくアンダータによってレギンレイヴに戻れます。戻ったら癒しの天使を借りて手を治療しましょう。
⇔はい、戻って来ましたレギンレイヴ。数時間前にいた筈なのに妙に懐かしく感じます。共に帰還したギンタ君はさっそくドロシーさんとナナシさんに勝利報告に向かいました。
「ただいまだぞドロシー、ナナシ!!いろいろあったけど勝ってきたぜ!!!」
「お帰り、ギンタン。」
「まあまあやな。」
その一方ではベルちゃんがアルヴィス君に飛び付き、大勢の目の前にも関わらず二人いちゃつきはじめます。ラブラブですね。
さらに一方、私ですが、は苦手なフィールドから戻って来て割とハイになっているスノウ姫に癒しの天使を使わせろとせがまれます。
「ミツキ!戻ってきたから怪我治さないとダメだよ!!」
「いや、戻って来たばかりなんですから無理をしない方が…」
「大丈夫だよ!ほら、へーきへーき!!」
と、腕をピコピコ上下に動かすスノウ姫相手にどう対応を取ろうかと考えていると、ギンタ君のアルヴィス君を心配するかのような声が聴こえて来たのでスノウ姫と共に顔を向けると、さっきまでベルちゃんとリア充していたアルヴィス君が腕を押さえその場にうずくまっています。
アルヴィス君大丈夫ですかー?と声でもかけようとすると、急に、ここにある筈の無い、あの時に感じた寒気と言うか殺気と言うか…なんとも形容しがたい感覚を全身で感じとりました。
と、なるとあの時一緒にいた彼も…と思い視線を動かし様子を見ると、案の定バッボも同じものを感じているようでした。
この異様な状況にドロシーさんとナナシさんは何も言わずにいます。民衆の方は酷く青ざめています。
様子の可笑しい全員の共通点は、皆とある方向を見上げている事。
そんな中、民衆の一人が「……あれ…見ろよ…!!」と、見上げている方向に指を差しました。
そこには服装の違う死んだ筈のトムさんがいて、何故か楽しそうに此方を見下ろしていた。