ひかれてひいて
ポズンに振り向き、

「宣言。」

とだけ言うと、慌てて私の勝利を宣言しました。なんか端から見たら強要させたように見えますね。
そんな宣言の後に気づきましたが、火口に投げ捨てれば楽な死体の始末を少々面倒にしてしまいました。ま、どうでもいいですが。

「これによりメルの勝利ですが……戦士の出場権をかける為、戦いは続きます!!最終戦!!」

ついにナイトクラスの登場ですか、なんかチェス側でもロランが出番来ちゃいましたとかなんとか言ってます。
出なくてもいいんですよ。


28


「戻りました。」

ドロシーさんやおっさんの件があるとは言えなんとなく批難されるだろうなーと思いつつ戻ると、微妙に気まずい空気が流れる中、当たり障りの無いような言動で最初にギンタ君が話掛けてきました。こう言う時、彼のようなタイプは損ですよね。

「……す、凄いじゃねーか!!あのARMあんな効果あったんだな!…俺、知らなかったぞ!」

「言ってませんでしたからね。」

ギンタ君は無理をするよう私に声を掛け、まだ何か言いたげでしたがトムさんやカノッチの件がある為か、結局言葉を飲み込み、視線を下方に泳がせながらははは…と空笑いをするだけでこれ以上何も言っては来ませんでした。

ギンタ君との会話が途切れ、再び微妙な空気になり、それを取り繕うよう次にジャック君がスタンガンの効果について尋ねてきたので、大雑把に説明します。

「へ、へぇー便利なARMっスね〜。」

「声、裏返ってますよ。」

なんかおっさんもアルヴィス君も知らないARMだったらしく、試合中は相手が魔力切れを起こして自爆したように見えたとかなんとか。

まあこのARM、ドロシーさんも初めて見るARMだったのでおっさんやアルヴィス君が知らないのも無理ありませんね。何でそんな謎ARM持ってるのかは青い門番ピエロにでも聞いてください。私だって知りたいです。
ちなみに名前や効果はウォーハンマーと同様、発動した時に電波的な物が頭に流れてきました。

「それと相性の悪いホーリーと同属性のダークネス、あとバッボのような属性不明のARMには効果が無いようです。前に修練の門の中にいた時にドロシーさんに発動を手伝って貰いました。」

「へ、へぇーオイラ一緒にいたのに気付かなかったっス!」

「ジャック君がドロシーさんにカスタムして貰ったスコップで一人修行している最中での出来事でしたからね。」

顔をひきつらせるジャック君と話をしていると、おっさんが「ま、あのARMがなきゃおめーは今頃死んでたな」といつもの調子で横槍を入れてきました。その通りなので特に反論はしません。





一通りの会話を終らせ、微妙な視線を感じつつも何も言わず一歩離れた場所に足を抱え座り込みます。魔力の使いすぎが原因だと思いますが少し疲れました。スタンガンは魔力を大量に消費すると言ってもガーディアン程では無いでしょうし、自分はギンタ君程魔力の最大値が高く無いようですね。あ、手が血まみれなの忘れてました。思い出すと途端に痛みも出てきます。自分で行った結果とは言え人一人殺した後こんな物見たら普通引きますね。ドン引きです。足元もうっかり抱えたお陰で血糊ベッタリです。あー痛い。

と、ため息を付きつつ自身の微妙なスペックについて項垂れ考えていると、ふと気配を感じたので首を上げたら、癒しの天使を片手にスノウ姫が私を見下ろしていました。

「ミツキ、手…治さないと…」

そう言うとスノウ姫はその場に膝立ちになったので自然と私の視線もスノウ姫の顔の高さに合わせ、下がります。そのまま癒しの天使を発動しようとしたので、利き手でそれを止めるよう拒絶しつつロラン戦に向けてアルヴィス君と会話しているおっさんに視線を動かし、戻します。

「今ARM使ったらまたおっさんに怒られますよ。」

「…でも、血、たくさん出てるよ?…すごく痛そうだよ?」

「平気です。動脈は外れてますし、直ぐに治療する程の大怪我にはならないと判断した故の行動ですから。」

そう口にすると、何かが気に食わなかったのかスノウ姫は少し怒ったように私の頬に手を当て顔を除き込むように首を動かします、なんなんですか。

「ミツキ…顔色も悪いよ?」

「ああ、あのARM滅茶苦茶魔力使うのでそのせいでしょうね。」

と、事実を口にすると「嘘だぁ」と否定し、軽く頬をつねられました。スノウ姫が優しすぎるのは構わないのですがそれ故に勝手な解釈をされるのは困るので訂正して貰います。

「…何か勘違いしているようですが、私は人を殺して気分が悪くなるような人間ではありません。」

無かったんです。
きっと戦争をするに当たって邪魔な「哀れみ」だとか「拒絶」なんて人間に携わっている物が私にもあって。それを少しでも押し殺す練習の為に予選に挑み時間をかけて相手を殺したんです。
けれど得たのは後悔でも何でも無い唯の空虚な作業感で、自分基準ではあると思っていた物が何処にも無くて。

先手を打たれ、返す言葉を見付けるのが困難だったのか、結局彼女は「…無理してるよね?」とだけ言ってきたので

「してません」

と答えると、

「気を使ってるよね?」

とさらに言ってきたので

「何故気を使う必要が?」

と返しました。
再びスノウ姫が口を開き、言葉のキャッチボールを延々と続けるはめになりそうな中、アルヴィス君が言葉を発したのでそれは中断になりました。

「取り合えずキミ達が生き残った事をほめるよ。次はオレだ。」

「き……気をつけろよアルヴィス!!」

「ああ。」

「責任押し付けてなんですが死なないよう頑張って下さいね。」

「…ああ。」

ギンタ君に続き自分なりの応援として声を掛けると、彼は微妙な返事を返し、試合位置に向かおうとします。

「流石に信じてくれましたよね?」

チェスとの繋がりが無いこと。

スノウ姫が頬から手を離してくれたので、アルヴィス君の背中にそう言葉を投げ掛けると、一瞬だけ足を止め、振り返りもせず何も言わず、彼は再び3rdバトル最終戦へと向かった。

チェス側ではロランが辺りを見渡し、パノとMr.フックにさっさと行けと言わんばかりに急かされたので試合位置に一直線…そのまま位置に着くかと思えば何故かポズンのもとに向かいます。その行動にアルヴィス君が怪訝そうな顔をしています。

「あ、あの〜やっぱり戦わなきゃダメですか?」

ポズンに目線を合わせるように膝を曲げてロランは訳のわからない事を尋ねます。ポズンもチェス側も勿論メル側も「え?」だの「うん?」だの疑問符を頭に浮かべずにはいられない状態です、勿論私も。

「だ、だって4対1でもうメルの皆さんの勝利は決まってるんですから、無理に戦わなくても…」

「ダメです、あなたには今後の出場権を掛けて戦う義務があります。それがウォーゲームのルールなのですよ。」

そんなポズンの「ルール守れやオラァ」にロランは「…はあ」とだけ返します。戦いたくないならいいじゃないですか融通利きませんね。

「ロランさん、あなたは6年前の戦いの出場者なのですからもっとしっかりして頂かないと。ファントムに嫌われますよ。」

「そ、それは困ります。ファントムに嫌われたくありません。」

ファントムに嫌われるのがそんなに怖いのか、すぐさま位置に付き、アルヴィス君と向き合った。

上司に嫌われるとクビを飛ばされるんですか、チェスって大変ですね。敵ながらお気の毒に。

「あ、あなたとは以前にもお会いしましたよね?」

「ああ、あの時は取り逃がしたがな。」

二人は以前、何処かで会っていたようです、因縁の相手ですか。アルヴィス君の冷ややかな声に対し、ロランは苦笑いをしつつ「どうぞ、お手柔らかに」と返した。

「3RDバトル最終戦!!アルヴィスVSロラン!!始め!!!」

アルヴィス君は開始宣言と同時に13トーテムポールを発動、今回はロッドバージョンじゃありませんよ、ナイトクラス相手なので最初から本気モードのようで容赦なく相手に攻撃を仕掛けます…が、

「あわわっ…いやーん!!」

と、ロランはあっさりと攻撃を回避。なんか腹立つ避け方ですね。
チェス側もメル側もロランの斜め下の行動に顔をひきつらせてます。

「いっ……イヤーン!?」

攻撃を仕掛けた当の本人であるアルヴィス君も普段の彼とはうって変わって非常に微妙な顔をされてます。

その後の攻撃もダメーっ。だのキャーっ。だの叫びながら逃げ回ります。
そんなロランの行動に対し、「逃げてばっかり…」、「ひょっとして…戦う気ないっスか?」とギンタ君達は評しています。
本当に戦う気が無いのならさっさとギブアップをしそうな気もしますけどね。
と、のん気な事を考えているとおっさんが少し怪訝な顔をして「いや…あれは…」と呟きます。

そうこうしている内にロランは13トーテムポールの攻撃を全て突破。
あんなアルヴィス君の神経を逆撫でするような行動を取りつつ全ての動きを見切るとは流石ナイトクラスと言わざるを得ません、誉めてません。

「油断すんな!!来るぞ!!」

おっさんが焦りながら叫ぶと、ロランが初めて自ら行動を起こした。

「じゃ…じゃあ次は………ボクの番ですね。」

人の良さそうなへらへら笑いから一転、表情が変化し魔力がはねあがります。
アルヴィス君に手を差し向け、ロランが「ストーンキューブ」と呼ぶARMを発動すると、フィールド内の岩、地面が少しづつ削られ、それから大量のキューブが形成された。

「はねなさい……」

ロランの指示によりキューブがアルヴィス君に強襲。アルヴィス君がキューブに乗っかる形で後ろに避けると、3、2、1とカウントダウンが行われストーンキューブが爆発しました。間一髪、避けて助かるも他のキューブが次々と爆発し、避けきれずにダメージを受けます。
最終的には落下中にキューブに囲まれ、爆発し大ダメージを受けました。正直同情するレベルの出来事でした。

「爆弾石の……ネイチャーARM!!」

「当たり…です…!」

あれだけの爆発でアルヴィス君が致命傷になる程では無かったのはロランの緩い性格故でしょうか

いや、これからいたぶるつもりであえて加減をしたのかもしれませんね。

top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -