松5
「頼む、チョロ松!俺に軍資金を恵んで下さい!」
「だが断る」
そう言うと目の前で僕に土下座をしていた赤いパーカーを着た馬鹿(おそ松)は涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃの顔を上げた。汚い。
何でこんな状況になっているのかと言うと、折角母さんにもらったお小遣いをパチンコで一瞬にして使い果たしてしまったらしい。汚いな。
まぁ、いつもの事だけど。
「ぞんなづめだいごどい゛わないでよ゛お゛お゛ぉ゛!」
「いや、明らかに自分が悪いでしょ。あと汚いから近付かないで」
後先考えず計画的に使わないのが悪い。
「ヂョロ゛ま゛づぅ゛う゛!」
濁点混じりの言葉を発しながら僕の肩をがしりと掴んでガクガクと揺さぶる汚いおそ松兄さん。
叫ぶな。揺らすな。声出すな。汚い。
「汚い汚い言うなよぉぉ!」
勝手に人の思考を読むなよ。
本当だったらこんな面倒な兄は二番目の兄であるカラ松兄さんに押し付けたいんだけど、今回に限っていない。
「…おそ松兄さん」
「ぐずっ、何だよっ!」
「ちゃんと返すって約束できる?」
ぐずぐず泣いてばかりいた兄が顔を上げて此方を凝縮する。うん、きたな…これ以上言うとまた泣き出すから止めておこう。
「約束できるなら貸してあげても」
「するするする!約束するから!」
おい人の言葉に被さすんじゃない。つーか話は最後まで聞きなさいよ。
まぁ、約束するらしいので使い込んですっかり手に馴染んでいる財布から夏目漱石を一枚抜き取る。
それを見てすぐに手を伸ばそうとする兄から遠ざけた。
「なんだよチョロ松!」
不満そうに見てくるが別に貸さないとは言ってない。
ただもう一度確認するだけ。
「おそ松兄さん、来月のお小遣いの時にちゃんと返すって約束できる?」
「する!」
「本当に?」
「だからちゃんと返すって約束する!
返せなかったら殴るなり何なりしてもいいから!」
「…分かった。ならいいよ」
「やっほー!ありがとチョロ松ぅ!これでまた俺は戦場(パチンコ)へと行けるぜ!」
お札を差し出せば奪うように取ってそのまま玄関へと駆け出す一番上の兄の姿に溜め息を吐いた。
来月の小遣い日の時。
返す事を忘れて全てパチンコで擦った後僕に遠慮なくボコボコにされるのはまた別の話。
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