コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 07、隣人の彼氏だった人、俺!

それは夏祭りの日だった。なまえと付き合っている時にうっかり浮気してしまった人と付き合ったけど、やっぱり続かなくてすぐに別れた。これ以上なまえに嫌われないようにするため、というか後半なまえに構ってもらいたくてやっていたけど、さすがに本気で嫌われる前にやめた。なまえからもらっていた家の合鍵、無くしたと思っていたけどちゃんと持っていたみたいで、それを見つけたら返す事を口実に少し会えないかと思って行きなれたなまえの家までの道を歩いていたら、カラコロという音が聞こえて顔をあげた。見覚えのある後ろ姿、それでも違うかと思ったけど、横を向いた時の横顔がなまえだったから早歩きでなまえに近づいていくと、小道から出てきたやつが明らかになまえに向かって走って行ったので、彼女の名前を呼んだ

「なまえ!ちょっ!え、なまえ大丈夫か!?」

下に蹲る彼女に、逃げて行ったやつを見たけど追いかけるか迷った挙句結局自分は彼女の前にしゃがんだ。腕を押さえるのを見て、水色の浴衣がだんだんと赤くなっていくのを見て、顔を背けて救急車を呼んだ。それと忘れていたけど警察も呼んで、あの時見たやつの特徴を教える。自分が呼んだ事によって刺されそうなのに気づき、逃げようとしたなまえは狙われていた腹部ではなくて腕を刺された。それでも刺した後に抜かれてしまったせいで止血するものもなく、出血はわりといっぱいだった。手術が終わったのと、警察の人と自分が話し終わったのはほぼ同時。まだなまえは起きていないが、麻酔がまだきれていないせいだという。色々な管がなまえから出ているように見えて痛々しいのは多分かけられている掛布団で色々隠れているせいだろう。入院のご案内、みたいなのを見たりして必要だと思うものを持ってきてあげるために一度病院から出た
なまえの親に連絡しないと…。なまえの携帯は一応持っているけど自分が電話をかけていいものか迷った。なまえの麻酔がきれてから自分で電話をさせたほうがいいんじゃないか、と

「おじゃましまーす」

合鍵を結局使って中に入ると、何も変わってないなまえの部屋。紙袋に着替えとタオルなどとりあえず書いてあるものを詰め込んで外に出たら、この間なまえをみょうじって呼んで連れて行ったやつと…とりあえずイケメン二人が俺の事を見て眉を寄せた。途端に俺の顔面を掴む人相の悪いこの間のやつ

「っ…」

「お前なんでこいつの家から出てきた?」

「ちょ、誤解、まじで誤解ですって!いだだだだ」

もう一人の美人な兄さんに言われてその人が離したので事情を説明した。それでも睨まれたけど。捕まえないのか聞いたら管轄が違うとかよくわからない事言われたけど、実際警察なのかどうかもわからないからそれ以上聞くのをやめて、彼氏なんだと思って着替えを頼んだら違うって言われた

「でもついてくるんだ」

「お前が何もしないとは限らないだろ」

「さっきの美人なお兄ちゃんは?」

「美人…。あいつは仕事、みょうじがちゃんと帰ってるか確認するために寄ったんだよ」

美人って言ったら顔を歪められた。もしかして見すぎて感覚麻痺しているとか…?この人もさっきの人もかなりのイケメンだと思うけどな。病室につけばたくさんついていた管が外されていてなまえが起き上っていた

「あ。松田くん、持ってきてくれたの?」

「大丈夫か?」

「うん…まあわりと?」

「持ってきたの俺なんだけど!」

「ありがとうストーカーさん」

「ごめんって…」

真顔でいうなまえに苦笑いで返す俺。いや、ここで笑ってしまうのがよくないだろうと思って今度こそ顔を引き締めてから謝った。松田くんと呼ばれた人が電話をするために外に出て行ったのでなまえと二人きりになる、そこでなまえにお礼を言われたので合鍵を返して先日の事を謝った

「私本当はやられたらやり返すの。殴られたら殴り返すわ」

「うん…」

なまえの事殴った事はあの時だけだったから知らないけど、とりあえず近くにあるパイプ椅子に座って頷いた

「殴り返さなかったのはあんたがやっちゃったって顔をしてたから。で、私が松田くんといなくなったから余計に怒ってピンポン連打したんでしょ?」

「はい…」

怒られている子供のように俯いたままなまえの話しを聞いていた。なまえと付き合ったのは一年、何事にも真剣に取り組んでるなまえの事は知っていたけど、付き合っていく日にちが長くなっていくほどなまえは俺に冷たくなっていった。多分別れるつもりがあったわけでも無いんだろうけど、それでも少しの時間を俺に作って欲しかった。仕事だろうとなんだろうと、夜遅くでもなんでも連絡くれれば飛びつくのに。浮気は…した、誰でもいいってその時は思ったんだ。なまえの顔が好きだった、なまえは俺の事大して好きではなかったと思うけど、それでも睨むような顔も俺は好きだった。俺ばかりなまえに気持ちを向けていて、なまえからの気持ちは上辺しか返ってきてくれなくて、それが余計に寂しかった

「元カレくん一番私と長く付き合ったし、忍耐あると思うよ。浮気されるのも別によくあるから慣れてる。される私も問題あるんだろうし、まあ気にしないで」

そのうちの一人だったの…俺。気にしないでって、気にする…
なまえが自分と付き合う前まで告白されたら付き合っていたのは知っていたし、それでも付き合ったら浮気なんてしないでちゃんといてくれているのも知っていた。それなのに、その一人になったのは俺も同じか

「本当にごめん」

「しつこいわよ」

そういわれても許して欲しくて、あわよくばまた付き合えたらいいのにってくらいに思っていた。そのうち松田というやつが入ってくる。多分なまえの話し方からして同じ歳なんだろう、そっちのほうへと視線を移したら携帯をポケットに入れたその人が俺となまえの様子を見て息を吐き出した

「何もしてねぇだろうな?」

「してねぇって…」

「あっそ。俺の同期のやつから連絡来て、お前を刺した犯人捕まったってよ。お前で三人目らしいぜ」

「優秀ね、警察…ありがとう」

「お前も、よく声かけたな」

え、ほめられた。最初なんだこのいけすかねぇやろうとか思ったけどかっこいいって俺から見ても感じる。とりあえず褒められたことに関してはありがとうも何も言いたくないので黙った。なまえはまだ帰れないらしく、明日の午前中には帰れるらしいので今日はそのまま帰る事になった。実際はもう入れない時間だが特別に入れてもらっている感じだから俺らも早めに出ないと

「あ、あと親御さんに連絡してって」

「いいよ…。怪我したとか言ったら心配させるだけだから。私が親を呼ぶときは風邪をひいてどうしようもなくなったときよ!」

「逆だろ…。でも同意書とか連帯保証人がどうとかって言ってたぜ?」

「あぁ、同意なら本人がちゃんとしてたらしいし、連帯保証人は俺がなったから大丈夫…まあでも、連絡はしたほうがいいと思うけどな?」

「家に来られても面倒だから、治ってから連絡する…」

「まあそこはお前に任せるけど。じゃあ俺らは帰る」

「え、俺も!?」

「あたり前だろ」

まだもう少し話しがしたかったのに、そのまま連れて行かれた。病院の外に出ると、その人が足を止めたので自分も足を止める

「お前さ」

「あん?」

「態度悪ぃんだよ!」

「お前いちいち叩くなよ!」

「みょうじ叩いたのはお前だろ」

「それはっ…謝った」

「謝ったら何してもいいのか?」

「わかってるっつーの!!!」

タバコを咥えて火をつけたその人がタバコの煙を吸い込み、そして吐き出した。こっちを横目で睨むように見た後にすぐに視線を逸らして歩き出す。

「なぁ、お前…松田!」

「呼び捨てにすんな、様をつけろ」

「るせぇ…。お前なまえのこと好きだとか言わねぇよな?」

「は?なんで?」

「いや、だって…ただの隣人にしては近いっていうか…」

「意味わかんねぇ。じゃあな」

否定も肯定もせずにひらひらと手を振って去っていかれた。去り際もかっこいいかよ、なんだあいつ

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