コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 05、隣人は頑張れない

俺は自分の部屋というものはちゃんと借りてる。だけどじんぺーちゃんのところに入り浸っているのは理由があって…最初はちょっと俺の断り方とかが緩かったんだろうね、松田にも優しすぎるってよく言われるけどそれのせいでストーカー…って言っていいのか、家の前で待たれている事が多かったし、彼女っていうのは職業柄もあるから断ったつもりだったんだけど段々とその子が彼女のように振舞っていた。女の子に強くも言えない俺、本当は言えるんだけど…それもまた昔色々あってあまり強くいえない。だからこそ苦笑いでゆるゆると断っていたところを、仕事が終わって疲れて帰ってもまったく癒されない状態が続いたから松田のところに行った。松田に言うのはしばらく渋っていたし、松田も理由は聞いてこないけどやっぱりそのうち突っ込まれたから教えたら松田が俺の家に来たときに必要以上に俺に絡んで絡んで…で、誤解されてなぜか俺が振られた感じになってる。
それもあるけど、やっぱり誰かがいるのが落ち着くから毎日じゃないけど松田の家にいる事が多かった

松田は優しい。隣の人が女の人だってわかったときも少し気を使い始めたし、しかも知り合いになると余計に気を使い始めたみたいで昼間にはタバコを外で吸うのをやめたりしていた。隣人さんの洗濯物に臭いがつくのが忍びないみたい…
最初事件現場で松田と何かやっていたし、あの息の合いかたからして知り合いなんだと考えたから上着を貸してあげた。ただそれだけだったけど、松田の家の前で待っていた時にその顔を見た瞬間に…あ、松田の居場所まで奪ったって瞬時に思った。挨拶までされたから一瞬躊躇しながらも返したら目の前を通り過ぎた彼女が自分の隣でガチャガチャやっているのを見て、隣の人だったんだと理解した。自分を見た時の態度とか、松田といたときのことを思い出して、この人は大丈夫だってちょっと思って電話を貸してもらいたかったんだけど…無言で、こっちを見ずにスルーされたときは正直泣きたくなった…。その後結局この子の親切に余計に泣きたくなったけど。ただ少し何も考えていなさすぎじゃないかと、ちょっと戸惑ったりもしたけど、悪い子では無いとは感じた

今日も松田があがる前に自分が先にあがって、次の日は二人とも休みだった平日のこと…隣人のなまえちゃんが帰ってきた音が聞こえたと思ったら次の瞬間叫び声が聞こえ、それからドッタンバッタンと何をしているんだとテレビを消した。え、何かやばい?事件?なんて考えて様子を見に行こうかと思ったけど、叫び声に続いたのは「無理無理無理」なんて言葉だったから多分緊急事態では無いんだとは思いたい…。それでもバタバタしている音が気になってどうしようかと立ち上がってはみた。助けてって言ってくれれば助けに入れるものを…なんて思っていたら、チャイムが連打された

ちょ、えぇぇええ!?

出ていいの!?ねぇ、松田!?俺出ていいの!?

戸惑っていたらか細い声で「助けて…」って聞こえたので慌てて扉に走って向かい、扉を開けたら思い切り正面から抱きつかれ、ときめく…間も無くそのままくるっと体の方向を変えられて背中を押されている

「え。何!?なんなの!?」

「あれ、萩原くんだった!?誰でもいい、助けてほんと…知り合ってよかったわ!!」

「何言ってんの!?」

「出たの!」

「何が!?」

「やつがよ!」

「やつって誰!?」

「あの黒いやつ!引っ越しのときにバルサンやろうと思ってたのに忘れてたの!お願い、私あいつだめなの!何がだめって飛ぶところと一発でやられないところ!お願い助けて!」

ぐいぐいと押されてしまい、しかも最後にはなまえちゃんの部屋の中に入れられてスリッパを渡され、扉がしまった。え、嘘でしょ…俺も別に好きっていうわけでもないんだけど…いや、でもなまえちゃんに比べたら多分やれるとは思うレベル…。とりあえず耳を澄ませてみたけど物音も聞こえないから少しだけ歩いてみた。それでもやっぱり何も見つからなくて…とりあえずものはぐちゃぐちゃだから本当に嫌いなんだなって事は理解したけど

「いないよー?」

なんて声をかけてみると、玄関がそっと開いて彼女が外から顔を覗かせた

「お願い萩原くん…探して、それはあなたにしか出来ない事なの。報酬は弾むわ。この依頼しっかりこなして…じゃないと私今夜眠れない…」

あはは、面白い子だなー。あとスリッパ持ってる俺の状況も面白いけどね。とりあえずうろうろしてみたり、ものをどかしてみたりしたら発見したからにらめっこをしながら割り箸無いか問いかけて、場所を聞いてからスリッパでゴキブリを叩いた。その後あまり力任せにやったら潰れるだろうと思い、割り箸で掴んで外にぽい。下に誰かいたらごめん、なんてベランダから顔を覗かせてみたけど…あ

慌てて中に入って玄関へと向かい、なまえちゃんを部屋の中に腕を掴んで急いで入れて鍵を閉めた

「何!?どうしたの!?」

「あ、退治はした!退治はしたけど別の黒いやつを怒らせたかもしれない!」

「何その別の黒いやつって!」

この間まで敬語だったなまえちゃんはすっかり敬語が抜けていた事は嬉しく思うし、何この状況って思えるこの状態が少しだけ楽しい。エレベーターの音が聞こえ、小走りの足音が聞こえてなまえちゃんに静かにするようにと人差し指を立てて口元に当てたら、帰ってきた松田が結局なまえちゃんの部屋のピンポンを連打してきた

「萩原いるんだろ!!お前ふざけんなよ!!!」

「な、何したの?」

「あはは…ゴキブリを投げたら下にじんぺーちゃんがいてさ…」

「それは私だったら気絶してる案件だわ…」

真顔で言うから笑っちゃった。結局近所迷惑だと思うから扉を開けてあげたらすごい怒っていたし怒られた。ごめんね…でもそんな俺を見て間に入ってきたのはなまえちゃんで、自分が頼んだからだと色々と助けようとしてくれた。この子本当に良い子なのかもしれない。そう感じて笑っていたら余計に松田に怒られた…

報酬は弾むっていうのはビールだったらしく、箱で貰った。どうやらお母さんがお中元にもらったものをさらに送ってきてくれたらしい。

「え、これ全部いいの?」

「ええ、ふたりで飲んで」

「でもなまえちゃんもビール好きだよね?」

「いいのよ、報酬は弾むって言ったでしょ?それに松田くんの部屋結構何人か来てるわよね?」

「あ、わり、うるさかったか?」

「ぜんぜん?でもお邪魔しましたーっていう声とか聞こえてたから」

とりあえずずっと持たせているのもどうかと思ったので受け取ったら彼女が手を開いたり閉じたりして「腰と手が死ぬわ」なんて笑っていた。その後に松田が一緒に飲もうって誘ったらよくわからない返答をしていたけど結局三人で一緒に飲むことになった。ちょっとたまによくわからない事を言っていたけど本当に悪い子じゃないんだなって感じたし、途中で俺が眠くなって松田のベッドにうつぶせで寝転がっていたら、冷房の温度を少しだけあげてくれていた。松田がトイレに行っている間のことで、多分俺が寝てると思ったんだろう。その後に小さな声で「萩原くんも寝ちゃったみたいだし、帰るわね」なんて言って静かに出て行った。松田に後々また蹴られて端のほうに移動させられたけど、狭いっていいながら結局ベッドから突き落とさない優しいじんぺーちゃん…と一緒に寝るとわりと体痛いんだよねぇ…そんなの言ったら泊まりに来んなって言われそうだから言わないけどね

次の日休みだったけど、やっぱり隣のなまえちゃんは仕事みたいで朝に出て行ったみたい。俺も起きてから寝てる松田を踏まないようにベッドから下りて帰宅した。シャワー浴びて着替えたりしてからもう一回松田のところに帰ろうと思って。夕方からは松田は仕事があって、自分は他の用事で呼び出されているからカラオケに行った。合コンなんだけどねー…人数合わせだから自分はいなくていいと思うんだけど一応付き合いもあるからね、なんて思ったけどさすがに少し疲れたから喫煙所にいたら見知った人が目の前を通り過ぎたからタバコの煙を消して扉を開けた

「なまえちゃん」

「あ、萩原くん、こんばんは」

「こんばんは。なまえちゃんよく会うね」

「私は今日友達と約束してたから仕事終わって急いで着替えて来たんだ」

「そうなんだ。俺もちょっと呼ばれて」

別に何か用事があったわけじゃないのに話しかけちゃったんだけど嫌な顔一つ返事を返してくれた。「それじゃあね」なんて笑って手を振られたから、手を振り替えした。だけどついていったわけじゃないけどどうやら部屋は同じ方向だったみたいで俺が行った先に部屋の前で停止しているなまえちゃんがいた。これ以上話しかけるのもどうかと思ってそのまま後ろを通り過ぎて自分たちの部屋へ行ったんだけど、もしかして呼ばれた先に知らない人でもいたのかな?なんて考えながら部屋に戻った。

自分は特に何かがあるわけも無く終わった。何かがあったって言われればあったけど、別に誰かと付き合ったわけでも無いから無かったっていう事にしておく

帰りの時間になまえちゃんには会わなかったけど、外に出た時になまえちゃんと男の子が別れた時で、こちに気づいたなまえちゃんが小さく頭を下げて歩き出した。その彼女の後ろ姿を追うようにして歩み寄って行けば彼女の隣に並ぶ

「今日も松田くんのところに行くの?」

「ううん、なまえちゃんを送っていこうと思って」

「え、大丈夫よ?」

「いいから。ねぇ、さっき扉の前で固まってたけど何かあったの?」

「さっき?あぁ…予期せず男の人がいたので…」

「さっきの?」

「うん」

「もしかして、さっきの彼と何かあった?」

「何かっていうか…別に」

少しはぐらかそうとしているのか、そのまま「告白されたとか?」なんて踏み込んで聞いてみたら、彼女がこっちを見て苦笑いを浮かべた。あ、あんまり入りすぎたかな…なんて考えても、誤魔化すように緩やかな笑みを浮かべると教えてくれた。告白されて、断ったものの誰かと一緒になら遊ぶのは許可して…それでも二人でも会いたいんだって言われてとりあえずの彼氏彼女になったらしい。ねぇ考え方軽いよ…びっくりする…

「断るのが…めんどくさくて」

「でも何かあったら余計にめんどくさくなるんじゃない?」

「私を見た目と第一印象で判断するとこうなるのよ!って身をもって知ってもらった方が早い気がするの」

「こうなるって、どう?」

「萩原くんは私の第一印象どう思う?見た目で」

「うーん…大人しそう…かなあ…。恋愛的にいうと甘えさせてくれそうな感じではあるよね」

「それ!私大人しくないし、どっちかと言えば甘えたいほうよ?つまりそういう事。まあ甘えた事なんて無いけどね」

あはは、と可笑しそうに笑う彼女は確かに見た目の雰囲気に反して楽しそうに笑う。口元を隠してクスクス…なんて笑ったりはしない。言いたい事はわかるんだけど…納得いかないところもあって。なんて考えてハッとした、ちょっと最近話すようになった男が口出すような事でも無いか…ってね

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