コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 04、あなたの隣人迷走中

「ちょっとみょうじちゃん大丈夫?」

「え?」

「もうお昼だけど午前の休憩も取らずにずーっと仕事してるから」

「あ、そうでした。お昼行ってきます」

「い、行ってらっしゃい」

いつもよくしてくれる先輩に肩を叩かれてそっちを見た。確かにずっと仕事をボケッとしながらちゃんとこなしていた自信はあるんだけど、なんというか…集中しすぎた。だって集中していないと余計なことが私の頭の中をよぎるんだもの…。とりあえず買ってきたお弁当を食べながら久しぶりに集まろうというメールが来たので、その日にちを確認し、それから自分はいけそうにない事を伝えたのだが、その時思い出した。同級生の中にアニメとか漫画が好きな子がいるって事を…「久しぶり!ちょっとアニメ?とかの事で聞きたいことがあるんだけど、時間があるとき連絡くれたら嬉しい」という旨を送り、ご飯を食べてまた仕事に戻った。16時になると「仕事終わったからいつでもメールでも電話でも!」と送ってくれたので私も片付けすぎたこともあり仕事を終わらせて電話をしたら直接会う事になった

別にアニメ好きに偏見は無いし、この子がたとえオタクという部類に入れられようともそのへんの子よりは可愛いと思うし、ふわふわした雰囲気とかずっと話していられるところとか私はとても好き。個室になってる居酒屋を予約して待ち合わせ、その場所に行くとすでにその子は来ていたみたいで、扉を開けて中に入ると柔らかい笑みを浮かべて手を振ってきた

「久しぶり」

「久しぶりー!なまえちゃんずっとお仕事忙しそうだなーって思ってたんだ。連絡くれてありがとう!」

個別にはみんな会ってるけどやっぱり全員に時間を合わせるとなると本当に2年に一回会えるかどうかくらいで、さらに言うならきっと誰かの結婚式っていうふうになるとやっと会えるのかなって思う。それでもこうやって久しぶりに会っても全く久しぶりな感じもしなくて、私と今でも関わりがある人たちはわりと仲が良い部類に入るんじゃないかなって感じる。お互い飲み物と料理を注文し、それまでは久しぶりの会話に花を咲かせ、とりあえず最初に頼んだものが揃うと目の前の彼女は身を乗り出してきた

「ところでどうしたの!?彼氏がオタクになっちゃったとか!?」

「あ、違うの。オタクとかじゃなくって…あ、彼氏とは別れた。それは置いといて!あの…男同士…?とかの、そういうのって詳しい?」

私の問いかけに目の前の彼女、ユウちゃんはまんまるくて元々大きな目をさらに大きく開けたかと思えば口角が吊り上っていた。きっとニヤッていうのがあっていると思うんだけどそれさえも可愛いってどうなの…

「男同士の恋愛のこと!?」

「ちょ、声でっかいわよ!?」

「ご、ごめんっ…!詳しい、詳しいどころじゃないの。そういうのが好きな人って腐女子って言われてるんだけど私それなの。もう家の中とかにいっぱいそういう本があってね!?私が一番好きなのは…」

なんてとりあえず語りだして、知っているアニメのもあったから色々聞いて知らないものは画像で検索して「なるほど」ってなったりしていた。そこで散々話していたらもう実物を見てくれという話しになってその子の家に拉致されてしまった。そう、この若干強引なところが私は好きよ…

「ここでなら危ないお話も出来るね!」

「危ない話しって何…?」

「だってさっき男の人たちってどうしてるのかな?って…下のことじゃなくて?」

「あ、そう、それはそうなんだけど…」

そんな意気揚々と突っ込んでこられたら怯むわ。苦笑いを浮かべてからとりあえず借りた薄い本というものを見てみるけど、なんていうか…ときめき?が無くて首を傾げた。それでもとりあえず知識としてそれを見てみて、さらに言うとその子にR18というお外では絶対見られないものまで見せてもらって私の知識がおかしな程増えていく事になった

「どう!?どう!?っていうか今更だけど急にどうしたの…?」

「う、うん…実はこの間」

そこから私はこの間出会った松田くんと萩原くんの話しをしたら、それはもう楽しそうに話しを聞いていてくれた。

「そっか!じゃあもう推しがいて、そこに固定されてるんだね!?」

「日本語でお願い」

「おめでとう腐女子の仲間入り!!」

「素直にありがとうって言えないわ…」

苦笑いを浮かべたは浮かべたけど…とりあえずこうやって話しが出来て相談みたいなことが出来る相手がいるのは頼もしい事だった。それにしても男の子って色々大変なんだなぁ…なんて若干感じながら、あの二人もなんかそういうのしているのだろうかと考えたら自分の家の壁に耳をつけたくなった。とりあえず自分がそうなってしまったらしいっていうのをわかってしまった後に「何かあったら遠慮なく言って」なんていわれて親指をぐっと立てたこの可愛い表情は忘れられない。家に帰って…やっぱりやってしまった…壁を耳につけるこの行為!電気はついていたけど何も聞こえないから今日は萩原くんが家に遊びに来ていないのかもしれない…とりあえずこんなストーカーみたいな真似は絶対しないほうがいいと思って、どんなにそんな何かを聞いてみたいと考えてもそんな事はしないようにしようと心に決めた。とは言ってもうっかり聞こえてしまったら耳はつけるかもしれないけどね、うん!


それからまた数日間二人には会わない日々が続いていたけど、仕事が落ち着いたある日の午前中のこと、私が洗濯物を干していたらカランカランという音が聞こえて仕切り版の下から何かがこっちへ来た

「あ、やべ」

何かって思ったけどそれはすぐにわかった。携帯だ。私が拾っていいのか少し迷っているすきに、コンコン…トントンという音が聞こえてそっちに顔を向けたら壁が破れた

思い切り叩いていないのは音でわかる。多分あっちも私がここにいるか、それか近くにいるのに気づいて面倒ですぐそこの壁をトントンしただけなんだろう。ベランダにある仕切り版に見事に丸い穴が開いていた。それのせいでお互いがお互いの顔を見ながら二人の間に無言が流れた

「……いやなんで!?」

「悪ぃ…」

「松田くん壊したわね!」

「壊してねぇよ!いや壊したけど。…そんな力入れてねぇし!」

なんで壊れたのかわからなくてその言葉を出したのに、素直に謝った彼と簡単に壊れてしまったそこがおかしくて笑っていると、本当に申し訳ないと思っているらしく、彼が顔を背けて「管理会社に連絡する」なんて言っていた。彼の飛んできた携帯をその穴から返したら今度こそ彼も笑い出した。

「だ、大丈夫?だいぶ時間差あったわよ…?」

「いや…。昔警察学校時代にいたやつがさ、こういうもろい壁じゃなくて普通の壁に穴開けたなって思い出して」

「え、硬い壁?」

「ああ」

そんな人いるんだ…。とりあえずその状況がわからないからなんとも私としては笑えはしないし苦笑いしか出てこないんだけど松田くんが楽しそうにしていたからなんとなく頬は緩んでしまった。それから松田くんは管理会社に連絡はしてくれたんだけど、休日だから当然休みだったらしくまた月曜日に連絡をしないといけないみたいだ。その電話をしている間に洗濯物を干し終わり、とりあえず布を持ってきてガムテープで隠しておいた。別に繋がっているのが嫌なんじゃないんだけど、洗濯物が見えるのが嫌だ…。それをやってから松田くんに布の向こうで謝られた

「気にしなくていいってば」

「しばらく不便かける」

「大丈夫。ところで携帯は大丈夫だった?」

「ああ、傷ついただけで済んだ」

そのままベランダで少し話しをしていたら、急に松田くんが黙った

「こっち来るか?ベランダで話してたら昼間とは言えうるせぇだろ」

「え、でも…待って、今行く」

一瞬躊躇したけどすぐに返事を返した。一回着替えたりする事は伝えているから一度家に入って一応窓は施錠し、それから着替えと薄い化粧を施してから隣の家へ行った。手土産無いけどそれは今度また渡そうと思う。だって今行くって言ったのにコンビニ行くのもどうかと思って…廊下は少し出ただけなのにやっぱり暑くて、隣のピンポンを押せば松田くんが出てきた。部屋の中はひんやりと涼しい

私が彼の部屋に結局来る事を選んだのは下心から…。なんの下心って萩原くんと一緒に寝てるかもしれないベッドとか、萩原くんとのお揃いがあるかもしれない食器とか、なんなら萩原くんの私物とかあるかもしれない。ここだけ聞くと萩原くんの事が好きな女の子みたいな感じだけどそういうわけじゃないの、ただたんに私の萌え探しよ

家の中にお邪魔すると、自分と間取りは本当に一緒だけど置いてあるものの位置が違うくらい…。私の部屋は入ってすぐ左にお風呂があって右にトイレ…通路抜けて扉の先にご飯食べたり寝るところが一緒になってる場所と…その扉入ってすぐ右の扉がない先にキッチンがある。二人ぎりぎり並べるくらいのキッチンだから冷蔵庫はどちらかといえば部屋側に設置している感じ…その間取りはそのままで、私だとテレビが置いてある側なんだけど松田くんはベッドが置いてある

中に入ったらクッションも何も無いからベッドにでも座ってて、なんていわれた。でも座れるわけも無く下に直接座っていたらコーヒーを入れた彼がこっちに来た

「足痛くねぇ?」

「うん、平気よ。今日は萩原くん一緒じゃないのね?」

「あー、それ昔っから言われるけど別に四六時中一緒にいるわけじゃねぇよ」

「一緒に住まないの?」

「なんで」

「え、いや、楽かなあ…って」

「あーまあそうだな。萩原が来るとベッド狭いし。だったら部屋でかいの借りて一緒に住んだほうが楽か」

やっぱり一緒に寝てるの!?座らなくてよかった…!そんな愛の花園に私が土足で踏み込むわけにはいかないものね。私は自分の中ではそこまでいってないような気がしていたのに、こんな事まで考えてしまうところでいうともう戻れないところまで来ているかもしれない。萩原くんと松田くんって、どっちがどっちなの?って絞り出そうなものをコーヒーと一緒に言葉も飲み込んだ。そう思っていたのもつかの間、わりと松田くんも話してくれるから話しは止まらなくて、結局あんまり萩原くんの話しは聞けなかった

「あ、そろそろ帰ろうかな。ごめん2時間も…」

「呼んだの俺だしな。気にすんな」

「松田くんっていつもこの曜日休みなの?」

「いや、交代制だからそういうわけじゃねぇよ」

「じゃあ萩原くんと休みあんまり合わないわね?」

「……お前萩原が好きなのか?」

「まさか」

松田くんから萩原くんを取るつもりは無いし、どっちとよく話すかといわれればやっぱりこっちの松田くんのほう。それは隣だから当然だと思うし、帰り際に眉を寄せた松田くんを見てから「無いから」って再度伝えておいた。なんだか申し訳なくなったところで家に帰った。私って代わり映えのしない休日を送っているなーなんて考えてしまったのは松田くんと話しをしたからかもしれない。飲食店で働いている友人たちとは休みが合わないのはこういうところで、私はいつも暇なら一人で買い物に出かけたりして、あとは家の中で引きこもり…彼氏がいるときはそれなりに適当にデートはしていたけど。なんとなくこんな毎日を続けていたらだめになる気がする…ストレッチをしながらそんな事を考えていた



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