コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 32、隣人スタンス

片付けが終わって、三人でトランプをしていた時萩原の携帯が振動した。萩原が微妙な顔をするので、俺が通話ボタンを押してやれば萩原が信じられないという顔をした後にしぶしぶと電話に出るために携帯を耳に当てた。萩原の反応と時間帯を考えると親や姉弟、もしくは職場。どうやら職場だったらしく廊下から肩を落として戻ってきた

「一応…近いからじんぺーちゃんの家に来たけどさ…それが間違いだったみたい。お前松田の家にいるんだから近いんだから来いって」

「あぁ、で?爆発物でもあったか?」

「署の前の雪かき…」

「おう、頑張れ」

「なんで非番ってことで帰っていいって言われたのにまた呼び戻されるんだー…」

「俺仕事終わったし。署の中空にするわけにはいかねぇだろ」

「行ったらそのまま仕事だよ」

「当たり前だろ、いけ」

「はぁ…。はい、行ってきます」

そうやり取りしながら玄関まで追いやると、後ろからみょうじが顔を覗かせた。多分また俺と二人になるのが萩原に申し訳無いんだろう、困った顔をしていた

「じゃあね、なまえちゃん。じんぺーちゃんに何かされたら警察を呼べよー?」

多分萩原からしたら俺もどっちかわからないんだろうし、俺から見たら萩原が実際どうなのかもわからない。仕事でどうしようも無いのかもしれないけど、普通好きな子って言ってるやつと男を一つの空間に置いていかないだろう。自分を信用しての事かわかんねぇけど…萩原はそういう所に関してはよくわかんねぇな…。そもそもあいつが追いかけるような恋愛してるのなんて見たことねぇし
困った顔で手を振っていたみょうじを戻るように促して、部屋に戻った。みょうじはベッドに寄りかかるような形で飲んだりしていたが、どうやら好きな映画でも始まったらしく真剣にテレビを見ているので俺も俺で携帯を弄ったり一緒に見たりしていた

特にみょうじに気を使うあれは無いので、あとは好きに使えと言って俺は寝る準備をしてみょうじの後ろにあるベッドに寝転がっていた。みょうじはとりあえず寝る準備はしたらしく、洗面所から出てきて再び同じ所に座った。髪も解いていて、手を伸ばすと触れる。特に触りたいわけでも無かったがなんとなく緩くつかんでみてからすぐに離した。みょうじもそろそろ寝るのだろうか、リモコンに手を伸ばして多分ボタンを押した瞬間にブツッという音と一緒にあたりが暗くなった

「え!?私何かした!?」

「いや…停電じゃねぇか?」

起き上がってカーテンを開けて外を見ると、ここから見える一部の家が暗くなっていて、一部の家は電気がついていた。寝ている家もあるにしても違和感があるほどに自分の家の周りだけが暗くなっている
それをみょうじが一緒になって覗いて、それから「わあ」と感嘆な声をあげた

「もっと高いところから見たらきっと綺麗ね」

「悪かったな、低いところで」

「そういう意味じゃないわよ」

月明りは無いに等しくて、せいぜい何かの灯りが雪に反射して見えるか見えないか程度。でもしゃべり方からすると多分苦笑いか何かはしているんだろう、そのまま外を見ていたみょうじ、ただ窓に近づくと冷気が漂って来るのは俺でもわかる。みょうじもそれに気づいたんだろう、そのうち顔を引っ込めて窓から離れたのでカーテンを閉めた

「さみ」

自分のベッドの中にもぐりこんだ。電気もつかないのならテレビもつかない、携帯も今触って朝方や必要な時に充電が切れても困る。今の温度を調べようが無いが、多分いつもよりも気温も下がってんだろうな

「外で鎌倉作ったほうがあったかかったりしてな」

「作る?」

「バカ、作った後はいいかもしれねぇけど、作るまでが大変だろうが」

「でも鎌倉でおもち焼いて食べるのって夢でしょう?」

「……いや、別に」

「夢が無いなあ…」

クスクスと笑うみょうじが布団の中に入った。っても多分この寒さで俺の家に追加された布団では寒いだろう。暖房つけたまま寝る予定だったけど、そのままじゃみょうじは眠れねぇだろうな。それでもあっちが寒いというのを待つか、そう思って寝ないまま頬杖をつくようにしてみょうじとしゃべっていると、みょうじの声が震え始めた

「寒い?」

「……ごめん」

「いや、謝る必要ねぇよ。こっちきたら?」

「それはちょっと、次の日全力で萩原くんにごめんなさいしなくちゃいけなくなるから!」

「お前が風邪ひいたら、俺が萩原に恨まれるし、お前の親にごめんなさいしなくちゃいけねぇんだけど。めんどくせぇこと言ってないで来いって」

萩原に恨まれる、は、どっちにしろかもな。むしろ風邪をひかせて萩原が看病する事になったほうが萩原にとってはいいのかもしれない。でも目の前で寒そうにしているみょうじを放置できるほど冷たい人間になったわけじゃねぇし…そもそもなんで俺は萩原に遠慮してんだっつー話…

「でも、本当によしたほうが」

「俺が寒い」

布団を捲り上げたままで待機していれば寒いのは当然で、ってもこれはみょうじが気にするだろうと思ってやった事なのでどうしようもなく寒くなったら閉じる予定。でもそれがみょうじが結局気にして俺のベッドの上にあがり、なぜかこっちを向いて布団の中に入ってきた。こっちが何かを突っ込む前に何でこっちを向いてきたのかは理解した、俺の服の中にスポッと冷たい手が入ってきて危うく叫びかけた。声にならない声、いや、多分「ひっ」って声は出しただろう。ぶふっと吹き出して笑うみょうじが背中側に触れてきたその手を引っこ抜いて背中を向けた

「よしたほうがいいって言ったでしょ。手も足も冷たいのよー、冷え性だから」




萩原くんと松田くん、今更だけど二人は人との距離が近いんだろうって思った。他の人と絡んでいるところはあまり見たことが無いけど松田くんと萩原くんお互いもそうだし、私にも最初こそそこまでじゃなかったものの最近ではぬいぐるみを抱きかかえるかの如く萩原くんは後ろから抱き着いてくるし、松田くんもわりとそばにいる事を許して?くれてる…と思う。ただその、二人にこうやってされるのはまったく嫌じゃないんだけど、恋人の前よね?って思う気持ちと、それを松田くん、萩原くんにやってほしい!っていう気持ちでいっぱい。だからたまに私は自分と萩原くんを置き換えたり、松田くんと置き換えたりして自分なりにフィルターをかけてみて過ごしてる

萩原くんも、だけど松田くんのほうがズバ抜けてお人よしが過ぎる。なんとなく誰かのために何かをして損をするタイプのような気がするけど、それでも線引きをしっかりしている気がするから私が勝手に心配をしているだけで、しっかりしているし、警察官だから私の心配の気持ちも余計なお世話なのかもしれない

松田くんは萩原くんと寝てる事が多い…と、仮定する。多分そんな毎日とかじゃないのはわかってるけど、そういう事だとして、そうすると一人で寝るのは寂しく感じているのかもしれない。松田くんと萩原くんの恋愛対象が男だとしても…そもそも、で…松田くんと萩原くんはどうやって付き合ったのか、そうだ、それを聞こう!なんて頭の中で一人で決意しながら寒い私を呼ぶとこうなるよってところを口じゃなくて直接教えてみた。松田くんから聞こえた「ひっ」っていう叫び声のような、引きつったような声にSでもなんでも無いのに胸が躍った。ごめん、楽しいって思ってごめんなさい、でも楽しい。
松田くんの背中から手を引き抜いて背中を向けると、なんとなく見えもしない自分の手のひらをジッと見つめた。背中…なのに硬かった。筋肉…

とくに筋肉フェチというわけでも無いけど、お互いの筋肉がどうとか、俺のほうが硬いとか、そんなことやってるのを想像しているだけで鼻血を出したくなった。そのまま見ていた手のひらで自分の額を叩いて足をじたばたさせていると、松田くんが脚を乗せてきた

「うるせぇ、暴れんな!お前が動くと空気が入ってさみぃんだよ!」

松田くんに明らかにホールドさせられているように脚さえもぎゅっと抱きしめられるようにされると動きを止めた。そうね、布団の中に空気が入って寒いのはその気持ちはよくわかる。でも今色々妄想した私はちょっと暖かくなった
松田くんが私を抱き枕にしているのか、それとも私のことを温めてくれているつもりなのかはわからないけど、脚は私の上に乗せるように、脚をまるで絡ませるようにしたまま手は包むように握られていた…。一見すると恋人のようなんだけど、松田くんに他意は無い。親切心と捨てられた子犬を拾った責任があるんだ、きっと

そうは言っても私も女の子、ドキドキしてしまうのは仕方ない。手を握られていて、脚を絡ませられている状態でドキドキしない女がどこにいよう。しかも顔がいい松田くん。ドキドキしていることが萩原くんに申し訳なくなって頭の中で謝罪をしながらおとなしくしていた

「…萩原くんにもこうしてる?」

「……するわけねぇだろ」

後ろから盛大なため息が聞こえた。じゃあ…あ、向かい合って寝るのか…腕枕とか。一人で楽しい妄想を繰り広げていると指の間に指が入ってきて、手の甲側からだけど恋人繋ぎみたいになった。

なんか…なんだろ、なんか心がむずがゆいというか、先ほどよりも心臓が飛び跳ねた気がした。なにこれ、なにこれ、こんなの知らない

私からベッドから落ちるつもりで体を捻ってそのまま松田くんの脚とか腕の中から抜け出して「おい!」というような声を出した松田くんをそのままに見事にベッドから落ちた

「お前…大丈夫かよ…」

呆れたような松田くんの声に起き上がって大丈夫だと伝えた。ふざけすぎたのだと言いながらまた呼ばれたのでベッドに戻る。戻るしか無かった、ここで戻らなかったらちょっとなんか変に考えた事がばれてしまう。変、っていうかなんか、そう、変な感じが…。再び背中を向けて何も考える事なく頑張って眠った…なんて言っても松田くんが暖かいやらなにやらでしっかりと眠っていたらしく、朝方無理やりベッドに萩原くんが入ってくるまですっかりと気づかずに眠っていた

しかも起こし方が凄かった。私の首にとても冷たい何かがあたり、私は昨日の松田くんのように声にならない叫び声をあげたし、それは松田くんも同じだったらしい。最初萩原くんは無言だったので萩原くんがいたことに気づかなかった眠たい私は一瞬で冷えた体を暖かいところを求めて松田くんに寄って行ったらしい事は萩原くんが声を出して気づいた

「さっむい!俺も入れて」

再び寒い風が入ってきたのと、あれ?って思ったので松田くんのほうを向いていたらしい体は今度は萩原くんのほうへと向く。目を開ければもうベッドに入ってこようとしていた萩原くんで、その体は松田くんの腕によって阻止されていた

「邪魔、狭いし入って来んな」

「なんでだよ!俺頑張ったよ!?朝方までやってたし。ここ来るまでも遭難しかけたし」

じゃあ私が出れば二人で仲良くしているところを見られる状態か!よし、って思ったのに萩原くんは松田くんの手を押しのけて入ってきた。私を出す気は無いらしいので私は上を向いて狭くさせるのも申し訳なく、萩原くんのほうを向いたまま少しだけ松田くんによった

「……ごめん」

何がごめんか、私にはわかったので軽く首を振った。ため息交じりのごめん、多分萩原くんが入ってこなければ気づかなかったんだろうけど、私が寄っていったせいでちょうどお尻のあたりに硬いものがあたっていた。多分朝だし自然現象なんだろう。入ってきた萩原くんが私も、松田くんも抱きしめるように腕を回してきた

「なにがごめん?」

「萩原がごめんのごめん。っつーかさみぃ…お前体冷たいだろ、みょうじが硬い」

私がそれに反応してしまうと、松田くんの頭が私の頭にごんっと軽くあたった。違うという意味だろう
松田くんのほうはあったかくて、萩原くんのほうはさっきまで冷たかったけどだんだんあったかく…いや、何この状況。身動きも取れないし、萩原くんが避けてくれない限りは私も松田くんも動けない。この状況はおかしい、おかしいって頭の中ではわかってるのに萩原くんも冷たかった服とか体全体があったかくなってきたし、松田くんはもともと温かい
そうなれば自然と睡魔は襲ってきてしまうもので私はそのまままんまと寝ていたらしい



「…なまえちゃん、寝たよ」

「は?この状況で眠れるってなに、こいつ大丈夫か?」

「安心しきってる顔が見える」

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