コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 02、自称?警察官の隣人さん

彼氏に浮気された。とは言っても私はどうやら男を見る目が無いようで、わりといつもされてるし、告白されて付き合ってみる事が多いからそこまでの感情は無い。そのわりには求められたら受け入れるし、決して求め返したりはしないけど求めて欲しいならそのまま望むものを出来るならしてあげる…。したい、じゃなくて、あげる、その時点でもう私はこの人と恋愛する気は無いのだろうと自分でもそう思う。浮気の理由はだいたいはつまらない、仕事ばかり、どうせ遊んでる、職場で仲のいい人達がいるから飲み会に行っていると、自分と会う時間がないとか…まあ言い訳していいわけ?って思ってしれっと別れる。それなのに今回の彼は少しだけしつこかった。まあでも、そのうち飽きるだろうと思っていたらなかなかしつこい…。近所迷惑なのはわかってたけど、部屋の中にこの人を入れたら無理矢理抑え込まれて抱かれるだけで、この人を満足させるためだけの行為をされるってわかってるのに、入れるわけがない。でもその近所迷惑だろうけど中に入れないという選択は正しかったようで、思わぬ展開…初めて会ったお隣さんに救われた。

彼の印象は、凄んでくるというか、顔はそんなに悪くないのに怖い印象を受けるというか…
そのくせにわりと優しいみたいで、助けるために声をかけてくれただけにとどまらず、ただその場限りで終わり…というわけではなくてコンビニまで一緒に連れていってくれて、しかも何かいるか?まで聞いてくれた。自称警察官の彼…見た目に反してわりと優しいんだなって思うんだけど、警察官をでっち上げるのはどうなんだろう。でも最近はコスプレとか、なんなら百万円札とかいうおもちゃだってあるし、私の事を助けてくれるためだったんだなって思うとそんなおもちゃの警察手帳で騙してくれちゃうこの人の印象が違うものに代わる

待っておけ、そう言われてもコンビニに入る気にはなれなかった。明るい場所の下に行きたくなくて小さい虫がたくさんいるコンビニの外で待つことにした。口の中を切っていなくてよかった…だいたいなんで私が叩かれなくちゃいけないのか…多分この隣の人だと思う人物に声をかけられていなかったら、やり返していた気がする
少しそのまま待っていると彼がコンビニの中から出てきてアイスを差し出してきた。他人から貰ったアイスをどうして受け取れるの、なんて一瞬感じたけど、二つ買ったらしいもう一つのアイスは彼の口の中…って事はこのアイスは私が食べなかったら溶けていなくなってしまう子…アイスに罪は無い、いただきます。
自分の中では色々考えたけど、多分この人には私が躊躇なく、遠慮なく受けとったように見えただろうな。それでも嫌な顔一つせずに渡してくれた彼の第一印象が少しずつ変わって行った

部屋の前について、改めてお礼を言ってから私は彼の名前を知らない事に気づいて問いかけると、彼が全部言い終わる前に勢いよく扉が開いて、目の前には扉になってしまった。松田…じんぺいちゃん、ね。ばいばい、と手を振った彼の姿…ねぇ何この人、ギャップすごい…すかしたような態度取って手を振ったりするような顔に見えないしアイスを買ってくれるような感じにも見えなかった。ちょっとだけ心がくすぐったくなる

家の中に入ると置いていった携帯が何度も振動を繰り返していた。家の中が蒸し暑いけど外はわりと気持ちのいい風が吹いていたから窓を開けてみると、思い切りタバコのだろう、煙が喉を通って咽た。隣の人は喫煙者か…特にタバコが苦手というわけでは無いけど、思い切り吸い込んでしまっただけですぐに治まった

また鳴る携帯…それを放置しても何度も何度もなるから、着信拒否をしたらまた家に来られるだけだと思って電話に出た

「しつこいのよ…何回も電話して来ないで」

話しをするのはさすがに近所迷惑だろうと思って扉を閉めてクーラーをつけた。もう話しが出来ないほどぎゃーぎゃー言ってるし、最後には謝ってきたりして面倒だから電話を切って着信拒否にした。私だって眠いの!
次の日が休みの日だったからのんびり寝て、寝ている間に汗もかいたのでシャワーに入った。何度もシャワー浴びるのはよくないのはわかっているんだけど、夏の間だけがんばれ自分の肌
シャワーを入って心も体も気持ちいいっていうのに、先ほどから鳴るインターホンや扉を叩く音がどうしても気持ちよくない。いないフリを決め込んでいるのにしばらくそこにいる状態が続いた

はー、もううるさい…。寝室にあるパソコンにイヤホンをつけて音楽を聞いていたらなんとなく静かになった気がしてイヤホンを外した。しばらく耳を澄ませているいると、先ほどのピンポンとは違う優しい押し方をされたので寝室から顔をのぞかせた。私の家についているピンポンは所謂チャイムというもので連打可能です

そろそろと扉に近づいて行くと「俺、隣の」という声が聞こえたので安心して扉に歩み寄って行った。確かにこの声は聞いた事がある…
そんな感じで、隣の彼はかなり気だるそうにしていたりもするけど、それでもなぜか優しくて結局困っている人がいると助けてしまうような感じで、ご飯を食べるのに遠慮はしないけど私が大食らいだって知ったら気にする素振りさえも見せてきた

だから隣のその彼は、よくわからないけどモテそうで。自称警察官で少し頭大丈夫?なんて思ってしまった事もあるんだけどだけど良い人だと思う
それから私は半分ストーカーと化していた元彼は、浮気相手のほうとちゃんと付き合ったみたいで来なくなったし、なんだかんだ仕事が落ち着かなくてそのまま会社に泊まったりもした。とは言っても朝に一度帰ったりシャワー浴びたりはしたし、最低でも二日に一回は家に帰ってきていて…だからこそ、というか私が家にいない日々が多すぎて、隣の彼とはまったく会わなかった。そして、忘れかけていた…



「またこのニュース?」

「怖いよね…、爆弾ってそんなに簡単に手に入るの?」

「作れるんじゃないんすかね…」

仕事が落ち着いて、いつものように決まった時間の10時頃になるとみんなで休憩になる。コーヒーや、他社から貰ったお菓子を食べ飲みして、15分くらいお手洗いに行ったりの休息を取っていた。私もコーヒーを作ってもらったので、そのアイスコーヒーに口をつけて、よっぽど自分は喉が渇いていたんだろう、それを半分ほどまで飲み干して立ち上がった時にテレビがある部屋から聞こえてきた声に、みんながテレビがある部屋を覗きに行ったので私も顔を出したら速報のニュースが入っていた。最近世間を騒がせているのは小さな爆発騒ぎ…だったもの。今のところ死者は出ていなくて、爆発も最初こそびっくり箱程度の小規模だったんだけど、一昨日あたりには負傷者が出た。命に別状は無かったけど腕に火傷を負ったみたい。今日のニュースはそれよりも上でついに意識不明者が出た、予告状はしっかりと出ていて、その予告状を悪戯だと片付けていた社長さんの部屋が爆発したらしく、社長さんが、意識不明の重体だという。まだ犯人は捕まっていない、私も怖いなあ…なんて考えて息を吐き出してからお手洗いに行った
正直このときは、冷たいものの食べ過ぎでわりとお腹が痛かった。だけどお腹が痛いだけで、何かが出るわけもなく。それでももしかしたら出てくれればすっきりするのかと思ってしばらくの間座っていた…携帯さんをいじりながら

私の携帯さんは優秀でして、さっきみたいに何かニュースが入ってくると逐一お届けしてくれるんですね、なので暇なときに確認してみたりするんです。
私はニュースの文字を目で追いながら段々と眉間に皺が寄っていった。外がばたばたと騒がしいので私は慌ててお手洗いを終わらせて出ようとしたら、金具にスカートがひっかかった

ちょっと待って、なんてコント!?しかも引っ張っても取れなくて、仕方ないから慌てないできちんと手で取ろうと思い、そこを確認したら…ひっかかっただけじゃない、糸というか、私が引っ張ったせいで隙間に食い込んでいた。隙間が出てるようなつくりをしたトイレ作った人ほんと怒る。さっき入ったニュースによると予告状は私がいる会社にも届いていたみたいで、今みんな多分避難中…私今ここでスカートを脱ぐか何かしたり、無理やり引っ張ったとしたらパンイチで報道陣の前に「いやーびっくりしましたあ」なんていいながら出なくちゃいけなくなる。それともそのまま爆発に巻き込まれるしかないのか!?嫌だ、私はまだ生きていたい!

「うっ…ぬぬぬっ…んん〜〜〜っ!」

鏡に映る私の姿は大変面白い。顔を真っ赤にして踏ん張っている私なんてそうそう見られるものじゃない。息を吐き出してもう一回引っ張ろうとしたら「誰かいるのか!?」なんていう声が聞こえて女子トイレの扉が開いた。その瞬間にビリッという鈍い音がなり、私は前につんのめって転びそうになったのだが、なんとか何歩か前に行って事なきを得た。トイレの中で転ぶのは嫌、絶対嫌

そんな私のセーフ、みたいな手を広げた格好を見ていたのは、何か見た目からして重たそうな服を着ている隣人さんだった

「あー…お前何してんだよ…ったく。8階西側トイレに女性発見、下まで連れて行きます」

無線みたいなので連絡した後に、松田…くんが私の服装を見てため息を吐いた

「そのままじゃ外には出られねぇか…」

スカートを急いで閉じる。というか、まさか警察官っていうのって本当だったの?それを問いかけたかったけど、下着を見られた気がしたのと一人でわたわたしていたのを見られた事もあってきまずい。それなのに松田くんは何か無いかとポケットの中を探ったりした

「安ピンでもあればいいんだけどな…あ、そこ重ねて腰より下に俺のベルト巻けばとりあえずの応急処置になるんじゃねぇか?」

「え、ベルト借りて大丈夫?」

「規則でつけてるだけだからずり落ちてきたりしねぇよ…」

「ありがとう、借ります…」

なんて言って彼を若干拝むような感じになっていた。カチャカチャとベルトを外す音、とりあえずスカートを整えておく私。開く扉、若干髪の長い人が顔を出し、私と松田くんを交互に見てから笑顔を浮かべて退場していった

「待って!?」

私と松田くんの声が見事に重なる。はたからみたらおかしいよね、そうだよ、そうだったね!?松田くんが追いかけていってしまったので私は結局そのまま…ねぇ、せめてさあ!もう!一階までって言ったのはなんだったの?なんて思って仕方ないので、まるで高校生のように少しスカートを捲りあげて見事綺麗に縦に割れてしまったスカートをどうにかしようと思ったけど無理でした。走らないで押さえたままいけばどうにかなるだろう、なんて思ってトイレから顔を出して行こうと思ったら目の前に松田くんとは違う…というか松田くんがイケメンだとしたらこっちは美人。そんな顔の人が覗いてきた

「はい」

「えっ」

「俺のでよかったら使って」

「あ、ありがとうございます…」

渡された上着のジャケットを借りて、パーカーとかじゃないから結んでいいのか迷ったんだけど、迷っていたところを「ごめんね」と言われた後にしっかりとぎゅっと袖同士を私の腹部あたりで結んだ。それから「これでよし」と笑みを浮かべた後に私のほうを見上げて

「あ、ちなみにさっき爆弾はもう見つけて犯人も別なところで逮捕されてね…ただ一応ここの会社、一日は使えないんだ」

「え、なんで私のスカートがこんなことになってるってわかったんですか…?」

「あー……。ああ見えてさっきの人ね、仕事にはわりと真面目だから、そんなやつが仕事現場で色々やろうとしないでしょ?」

片目を瞑ったこっちの人は物凄く絵になるし、本当に柔らかく笑うような美人な人。だからこそ一瞬見惚れてしまったんだけど、それは男の人に対するものじゃなくて、芸能人を見ているような「この女優さん綺麗だな」って思うのと同じ感情で。そんなものを男性に向けるのは失礼だと思ったので苦笑いを返した。仕事には真面目、そういったけどさっきこの人追いかけていったよ、私を置き去りにして…そんな表情でもしていたのか目の前の人がふはっと吹き出すと顔を背けて肩を揺らしていた

「うん、ごめん。一応避難しようね」

クツクツと肩を揺らしていたのに、そのままこっちを向いてきたその彼に連れられて外に出た。同期や同じ職場の人から心配されて、なんでそんなマヌケなのって怒られもしたんだけど、とりあえず命があって助かったと思ってる

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