コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 26、隣人さんは彼氏じゃない

猫くんとは多分順調。とは言ってもなんとなく清いお付き合いをしている状態で…それは私が悪いと思う。っていうよりも、触れたいという気持ちが皆無…私には。元カレとか今までお付き合いしていた人たちもそういえば私から寄って行くというよりも、寄られたから受け入れるっていうほうに近かったのかもしれない。最近BL関係の漫画とか、普通の少女漫画とかを見てみるものの…なんていうか、違うなぁって思う
思うのに…あの時松田くんがした行動に、少女漫画的に言うとトゥンク…何よトゥンク!トクンとかじゃないのか!ちょっとやや自分がわけわからない事になっているのにそれを…追い打ちをかけようとやってきたのはうちの母親。やってきた、というよりも仕事帰りに電話がかかってきた

「も、もしもし…?」

’あぁ、なまえ?聞いて!腹立つのよ本当!うちの子にね!警察官のイケメンの彼氏ができたって近所の人に言ったら見栄っ張りって言われたのよ!嘘なんてついてないのに!’

「や、あのね、お母さん」

’だからあんたちょっと一回松田さん連れてきなさいよ!ね!?’

「あのねお母さん!」

私が少しだけ大きな声でいうとやっとこさ一度黙って「なによ?まさか別れたとか?」なんて聞いてきた。あぁ、やっと説明できる。松田くんは彼氏じゃない事と、彼氏は他にいる事…待って、そうなったら猫くんを連れてこいって言われる?猫くん連れてこいって言われたら別に結婚とかそういう話しになった事も無いし、私も猫くんも意識しているわけが無いのに迷惑すぎる。じゃあ松田くんに迷惑かけていいのかって聞かれたらそれも違う

「と、とにかく、自分で蒔いた種なんだから自分でどうにかしてよ!」

「みょうじ…どうした。あ、電話中か、悪い」

私が壁に向かって怒鳴っていたせいだろう、声をかけられて慌ててそっちを向くと私が携帯を耳に当てているのに気づいて松田くんが頭を下げて通り過ぎようとした

’そこに松田さんいるの!?ちょっと変わって頂戴!’

私も私で部屋に入ってから電話に出ればよかったのにアパートに入るところで電話に出てしまったもんだから、他の人の迷惑にならないようにアパートから出たところでアパートの壁に向かって話していた…じゃあ松田くんも気になるのは当然だろう。しかも母が急に響くような声を出してきたので私は耳からスマホを離した。松田くんは聞こえたのか行こうとしたのに足を止めてこっちを向く。眉間に皺を寄せている姿は警察官というよりもヤーさん、サングラスがそれを手伝ってさらに、だ。その松田くんが声を出さずに唇だけを「おや」と動かして、それから少し首を傾げた。私は申し訳なさと二人のタイミングの良さとか悪さとかに口をへの字に曲げてうなづいた

「貸して」

こっちに寄ってきた松田くんが電話を取った

「もしもし?」

私はその松田くんに何を言うのかわからなくて、松田くんの服を引っ張って少しだけ体を斜めにさせて耳を反対側からつけた

’松田くん!あらー、いつもお世話になっていて…それで、なんだけど今度うちに遊びに来てくれない?’

「ええ、ぜひ」

ちょっとこの隣人何を言ってるのかしら。人が一生懸命それをさせないようにしていたというのに「ぜひ」ですって?その後体勢を変えられてしまえばお母さんの声が聞こえなくなった。もう一度、と背伸びをして松田くんの服をぐいぐいと引っ張るものの今度は倒れてくれない。少しの話しの後に松田くんが私の新しくなった携帯を私の手元に置いてくれた

「お前これ誘ってんの?」

松田くんから聞かれた事と、それから差された先を見ると私は松田くんの腕にさっきまで胸を押し付けていた形になっていた。違う、という意味とごめんなさいという意味、色々と混ぜ込んで胸の前で腕で罰を作りながら頭を下げた

「そして、なぜ断ってくれないの!」

「あぁ、だって断っても意味無い気がして。お前ともう関わる事は絶対ないってんならそのまま放置したっていいけど、そうじゃねぇだろ」

松田くんを見上げて、私は目を見開いた。そう思ってくれていたのに驚いた。確かに、一緒にいるこの2年に満たない期間ではずいぶん仲良くなったと思う。それでもこれからがあるんだと思わせてくれるような発言に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。どう、表現したらいいのかわからないけど、なんとなく笑いたくて、なんとなくふわふわして…

「私これから先もずっと、二人を近くで観察できるって事ね!」

「観察っていうな。やめろ」

あきれた顔の松田くんに浮足立つ私、この時はお母さんの事なんて頭からさようならだった。ただ、松田くんに萩原くんもつれていく事、それから猫くんも連れて来いと言われたので、三人を連れて私の実家に行く事になった

「萩原くんの運転はじめてー」

「萩原さん、俺車酔いも船酔いもするし、先輩がウキウキしても安全運転でお願いします」

「大丈夫だよ猫谷ちゃん!ドリフトだってしちゃうよ!」

「すんな」

運転席には萩原くん、助手的には松田くん、そして後ろには私と猫くんがいる。この日のためにレンタカーを借りての出発で、私は行く前に前の席じゃないから酔い止めを飲んでいた。借りた車は小さめの軽自動車、面白いくらい前にいる二人には似合わないけど、私はちょっとだけ四人での旅を楽しみにしていた。
当然ながら後ろに乗っている猫くんと私の距離は近くて腕も手も触れられるくらいの距離、道中お話をしながら外を眺めていると猫くんが私の手の甲を指で撫でてきた
猫くんのほうを振り向けば、猫くんも外を見ていたので行き場をなくし、前を見たら萩原くんとミラー越しに目があった

「あ、ねぇ、松田くん…何か考えがあるの?」

「あぁ」

「どんな?」

「普通にそいつが彼氏っていう」

「あー…」

「で、俺は萩原が彼女っていう」

「素敵!!あ、まって、やっぱりそうなのね!?」

「だめだあいつ、早くどうにかしよう」

萩原くんの後ろにいたんだけど、そっちから松田くんの手を伸ばして、松田くんの髪を軽く引っ張った。乱れればいい!なんて思ってすると松田くんが遠く離れていく。
猫くんに腕を引っ張られて元に戻り、そしていろいろと話しながら家についた。萩原くんは安全すぎるくらいの安全運転をしてくれていたし、話しをしていたおかげで気も紛れた。さあ、これで解決だ、と思って家に乗り込もうとした。家の前に車を停めて、それから降りようとしたところで猫くんの一言だ

「先輩さぁ、俺の事あんまり好きじゃないのに紹介しちゃっていいの?」

足をひとつ降ろしたし、松田くんも萩原くんもそうだったのに、猫くんの言葉で足を引っ込めて扉を閉めた

「撤収!一回撤収!」

萩原くんの言葉に一回車を走らせて大型スーパーの端っこに車を停めた

「急に何を言い出すの猫谷ちゃん!?」

「あぁ、いや、知らないふりを通そうかと思ったんですけど。いざ目の前に来たら申し訳なくなって。だってこれで先輩のお母さんが乗り気になってしまったら先輩は嫌でも、俺から離れられなくなりますよ?し辛くなりますし、先輩かわいいそうですし」

「やべ、猫谷ちゃんが良い子すぎて涙出る」

こっちを振り向く萩原さん、私は猫くんの言葉に違うとも否定はできなかった。違うの、本当に違う。猫くんはいい子だし一緒にいて楽しい、でもそうじゃなくて、一生って考えたらちょっとあれで、特にお母さんはあんな感じだから余計にどうなんだろうって思っただけで。猫くんの事が好きじゃないとかそういう事じゃないし、でも私のいう好きはきっと他の人の恋と少し違うのかもしれない

「で、みょうじ何か言う事は?」

「………あの」

何を言えばいいのかわからずに、それだけ言って口を閉じた。

「あ、先輩誤解しないでくださいね?わかってて付き合ってますし、ただ先輩の実家で俺が彼氏って言った後の事を考えたらってだけで」

「まあ、少なくとも猫谷に迷惑かけたくないっていう理由で最初彼氏だって教えたくなかったみたいだし、そのくらいは思われてるんじゃねぇ?」

あぁ、あの時私が言い淀んでいるのを一瞬でも見ていたからだろうけど、その時一緒に失礼な事も考えていた。猫くんが私のほうを見ると笑いかけてきて

「そういう事で、松田さんのままでいいんじゃないですか?」

「はっ!?」

「そういう状態になったとしても松田さんなら何も思う事なくいけるかなって」

松田くんが驚いた声を出したのに、猫くんはしれっとして続ける。松田くんと萩原くんがそういう関係だっていう事を猫くんはわかっているし、わかっているにしても、彼女の私に他の人が彼氏って名乗るのはどうなのか。猫くんを見ると、猫くんは笑みを浮かべて私の指に指を絡ませた

「じゃ、萩原さん、家までお願いします」

「…彼氏役って俺じゃダメなの?」

「萩原さんはちょっとあれなので…ダメです」

猫くんが日に日にちょっと辛辣になっていく。私が何も言えないまま、松田くんの舌打ちを聞いてから車が動いた。今度は家の前で降ろされて、それから手土産を持つ。二人は観光していると言ってどこかに行ってしまった

「家に入りたくない…」

確実に私が近くにいるのを知っているくせに知らぬ存ぜぬの私の家…。逆にこれが怖くて玄関の前でしゃがんでいたら、松田くんが腕を引っ張り上げた

「ここにいたほうが目立つだろ、諦めろ」

立ち上がって玄関に手をかけたところで「あらー?」という声が聞こえて振りむいた。近所のおばさん

「こんにちは」

「こんにちはなまえちゃん、相変わらず綺麗ねぇ…。そちらの方は?」

松田くんは降りる時にサングラスを取っていたのでまだヤーさんには見えていない。愛想よくもしてくれない、と思ったけど何かを察したのか見た事ない表情をしていた

「こんにちは、松田陣平です。なまえがお世話になっております」

「じゃ、噂の!?」

その問いかけを聞いた直後、玄関が空いた

「なんでこんなところに!あ…こんにちは、ダテさん」

「こんにちは。その方が噂の?」

うちの母親とダテさんとで「本当に警察なの?」とかって話しをし始め火花が散った。松田くんと私は終始苦笑いをしていて、早く入ろうと言わんばかりに母親を押し込もうとする

「あのですね、お母さん。警察官は時と場合によっては恨まれる事もあります、あまり知り合いに警察官がいる事を公言されますとその方やお母さんのほうに危害が来ないとも限りません。そちらの方も、どうぞご内密に」

松田くんとお母さんを押し込んだと思ったが、松田くんの言葉に黙ったダテさんを見て、それから松田くんを見た。柔らかい笑みにも見えるその表情からなんとなく視線をそらして中に入るとお母さんはさすがに反省したらしく謝罪をしていた。お母さんの見栄と意地とか、そういうのをつぶさないような言い方をしてくれた松田くんには感謝してもしたりない。持ってきたお茶菓子と一緒にお茶を飲んで、ちょっとだけおとなしくなったお母さんを見た

「一人娘でね、心配なのよ。私たちだっていつ死ぬかもわからないからその時誰かそばにいてくれたらって、寂しい思いさせたくないの。だからね、別れてちょうだい」

うん、話しが飛んだわ。なんで急に別れてほしいという話しに発展したのかわからないが、そもそもで付き合ってもないわけで。

「あぁ、つまり、警察官という職業ですか」

「ごめんなさい、警察官じゃなくても命を落とすときは落とすと思う…でもパーセンテージの話しよね」

「まあ、無いとも限らない…ですね」

松田くんたちの仕事は、そうだと思う。ニュースでよく、誰かをかばって撃たれて死んでしまう警察官のお話とか聞くし、それはそう、でもそれで、それを考えて決めて怖がっていたら誰も幸せにはならない

「それ、松田くんたちは幸せになっちゃいけないって事?」

「そうは言ってないわよ、その先の話しをしているの」

「じゃあ例えばこの先私がまた警察官を好きになったら?消防士とか好きになったら?また同じこと言って止めて、私の気持ちは無視するの?そんなの親のエゴだわ…」

「…お母さん、付き合っていないので安心してください」

お母さんの気持ちもわからないわけでも無い、きっと私にはわからない親の気持ちとかそういうのがきっとあるんだと思う。でも私はまだ子供という立場で、その気持ちはわかってあげられないし、例えば、もしも私が松田くんを好きになって、松田くんに何かあったからって、彼を好きになった事を後悔はしないと思う。なんとなく頭に血がのぼって、落ち着いたように言ってるけど立ち上がってつぶやいた。その隣で松田くんは真実を口に出し、それを聞いてお母さんが「え?」と聞き返してきた

「ただの隣人です。会ってから2年も経っていませんが、いないと違和感があるくらいの…隣人です。それに俺には呪われたお守りがあるんで、簡単にはいかせてもらえません。な?」

呪ってない、そう口には出さなかったが、松田くんの肩を軽く叩いた。それから立ち上がった松田くんが、お母さんにお礼を言う。お茶と、呼んでくれたお礼。お礼なんて、いう事ない、結局振り回されただけなんだから
いつの間にか私の怒りのようなものも納まっていて、私も行こうとバッグを持ち上げた

「松田くん」

「はい」

「あの、この子ストーカーとかによくあって、私に似て可愛い顔しているでしょう?それに愛嬌もいいから変な人に狙われやすいのよ。あなたは…違うわよね…」

「お母さん!いい加減にっ…」

「好きな人をおびえさせるような真似は俺はしません。…萩原たちが来たからいくぞ。じゃあお邪魔しました」

先ほどから私が怒りそうになると、上手に松田くんが火を吹き消してくれる。何この優しい人、萩原くんの彼氏っていうのは納得だわ。っていう事は今度は萩原くんの彼女なところを私は見れば完璧なわけで、妄想も膨らむわ…家から外に出て、お母さんを振り向くとお見送りしてくれていて、手を振り返さないとダメな気がして手を振り返し、そのまま松田くんと少しだけ歩いた

「どこまで行くの?」

「萩原たちに今出てこっち方面に歩いてるって言ってるから途中で拾ってもらう」

「そっか」

好きな人をおびえさせるような真似…、松田くんの口から似合わない言葉が出てきて笑ってしまった。萩原くんが怯えるって何かな、実は虫が嫌いとか…あぁ、そんな事は無かったね。なんてその言葉は深く考えずに、自分の妄想に使用して、萩原くんの迎えの車に乗り込んで心が軽くなった状態で帰った。

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