コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 24、友人の隣人をひろいました

久しぶりにめちゃくちゃ雨だな。ここ数日ポツポツと雨が降っていたり、寒かったり暑かったりと天気は安定していなかった。それにしても今日のは最近の雨と違って明らかに土砂降り、最近の雨なら少しなら外を移動してもいいって思えるけど、今日のは少しでも外に出たら服が全部濡れそう。外から視線を駅の中へと移したら見知った顔を見つけた

「先輩、ちょっと待っててくださいね!私タクシー拾ってきますからっ…ここにいて!」

柱のところになまえちゃんを置いてから走って外に出て行った、確かあの子は七奈ちゃんだったかな、苗字聞いてなかった。そう思いつつなまえちゃんのほうに寄っていこうか、いや、知り合いだとしてもかなりの確率で偶然会うからさすがにそっとしておいたほうがいいだろうな。にしてもこんなによく会うって事は仕事先がこのあたりで、定時は同じ17時なのかな

視線を外そうと思ったらなまえちゃんのほうに男が二人近寄って行った。なまえちゃんとの距離はあっちも気づいてもおかしくない距離だけど、なまえちゃんは真っすぐ前を向いたり時折俯いたり、背中を柱に預けて上を見たりするから多分気づいていないんだろうけど、それで声が俺には鮮明に聞こえた

「どうしたの?具合悪いの?」

「俺たちが看病してあげようか」

手を掴まれて引かれると、なまえちゃんはそのまま足を進めた。いやいや!!

「ちょーっと待った」

「え、なにこいつ」

「はぎ…」

「今のはさすがに見逃せないでしょ…」

俺が手を取らせたからなまえちゃんの手を掴んで気づいた。さっき男たちが言っていた具合が悪いという意味。手から彼女へと視線をあげれば瞳は潤んでいるし顔も赤くて呼吸が多分いつもよりも浅い…具合悪いのか、なるほど。

「だってこの姉ちゃんついてきたし。そのつもりなんだろ?」

「熱があって抵抗するのも面倒なだけでしょうが」

「そもそも兄ちゃんに関係ないだろ?」

「あるよ、知り合いだから」

「せんぱーい!え、萩原さん!」

俺がそう答えるとタイミングよく走って七奈ちゃんが来た。男たちは「本当に知り合いなのかよ」と舌打ちをして走っていって、なまえちゃんはゆらゆらしている。タクシーが雨のせいでかなり並んでいるらしく、いくら傘を差していたとしてもこの中でなまえちゃんを待たせるわけにはいかないから少しだけ待っていてほしいと言いにきたらしい

「先輩が机に突っ伏すのって本当珍しいから…相当だるいんだと思います。今会社で風邪はやってて、使えない猫やろうも風邪で休んでるんですよね…。先輩一人で待ってられますか?」

「ええ。任せて…ベンチで寝ておくわ」

「任せられませんよ!」

どうやらバッグも持ってもらっているらしく、こんな時はお隣さんに助けてもらう。なんて言いながらバッグを受け取ってから中を探っていた

「七奈ちゃん…」

「はいっ」

「おうちの鍵はいったポーチが無いわ…」

たっぷり数秒経った時に、七奈ちゃんがひえと声をあげた。慌てて仕事先に電話をすると、それならデスクの上にあると言われたらしい、口をパクパクさせる七奈ちゃんが頭を下げて謝罪する

「先輩すみません!私さっき落ちてたポーチデスクの上にあげちゃって…と、取ってきます!」

この雨の中この子を一回会社に行かせるのか。って思ってしまったら答えは一つだけ。本当ならば熱で弱っているなまえちゃんを持っていくのは忍びない。これは本当!でも色々と考えた末これが多分最善だと思う

「七奈ちゃん、今日なまえちゃん俺が連れてくよ…。」

「えっ」

「で、明日一人にしても大丈夫そうだったら俺がここに鍵取りにきて、家まで送るし。気になるようだったら夜だけ俺松田のところに行くから」

同期だというし、もしかしたら猫谷ちゃんの事を気にするのかもしれない。そう思ったけど、なぜか舌打ちをした七奈ちゃんが俺の事を見てきた

「頼みました!もう先輩立ってるのやってられなさそうなんで!」

「今の舌打ちについて聞いてもいい?」

「ダメです!」

ダメって言われた。でもとりあえず嫌われている感じは無ければ、嫌な雰囲気も無いので、七奈ちゃ…毒舌ちゃんと離れた。毒舌ちゃんは結構離れたところに住んでいるらしく、電車でこれから一時間帰らないといけなくて、そこになまえちゃんを連れて行くには気が引けていたらしい。とりあえず大人しいなまえちゃんを連れて、タクシーに並ぶのではなくてタクシーを呼んだ

競争率が高くて取り合いになっているタクシープールで拾うよりも、少し先に呼んだほうがすぐに来てくれる。俺の上着を脱いでからなまえちゃんにかけて、そっちの屋根の下まで移動し、タクシーが来たのを確認してからタクシーに乗り込んだ。先に一人濡れている事を伝えていたからバスタオルが座席に敷いてあったのでそこになまえちゃんを乗せた。なまえちゃんたちは会社から駅に向かっている途中に土砂降りにあったらしい。お願いします、をして俺の家の住所を伝えて、ついた時にお金を払ってお礼を言ってからなまえちゃんを連れていこうとしたんだけど、なまえちゃんはもう動きたくないらしく、俺に寄り掛かったままだ

「ちょっともう少しだから」

そう言うと一度離れたので今のうちに外に出てなまえちゃんをおんぶする。タクシーのおじさんがなまえちゃんのバッグを持って渡してくれたのでお礼を言った。良い運転手だったな、なんて思いつつ家についてなまえちゃんを下ろした

「申し訳ないとは思ってる、思ってるけど今申し訳なさよりもだるくて寝たいが勝ってるの」

「わかった!わかったからちょっと待ってて!」

とりあえずこんなずぶ濡れ状態で寝かせたら余計に悪化させるだけ。急いで中に入ってバスタオルとか着替えを持ってから彼女のところに来て、彼女の体をバスタオルで包んだ。そのまま脱衣所に連れていって俺の上着と、とりあえず脱がせて支障が無いところまで脱がせてから洗濯機に服をかける

「とりあえず俺の服着て、洗濯機は入れて蓋閉めててくれればやっておくから。周りのもの使ってもいいし。それだけやってくれれば後は俺がどうにかするから!わかった!?」

「はい」

うんうん、と頷いているというか頭が、がくがくしているようにも見えるけど、俺が出て行こうとした瞬間にボタンに手をかけたのですぐに後ろを向いて脱衣所を出てからその前で座って待っていた。のんびりとしているのか、小さくてゆっくりとした音が何度か聞こえて、それからパタ、という洗濯機が閉まる音が聞こえスライドして開ける脱衣所の扉に擦れる音が聞こえて、ゆっくりと開いたので立ち上がる前に見上げた。まあかなり大きい服のサイズじゃないし、普通に着れてはいるし、半そでだから余計に。下はさすがに捲り上げているらしいが、このくらいなら眠るのにも邪魔じゃないか

「大丈夫?」

「もう、寝たい。寝るわ」

「はいはい、こっちだよー」

なんとなくだけど、熱が下がったりしてきて我に帰ったら卒倒してしまいそうだな。いつものなまえちゃんを見ているから余計にそう思う。片付けでもなんでも、色々と律儀だから。そのわりには引くところ引くけどね
とりあえずベッドまで連れていけば、即座に布団に潜り込むなまえちゃん。相当具合悪いんだろうことは少しでも近くにいればわかる。熱が多分高いだろうし…
とりあえず布団に入ってはくれたんだけど、飲み物を飲ませたほうがよかったか、色々と何をしたらいいのか考えてしまうが、とりあえずいつでも飲めるように準備はしておいた。今から食べられるものを作ったとしてもどのくらい寝るのかわからない。とりあえずだしだけ作っておいてあとご飯を入れるだけにしておけばおかゆくらい
色々と頭の中をぐるぐるさせられたけど、とりあえず自分のご飯は食べよう、それから眠っているなまえちゃんは寝たばかりだから大丈夫だろうと今のうちにシャワーを浴びてしまい、リビングに戻った。眠ってから一時間くらいか、呼吸の荒いなまえちゃんの額に手をあててみればどう頑張っても熱があるのがわかる。冷やすものは無いから、せめてというようにタオルを濡らして額に乗せた。なにか買いに行きたいけど人の家だし彼女が起きたときに困る気がしていけない。

おにぎりを作って食べて、テレビを小さな音で見つつ、後ろにいるなまえちゃんの額から落ちたタオルを乗せたり、もう一度冷やしたりして2時間ほど経った時になまえちゃんが起きた

「大丈夫?」

「うん…」

「何かたべる?一応作れるようにはしてたんだけど。無理そうだったら何かゼリーかプリンか買ってくるから、それから薬のもうな?」

タオルを退かしてから、まるで妹扱いのように彼女の額を上へと撫でるようにしてから、なぜか妹どころか恋人扱い、額にキスをしてしまった。熱のせいか突っ込む事も何かを言うでもなく「食べるよ、ママ」なんて返事をしてきた。こっちのやらかしたという気持ちを構うでもなく言ってきたなまえちゃんには少しだけ救われる思いをしながらもとりあえず作りに行こうと思って立ち上がった

「あの、私今少し寝たから食べたらもう帰る、ね?」

なまえちゃんが起き上がると、頭が痛いのか顔を凄くゆがませて、それから少しだけ言いにくそうに帰る旨を伝えてきたけれど、それには俺は首を振った。陣平ちゃんが家にいるならまだしも、今日は陣平ちゃんは仕事で家にはいないし。知り合っていなければ家に一人という状況があったとしても平気なんだろうけど…

「タクシーとはいえ一人で帰らせるのも俺としては心配だし、送るにも…まあ本音をいうともう外に出たくないんだよな。だから俺のためだと思って、家に泊まっていってよ、ね?そもそも鍵ないでしょ」

「萩原くん…モテるでしょ?」

モテ…いや、ここで否定したら余計になまえちゃんが追及してくるか、とりあえず何かしら突っ込んできそうだと思って苦笑いを浮かべるだけにしておいた。モテて嬉しくない男の人はいないんだよなまえちゃん。何か言いたそうな顔はしたものの、それよりも頭痛が勝っているのか、頭を押さえながら洗面所を借して欲しいと言うので好きに使っていいと伝えてからおかゆを作りにいった。おかゆと言うよりも雑炊、たまごはいいよ、栄養価高いし、なんて思いつつ作り終えたものを器に移した。よろよろと歩いているなまえちゃんが見えて、ゆっくりと座って、それから体半分だけをベッドにうつ伏せにした

「よくそんな状態で帰ろうと思ったね」

「友達の家だろうとどこだろうと気になるのよ…気使うし…萩原くん、他にお布団あるの?」

「ないけど、別に雑魚寝でもいいし座っても眠れるよ?」

「気使う…」

「あー、じゃあ…一緒に寝る?」

「こたつあれば眠れるのに…」

「それは脱水症状になるやつだからな…」

もうこれ以上話すのはだるいです、というように黙ってしまったなまえちゃん、ご飯を進めると食べてくれて、時折俺のほうを申し訳なさそうな顔で見て来るから笑みを返した

「もういいよ、移してもよければ一緒に寝よう」

全部食べてくれたなまえちゃんに、飲めそうな風邪薬を並べてみせるとその中から選んだものを口に入れてお水で流し込んでいた。松田のところに行こうとは思ってたけど、この状態のなまえちゃんを置いていくのも、俺がいなくなるのも気にすると思った矢先の提案で、俺はそれをのんだ。
寝る準備を整えてから、布団に入って、幸いにもなまえちゃんがすぐに寝入ったので俺は背中を向けたままその背中に熱いものを感じながら眠っていた。ただの湯たんぽだと自分に言い聞かせて、寝入った。朝方起きてからなまえちゃんの額や首を触ると、またポカポカと熱い

どうしようかな…。俺今日は仕事、じんぺーちゃんはお休み…
渡したくねぇなぁ…。まあ子供じゃないんだし、一人でいさせても平気なんだろうけど

「…なまえちゃん」

「……ん…」

「俺今日仕事だからここにいて?帰りになまえちゃんの職場寄ってあの子から鍵貰ってくるから」

「そっか、鍵…。わかった…」

「朝ごはんは?」

なまえちゃんがううん、と首を振った。冷蔵庫に簡単に食べられるものもないし、なんて思うとやっぱりじんぺーちゃんにお願いするしかなくなる、食欲はまだ無いらしいなまえちゃんの頭をポンと撫でてから仕事の準備をした
家から出て、じんぺーちゃんに電話で連絡をしたらちょっと黙った後に「わかった」って言ったから色々と思う事はあるんだろうけど。俺もあるよ、じんぺーちゃん!!
なまえちゃんがまた寝入ったので、そのまま静かに家を出た


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