コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 22、隣人さんはそういう感じ

猫くんとのおつきあいは順調。とは言ってもまだ2週間くらいしか経ってないからこれで何かあったら多分私はそういうのに向いてない人間なんだろうとやっと納得したい所。約束の私の家に遊びに来るというのも実行して、二人でDVDを見てご飯を食べた。ただそれだけ…あ、それだけっていうか、自然とそんな雰囲気になった時になんとなく私が顔を背けてDVDのほうを見てしまった感じ。知らないふりをしたけど、キスしそうな感じだったとは思った。でも私はどうやら自然と知らないふりをできたらしく、猫くんは何も言わなかった

萩原くんとも会ってないし、松田くんともあれから会ってない。たまに私が家から出て鍵を閉めている時に隣からガチャンという鍵の開く音が聞こえたから、出て来るのかと思ったけど出てこなくて、結局は会えてない。猫くんの事を考えるとそれでいいはずなんだけど、少しだけ寂しく思う。でも彼らに会う前の生活に戻ったと思えばいいだけかな
でも、結構一年くらい経つのかなって思ったらやっぱり寂しいと感じてしまう。

家の掃除をしてから買い物にでも出かけて、あとは少しは自分でも色々作っていこう、休みのうちにおかずを作って冷凍をしてみようとか、今日は夜は猫くんが来るからパスタでいいかな、とか思いつつ着替えをしようとタンスを開けたところでチャイムが鳴った

「はい」

返事をしたら宅急便の人は返事をしてくれる。セールスの人でも案外声は出してくれて、私はよく宗教の話しをされに来てもちゃんと話しを聞いてしまって、勧誘はされないから聞くだけ聞くと「今の人いい人でしたね!」なんて去り際に噂をされていた。いい人とかじゃなくて、断れないだけなんだけど…。じゃあ今日は新聞かな…、そう思ってドアのほうに歩み寄っていき、スコープを覗き込むと見知った顔が違うほうを見ていたので扉を開けた

「はぎ、わらくん」

「こんにちは、入ってもいい?」

「あ、うん、どうぞ」

違う方向を見ていたので誰かいたのかと思って顔をのぞかせたけど誰もいなかった。萩原くんを玄関の中に入れてから要件を聞く

「どうしたの?」

「うん、結構たっちゃったけど前にアップルパイ持ってきてくれただろ?」

うんうん、と何度か頷くと萩原くんが手に持っていた紙袋を上にあげた

「御礼ー。」

「あの…ありがとう、なんだけど」

「うん」

「御礼に御礼を重ねられると終わらないっていうか…私で終わらせてほしい!これはもらうけど!」

だって私のほうが色々お世話になっているからお礼に!ってやっているのに、それに返してくるからまた私が…ってなる。されっぱなしはなんとなく嫌だからとりあえず差し出された紙袋は受け取った。このままさようなら、で返すのも微妙なので、家に入って貰ってコーヒーくらいはごちそうしよう

「ごめんね急に来ちゃって。陣平ちゃんから聞いてはいたんだけどさ」

「ううん、大丈夫。どうぞ」

日曜日はほとんどお休みなのは知っているからこうやって来るんだろうし私も気にしていなかったけど、度々私が相談に乗って貰っている友人には「普通は事前に言うよ」って言われて、ああそうかって思ったんだけど「そのくらいの仲なんだね」って続けられた。でもよくよく考えると萩原くんは松田くんの部屋にもチャイム無しで入るみたいだし、もしかしたらそんな感じに私の事も思ってくれているだけかもしれない。チャイム押すのは性別の違いか…

コーヒーを入れてから萩原くんのいるリビングに戻って、それから彼にコーヒーを渡した。お礼を言って一口を飲んだ彼がこっちをちらっと見てきた

「ごめんね、猫谷ちゃんのは聞いてたんだけど」

「ううん…私のほうこそごめんね」

「謝らなくていいって、普通だろ」

「ありがとう」

私がお礼を言うと萩原くんが眉を下げて困ったように笑った。もしかしたら何か話しがあって来たのかもしれない。そう思って少しだけ黙ったんだけど、萩原くんが言ったのは持ってきたプレゼントを開けてみて、だったからすぐ隣においていた紙袋の中身をのぞきこんで、包装されているそれをテーブルの上に置いた。中身を開けてみると小さいボトルのリキュールがたくさん入っているボトルまで可愛いし、なんならそれが入っている箱も可愛いっ…

「え、これ、いいの!?」

「うん、なまえちゃんなら美味しく飲んでくれるだろ?」

「飲む飲む!」

そのまま飾っても可愛いので、とりあえずは本棚の上に乗せてみた。可愛い。
改めて御礼を言った。ただのアップルパイにこのお礼とは…びっくりだ

「それでね、思ったんだけどさ」

「うんうん」

「猫谷ちゃんに、俺と陣平ちゃんの事言えばいいんじゃないかなって」

「え、萩原くんと松田くんが付き合ってる、って?」

「…う、うん。俺もね、せっかく仲良くなったなまえちゃんと遊べなくなるのは寂しいなーって思ったんだ。陣平ちゃんには許可取ってるしさ」

そっか…、萩原くんも寂しいって思っててくれたんだ。そう思うと少しだけ嬉しくて、でももしかしたら彼のことだから私が寂しいって思ったのに気づいてくれて、かもしれない。萩原くんは凄くやさしくて凄くよく気がつく、それが凄いしそういうところがモテるんだと思う
でも同性が好きだっていうのはきっと言いづらいかもしれないのに、それを許してくれると言う

コーヒーを飲み終えた彼が立ち上がった「俺らはいいからね」なんて言って帰ろうとしたので玄関まで見送った。買い物をして、家に帰ってから色々と本を見ながら作っていった。それからずっと松田くんと萩原くんの事を考えていたんだけど、いう必要…ないんじゃないかなって。だってだからなに?って感じじゃないかな…とか。
猫くんが来てから、二人でパスタを作って、お話をしながらご飯を食べて、デザートにはプリンを食べた。猫くんは今日はお泊り。テレビを見たり、話したり、そんなに窮屈には感じないし、私が飲むのも食べるのも好きなのを知っているからそこを見ると楽

隣からも時折物音や話し声が聞こえていたから松田くんと萩原くんが一緒にいるのかもしれない。お風呂からあがってから、私が外で少しだけ夜風にあたっていると、お風呂からあがった猫くんがこっちにきた。隣からは何も聞こえてこないから、もしかしたら寝たのかな…って思ってしまうのは私ストーカーか。考えない考えない、と思って首を軽く振った

「どうしたんですか?」

「ううん、ここから見る景色結構好きなんだ」

「綺麗ですよね。先輩、いい匂いしますし」

猫くんがこっちに鼻を寄せてきて、その息が少しでも私の首にかかってくすぐったい。景色となにも関係ないよね、ふふって笑ってしまった。
匂い嗅がれるのはいやな感じもしないけど、猫くんが眉を下げて口を開きかけたときに、隣からギシッという音が聞こえた

「ばか、萩原やめろって」

「なんで?いいじゃん」

「ダメだっつーの」

ぼそぼそと聞こえた声は…鮮明に聞こえてしまう。私が外にいるのもそうだけど、お隣さん…窓開いてる!?私が聞き耳を立てていると、猫くんが眉を寄せた。私はそっと隣に体を近づけていくと、猫くんもお隣に続くあの一回壊された壁へ耳をつけたので、私もつけてみた。おぬしもわるよのう…っていう気分

「ちっ…煽んじゃねぇよ」

どさって聞こえた…
ひぃいいいいいい!!!!!
まっ…松田くんんんんん!!!!やばい、久しぶりすぎて耐性が出来てなかった。そんななんの覚悟もなしにこんなの聞けるとかどうするの!!あぁ、でも目の前には顔は見えないけど猫くんもいるし大興奮してジタバタするわけにもいかない!落ち着きなさいなまえ、落ち着くのよ…いちたすいちは2…いちたすいちは2になるわ…いちひくいちは…1−1…H…

「ふんっ!!!」

「え、なんっ…先輩静かに。気づかれます…何してるんですか!」

「なんでもないの!次に出るのは掛け算だなんて思ってないし、とりあえず何かを投げただけだから気にしないで!!」

「じ、ん」

「バカ、萩原…隣に聞こえんだろ」

私は思わず自分の部屋に逃げ込んで、なぜかベッドで前転して落ちたところで床に足をつけた

「先輩…隣って」

「ま、松田くんと萩原くん…」

「なんか、ただならぬ雰囲気を感じましたけど」

「付き合ってるの、二人…」

「あ、そういう、事」

そう、そんな感じなの、私の隣人さん。猫くんがまだ聞こえる声に、苦笑いを浮かべて窓を閉めた。閉めると声は聞こえないけど、そのかわりに何かこう、ドンッとかそんな感じの音が時折聞こえた。猫くんがほっと息を吐き出したと思ったらベッドに座ったので隣に座った

「俺てっきり、萩原さんって先輩のこと好きなんだと思ってました」

「まさか。私が引っ越してきてからずっと二人とも仲良しだよ」

「そう、なんですか…。はあ…なんかすみません。友達だったんですね」

ため息を吐き出した猫くんが私の肩に頭を乗せてきた。私は何も言えずにただそのままいると、猫くんが「それなのに遊ぶのを止めるような真似をしてすみませんでした」と続けた。それから少しだけ猫くんと話して、猫くんはお客さん用のお布団を敷いて別々に寝たけど、私はベッドから手を下ろして、猫くんはその手に触れて眠ろうとしていた。そんなに早く寝付けなかったんだけど、そのうとうとした状態の中、猫くんが手を取ってお布団の中に戻して、ちゃんと布団を首元までかけてくれた。それからお布団越しに私の体をポンポン、と軽く叩いて、頭を撫でてから額にキスをして、また布団に戻る。

次の日はお仕事だったから猫くんが早朝に一度家に帰って、私は欠伸を漏らしながら準備をした。隣の二人は今日お仕事じゃないんだろうか、あんだけじゃれてたらお仕事じゃないよね…なんて思いつつ、私はたっぷりとおかずをもらった気がして思い出しニヤニヤをしてしまっていた。



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