コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 21、隣人さんが。

松田くんとアップルパイとカレーライスを作り終わってから、萩原くんが夕方の定時ではなくて、多分自分たちが眠るであろう時間の22時とか23時くらいには帰って来ると松田くんに聞いたのでアップルパイを一緒にお届けした。合鍵を持っているらしい松田くんが勝手に萩原くんの家に入っていくと、すぐに彼が戻ってきた。松田くんが一人で届けてくれるとは言ってたんだけど、萩原くんがいるならいざ知らず、いないのにわざわざ私の都合で作って押し付けるものをお願いするのは忍びなくて一緒に来た。萩原くんには会えずにそのまままた松田くんの車に乗って戻った

「松田くん」

「やめろ」

何を言おうとしたのかわかったらしいのですぐさま止めると、また可笑しそうにクスクスと笑った。嫌いじゃない、普通に嗅いでいるぶんには全然いいし、タバコの臭いがしたり、甘いような匂いがする松田くんの車はどちらかといえばタバコよりもそっちのほうが勝っている。だからこそ甘い匂いに酔いそうだ

「芳香剤の匂い…?」

「いや、多分香水つけてたときに着てた上着を後ろに投げてるから、それじゃねぇか?」

松田くんにいわれて後ろを覗き込むと、黒いジャケットとまではいかないけど、上着のようなものを見つけたので手を伸ばしてそれを拾い上げた

「そう、それ」

運転中の松田くんが横目でこっちを見てきてそれだと教えてくれる。確かに…これが一番匂いが強いかも。そう思って少しだけ鼻を寄せたけどやっぱりこれの匂いだ。とりあえず畳むことなく後ろに再びポイッと戻すと隣の松田くんが可笑しそうに笑った
途中の家の近くにあるコンビニとは違う種類のコンビニによって、松田くんがタバコを買ったので私はお茶と、松田くんにお礼にコーヒーを買った。先に松田くんが外でタバコを吸っているというので私はレジを終わらせてから出ようと思ったら私と入れ違いに入ってきた人を見て動きを止めた

「あ、猫くん」

「先輩…え、買い物ですか?」

「うん。猫くんはもう帰って来たの?」

「はい。明日の朝ごはん買いに…歩いてきたんですか?送ります?」

邪魔かと思って少し端の、雑誌のほうに寄っていくともう少しだけ話しを続けた。送るか、って聞かれてもわざわざ猫くんを歩かせるか…そもそも私に付き合ってくれた松田くんを一人で返すのか…私が考えて言いよどんでいると猫くんが「誰かと一緒?」と聞いてきたので眉を下げた。返事をする前に猫くんが外に出て行ってしまったので怒ったのかと思って慌てて外に出ると、猫くんが松田くんを見つけて足を止めていた

「あ、萩原さんじゃない…んですね」

「萩原じゃなかったらどうした?」

「いえ…」

「ただの足だよ」

松田くんがタバコの火を消してからそう答えると、先に車に行っていると言って離れていった

「猫くん」

「あ、怒ってないですよ。だいたい、最初に今日俺に声かけてくれた時点で別になんでもないってわかってますし。でも…松田さんはよくわかりませんが、萩原さんは少し気になる」

「萩原くんが?どうして?」

「……まあ、なんでもないんですけど」

猫くんが松田くんのほうを見たので私も松田くんのほうを見た。携帯を弄っていた松田くんがこっちに気づいたので目が合うと、松田くんがファブリーズを取り出して上着にかけていたので笑ってしまった。私に気づいた松田くんがふんっとどや顔で笑って来る

「敵ばっか…」

「ん?」

「いえ、別に!後で電話してもいいですか?この後松田さんと一緒にいないなら…」

「うん。じゃあ家についたら電話するね!」

「待ってます」

猫くんに手を振ってから松田くんの車に乗り込むと、今度はほんのりファブリーズの匂い

「極端すぎない!?」

「甘いのが気持ち悪いって言うから、こっちならいいだろ」

「ごめんってば…からかったのにからかい返さないでよ」

「傷ついた末」

「傷ついたの?」

その言葉に松田くんは答えてくれなかった。だからちょっと申し訳なくなりつつ帰路について、真っ直ぐ帰るんじゃなくて途中で寄り道してなぜか夜景を見つつ、私が買ったコーヒーとお茶を飲んでいた。なんで夜景、って確か回り見ていたら上から見たいって私が言ったからだ。山とまではいかないけど、結構見渡せる場所の駐車場に来て停めた感じ
かえってから、って思ったけど私が遅いと思ったのか猫くんから電話が来て、松田くんが気にせずどうぞ、と言ってくれたので少し離れた隣で電話をした。その間は松田くんがタバコを吸ったり、ゲームをしたりしていて、何も言わないけど少しだけ申し訳なくなった

’あれ、先輩まだ外ですか?’

「うん。ちょっとだけ寄り道」

’……そうなんだ。なんか、あんまり言いたくないけど。ちょっとやきもち’

「松田くんに?」

’松田さんにも萩原さんにも…。この間は萩原さんって思ったけど今日松田さんとも仲いいの見ちゃいましたし、なんとなーく…’

なんか、隣だしって思っておすそ分けしちゃったりしていたし、猫くんがこの間あんな感じだったから気にしなくていいのかなって思ったけど。私も好きな人が他の女の子といたら…良い気しないかも、多分。隣にいる松田くんとちらっとだけ見たけど、夜景を見ていた彼がこっちを見て、タバコの煙を少しかけてきたのでカニ歩きで離れた。早くしろって事か。にしてもたっぷりかけるんじゃなくて、ふっとほんとかかるかかからないかくらいだったので特に煙たくもなんとも無い

「うん、わかった。ごめんなさい、気をつける。おうちがお隣さんだから少し甘えすぎた」

’隣!?’

「うん」

’…あ、そういうこと…なんか全部納得した’

「ん?」

’いえ…。あー、じゃあ今度遊びに行ってもいいですか?’

「うん、いいよ、おいで」

そんな話しを少ししてから、今度こそおやすみをして電話を切った。二本目のタバコを吸い終わった松田くんのほうに行くとこっちを見てきたので一緒にいる時に電話をしてごめんなさいをしたけど、特に気にしなくていいと言われた。
私の周りってかなりいい人たちがたくさんいる気がする。猫くんとの話しの内容は全然言ってないけど、私の返答は聞こえていたからなんとなくわかったらしく、萩原くんにも一応伝えておくと言ってくれた。一瞬、窮屈だなって感じてしまってその考えを振り払うように窓の外を眺める。ちょっとだけ、楽しくなった日常は彼らのBLという名の何かによるもの。それは当然だけど彼らの人柄や楽しそうにしている姿とか、楽しいことをしていると呼んでくれるその気さくさも、心地よかったけど、これからは妄想は妄想だけで、彼らがじゃれているのを目の前で見る事も出来なければ…待って、私の萌えの供給はどうすればいいのかしら…。なんて思っている間に駐車場についた

「ありがとう」

お礼を言ってから出て行こうとしたのに、扉を開けようとしても開かない。鍵かー、って思って鍵を開けようとしたら体を伸ばしてきた松田くんがドアノブから私の手を退かした

「松田くん?」

近い。さっきまで吸っていたタバコの臭いと、それから松田くんの髪の毛の匂いだろうか、いやなにおいが全然しない松田くんが真正面にいて、私の息は止まりそうになった。呼吸をしたら松田くんにかかる気がして、それとさすがにこんなに近いと心臓が飛び跳ねる。こんな気持ち、小学生以来だったかな…リレーのアンカーした時だったっけ
話す事も出来なくて、松田くんがこっちを見てきたと思ったら松田くんの温かい手で目をふさがれた。私の目が片手でしっかりと隠れる松田くんの手は大きいんだろう
何がしたいのか、何をされているのかわからなくて、ただこれが嫌だったら手をひっぱたいてやめさせるんだけど…アイマスクしてるレベルで手が気持ちいい…。そして何か見られちゃいけないものでもあるのか、猫くんが他の女の人と歩いてるとか?
浮気はよくされていたから、なんとなくそういうのしか浮かんでこない。数秒の間私も黙っていたけれど、意図がわからなくて唇を薄く開いたらやわらかくて、ふに、とした感触が唇にあたった。これがキスだとわからないほど経験は浅くない

何してるの?そう問いかけて体を離そうと思ったけど、思ったよりも近い彼の体を押したりは出来なくて、首を振ってせめて手だけでも退かせようと思ったのに、座席に押さえつけるように固定されて、それから私の唇を彼の唇が優しく挟む

「んッ…」

背筋がゾクッとした。嫌な意味じゃなくて、下腹部というか、下半身に伝わるよくわからない感じ。くすぐったいような感じがして、それがまたわからなくて、ただわかるのは彼のキスが凄く優しいってだけ。無駄に口を開いて離してしまえば彼の唇を噛んでしまいそうな気がして出来ない。それを思えるほどに、好きだとは思っているけど、なんで私キスされてるの?萩原くんがいないから寂しくて?もしかして連日私がいないからキスできてないとか?私が隣にいるから意識して?
ぐるぐると考えているうちにぬるっとした感触が唇の間から伝わって、舌だと意識した時には私の舌にそれが触れていた。

「ん、んん!」

エンジンはついているからまだマシだけど、ちゅ、というリップ音が聞こえてきて勝手に声が漏れた。自分の声じゃないみたいな声にわけがわからなくなる。深いキス、だけどそれでも軽く、離れた時には目を隠していた手も離れていった

「まつ」

「萩原んところに忘れものした。取ってくるからおりて」

「えっ!?」

「早くしろ、やべぇもん忘れてきた!」

「わ、わかった!じゃあありがとう!」

「ん」

慌てて車から降りて離れるとすぐさま車はうごきだしていってしまった。家のすぐそこの駐車場というか、家は目の前なんだけど私…いや、さっきの夢か何かかな。そう思ったのに唇に残る感触と、思い出しただけでペタンと座りたくなってしまう感じは本物のような気がしてどうしようも無い…。なんでされたんだろ…

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