コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 18、隣人さんと鍋!

いつもよりも寝過ごしてしまったのは、多分夜中に一度起きてしまったから。萩原くんと飲んだ次の日がお休みだったのでお詫びをしたんだけど、萩原くんは次の日お仕事だったらしい。相当悪い事した、と思ってお休みの日は会社の人たちと買い物に行き、新しく買ったワインで一人で乾杯をした。
そのせいか…目覚まし止めているとは思わずいつもよりも30分遅く起きてしまった。朝ごはんは飲むだけゼリー、髪は一つに纏めあげて、化粧は絶対に譲れない。スーツに着替え終わったらあとは家から出た。以前の事もあるし、どんなに急いでいても扉だけはそっと開ける。出て扉を閉めてすぐに聞こえた声にそっちを見ると、眠たげな顔をした松田くんがいた

「はよ」

「…あぁ!松田くんおはようっ!夜勤?」

「あぁ。お前は仕事か」

「そう!遅刻しそうで急いでたの!じゃあ行ってきます!萩原くんと仲良くね!」

挨拶をそこそこにそこを離れた。この間の萩原くんは可愛かった…私が松田くんの話しを問いかけたら照れて顔を枕に埋めるとは思わなかった。でも、やっぱり女性の手前その時による…って言ったけどきっとあの様子を見るに松田くんのほうが上なんだと思うんだ!?松田くんと萩原くんのおかげで通勤途中ニヤニヤ…いや、にこにこしている人になったけど仕事中も結果そうなったし、みんなの印象がよかったみたいで結果オーライ。

「先輩は今日はご機嫌ですね?」

「うん!」

「何かいい事あったんですか?」

隣の席の後輩、猫くんに話しかけられたのでそっちを見た。ご機嫌な理由は言えない、だってこういのって言わないほうがいいって教えられてるから。だから笑って誤魔化してみると猫くんが眉を寄せた

「彼氏?」

「あ、そんな事は無い」

「あぁ…よかったです」

よかった?私に彼氏がいると悔しいの?敵対されてる?

「……猫くんに何かした!?」

「はっ!?なんでそうなるんですか!?」

「いや、だって俺に彼女がいないのに先輩に彼氏とか笑わせてくれる。最初に作ったら許さんぜよ!って顔してたわよ!」

「誰ですか。ねぇ、許さんぜよって誰」

書類を持ったまま二人でそんな言い合いをしていたら、課長の咳払いが聞こえて画面に隠れてから仕事を開始した。ちょっとそのまま横をちらっと見ると猫くんが顔を突っ伏して肩を震わせていた。あ、って思った時には顔をあげて、ぶはっと吹き出してはまた同じ事をする

…あれ、萩原くんって照れてたんじゃなくてわら…ってないわね、あの状況で笑う理由が無いもの。
許さんぜよ、でツボったらしい猫くんの膝を拳でグッと押したら痛がってやっと黙った。目に涙ためるほど笑ってくれなくていいのに。
今度こそちゃんと仕事をしていくと、昼休みの12時に時計が変わった瞬間に立ち上がった女の子が二人私のほうに来た

「みょうじさんっ」

「はーい?」

「あの、昨日一緒にいた人彼氏ですか!?」

「え、昨日?昨日は七奈ちゃんたちと飲んでたけど」

「駅通り過ぎた後にイケメンと話してましたよね?」

「イケメン…、あぁ、うん。彼氏ではないよ?」

七奈ちゃんは私の後輩ちゃんで一緒に海に行った子。その子ともう一人の海に行った一花ちゃんといつもお昼を食べているため、その二人がこっちに来るのが見えた

「あの、彼氏じゃないならお願いが!合コンセッティングしてくれない!?」

「はい?」

どうやらイケメンの友達はイケメンっていう定義のもの、萩原くんの友達もイケメンではないのかっていう話しをされた。確かに、と思ってしまうのは一人しか知らないけど萩原くんの友達でも恋人でもある松田くんもイケメンと呼ばれる部類だからだと思う。

「あー、でも萩原くん…」

「ダメですか…?」

「んー…わかった、聞いてみる」

萩原くんじゃなくても他の人で彼女欲しい人いるかもしれないし、なんて思ってとりあえずはうなづいた。入れ違いに七奈ちゃんたちが来ると今言われた話しをしながら立ち上がって食堂へ向かう。今日は猫くんともう一人の人も一緒で、五人でご飯だ

「さっきのってこの間の人ですよね?」

「うん、そうだね」

「あいつらがさー、舐めるように見てたよ」

「大丈夫ですよ先輩!先輩に害がないように私が首根っことっ捕まえておきますし!」

多分あいつらってよく嫌味を言ってくる子たちなんだろうと思って苦笑いを返しておく。後輩ちゃんが頼もしい。とりあえず一応萩原くんに連絡はしておいて、それから仕事をして帰った。帰宅して、着替えを済ませて外へ出る。夜ご飯の材料が何も無いし、今日の夜ご飯を近くのコンビニで物色しようと思って

玄関から出ると、同時に松田くんが出てきた

「………」

「………スト」

「違う」

「失礼ね、ストーカーしているわけじゃないからねって言おうと思ったの!」

「俺はストーカー呼ばわりされるのかと思った」

「失礼ね!」

「コンビニ?」

「うん」

「じゃ、一緒に行くか」

目的地が同じらしい松田くん。それなら一緒に行かないのはむしろおかしいか。特に顔見知りにもなってしまったし、今では顔見知り以上で友達くらいの位置にいる。並んでアパートからでてコンビニの中に入る。そこからはさすがに別行動でカゴを持ち上げてからお酒のほうへ向かった。ビールは箱で買ってあるからあるし、ワインは飲んだばかり。それならチューハイにしようかと何本かチューハイをかごの中に入れてお弁当やお惣菜のほうに移動した。たまごと牛乳、食パン、ハム…いやベーコン、納豆も買っておこう。あとは夜ご飯にお弁当…おにぎり一つを入れてからおつまみのほうを見ていたら買い物が終わったらしい松田くんがこっちに来た

「夜飯それだけ?」

「うん、あとはおつまみとお酒で。お酒で結構お腹いっぱいになるのよね」

「ふーん」

外でタバコを吸っている、というので帰ってていいと言ったんだけどせっかくだし付き合ってくれると言う。急いで買い物を終わらせてコンビニから出ていけば、松田くんがタバコの火を消して荷物を持ってくれた

「お前明日何してんの?」

「仕事」

「じゃなくて、夜」

「んー、特に何も無いけど」

「家つくの何時?」

「明日は18時半くらいかな」

「じゃあ帰ってきたらうち来い」

アパートの中に入って部屋の前で立ち止まった。持ってくれた荷物を御礼を言って受け取ってから外よりも少しだけ声のトーンを落として何かあったのかと問いかける。うちに来いってどういう事だろうか、一緒に飲もうとかそういうお誘い?色々と模索しているうちに彼から返事が返ってきた

「明日鍋しようぜ。多めに作るから」

「なんっ…さ、賛成!私も何か買う!持ち寄る!」

「材料はあんの。大量だったし、同期たち呼んでやろうかなって思ったんだけど、それもだりぃし」

「え、私でいいの?」

「ああ」

そっか、隣だし泊まられる事も無いし大食いだし、恋愛対象でもないし、そこを考えると私は楽かもしれない。

「萩原くんは?」

「…いたほうがいいのか?」

「え、私は別に?」

「あっそ。萩原はいねぇよ」

「ん、了解!」

なんだ…二人のどっちか…いや、萩原くんがお鍋の中身をお皿に入れてあげてお世話してあげているところ見られないのか…。そこは残念だけどお鍋は嬉しいので明日はよろしくお願いします、をしてから部屋の中に入ろうかと鍵を開けて松田くんとバイバイした



「こんな時に限って仕事が終わらないってなに!」

あ。ちなみに萩原くんからはいいよって返事をもらった。人数と日時はこっちでまた話しになるらしく…って今はそれよりも鍋のお腹と鍋のお口!昼ご飯も食べずに仕事をしていた。私のミスでもなんでもないんだけど、ミスを補い合うのは当然で、ずーっとパソコンに座りっぱなし、トイレにも一回しか立ってない。そのうちお尻に変な痣が出来そうだわって時折思ってしまうくらい、肩も凝ったし弱音も吐きたいわ

「…お酒」

「……先輩、中毒になってませんよね」

「なってないわ。疲れると飲みたくなるの!」

隣の席の猫くんと少しだけ雑談はしたけどすぐにその雑談は終わらせて仕事をしていく。18時ぎりぎりで仕事が終わったので両手をあげて一息ついた、瞬間に立ち上がった

「よし!みんなお疲れ様でした!」

「お疲れ様ですー」

立ち上がって体を動かすものもいれば帰り支度をしているものもいる。私はスマホも何も取り出していなかったし、今やっとスマホを一度確認して、松田くんからは何の連絡も無い事を確認した。一応30分でつくかわからないから遅くなるかもしれない、って連絡はしておいて出て行こうとしたら猫くんに呼び止められた。

「先輩、今日用事あるんですか?」

「うん!ご飯の約束なの!じゃあね」

あ、何か用事があったのかな、と思いつつ走って駅にむかい、ギリギリのところで電車に乗れた。こんな季節なのに汗かいた…電車の中で自分の手でパタパタと自分の首元を仰いで、落ち着いた頃に猫くんに連絡した。

’何か相談事とかあった?ごめんなさい、急いでて’

’お疲れ様です。いえ、お酒って言ってたので飲みに誘おうと思ってたんです、気にしないでください’

’申し訳ない!’

謝罪をしているスタンプを押して返事を見てからスマホを閉じた。松田くんからは転ばないようにな、なんて優しい返事を貰って、自宅に近い駅から降りてまた走って自分の家に戻った。わりとべたべた、汗かいた。こんなに運動したの久しぶりだし、空腹で動いたからなんとなくふらふらする気も…。喉も乾いたけどせっかくだから水は飲まないでシャワーだけは浴びさせてもらった。もう松田くん相手に化粧はいい!なんて思ってワンピースに上着を羽織ってから隣のチャイムを鳴らす

「遅くなってごめんなさい!」

「気にすんな。仕事お疲れ」

「ありがとう、お邪魔します」

扉を開けた松田くんに中に入ってというように開けられたので頭を下げて挨拶をしてから入る。しかも自分がスマホしかもっていない事に気が付いた

「あ!お菓子かってこようと思って予約したのに取りに行ってない!ほんっとうに私手ぶらだわ…ごめんなさい」

「いいっつーのに…。それより取りに行ってないんなら連絡しろよ」

「はい…」

なんならもうご飯の準備も置いてあって、テーブルの前に座ってからお菓子屋さんに電話をして謝罪して明日取りに行く事を伝えた。お菓子屋さんにも申し訳ないから明日追加でケーキか何か買おう。お酒を持ってきてくれた松田くんが鍋の蓋を外してくれると、ふわっとした湯気とお鍋のだしの良い匂いが鼻腔をくすぐってくれたおかげで、気持ち悪いほどにおなか空いていた私のお腹はグゥという音を立てた

「腹」

「聞かないふりしてよ!」

「聞こえたんだからしかたねぇだろ」

「だから聞こえてても聞いてないふりしてってば…でもよかったわ、グギョギョギョギョとか変な音じゃなくて」

「そんな音すんのか…」

「ねぇ、そんな顔で私を見ないで」

引いたような顔で見られたから眉を寄せるとすぐに松田くんが笑った。お詫びと言ってはなんだけど、私がお皿に中身を取って、自分のぶんも取った。お鍋の味はちゃんこみたいで、白菜にマロニーちゃんにきのこにお肉に肉団子…他。とりあえず早く食べたい
いただきますをしてからまずは酔わないようにご飯を何口か食べて、それから貰ったビールを飲んだ…そこで私が少し後ろに下がってから頭を下げたせいで松田くんが「どうした?」と問いかけてきた。いや、ほんと顔あげられない…

「ビールまで持ってこないなんて私ってほんと…」

「めんどくせぇから気にすんな」

「めんどくさいから気にするなって何かしら…」

「無駄に気使われるほうがうざい」

「うざっ…」

「俺が呼んだんだからいいって言ってんの、食え」

そういって菜箸で野菜とか肉を私のお皿の中にぽいぽいっと入れてきた

「お前顔色悪い。食うの好きなくせにそこを怠るんじゃねぇよ、白米食え、つまみとか言ってないで白米とお酒にしろ」

でも帰ってきてから作るの面倒なのよね、遅くなると、余計に。なんていおうと思ったけど、素直に松田くんが心配してくれたその気持ちを受け取る事にした。
なんか…萩原くんが松田くん好きになるのわかるなあ…。今こうやって言われて、この間会った時に気にしたから呼んでくれたんだって今気づいた。優しい、しかも気を使わせないように言ってくるし、素なのかもしれないけど私にとっては本当に嬉しいことで、申し訳なくなる事のほうが多いのに、察してなのか食えっていっぱい勧めてくれる

「美味しい、ありがとう…」

そういっても返事は無い。次次とお酒とか私にご飯のお代わりを持ってくる…

「ありがとう」

「……」

「お耳不在かしら?」

「あぁ、うるせぇ!わかったっつーの。お前が美味そうに飯食ってんのがお礼だから良し!」

「松田くん、って」

「あ?」

「たまに痒い事言うわよね」

「熱いの口に突っ込むぞ」

「ごめんなさい」

しかもその量いれるの?猫舌じゃないにしても肉と野菜をもりっと持ち上げたものは本当遠慮したい。松田くん、今までもすっごくいい人だって思っていたけどそれ以上にも色々知れた気がする。なるほどね、萩原くん…松田くんって男にも女にもモテそうよ…



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