コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 16、隣人に誤解されてるらしい

来れない、って言ったからみょうじを呼んだはずだったが、どうやら結局来れたらしい。特にそれでなんだというわけでも無かった。美味しそうに飯を食うみょうじを見てるのは、作った身としては気持ちいいものもあるし、まあ一緒にいて嫌なやつでも無い

この間こいつが酔った時の事を覚えていないのか、覚えていたらこの間の発言にはなんねぇだろ。なんて思って問いかけようとした矢先、チャイムが聞こえたので言葉を止めて、いつも通りに勝手に入ってきた萩原が、みょうじを見て表情を固まらせた。なんだこの顔、俺がいない間になんかあったのか?
ところがすぐに表情を動かした萩原に自分の眉が寄ったのに気づく。変な雰囲気だと思い萩原に注意してみたが、それもいつも通りに反省する気がなさそうな返事が返って来るだけ。
みょうじと萩原の間の空気がわけわからないが、どちらかといえば萩原が一方的にみょうじに何かを向けている感じがした

「ちょ、ちょっとまって萩原くん、誤解しないでほしいんだけど」

「何が誤解?」

それは同意。萩原とみょうじが付き合っているとしたら誤解という言葉の意味はうなづけるが、萩原は言うか言わないかはともかくとして、多分みょうじは男と二人きりになるのに彼氏に遠慮しないという事はないだろう…ってまあ知らねぇけど
とりあえずみょうじが困っているので萩原に注意をするとすぐに可笑しそうに笑った。

ま、この間感じた事もあるし、多分こいつのは単なるやきもちなんだろうな…って思ったが、みょうじ相手だからなのかは知らないけど、他の人にこんな態度をしている萩原なんて見た事ないからちょっと変だな、と思ったらみょうじは気にしたのか帰っていった。一瞬だけしんとする室内、テーブルに肘をついて頬杖をつくと、萩原が改めて座りなおした

「やっべ」

「やばいと思うなら遊ぶのやめろよ」

「だって戸惑ってる顔が可愛いんだよ」

こいつ絶対優しい顔してSだな。萩原の発言にはほんとびっくりするわ…わりと気づいた時にはずっとこいつと一緒にいて、もう腹の中だろうが頭の中だろうが、色々とわかってはいるし、だからこそ今回のはいつもと違うんだろうな、とも思う。
んないちいちお互いの恋愛に首突っ込んだりしないし、詳しく聞く事も無ければ相談なんてものももっての他。それに別に、よくある好きな人が被るとかそんな面白い展開も無かった…無かった、過去形
今はわかんねぇ。かと言って聞くのも面倒だった、聞いてどうなるのかさえもわからないし

「お前さ」

「うん?」

「みょうじが好きとかいう?」

「うん、きっと」

「ふーん」

萩原にこういう話しをした事が無いからちょっとなんて言ったらいいのかわからずに悩んだ。それにこの萩原の曖昧な言い方がちょっと気になる、詳しく聞くにもだんだん面倒になってきたところで、今度は萩原が口を開いた

「陣平ちゃんは?」

「なにが」

「なまえちゃん好きなのかーって聞いてんのー」

「…知らね」

「あ、そう…」

「お前も曖昧に言ったろ」

「全力で俺あいつの事好きなんだ!!っては言えねぇなー。今んとこ?」

どこの高校生だよ。
しらっとした顔で見た後に萩原が立ち上がった。それを視線だけで見上げると萩原が笑った

「まあどっちにしろ遠慮するのは面倒だからお互い好きにやりましょうや」

「同感」

「じゃあ謝って来るな!」

「へいへい」

萩原を見送って数分後、今度は慌てたみょうじと泣いている萩原が来た。なんなんだよこいつら、って心底思ったけど別に嫌だと思わないしむしろ面白いやつらだなって冷静に思っていたりもする。鼻をぶつけた、と。勝手に涙が出て来るその気持ちはわからなくもない、俺も降谷に鼻を殴られた時は勝手に涙出てきたしなんなら鼻水も出たな。今はどこで何をしているのかもわからないそいつの話しを萩原としていて、ちょっとみょうじにわからない話しをしすぎただろうと思ってみょうじのほうを見たら

「なんだその顔」

「いや、楽しそうねって思って、微笑ましいのよ」

嫌な顔とか、作った笑みとかじゃなくて本当に温かいものを見るような優しい目で見ていたから驚いた。微笑ましい、ね。とりあえずそうは言われたが降谷の話しはやめる事にした。

「萩原くんほんとごめんね」

「俺も悪いから…、でもあの勢いは危ない」

「ほんとごめんなさい!」

イケメンのお鼻が赤くなってちょっと皮剥けてる…なんてみょうじが呟いてから苦笑いを浮かべた

「なまえちゃんが舐めたら治るかもな」

「え、それは松田くんにしてもらって。あ、今やってもいいわよ?」

「しねぇよ」

そんで結局みょうじは仕事の前日だし、って事でそそくさと再び帰ろうそしていたのを萩原が止めた

「なまえちゃん」

「はい?」

「今度のお休み、俺と被ったらデートしよ?」

「え?」

そこでなんで俺を見る。それから萩原までも俺を見てからみょうじを再び見た

「陣平ちゃんが気になるか…」

「え、当たり前じゃない?でもデート、って?」

「なまえちゃんと遊びたいと思って」

萩原の言葉にみょうじが黙って色々と考えているようで数秒間視線を下に向けたがそのうち顔をあげて「わかった!」なんて頷いて、萩原と少し話してから帰っていった。

再び部屋の中が静まりかえり、俺はベッドに寄りかかった。萩原がため息を吐きだしたと思ったら可笑しそうに笑う

「あのさ」

「なんだよ」

「なまえちゃんって俺と松田が出来てると思ってねぇ?」

「……あぁ、今納得したわ」

「だよな」

そうなると今までの言動全てが納得いく。そういやそんな時もあったなー、なんて昔の事を思い出した。昔にもそんな噂はあったから。
そう思わせる原因は萩原のほうにある、萩原が俺の肩に手を回したり、とりあえず女にはさすがにしないけど人との距離が近いんだよな…しかも俺だと余計に。
俺も萩原くんと私どっちが彼女なの!なんてわけのわからねぇ事言われたっけ…

「で?」

「で?って?」

「いや、わかった所で誤解解かねぇの?」

「んー?でもそれはそれで利用できるよな」

萩原は優しい、で、女子にも人気高い…
よく気が付くし、困ってるやつがいたら放っておけないし
そんな萩原が、こんな悪い顔してんの初めてみた。いや、彼女にはそうなのかもしんないけど…まあとりあえずよくわかんねぇなあ…。好きにしろよ、と言わんばかりに立ち上がってビールを冷蔵庫から出そうと思った、が…非番なのでお茶にした

なんだろう、このめんどくせぇー…って全力で思う感じ
みょうじじゃなければ好きにしろよって思えるけど、それも思えないし
あーもう、どうしろっつーんだよ

お茶を飲んで息を吐き出すと少しは落ち着けた気がした。それから、別に今そこまでどうこう思ってるわけでも無いし、萩原の好きにさせとけばいいか、なんてコップを流し台に置いた

「まあでも、今楽しいけどね」

二人でいる時に、誰か、って言われるとだいたい一緒に出て来るのは当然ながら降谷たち。なんであんな喧嘩しててもなんだかんだ一緒にいたのかわかんねけぇけど喧嘩するほどなんとやらで適当にかたづければ説明はつく。萩原には同感、ただ近くにたまたまみょうじがいるからっていうのも否めないし。別に急ぐ事も何もないなって思う。

いつも通りに二人で話してはいたが、時間も時間だし、明日も仕事って事で萩原が帰った。寝る前に一本吸おうかとベランダに出て、たばこを咥えて火をつける

「松田くん?」

カチッという音が聞こえたからだろうか、隣にいたのか、隣からの声に視線をあげた。「んー」と返事を返してベランダの柵に背中を預けた。タバコの煙を吐き出してから隣のほうに行ってないのを確認した。ちなみに反対隣には誰も入っていない

「何してんの?」

「うん、ちょっと外見たくて」

「ふーん」

「萩原くんは帰ったの?」

「ああ」

「そう」

穴が開いたままなら多分もう少し話していたんだろうけど、別にそこまで話す事も無く。萩原と自分の事を問いかけるのも面倒なのでタバコを一本吸い終わる前にみょうじが「じゃあおやすみなさい」と帰っていった。夜だからだろう、小さな声で話すからその声はいつもよりも柔らかく聞こえていた
俺からの返事を待つ事もなくみょうじはそのまま家の中に入っていったらしい、扉がカラカラと閉まる音が聞こえた

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