コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 13、隣人は外泊中

疲れた…疲れすぎた…私だけじゃないけど、一日だけじゃ足りなくて交代で会社に泊りがけで仕事、一日分のデータを消してしまった人がいて、パソコン内のごみ箱捜索しても無い…本当に消したのかさえもわからなくて色々とパソコンの中を探してみたり、どうやらデータを消したんじゃなくて保存せずにけしたとか。まあよくある話しだけど今回だけはして欲しくなかった…!もう一度やり始めたらもっとこうしたほうがいいんじゃないかとか、そんな意見が飛び交って、まあ仕事はいいものが出来たと思う。できたと思うけどもう疲れて
電車から降りて、休憩がてら駅の待合場所にあるベンチに座った。はぁ、と大きく息を吐き出す。ずっと履きっぱなしの靴から踵を取って少しだけ足を浮かせてみた

しばらくあの二人にも会ってないのは当然で、かえってから化粧を落として服を脱ぎ捨て、そのままベッドに眠って…朝早く起きてシャワーと、脱ぎ捨てた服を拾い上げたりして

でももう、終わりー…なんて思って背もたれに寄り掛かったんだけど、そのうち少し眠ってしまおうかとひじ掛けに両腕を乗せ、それを枕にしてから目を瞑った。
あぁー…ちょっと涼しいから余計気持ちいい…雑音や駅前で歌う人の声さえも心地いい…静かなところよりも一人じゃない気がして安心するよ




仕事も終わって、松田とは別々の飲み会も終わり、飲み会の帰りには酔ってしまった女の子を送るようにお願いされて、本当に意識が無いくらいだとそのまま飲み会の場所にいてもらったほうが危なくないからいいんだけど、足がふらふらしているくらいで受け答えもはっきりしているのでとりあえず家まで送ってから自分も歩いて陣平ちゃんの家に行こうかとポケットに両手とも入れて歩いていた。少し風が冷たいけど心地いいなー…なんて駅前を通りがかろうとしたとき、男数人が「話しかけろよ」「お前がいけよ」なんて高校生みたいなやり取りをしているのを発見したけど、見た感じ社会人だ

その視線の先を見ると、ベンチに上で横向きになり完全に眠っているなまえちゃんがいた
いやいやいや!!……いやいやいや!!
思わず二度見するよ、何してんの。完全にベッド状態じゃん
幸いなのはスーツがパンツスーツっていう所くらいか…なんて冷静に思いながら、気にしている人たちの前を通って彼女の前にしゃがんだ

「なまえちゃん、ちょっと、寝るなら自分の家で寝て。起きろ!」

彼女の知り合いだとわかるように、名前を呼んでみた。一応話しかけようとしていた人たちはどういうつもりで話しかけようとしていたのかわからないが、一人は安心したように行こうとして、数人はちぇ、なんてわかりやすく舌打ちをしていた。揺さぶると「んー」なんて気の抜けた返事は返して来るけど起きてくれない。普通寝る!?なんて思いつつ仕方ないので腕を掴んで少し起き上がらせてから、彼女をおんぶした。お姫様抱っこも出来たけど、いくら軽そうとはいえ眠っている人を長時間お姫様抱っこは辛い気がして
前かがみになって落とさないようにしてから、陣平ちゃんに連絡をしても出ない。なまえちゃんが起きてくれるならそのまま家でいいんだけど…、どうしよう、と思った末自分の借りている部屋のほうへ行く事にした。タクシーに乗せてから一息ついて、タクシーのおじさんに場所を言う

部屋に入って、靴をもう一度前かがみになってから脱がせて、無造作に玄関に投げ捨てている状態にして。それからベッドまで運んでそっと下ろした。今更だけど人の、しかも男の人のベッドに寝転がるのは嫌だろうかと思ったが、自分の家にある客用の布団も同じようなものなのでそのままにする。ここまで揺さぶっても起きないって、どれだけ眠いんだ…。よく見たら目の下に隈もあるし…

とりあえずスーツのジャケットを脱がせてから陣平ちゃんに連絡…って思ったけど、別にあいつは彼氏でもなんでもない、連絡する義務はないのでそのまま。もう一度彼女に声をかけてみたけど返って来るのは寝息だけ
困った…このまま熟睡していたらスーツが皺になるのはわかりきってる、それに化粧もしたままだし、そのままにしていいのか…他人だから好きにさせろって言われればそうなんだろうけど…気になるんだよなあ

ここで男としての自分を取るならそのまま襲ったりしちゃうんだろう、でも疲れて眠っているなまえちゃんにそれをしろって言われても罪悪感のほうが勝つ。となるとやっぱり友達としてみたなまえちゃんのほうが気になる…。はあ、とため息を吐き出してからもう一度彼女を揺すってみる

「なまえちゃーん、起きてー」

「…うん」

あ、やっと返事した。と思ったらふふふって笑っただけ…寝てんのかよ!もしかして起き上がらせれば起きるんじゃないか、と思ったら自分が気になるからってそれをするのはどうかと…いろいろ考えてしまう。だいたいにして恋人でも陣平ちゃんでも無い子が家にいる自体おかしいのにこれ以上考えなくてもいいだろう、でも…って思ってしまうのは確実に自分の性分なんだろう、彼女に「お化粧落とさなくていいのかー?」って声をかけてみたらシーツをぎゅっと握り、それからゆっくりと起き上がった。髪がだらっと前に垂れていて、これがなまえちゃんだとわかっていなければ見事にホラーの出来上がりだと苦笑いを浮かべる

「鞄…」

「鞄?開けていいの?」

「…松田くん?」

「え、俺萩原くん」

「……え、ここどこ!?」

俺の言葉に顔をあげた彼女が、やっと視界が髪で見えづらいことに気づいたのだろう、髪をかきあげて丸い目をこっちに向けた。あたりを見渡すように視線だけをぐるっと動かした彼女がそのうち俺を真っ直ぐに見つめた

「ごめん…私駅で寝てたの…もしかして警察に保護された?」

「あはは、それで合ってるけどな?警察に保護されたのを俺が保護したんじゃなくて…最初から俺が保護した。」

「ごめん…すっごい気持ちよかったの…」

「ま、俺が見つけたからよかったものの…そうじゃなかったら危なかったし、なまえちゃんはそういうところちょっと抜けすぎな。酔っ払ったおっさんが道路で寝てるのはよく見かけるしよく聞くけど、さすがに疲れたOLがベンチを陣取って寝てるのは初めての事例だよ」

「ごめんなさい」

謝罪しか出てこないなまえちゃんはそっとそこから降りてもう一度下に正座をして、それからこっちを見上げる

「ほんとごめん、それからありがとう…。ベッドも占領しちゃって…それじゃあ私帰るね」

「いていいけど?」

「…あの、変な意味では無いんだけど、いたらだめだと思います」

「え、なんで?」

その問いかけに彼女は考え込んだ。先ほど松田くん、と声を漏らした事もあるしなまえちゃんは少なからず松田の事を想っているのかもしれない。ただ俺から見たらその気持ちはまだ恋なんてくすぐったいものにはなっていなさそうだけど。少ししてからこっちをちらっと一瞥した彼女が軽く頷く

「じゃあ、お願いしようかな…終電も無い時間だし」

彼女の中で何を考えて、どんな結論に至ったのかは俺にはわからないが、とりあえずそっちのほうが自分も安心なので頷いた。都合よく乾燥機が家にあるわけでも無いので、とりあえずスーツでは寝られないだろうと俺の服を貸してシャワーを貸した。ベッドに寄り掛かるように座って一息つく
飲んだ後にうろうろしていたから少し疲れた、と思って目を瞑っていたらいつの間にか今度は俺が寝ていたようで、急に前が少し暗くなったので目を開けたらなまえちゃんが顔を覗き込んでいた

「ごめんね」

ってまた謝罪する彼女。ドライヤーも借りた、とお礼と謝罪を繰り返されて、そのたびに首を振る。そういえば布団の事聞いてなかった、と思ったが先にシャワーを済ませて出た。座って待っていた彼女を見るに、多分松田といるほうが気を抜いている気がする。それは俺の事を男として警戒しているわけでも、警戒していないわけでもなくて…ただちょっと知り合い程度みたいな。それが自分にとってはなんとなく悔しい

「なあ、気使わないで?…って言われても無理か。布団ね、いつも松田が使ってるのでもいい?」

「え、一緒に寝ないの?」

「…はっ!?」

その言葉の意味を考えて目を見開いたらなまえちゃんが眉を寄せて怪訝そうな顔を向けてきた。え、その顔したいの俺だよね?なんて思いつつもう一度問いかけてみた

「松田くんと一緒に寝ないの?」

「あ、あぁ…松田ね。面倒な時は一緒に寝てるけど、そうじゃなかったら布団で寝てるな…」

「そうなんだ。あ、私雑魚寝でも平気よ。なんせベンチでも寝られたくらいだから」

誤解を招く言い方をする子だ、本気で動揺させられた。ほっと息を吐き出して、洗ってないわけでも無いし、彼女を床に転がしてはいられないので布団を敷いてあげようと思ったら、手伝ってくれて、あとはお互い疲れている事もあったのですぐ横になった。本当は一緒にお酒でも、なんて思ったけど先程まで気を失うようにして眠っていた彼女にそれを勧めたらダメだと思って。

「なまえちゃんって、陣平ちゃんの事どう思ってんの?」

電気を消して数分…いや、数分も経っていないかもしれない。問いかけても返事がないから横目で彼女を確認した。真っ暗闇の中では影しか見えないけど…なんか…え、寝るのはやっ!
まじか…。なんて思っていたのもつかの間、すぐ耳元で携帯が鳴ったので慌てて通話ボタンを押して耳にあてた

’萩原ぁ、お前自分から電話しといて出ねぇってどういう事だよ’

「おー、悪い、気づかなかった」

’で?’

「あぁ、うん…」

言わなくていいか…いや、言うべきか…

「なんでもない。もう大丈夫」

’なんなんだよ…ったく。じゃあな’

電話を切ってから深く息を吐き出した。だって陣平ちゃんにいう義務はない…はずなんだけど、ちょっとだけ罪悪感っていうか抜け駆けしたような気持ちは否めない
とは言っても、普通に泊まりに来たなにならまだしも、疲れて外で寝ちゃってるなまえちゃんに何もしない俺ってえらくね?




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