コンコンコン、お隣さん | ナノ


▼ 12、酔っ払いの隣人

我ながらバカみたいな出会いだなって思ってる。助けたつもりはないけど、面倒事があったらどやされるのは隣にいて、それを知っていた俺で…別に人助けをするヒーローみたいな心があったわけじゃねぇけど…まあ今結局たまにつるんでたりするわけで、知り合ったついでだからいいやって思って親切にも部屋を貸してやったりする。言い訳を言うなら部屋で倒れられてもだりぃ…しかも知り合ったからってそれから慣れ慣れしくするでもなく適度な距離を取られているからなんとなく、先に歩いていかれると首根っこ掴んで隣歩かせたくなるし、追いかけられるとあーめんどいってなってどこかにふらふら行くくせに、ふらふらされてると捕まえたくなる

俺と萩原を見る目はほかのやつの目とはちょっと違う、色めいた目どころかまるで初めてのものを見るかのように目がきらきらしていてまるで好奇心の塊のようだった。別に好き…とかそういうのじゃないとは思ってた、ずーっと萩原といた事もあったし、仕事ばっかりでしばらくそういうのから離れてたから、多分違う。
ただそれがそうじゃないものに変わったのは萩原がそいつを好きなんだなって思った時。一応は何の間違いが無いように気を使ってはいるんだろうけどそれもむしろ特別扱い、萩原が少し前にストーカーまがいの事もされてたしあいつをいいなって思う気持ちはわかるけど、寝ているあいつにキスするのはどうなんだろうな、しかも俺は見てたし。朝になって幽霊、なんて聞いてきたみょうじを見ると俺らのどっちかがキスするなんて事は思ってもいないらしいな…っても萩原、それはどうなんだよって思うのと同時に萩原に渡すかっていう気持ちも働いた…まあだからと言ってどうともねぇけど…だりぃし

なんて思ってはいた、いたんだけどな。
まだ眠ってはいなかったけどテレビを見ながらもベッドによりかかってうとうとしていたらどこかの部屋が勢いよく閉まった音が聞こえた。その直後にガタガタと聞こえて来る音にさっきの音の主は隣なんだとわかったんだけど

ガタガタ…ガッバンッ…

なんて、今日は風があったから窓を開けていて、そりゃ壁は分厚いかといわれれば薄いほうの部類で、コンコンすれば小さく、鮮明にでは無いが聞こえてくるくらいではある。それに今は窓が開いていて、あっちの窓も開いているらしい。バンッという大きな音の後にしーんとなる隣が気になってため息を吐いてから外に出た

トントン、と軽くノックをしても返事が無く、そっと扉を開いてみた。玄関で、みょうじに覆いかぶさる男とこっちに顔をのぞかせて無邪気に笑うみょうじ

「あ〜松田くーん!」

「っ…」

こっちを振り向いた男が慌てて立ち上がった時に顔をしかめて両手をあげた。

「あ、あの俺送ってきただけで、よろけた彼女と一緒になって転んだだけです!」

俺の事をなんだと思っているのかよくわからないが言い訳めいた事を言われ、確かにさっきの音からしたら多分それであっていると思うし立ち上がるときに膝を痛そうにしていたから本当なんだろう

「あの、じゃあっ…」

ただ逃げるように帰っていったところを見ると少なからず下心でもあったか。なんて冷静に考えながらも閉まった扉を見てため息を吐き、そこに座ったまんまのみょうじの前にしゃがんで靴を脱がせた

「わ〜ありがとう〜」

「お前どんだけ飲んだ…やたらめったら酔わねぇくせに…」

「ワインが美味しかったのよ」

「あぁ、そう…」

「ワインが!」

「わかったっつの…めんどくせぇな」

「めんどくさいって何よ…!」

脱がせた靴につま先を引っ掛けたみょうじがそのまま足を上にあげたせいで靴が宙を舞ってボトッと音を立てて落ちた

「見た!?」

「はいはい、見た見た」

陽気に笑うみょうじ、めんどくさいのに帰らない俺はどうやらお人よしだったらしい。とりあえず起き上がらせようと手を差し出したら返ってきたのは両手を広げた状態で「ん!」と言いながら待機するみょうじ。ため息を吐き出して抱き上げてやれば俺の首に腕を回しながら楽しそうに笑っていた

「お前いつもこう?」

「うーん?なにが〜?」

「酔うとだよ!」

「わかんない、酔ったこと無い気がするなー?」

意識ははっきりしているしこのまま寝かせていいだろうと思いベッドまで運んでおろして、窓はどうやら開けっぱなしだったのでこのままでいいだろうという事にして帰ろうかと思ったのに服の裾をつかまれた

「どこ行くのよ」

「うるせぇな、帰るんだよ」

「なんでよ!」

「俺の部屋じゃないから」

「隣じゃん!」

「そうだな」

「壁なんて壊しちゃえよ!」

「ふざけんなよ」

って言いながらもやり取りが楽しくてふっと顔が緩んでしまった。なんだこのバカみたいなみょうじ、少しだけいつもよりものんびりした口調とはじけたような笑顔が珍しくて笑っているとごろん、とうつ伏せになったみょうじが服の裾を掴んだまま柔らかく笑った

「松田くん…」

「…なん、だよ」

不覚にも一瞬心臓が跳ねた事は無かった事にして返事をする。多分こういうのって一瞬でもときめいたっていうんだろう、そのときめいた自分がバカだった、次にこいつの口から出てきた言葉は「化粧落として」だった。

「あーもう!どこだよ!!」

「洗面台に拭くだけのがありまーす」

うふふ、とか笑いながら返事をしてくるみょうじ、うふふじゃねぇよ!とりあえず勢いに任せて洗面所に行くと、確かに洗面台には拭くだけのメイク落としがあったのでそれを持って戻ったら着替えていたのか、ちょうど短パンをはき終えていたみょうじが再び寝転がったところだった。それが出来るなら自分でやれよ、って思ったのに、俺がそれを言う前に仰向けで寝転がったみょうじが目を瞑ったのでため息を吐いて顔を拭いていき多分このくらいでいいだろうという所で拭くのをやめてゴミ箱にそれを入れた

「よし!」

「何がよしだ、寝ろ」

「うん、わかった!」

返事だけはしっかりしていて、薄いかけ布団はあるのにかけないのか、横向きに転がってこっちを見てきたみょうじがふにゃっとまるで笑ってんのかニヤけてんのかわからないような表情をして、まだおきているらしいがこっちに帰るのかと聞いても来なければ俺も俺で出て行こうとしない。ため息が出る理由は横向きになってまた見える胸の膨らみで、自覚が無いのか、ただこうやって男を誘えるほどのやつじゃないのは知っている…んだけど、酔っ払ってるからよくわかんねぇな

ふっくらとした薄いピンク色の唇、そいつの寝るベッドに肘を乗せて頬杖をついてからそいつの唇を人差し指でつついた。何してんだろうな、俺、帰りゃいいのにもったいなくて帰れないなんて

「ん…、なに…?」

薄く開いた唇から気だるげな声が聞こえ、綺麗な線の入った瞼がゆっくりと上がりみょうじの茶色い目が俺を見つめた

「…別に」

萩原が、お前の、ここにキスしてた。なんて言葉は飲み込んで変わりに顔を寄せてみょうじの唇に唇を重ねた。リップ音を立てて唇を一度離したらどうやら目を閉じていたらしいみょうじがゆっくりと目を開けたそれは、ちゃんとぱっちりといつものように開けているんじゃなくて、目を細めているような感じで受け入れたなってすぐわかった。そのまま無言でもう一度唇を重ねても抵抗は無くて、唇を薄く開いてみょうじの唇を軽く挟むようなキスを繰り返していけば「ん、」と本当に僅かに声をあげた。離した間にも何も言わないみょうじ、ただされるがままだから何されてもしらねぇよ、ってこれ以上進んでもいいのかよって思いながらみょうじの唇を舌先で割ってそのまま入ったらさすがに手がピクッと動き、それでも嫌がる素振りは無く戸惑ったようにさまよったみょうじの腕は俺の背中に回された
だからそのままみょうじの舌を捕らえて絡ませて、初めて知ったコイツの舌の感触を覚えるかのようにゆっくりと絡ませていて、一度離したらみょうじが蕩けた目でこっちを見てきたと思ったら笑みを浮かべて目を閉じた。もう一度口付けをしようと顔を近づけた瞬間に呼吸が違うのに気づいて離れる

「寝んのかよ!!」

嘘だろ…。まあ酔っ払いだとこんなもんで、仕方ねぇか…なんて思いつつも若干その気になってたのでため息を吐いてからそいつの部屋から自分の部屋に帰った

今日は非番、あとゴミの日だから出さねぇと…なんて思ってゴミを出して振り向いたらちょうどみょうじもゴミを持ってきた

「おはよう」

「あぁ」

ゴミを捨てたみょうじがこっちを見てくると欠伸を漏らす

「段々朝涼しくなってきたね」

「だな…。なぁ、お前昨日のさ」

「うん?」

二人並んで部屋に戻る途中に昨日の受け入れたのはなんだったのかと問いかけようと思ったが言葉が途中で止まった。待った、このなんてこと無い状態とかあっちから突っ込んでこないところを見ると別にこいつに深い意味は無くて、単にキスされたからいいか、みたいな、はたまたまあ嫌いな部類じゃないからいいか…とか軽い理由なんじゃ、って思って黙ってしまったが部屋の前についたあたりでみょうじが「なんなのよ」と問いかけてきたのでみょうじのほうを見た

聞いて、もしもされたからとりあえず受け入れた…っつーんならこいつは他のやつと一緒なんだって好きじゃなくなんのか…。
なんて若干自分の考えにもこれから相手から返って来るだろう予想した返答にも呆れつつため息を吐き出してから口を開いた

「昨日のお前、どういうつもりだった?」

「……え?」

「だから、昨日お前」

「え、合コン…行った事?」

「は?いや、そこじゃなくて」

「美味しいワインがあるよ、って言われて行ったら合コンだっただけよ?」

「はあ?いや、その後」

「後?後……私どうやって家に帰ったっけ!?」

「……まじか」

「え、でも服も着替えてたし自力で帰ってきたのよ」

「記憶ねぇのか…」

「あるある、タクシーで、タクシーで帰ってきて化粧もしっかり落として着替えて寝たのよ!」

「ねぇんだな」

「私何かやらかしたかな…」

「…知らねぇ…」

肩を落として「友達に聞いてみる…」なんて呟くあいつに嘘は見えてない。本気で酔っ払って記憶が無いのか…って事はあいつのあれにはなんの感情もなければなんか流されただけなのか。あいつもう絶対酔っ払わせないようにしないとだめだな


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